とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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今回はつなぎ回


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「大将青雉! タキ准将より入電! 作戦成功との事です!」

「……准将達がやってくれたか。よかった」

 

 モグワにおいて、全体の指揮を執っていたクザンは安堵のため息を吐いた。

 

「どうやら、政府が余計な横やりを入れる事はなかった……か」

「ハッ。准将より、配下の者達の奮闘と『黒猫』の指揮により、軽傷者こそ出たものの味方に犠牲はなしとの事」

「それ報告したら、またセンゴクさんがため息吐きそうだなぁ」

 

 ただですら忙しい日々の中で、恐らく黒猫に関する情報は毎日目にする事になっているのだ。

 

(……なんだか、その横で呑気に笑ってるガープさんにブチ切れてそうだよね)

 

 クザン――大将青雉は、自分の執務机に置かれた、雑紙の束を紐で結んだ簡素な帳面に目をやる。

 

 その表紙の片隅にはもはや見慣れた三本爪の猫のマークが書かれており、真ん中には『想定される緊急事態とその対処案一例(※あくまで一例なので思いついたことを書き込んでいくように)』と、これまた見慣れた丁寧な文字で書かれていた。

 

「これも、上に提出した方がいいんだろうねぇ」

「……『黒猫』殿も、好きにしてよいとおっしゃっております」

「本人からしたら別に重要な物じゃないんだろうけど……センゴクさん、クロの書類仕事に興味持ってるしなぁ」

 

 当初はただの空っぽの城でしかなかったこの臨時司令部も、今ではテーブルや書類棚などの必要最低限の調度品はもちろん、医薬品や食料の管理体制が整い、さらにはクロの提案で持ち込まれた印刷設備のおかげで、部隊を動かすのに必要な仕事が効率的になっている。

 

「部隊を十全に動かすのは優秀な指揮官かもしれないが、軍隊を十全に動かすのは合理的な組織編成と兵站である、か。……いや、本当に怖いなアイツ」

「……正直、『黒猫』とは刃を交えたくありません。心情としても、一勢力としても」

「クロを理解した海兵なら皆そう思っているだろうさ」

 

 分かりやすい所だと、『黒猫』と共に作戦に当たった際の兵士の損耗率は将官の間で度々議論を起こしている。

 とにかく『黒猫』――特に親衛隊の面々が現場にいるときは、明らかに負傷者が少ない。

 数字として知っている将官はもちろん、現場の兵士も肌で感じ取っているのか『黒猫』が来ると聞いて安堵する兵士も少なくない。

 

 この西の海の動乱で『黒猫』は畏怖と同時に、海兵達の信頼と敬意を勝ち取ったのだ。

 

「……本部からの増援だった人員の方はどう?」

「兵士達は少しずつ回復しており、救護に当たっている海兵や『黒猫』の者とたわいない会話に興じているようですが……、生き残っていた将官達は、あまり口を開きません」

「……行き先について聞いても?」

「はい、口を閉ざしたままです」

 

 クザンが、思わず深いため息を吐いた。

 側に控えて報告をしていた将官は、その姿に本部のセンゴク元帥を被らせる。

 

「金獅子に襲われた正確な海域を聞いた時にえらい口ごもっていたから何かおかしいとは思っていたけど、こりゃあやっぱり……」

 

 レッドポートを抜けて、真っすぐにここモグワへと向かうならばまず通らないハズの海域で彼らは襲われていた。

 

「行き先はやはり……『黒猫』の本拠であるモプチであったと見るべきでしょうか」

 

 海図を眺めた将官の言葉に、クザンは「だろうねぇ」と頷く。

 なんとなくではあるがクザンも、そして将校も彼らの本来の目的を察していた。

 

 恐らく、彼らの領地をこの混乱に乗じて焼き払い、戦力を削ろうとしたのだろう、と。

 

「休戦協定を認めてくれたセンゴクさんがそんな指示をするハズがない。……政府からセンゴクさんを飛び越えて妙な横やりが入っていたと見るべきか」

 

 チラリと、クザンはクロが残していったトラブル対処集表紙に目をやる。

 

 主に対海賊、対民衆、対加盟国の三つの章で分けられており、クロが考えついた起こり得る混乱とその原因や対処の一例――ついでに、クザンや目にした者が後から追加で書き込めるようにわざと大きく間隔を空けたり、白紙のページを挟んでいたりするそれには、一言だけ対政府でのトラブル対策が書かれていた。

 

 他のと違い、考え得る原因やその他諸々を書かずにただ一言。

 

『絶対に挑発に乗らず、落ち着いて元帥に連絡を取って時間を稼ぐ事』

 

 とだけ書かれている。

 

 正確にはその下に色々理由か何かを書こうとしていた痕跡は見えるのだが、それらは結局インクで黒く塗りつぶされていた。

 

 斜線などではなく、大量のインクでわざわざ塗りつぶしたという事は、あまり人目についたら不味いと思い消したのだろう。

 

(……挑発……ねぇ)

 

 神出鬼没の海賊連合を相手に、報告を聞いたつるが絶賛したという智謀を以って立ち向かった海賊が、そう判断した何かがある。

 

「……クロは、すぐに戻ってくるんだっけ?」

「いえ、拠点を押さえた事で海賊の動きはしばらく鈍くなるだろうという事で、一度モプチに戻り王族の方々や民衆の様子を見て来るそうです」

「……海賊とか貴族って言葉の意味を考え直してしまうな」

 

 

 

「まいったね。今すぐお前さんと直接話がしたいよ……クロ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クロ、よくぞ無事に戻って来てくれました。ハンコックや交代で戻った親衛隊の方々から、貴方の活躍は聞いていましたが……」

「長らくこの地を留守にして申し訳ございませんでした、王女殿下。無事作戦は成功し、未だ予断こそ許しませんが、海賊の組織的活動の中核となっていた者達を討ち取ってまいりました。これで少しは状況も落ち着くかと」

 

 久々のモプチの王城、俺達が不在の間にハンコック達が頑張って修復してくれたのだろう、より立派になった謁見の間には、もう誰がどう見ても王族に違いないと感じるような立派なドレスに身を包んだ王女様が玉座に座っている。

 

 こういう仕事はやっぱりハンコックの方が向いているなぁ。

 まだ防衛組からは報告書での情報しか知らないけど、ベッジの所の女性の構成員と共にあれこれ話し合いながら、布や生地の調達を復興計画の邪魔にならない程度に挟んでいたらしい。

 

 うん、俺から見てもいいセンスだ。

 

「このモプチも海賊の襲撃を幾度も受けたと聞いております。直接的な被害はないと報告を受けておりますが」

「はい、ハンコックとペローナ、それに親衛隊を始め兵士の方々がよく働いてくれて……。襲撃の後には兵舎や町には必ず顔を出していましたが、皆とても落ち着いていて、とても安心いたしましたわ」

 

 ……報告とも誤差はない、か。

 

「そこで、クロ。貴方に頼みがあるのですが」

「ハッ、なんなりと」

 

 珍しいな、王女殿下が俺に何か頼むっていうのは。

 あれか。今回の海賊騒動で、より信頼されるようになったと見るべきか。

 

「はい。先ほど言った通り民たちに大きな不安はなかったように見えましたが……それでも長い緊張の時、並びに久々の大規模な収穫作業により、皆心労が溜まっていると思うのです」

「はい、私もそのように感じます」

「であれば、時期こそズレ込みますが、少しでも民の心をいやすために近々祝日として祭りのようなものを開催したいと思うのです」

 

 おぉ、よかった。

 王族の方からそう言ってくれれば、こちらとしても王家の顔を立てたまま行動できる。

 

 あんまり海賊が主導しすぎても不味いと思ってたからコレは助かる。

 

「畏まりました、殿下。直ちに収量や使える物資などを確認次第、計画の立案に入ります。……ただ、そこで殿下に一つお願いが」

「なんでしょう?」

「モプチの主要都市も徐々に復興し始め、こちらの船による防衛網も堅固なものとなっております」

「ええ」

 

 少しだけ殿下の顔に不審……というか、不安そうな気配が漂う。

 まぁ、海賊の頼み事なんて怖いわなぁ。

 

「ここで一度、ルーチュ島の方へ慰問も兼ねて顔をお出しになられてはいただけませんか?」

「まぁ!」

 

 ほとんど若い人間はいなくてお年寄りばかりの田舎島といったありさまだが、だからこそかつての王国を懐かしく思う者が多い。

 王女殿下が顔を出してくれれば、祭りも合わせてそれなりに活気を取り戻すと思うんだが……。

 

「私としたことが……ルーチュの方々も、辛い時代を耐えてこられたのに……」

「ええ。ようやく、理不尽な暴力と搾取の時代を乗り越えたのです。叶うならば、あの島の民に作物の収穫や祭り以外にも、これからの生活に希望がある事を実感してもらいたく」

「ええ、わかりましたクロ。時期や手はずは貴方に一任します。私が民の希望になるというのなら、いかようにもこの身を使ってください」

 

 ……言葉重くない!?

 

「……ハッ。殿下の期待に背かぬよう、努めさせていただきます」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 久々に王女様との謁見を終えてから顔を出した練兵場――とかっこつけた名前を付けた運動場は今……。

 

「まさか、これほどの男を相手に出来るとは! クロ! クロっ! やはりお前の道は……面白いっ!」

「はっはっは! 海兵狩りという異名は耳にしていたが、その若さでここまで練り上げた剣士がいるか! まったく、歳を取った自分ではキツいな」

「こちらの剣を捌き切ってよくも言うものだ!」

 

 斬撃の豪雨が吹き荒れている。

 うーん……だめだ。今の応酬とか、俺なら四手まで捌いた所で構え崩されて腹バッサリだな。

 

 というか、これで互いに手加減してるってマ?

 

 ……マジなんだろうなぁ。兵士たちが慣れて普通にちょっと離れた所で作業続行してるし。

 

 …………。

 

 というかウチの兵士達、この数日でえらいクソ度胸身に付けたな。

 まぁ、刃の台風に毎日遭ってりゃ慣れるか。慣れるな。

 

 いやその前にさぁ。

 

「さて、どうやら君の上司が来たようだ。どうかね、ここは互いの一撃をぶつけて幕とするのは」

「……いいだろう。今の俺の渾身を以って挑ませてもらう」

 

 あそこでミホーク相手に遊んでる人――いやもうその時点でヤベェんだけど。

 

 バチクソにヤベェ人があそこにいらっしゃらない?

 

「――征くぞ、『冥王』!!」

 

 

 

 

 

 

 わぁ…………お空が真っ二つだぁ……。

 

 

 

 驚かせてすみません王女殿下、王妃殿下。

 後で謝罪に行かなきゃ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、いい勝負をさせてもらった。こうして剣で汗を搔いたのは、ロジャーの奴がいなくなって以来だ」

「楽しんでいただけたのなら幸いです。『冥王』シルバーズ・レイリー」

「君のような若者がそんな丁寧に呼んで頭を下げるような名前ではないさ。レイリーで構わん」

「……なら、レイリー殿と」

「はっはっは! ハンコックから話は聞いていたが、本当に君は海賊らしくないな!」

 

 あの後ミホークはいい笑顔で風呂に入ると言って別れた。

 ダズは祭りの準備のためにロビンを連れて物資管理部に、ペローナは親衛隊のキャザリーと一緒にルーチュ島に。あそこの教会廃墟がアイツの好みの場所らしい。

 

「であろう? まぁ、こうして海賊という者達を多く見てきた今では、主殿の在り方の方が好ましいがのう」

 

 で、ハンコックはここ。

 空が割れたのを見て真っ先に王女殿下や近くの民たちへの説明やフォローに走り回ったり妹達に指示を出してくれていた。

 すまねぇ……マジですまねぇ……。

 お前がいてくれて、俺やダズがどれだけ助かってるか。

 

 迂闊に化け物二人をじゃれあわせてしまった俺を許してほしい。

 

「しかし、君も偉大なる航路(グランドライン)に行くつもりだったか」

「一応、海賊ですので」

「いや、すまんな。どうも君は商人のような雰囲気がして……てっきり西の海で勢力を築くのが目的かと」

 

 うーむ、一見ハンコックを保護した俺への礼だけど……なんか量られてる?

 

「勢力圏を広めているのは確かです。ですが、それは偉大なる航路(グランドライン)へと出るための準備のようなものでして」

「ほう、準備」

 

 実際そうである。

 ここを発展させているのも、船の調達や製造に加えて、生産体制を整えて出来る限りの物資を持って偉大なる航路(グランドライン)に入りたいというのが大きな理由だし。

 

「部下の入ってきた理由が理由ですので、出来るだけ略奪をせずに渡りたいと思っています。海賊としてはどうかとは思いますが……」

「それこそ君の自由さ。海賊とは、自分の進みたいように進むものだからな」

 

 だから、と『冥王』は一度言葉を途切れさせる。

 

「私が気になるのは、君の航海の目的地だ」

 

 目的地?

 

「率直に聞こう。君は――ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手にするつもりかね?」

「いいえ」

 

 

「自分の役目は、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れるにふさわしい者へとバトンを繋ぐことだと確信しております」

 

 

 いや、普通に考えて俺は馬鹿になり切れんからラフテル(笑い話)にはふさわしくないだろう。

 

 そう答えたら、レイリーは口をポカンと開けてこっちを見ている。

 

 ……あれ? 納得いかない?

 

「ちょうど、私の同盟者も到着したと先ほど知らせが入りました。これからの展開を決める会議が始まりますので……」

 

 

「よろしければ、見学されてみますか?」

 

 

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