とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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053:獅子の戯れ

『どうだいミスター。アンタの目的と小遣い稼ぎにはちょうど良いと思ったんだが』

「ジハハハハハハ! あぁ、悪くねぇぜ祭り屋」

 

 本来ならば互いに相いれない海賊同士であるはずの二人は、電伝虫越しとはいえとても仲良さそうに話をしていた。

 

「計画に移るのは二十年後の予定だったが、その間に海軍がただ力を付けるのも面白くねぇ。時間稼ぎにはちょうどいい」

『そういってくれると助かる。こちらとしても、アンタの能力(・・)なら確実に奴隷を運搬できるからな』

「あぁ、だが適当な奴隷は俺も少しもらっていくぞ。野良仕事役は必要だし、なんなら使える部下にゃ褒美として女も与えておきてぇ」

『無論構わないとも。それより、いいのか? この計画じゃ新世界に残っているアンタの部下は使い捨てる形になりかねんが』

「別に構いやしねぇ。使い物になる奴らは引き上げた。あとはせいぜい新世界を引っ掻き回してくれりゃいい。生き残っていればまた利用してやる」

 

 海賊は眼下に広がる海を――遥か下(・・・)に広がる海を見下ろす。

 空を飛ぶ巨大なその船は、雲の上に姿を隠しながら空を進んでいた。

 

「おっと」

『? どうかしたか?』

「いや、真下に軍艦がいる。あのデカさは本部の船か」

『どうするつもりだ?』

「最後の仕事のついでだ、沈める。西の海に俺がいるかもしれないと海軍を迷わせておけるかもしれねぇしな」

『ハッハハハハ! まぁ、ここらでアンタの存在を匂わせておくのも悪くねぇか』

「それに、こんな海に本部の船をわざわざ五隻も送り込むなんざ、どうせ民衆への御情けをたんまり載せているに違いない」

『あぁ、なるほど……。OK、ぜひ頼む。俺からの依頼として、奴隷の他に武器を追加で手配するぜ。ちょうどアンタに会ってもらいたい男がそういった物を取り扱っている』

「ジハハハハ、そいつぁいい。奴隷と武器はいくらあっても困らねぇからな」

 

「さて、それじゃあ――」

 

 男は、その両足がなかった。

 本来ある足の代わりになっているのは、一目で良く斬れると分かる二振りの刀。

 柄の部分を足の切り口に突き刺し、その刀を足としていた。

 

 カチンカチンと、金属の足音を立てながら船の高度を下げ始めていた。

 

「この『金獅子』のシキの慣らしに付き合ってもらうか――海軍共っ!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クザン、それマジで言ってる?」

 

 他の将校の目がある時は大将呼びしているのだが、思わず素で聞いてしまった。

 だが、他の将校たちもそれを咎めることはない。

 というか、そんな余裕がない。

 

「あぁ、本当だ」

 

 そしてクザンの顔色も悪い。最悪だ。

 氷結人間でもそんな顔色になるんだな。

 

「応援の本部戦力五隻が全て沈んだ。今、最寄りの支部が救助の船を出したって報告が来たよ」

 

 おっま! それだと反撃に出るどころか戦力配置の見直しが!!

 いやまず頼りの物資が!!

 

「こちらからも船を出す。ポイントを教えてくれ」

「あぁ、すまない……誰か、海図持ってきてくれる?」

 

 クザンもさすがに、いつもの頼りになるだらけ感がない。

 本気で落ち込んでいる。そりゃそうだろう、ここで本部戦力が追加されていれば反撃の余裕が出てくるとしていた所でコレだ。

 

 西の海の古参将校ですら顔色が良くない。

 現場で避難民に接して、かつ現場を良く知っているがために物資を心待ちにしていた佐官たちに至ってはガチで絶望している。

 

 アカン! ここで兵隊側の士気がどん底まで落ちたらようやく安定してきた民心にまで影響する!

 まだ復旧作業の日雇いも始められてないから物資頼りなのに!

 

「ダズ! 防衛戦力を除く全ての船にありったけの毛布と医薬品を積んで出航! 一人でも多くの海兵を救出しろ! 船医も全員連れていけ!」

「……っ、わかった。すぐに出る」

 

 物資関連の書類に触れているダズは、事態の不味さに気付いている。

 さすがに少々顔に不安が出ていたが、こういう時はさっさと仕事を振るに限る。

 

「ミホーク、すまんがお前も使うぞ!」

「構わん、お前の好きに使え」

 

 すまんミホーク、助かる!

 

「救護設備の受け入れ態勢を整えて欲しい」

 

 えぇと、待て待てさすがにかなりの死傷者が出ているだろうが、生き残りが一割いれば……うん、駄目だ、受け入れる場所が足りない。

 

「先日建てた糧食倉庫をすべて緊急の救護設備とする。救助者の数によっては、せめてベッドだけでも設置してくれ。電伝虫で救助班との連携を密に」

「分かった。クリスといつもの面子を借りるぞ」

 

 アミスの次に剣を熱心に叩き込んでいる親衛隊の隊員だ。

 ミアキスと並んで仕事を共にしているし、使いやすいのだろう。

 

「問題ない、頼む」

「良い。お前はお前の役目を果たせ」

 

 ホントにすまんミホーク。時間が出来たらまた斬り合うから。

 

「アミス、各地の親衛隊に伝令。民衆により気を配るように。妙な動きがあればすぐに報告を上げさせてくれ」

「ハッ」

「それと、例の扇動者が現れる可能性が高い。見つけたら必ず捕えろ。叶わないなら斬れ」

「了解しました」

「トーヤはアミスの補佐をしながら、各国の為政者たちの動きに注意しろ。行動にはまだ移さないだろうが、物資不足がまだ続く事を知れば裏で馬鹿な行動を取ろうとする者が出るかもしれん」

「了解です、キャプテン!」

 

 うちらも海兵達も顔が固い。

 こっちで仕事を割り振れば多少は気持ちが戻るかと思ったが……もう一押しか。

 

「全員安心しろ! 知らない者も多いだろうが、俺とダズ達と親衛隊のみで西の海(ウェストブルー)の精鋭に囲まれた時はもっと生きた心地がしなかった」

 

「――なにせ、あの時と違ってまだ俺がチビりそうになっていない! ……なら余裕があるさ」

 

 小さく、吹き出す者がいた。

 側に控えていたミアキスだ。

 

(よし! よく笑ったミアキス!)

 

 ジェルマ戦以降部隊の管理をやることが増えただけあって、こういう時に小芝居に乗ってくれる程周りを見る余裕があったか。

 

 こちらの部隊の人間が少し笑い、海兵もわずかに顔が緩んだ。

 よし、ほんの少しだけとはいえ調子が戻ったな。

 

「はっはっは! 噂の一戦はそれほどであったか。なら、そこに我らの部隊がいれば、クロ殿を捕らえられたかもしれんな」

「あぁ、それは勘弁してもらいたいタキ准将殿。貴官らの働きぶりは、共に仕事をしていてよく知っている。小さい方なら海にでも落ちれば誤魔化せるが、それ以上はどうしようもない」

 

 以前の戦闘で負傷して、しばらくは海軍の救護所で寝ていた高齢の准将が乗って来てくれた。

 それに返すことで、海兵側も少し気持ちを取り戻した。

 

 小さくだが、笑いの波が出来た。

 

「よし、救助活動の増援部隊はタキ准将に差配を任せる、残る将校は持ち場を死守してくれ」

 

 そしてクザンも少し余裕ができたようだ。

 

「大将青雉、可能ならばボルゾイ少将をお借りしたい」

「あらら、どうしてまた?」

「彼は軍に入隊する前、この西の海の王侯貴族御用達の商人の下で働いています。彼らの空気に慣れている軍人に、彼らの様子見をお願いしたい。我々でも気づかない点に気付いてくれる可能性があります」

 

 クザンが「いいかい?」と歳の割に若く見える良い顔の軍人に尋ねると、その軍人――ボルゾイ少将は敬礼して「ハッ!」と答える。

 

(割とトーヤと組んで仕事をすることが多かったから、コンビネーションも問題あるまい。ミアキスからもあの二人の仲は良好だったと聞いてるし)

 

「本部の補給が途絶えたのは無念だ。だが、政府が援助の船団の編成を終えて出航したという一報が入っている。そっちの援助船にはボルサリーノ、大将黄猿も付いていると。そちらを守り切れば状況は改善する。皆、もうしばし頑張ってくれ」

 

 珍しくクザンが真面目にやっている。

 しかし、しかしなぁ……。

 

(ぶっちゃけ、もうそっちはどうでもいいんだよなぁ)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「敵の次の目的は海軍支部の占拠だったって?」

「俺はそう考えている」

 

 とりあえず持ち直した海軍と海賊の連合部隊の指揮を終えた後、クザンに俺の考えを話すことにした。

 

「生存者から詳しい話を聞かなければ分からないが、本部の船が五隻共沈められた以上、噂が広がるのはおそらく止められない。緘口令も、下手に敷けば却って危険だろう」

「どうし……そうか、扇動者」

「そうだ。念のために本部の物資無しでもなんとかするように予備計画を立てていたのが幸いだったけど、配給の質が下がるのは隠しようがない。下手に隠せば、扇動者は更にそれを煽る」

「だったら先に事実を告げた上で、飢えないように段取りは立てているとアピールした方がいい……か」

 

 まぁ、どちらかと言えばそっちの方がマシってレベルだけど。

 

「緘口令を敷くのか、公開情報を制限するのか、あるいは全部公表するかはそちらに任せる。ただ、各国の王には説明しなければならない。となると当然、向こうは不安を抱く」

「……安心させるためには哨戒を密にしなければならない。……そうか」

 

 うん、そうなんだよ。

 

「そうなると、支部の常駐戦力が大きく減る。緊急時のための船も、残せて数隻だ」

 

 多分、元々は全力で一か所デカい所を落とす計画だったと思うんだよ。

 徹底的に主力を隠していたのは、政府の船が到着したタイミングで攻撃して、民衆の不安を一気に煽るためのハズ。

 

 その場所を絞るために情報収集と敵の主力が隠れている場所を見つけるために色々調べていたんだが……。

 

 こうなってくると、複数の支部をバラけて襲う可能性が出てきた。

 

(つくづく上手くいかんなぁ……)

 

 本部戦力壊滅前までは、絞った要警備支部に戦力をこっそり集めて、襲ってきた所を逆襲。

 そこで捕縛した奴らから本拠地の場所を尋問し、別働隊で強襲。

 火を付けられる前に連中ぶっ飛ばして物資奪還。

 ある程度状況を安定させたうえで政府の援助物資を使って加盟国を安定させながらこっちの計画を進める予定が……。

 

「今、ベッジに頼んで追加の取引を頼んでもらっているが、状況によっては食料すら足元見られかねない」

「あぁ、それでも助かる。センゴクさんも、キチンと金は出すって約束してくれたよ」

「信頼を得たのは喜ばしい事なんだけど……」

 

 さて、マジでどうしたものか。

 

 これで沈められたのが西の海の船ならば、言っちゃあ悪いがそこまで悪化はしなかった。

 海軍の切り札――ではないが、それでも生半可な海賊ならば十分委縮させられる本部戦力――それも準バスターコール級の戦力が沈んだからこそ、ここまで酷いことになっている。

 

「なぁ、クロ……。避難民が自棄を起こしたり……しないかな」

「大丈夫。危ういとはいえまだ状況は安定している。民衆の暴動や略奪が起こる気配もまだない。それに、少なくとも政府の援助船は黄猿がいると知らされているから沈められる可能性は少ないと民衆も分かっている。そこまで持たせればなんとかなる」

 

 政府の大型輸送船七隻に本部の護衛艦隊。

 今度はガチだ。急遽追加で大将の黄猿を付けたとか……まぁ、当たり前だ。

 このままだと政府の威信どころか、多くの加盟国で大飢饉、冬に入れば民衆の蜂起。最悪多くの加盟国が敵に回る事になるかもしれない。

 

「おそらくだけど、今回の一件は不運な遭遇戦だったのだと思う」

「遭遇戦?」

「本部の艦隊と戦える戦力なんて、表に出したら更に本部戦力を呼び寄せる。俺なら最初から見せ札にするか、そうでないのなら最後の最後まで隠していた」

 

 にも関わらず、今回は手を出した。

 たまたま見つかった……いや、たまたま見つけたから手を出したか?

 船一隻も残らない程の戦力ならば、戦闘の主導権は正体不明の海賊側にある。

 

「お前さんが言った、支部の占拠のために?」

「……支部は加盟国を守る要所でもあるし、その分守りも固い。それなりの数の兵士が常駐しているからな。そこが陥落して海賊に支配されれば、政府の物資が来たとしても、その輸送計画に大きな支障が出る」

「……そうなれば、さすがに本部戦力が投入されるだろうけど……」

「それはそれで新世界で海賊を狩る人間が減り、より多くの中堅海賊に奴隷を売り払い、成長させる時間を与える」

 

 まーじ性質(たち)が悪い。

 

「これまで一切見つからないように徹底的に隠れていた戦力が、ここで本部戦力を襲う意味はない」

「でも、物資不足の危機に陥ってるけど?」

「本部とやり合える戦力だったら、とりあえずの援助である本部戦力より本命の船を襲った方が効果的です。政府も大々的に広報していますし。全滅は不可能だったとしても船数隻沈んだだけで政府に大ダメージを与えられる」

「……あぁ、なるほど。確かに」

「多分、計画の本筋に関わっている奴らではない」

 

 本筋の戦力なら、このような戦闘はなかったはずだ。最初から政府の船を狙うために、より戦力を集めて息をひそめていたハズ。

 

 ……捕まえた西の海の人たちの、新世界までの運搬役か?

 正体不明だが、本部戦力を一方的に叩けるほどならば凪の海(カームベルト)を渡る手段を持っていたとしても不思議ではない。

 

 それだけの重要な役で、だが政府の船を襲う前に手を出した……。

 今回の黒幕とは協力体制……いや違うな。取引でもしたか?

 

 少なくとも、目指す点が違う者同士のハズだ。

 

「ダズから、漂流していた海兵を何名か発見し、救助していると報告が入っている」

「……彼らからの情報を待つしかないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、あの時は俺もそう思ったし、だから俺もクザンと一緒にここで指揮を飛ばしながら待っていた。

 

「本部少将、マンチカン。出頭いたしました」

 

 うわぁ。すっごい見覚えのある人が来たぞぉ。

 

 ペローナの一件の時の中将じゃん!? 支部から本部に異動してたの!!?

 いや少将!? 降格!?

 

「……同じく二等兵。ヒナ、出頭いたしました」

 

 そしてなんでお前まで来る!!

 あと、もうちょっと体を拭くか着替えてから来てくれ!

 なんか気まずいだろうが!!

 

「あー、疲れている所ホントに申し訳ないが、こっちも直ちに情報が必要でね。……辛いだろうけど、何が起こったのか全部話してくれる? 他の兵たちは全員、立ち上がる気力もなくてね」

「ハッ」

 

 ……中将、いや少将……上官への敬礼なんだからそんなこう……複雑な目でこっちを……海賊を見ないで。

 ヒナ嬢も。ホントお願いだから。

 

 

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