「まさかミホークのような芸当が出来る
「はっはっは、君のような才能溢れる若者にそう言われると照れるものがあるな」
モプチの港は、黒猫海賊団はもちろんカポネ・ベッジの配下や魚人たちの協力により、モプチ国内では農村と同じくらい復興が進み、また栄えている街である。
「しかし先々代女帝とな? グロリオーサ殿は病死されたと耳にしたことがあるが……」
「いやはや、彼女とは色々あった先に偶然出会ってな。今はシャボンディ諸島で、もう一人と共に元気に暮らしている」
その港町の中の一角、カポネ・ベッジの選んだ信頼のおける闇商人など、取引の出来る裏の人間や同盟者であるベッジを持て成すために作られたサロンで、ハンコックは給仕の人間に命じて酒を出しながら、
「その時に、君たちの噂を耳にしてだね。
「……わらわ達に、戻れと?」
「君たちが望むのならば、手助けしてほしいと頼まれてな。それで、どうかね?」
「ふむ……」
ハンコックの周りにいるのは、共に話を聞いている二人の妹と控えている給仕、そして空気を読まずにココアのお代わりを注文しているペローナの四人。
「ソニア、マリー。そなたらはどうする? 好きにしてよい」
ハンコックは二人の妹にそう尋ねると、二人は微笑み、
「姉様の御側に」
「私も」
と、ハンコック自身も薄々予想していた言葉を返す。
ハンコックは小さく笑い、
「レイリー、であったな。
「残るのかね?」
「うむ。特に今は情勢が情勢。主殿からこの島を任せられているのに、それを放ってゆくことは出来ぬ」
「では、この情勢――海賊連合なる者達の問題が片付いたら?」
初老の海賊――レイリーという海賊の問いかけに、ハンコックは静かに首を横に振る。
「一度は
「だが、今ではない。そういうのかね?」
「……囚われ、売り払われる所を救われた恩をまだ返しきれていないというのもあるが……」
給仕の女性に命じてカーテンを開けさせたハンコックは、そこから広がる光景をレイリーに指し示す。
「海賊とは、戦士とは……強者とは、弱者から奪う生き物であるとわらわは考えておった。そういうものであると。だが主殿は……それにミホークも」
ハンコックの脳裏に未だ焼き付いている、地上に咲いた巨大な線香花火。
自分では未だ及ばぬだろう戦い。
目では到底追えぬ神速の斬撃と、それを最小の動きで捌き切る絶技のぶつかり合い。
「この港町は、主殿がここまで復興させた。まだまだ小さいが、主殿は更に発展させる計画をすでに作っておる」
「……この町は、最初からこうだったわけではないのかね」
「最初は酷かった。裏社会の者達による、薬物や武器、奴隷といった商品を保管する倉庫と小さな酒場くらいしかまともな建物はなく、マフィアやチンピラのお情け目当てで
ハンコックにつられ、酒の入ったグラスを持ったままレイリーも立ち上がり、外を見る。
港町と呼ぶには少々寂しい、だがキチンと人が
「主殿は、こんな町など捨てて
「ほう……。海賊らしくないな」
ペローナがホロホロと笑っている。
彼女自身も時折、ミニホロによる爆発威力の調整練習も兼ねて整地や工事を手伝う事があった。
「あまりに強者らしからぬ強者である主殿が目指しているものを、今しばらく側で見ていたい。兵達も、教える事も教わる事も山積みだからのう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「海軍が保護している避難民を、日払いの復興作業員として雇え。そう言うのだな、クロ?」
『はい、元帥殿』
マリンフォード海軍本部。
そこに控えて全海兵を統率している元帥センゴクは、電伝虫を通して海賊と
『海賊連合の襲撃により住居や仕事場も燃やされ、財を全て失った人間も多数出ています』
元帥室にはセンゴクの他に新しく大将となった黄猿ことボルサリーノ、それに英雄ガープに大参謀つるが控えている。
『そのため、将来に悲観して短慮に走る人間が増えているという報告が現場の兵士から出ています。食料や甘味の配給などでなんとか落ち着かせていますが、それにも限度があります。……出来るだけ、食料の消費を切り詰めたいのもありますが』
「雇用することで給金を渡し、復興までの生活を安定させるか」
『はい、気力が湧かず動けない者に仕事という明確な目的を与えれば、復興速度の上昇と環境の安定にもつながります』
直接顔を見たことはなく、話でしか聞いていない海賊らしからぬ海賊。
クロという男の話を、大将黄猿は興味深そうに聞いていた。
『ささやかな物にはなるでしょうが、それでも財を持つ事は民心の安定に繋がりますし、給金の使い道として酒保商人を集めれば、気分転換に嗜好品などの売買も楽しめます』
「……配給に嗜好品を加える、ではいかんのか」
『売買という日常での活動に少しずつでも戻すことが要かと。それに、配られた物で気を紛らわせるのと選んだ物で気を紛らわせるのでは……』
「後者の方が効果的、か」
『はい。食料に関しては配給も仕方ないですが、だからこそ他の面を埋めるべきかと』
「避難している状況で金銭を持たせるのは諍いの原因になるのでは?」
『ただお金を持っているのではなく、稼ぐ手段があるのですからそこまで悪化はしないと考えています。まぁ、購入した嗜好品などを使ったちょっとした賭け事などは出るかもしれませんが、それも適度なレベルに抑えればガス抜きにはちょうど良いかと』
「ふむ……」
『ただ、これにはどうしても政府ならびに海軍からの金銭による援助を必要とします。どうか、ご一考を』
センゴクは思わず深いため息を吐いてしまっていた。
「すぐには動けん。肝心の補給物資もまだ足りていない……が、対策会議の中で話してみる」
『十分すぎるお言葉です。お忙しい中、時間を割いていただきありがとうございます、元帥』
「――どう思う」
電伝虫での会話を終え、センゴクがその場にいる人間をザッと一瞥して問い掛ける。
「わっはっは! こやつが政府の人間なら、世界はもう少しよくなっとったんじゃないか?」
ガープはせんべいを齧りながら、笑ってそう言う。
それを受けて大将黄猿は小さく頷き。
「いやぁ、あのゼファー先生が褒める海賊なんてどんな子かと思ったら……海賊というか兵士というか……どうも役人みたいな子ですねぇ……」
と呆れたようにぼやく。
「……こういう子こそ、海軍には必要だったんだけどね」
「話に裏はない、か。いや、分かってはいたのだが……」
「政府の補給も遅れている中でこんな話を挙げたという事は、避難民の不安や不信が私達が考えているよりかなり大きいということだろう。センゴク、急いで働きかけるべきだ」
「分かっておる」
定期的に送られてくるクロの作成した報告書――情報部の人間が送ってくるそれとほぼ同じ情報を、より簡潔に読みやすくまとめているそれを一瞥して、センゴクは再び大きなため息を吐いてしまう。
海域を支部の哨戒範囲ではなくエリアで分けての部隊管理。
混乱していた現場の差配と再編の補助。
兵士や避難民の体調、心理状態の把握や保全。
避難民の慰撫や不満への対処、交渉。
これを機に黒猫の情報を集める事を政府から命じられていたが、上がってくる黒猫に関する報告書は、そのほとんどが実質『黒猫』一味の七武海就任、あるいは減刑の嘆願書になっていた。
「つる」
「なんだい」
「もし、クロが海軍に入隊していたらどうなっていたと思う」
「……そうだね、順当に行けば十年以内には本部入り、二十年後には大将。そしてその後は……」
「その時の状況によっては、史上最年少の海軍元帥が生まれていたかもねぇ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「エリアBより定時連絡。不審船は確認できずとのこと」
「エリアAにて、マラミュート大佐より不審船二隻の報告があった模様。なお、敵船は視認直後にエリアG方向へと逃走」
「エリアGに逃走ねぇ。……クロ君、どう思う?」
「穀倉地帯が集中しており、もうじき収穫が始まるエリアAに手を伸ばせるか判断するための偵察でしょうが……逃げた方向はそう思わせるための誘導の可能性があるかと」
「だよねぇ。……よぉし、エリアGに不審船の事も含めて報告。念のため警戒を密に。Aはそのまま持ち場を守ってちょうだい」
「ハッ!」
よ~~~しよしよしよし。どうにかクザンを中心に指揮系統回復したな。
これまでずっと複雑な機械を延々手探りで無理やり動かすようなものだったから、俺達も海兵達も負担が半端なかった……改善できて本当に良かった。
再編のためにクザンと一緒に徹夜で部隊名簿と経歴、実務報告書の束と向き合った甲斐があったというものだ。
ねだったら上に掛け合ってくれたクザンと、少し揉めたけど最終的に許可をくれたセンゴクさんには本当に頭が下がる。
黒猫の船員はともかく、海兵達は全く落ち着かない環境だったろうによく付いてきてくれて……。
「にしても、少し落ち着いてきたな」
「黒猫の部隊を遊撃隊として動かしていますが、こちらも戦闘数は減少傾向にあります」
「……海賊の数が減った……わけないか」
「むしろ増えていますね。どうも、まだ襲われていない国や集落で扇動している存在があるようです」
「あぁ、報告は受けてる。なんとか捕まえられない?」
「……どうしても人手が……現地の保安官や警察機構に頼るしかないですね」
「人手かぁ」
もう完全にモプチと同じように会議室になりつつあるモグワ王城内の一番大きい部屋では、俺達の後ろの巨大なボードの上から大きな
はしごを一々使わなくていいから……割と会議の時にロビンの能力便利だなコレ。
「あぁ、そうだ。本部から増援が来るってさ」
「増援……糧食などは?」
「キッチリ確保した上で、追加の補給もたんまり載せてるってセンゴクさん言ってたよ」
「なら助かりますね……数は?」
「5隻。どれも本部中将が指揮している」
「……5隻」
海軍本部の船は支部のと違い、砲火力と白兵戦力を大幅に上げるために大型船だ。
当然、人数は桁違いだ。
人数アホみたいに増えるな。
労働力や戦力としてはありがたいんだが……。
「到着はいつ頃になるのでしょうか」
「さっきの定時連絡の時に編成終えたって言ってたからレッドポート抜けて……風向きが良ければ一週間前後、まぁ多分……十日前後くらいかな」
……寝る場所は……例の燃え尽きた集落が空いてるからいいとして。
いや、それでも手を入れる必要があるか。
「大将青雉」
「ん?」
「そちらの工兵をお借りしたい。こちらの大工組と合わせて、増援部隊の宿泊場の整備に当たります」
「えっと……船に泊まらせちゃダメかい? 海兵なんだし生活はここに来るまでと変わらないけど」
「復興作業までを見通すとこれまでにない長丁場になることは避けられません。長い作戦行動中ずっと揺れる船の中で、かつすし詰めでの睡眠では……疲労の蓄積は大きくなるでしょう」
なるほど、とクザンは頷く。
「地上でしたらスペースの限られた船の上より広く場を取れますし、後々必要ならば拡張も可能です」
周囲に他の海兵や将校もいるが、反応は悪くない。
海兵としての振る舞いを知っている親衛隊を軸にコミュニケーション取り続けた甲斐があるというものだ。
「それに、なにより……」
「なにより?」
「その後の掃除なども考えると、その……排泄が……」
クザンが、「あーーーーっ」と額に手を当てて顔をしかめる。
将校も含めて聞いていた他の海兵たちも、見習い時代を思い出したのか同じように顔をしかめている。
「船だと……それも長期間……そうか。そうだった……うっかりしてた」
「はい、士気に直結します。なので今すぐ穴掘りや臭い消しの香草集め……、テントやトイレの設営も含めて大人数を受け入れる場所を整備しようかと」
「分かった。すまない、誰か作業中の工兵を……どれくらい欲しい?」
「かなりの人数分を用意するので、最低でも二小隊は欲しいです」
「……とりあえず一小隊はすぐに動かせる。追加人員は調整しながらその後で……いいかい?」
「問題ありません。ありがとうございます、大将」
頭を下げると、青雉はいいっていいってとヒラヒラ手を振る。
それでいいのか大将。
「では、一度こちらの部隊を連れてきます。場所の選定はそれから」
「ん、よろしく。……あぁ、そうだクロ君」
「なんでしょう?」
「この作戦終わったら俺の副官にならない?」
「俺海賊だって言ってんでしょーが」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
トイレ作ったり整地したりテント張ったりするから人集めてくれ。
そんな面倒くさい作業なんて下っ端に押し付けるのが普通の海賊なのだろう。
「あの焼き払われた場所か。後々の事を考えると、その後も使える設備を組み立てたいな」
「同感だ、ダズ。地面を削り取るならお前が適任だろうが、材木集めなら俺も役に立とう」
「虫除けの草なら知識にあるから、私でもすぐに集められるよ」
そこに副総督と剣豪と考古学者が一般船員より先に嬉々として参加表明するのがウチである。
いやぁ、いい幹部が集まったものだ。一人客将だけど。
「しかし、海軍本部の増援か。……クロ、戦況はどうなのだ?」
「徐々に膠着って所だな」
「……ふむ」
「でも、数は敵海賊の方が増えているんでしょう? キャプテンさん」
そうなんだよねぇ。
正直、穀倉地帯が多くてまだ焼かれてない所が多かったために最重要防衛ラインに設定したエリアAだけど、どうしてもこっちは広範囲に防衛戦力を割かなきゃならん。
万が一敵が全戦力でエリアAに突貫してきたら、俺やミホーク、クザンといった広範囲殲滅型で相当無双しなきゃ島のいくつかはやられるんじゃないかな……。
もしそうなったらモプチの防衛に不安が出るとしてもペローナとハンコックも呼び寄せる覚悟だ。
「
「……おそらく敵もそれを知っているだろう」
「だろうな。敵に知恵を与えている者がいなければ、このような膠着などありえない。キャプテンはどう思う?」
「おおよそ同意だ。敵は戦力を温存している」
多分、奪った食料を与えたりして戦力を増やしているのだろう。
捕まえた人間を放置して、飯が食いたかったら仲間になれとかやってるかもしれない。
「敵の拠点を探るためのエリア設定とその監視だったけど、思った以上に敵の動きが狡猾だ」
「待つのは不利か」
「あぁ、だが敵の手が読めない」
近隣諸国を焼き払っていたが、今ではなんとか防衛体制を一新した。
とはいえ、どうしても被害は出る。出るのだが……穀倉地帯を焼くことをあきらめたか?
広範囲を焼けば勝ちと?
死ぬほどうっとうしいな……。
「相手の目的が状況を動かす事ならば、恐らく政府が動くタイミングだろう」
「……援助か? ミホーク」
「そうだ。それを潰すか、あるいはそのタイミングで援助のニュースが薄れてしまうほどの何かを起こせば……」
「民衆の海賊化……あるいは以前までのルーチュ島のような匪賊化が止まらなくなるかもしれない、か」
「……やはりベッジが頼りだな。何か掴んでくれるといいんだが」