とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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058:西の海にて会議は踊る

「ひっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 ハンコック達の手によって修繕が完了した港町のサロン。

 そこに幹部を集めて同盟者を待っていたら、その同盟者――ベッジが顔を出した瞬間滅多にしないガチ笑いを始めやがった。

 おいこら。

 

「クロ! お前ならどんなハチャメチャが起こってもおかしくねぇと思っていたが……ひゃっひゃっひゃ!!」

 

 俺、お前が腹を抱えて笑う所なんてお前とサシで飲んでる時以外で見た事ねぇぞ。

 

「どこで繋がりを持ちやがった! かの『冥王』と!」

 

 まぁ、顔知ってたらそりゃビビるか笑うかの二択よね。

 

「偶然……とは少々違うが、俺達がモグワで活動している間にこっちに来ていた」

「はぁ……はぁ……ちくしょう、アホみてぇに笑っちまった。相変わらずお前は持ってんなぁ……」

 

 最初はなんで自分達のボスが笑っているか分からず怪訝な顔をしていたベッジの部下達も『冥王』と聞いて察したのだろう、一気に顔に動揺か緊張が走る。

 

「レイリー殿、紹介します。こちらは私の同盟者、カポネ・"ギャング"・ベッジ。今回の一件では情報と物資の収集に走り回ってもらっていた者です」

「ほう。同盟というからには、肩を並べて海賊連合相手に戦場で暴れていたのかと思ったが」

「なに、適材適所というやつさ。よろしく頼む、シルバーズ・レイリー。今を生きる伝説よ」

 

 そう言ってベッジは、俺が知ってる姿よりも若いレイリーと握手を交わす。

 

 マジで適材適所だったよなぁ。

 

 敵の隠れている海域こそ絞れたけど、そこから更にピンポイントで場所を絞れたのはベッジ達が周辺の島からわずかでも目撃情報を集めてくれたおかげだ。

 もしベッジの情報がなかったら拠点捜索に俺と海軍で大量の哨戒船を出すことになり、その場合は敵に発見されていた可能性が極めて高い。

 

 完全な奇襲とはいかなかっただろう。

 

「実際、戦闘でも頼りになりますよ。ジェルマ戦では世話になった」

「そいつはこっちもだ、クロ。海賊連合でケチこそ付いたが、それでもここらの海域は俺の縄張りになった」

「なら、懸念していた薬物の流通は?」

「お前との協定通り相当絞っている。来年からは別の稼ぎも出来るしな。ここらでお上がしつけぇ(ヤク)からは手を引くつもりだ」

 

 よしよし、それならいい。

 他の事ならまだなんとか折り合いが付けられるが、一回出回れば生産力にダイレクトにダメージを与える薬物関連はどうしても排除したかった。

 

「よし、とりあえず皆席に着いてくれ。会議を始める」

 

 いつものスーツを着ているダズ、ペローナ、ロビンにハンコック、アミス。

 そしていつもの胴着姿のハックにいつものツナギのミホーク。お前風呂上がりでまたそれ着たのか。

 ベッジとお付きの部下二名。そして『冥王』がいる一室。

 

 ここだけ完全に新世界で草も生えないわバカタレ神様コノヤロー。

 マジでなんか難易度調整というか乱数狂ってません?

 

「まずは海賊連合問題について、全員本当にご苦労だった。おかげで多少の修正はあるが、本来の俺達の計画に戻せる」

「とはいえ、こっから冬までが勝負だな。このままじゃ政府の援助があっても餓死者が出るのは避けられねぇ。情報を集めている間に、もう口減(くちべ)らしを始めている集落もあったぜ。加盟国でだ」

 

 マジでアイツラ、ホント無駄に広範囲を焼いてくれたな……。エリアAを守りきれたのは本当にデカかった。

 ダズやミホークはもちろん、しばらくの間復興作業の指揮を執っていたハンコックや、民衆に接する機会が多かった親衛隊を束ねるアミスも顔をしかめている。

 

 口減(くちべ)らしの話になると、レイリーもだ。

 

「ああ……政府はそれなりに加盟国は救おうとするだろう。が、非加盟国はそうはいかない。クザン――大将青雉が多少力を貸してくれるとしても、それはここからまた増えるであろう海賊に対してだ。物資に限っては……そう気安くはいかない」

 

 下手に現場レベルの判断で物を分けてもらうと横流しになっちまうからな。

 クザンや西の海の海兵と友好関係を築けたからこそ、ここで下手に海軍勢力を頼るとかえって自分達の首を絞めることになる。

 

「基本的な方針は変わらない。ベッジは交易の中で無理のないレベルで食料と燃料を主に仕入れて欲しい」

「おお、任せろ。……あのバカでかい食料保存庫の方は大丈夫か?」

「完璧だ。なにせ、ほら……ジェルマ製(・・・・・)だからな」

 

 そう笑うとベッジは普段のようにへっへっへと笑い、黒猫の面々は苦笑している。

 ジェルマとの戦闘で戦利品として要求した物の一つが、奴らの船に搭載されていた冷蔵、冷凍庫だ。

 

 大勢の人間――しかもクローンとはいえカロリー消費の多い兵士を食わせるだけあって滅茶苦茶容量のデカいそれを、連中の帰り道に必要な分を残して全部頂いておいたのだ。

 

 正直、下手なお宝や大金より嬉しかったなぁ。

 碌に技術がない非加盟国を押さえる際に、越冬のために収穫物――はともかく、魚や肉といった動物性食料の長期保存をどうするかってのは結構な難題だったから。

 

 他にもポンプやらホースやら発電機やらモーターやら、ついでに武器や弾薬も……おぉ、あの時は軍用の食料保存庫の入手に舞い上がってたけど俺ちゃんと海賊らしいことしてたじゃん。

 

「一応、先日センゴク元帥と電伝虫で会談を行った際に、あくまで『治安維持』のための追加援助物資という事で、輸送船二隻分の食料や燃料をこちらに渡してもらうことも確定している。それらも用いて一つでも多くの非加盟国を救う」

 

 海軍への貸しは積もりに積もりまくっているので、それを多少でも返す意味合いもあったのだろうけど、マジでセンゴクさんには足を向けて寝れないな。

 

 俺達は海賊なんだから、戦力に任せて踏みつぶされる可能性もあると思ってたら……。

 

「だが、同時に我々も計画を進めなければならない。ロビン、地図を頼む」

「はい!」

 

 海軍との時もそうだが、出来るだけ他に組織の目がある時には、こういう人に見られる仕事をロビンに頼むようにしている。

 ロビンがトップである俺と親しい人間だという――つまりはうかつに手を出したら『黒猫』が敵に回るというアピールのためだ。

 

 あと、何でもない時に能力を使うことにちょっとトラウマというか怯えがあるみたいだからそこのメンタル改善。

 

「当初の予定ではここモプチを中心に我々の統治圏を広げ、ピュリナ、カナガン、ミオ、キャラット」

 

 ロビンがボードに貼り付けた海図に記された、モプチの近海に点在する四つの島。

 ベッジが目星を付けてくれた程よく人の数があり、かつ適度な大きさの森と平地がある非加盟国、あるいは加盟国外の島。

 

 俺が挙げた島に、ロビンが次々に丸印をつけていく。

 

「この四島を加えた五つの島で我ら独自の経済圏を立ち上げ、その生産力と新規市場を以って世界政府と共存が可能な第二の統治勢力を成立させるのが狙いだった。……ダズとベッジには話していたな」

 

 ……おかしい。もっと驚いてくれると思ったのだが皆小さく笑うだけだ。

 もうちょっとこう、演技でいいから驚いてくれてもよくない?

 

 レイリーもむっちゃ笑っとるし。

 

「が、計画を変更せざるを得なくなった。海賊連合による略奪被害もそうなのだが……」

 

 いざ説明を続けようと思っていたら、なんかミホークが頷いている。

 

「ミホーク、理由が分かるか?」

「あぁ、なんとなくはな」

 

 なんかもうモプチ民から親しみを込めて『ツナギさん』と呼ばれている剣士は、給仕に持ってこさせた紅茶を啜り、

 

「要するに、今の開拓速度では間に合わんのだろう? 時間をかければ市場規模にまで復旧出来るだろうが、そもそも世界政府が手を打ってくる前に形だけでも完成させなければ交渉はおろか、取引も不可能だ」

「そうだ。まさにその通りだ」

 

 コイツまじで当てやがった。

 開墾というか開拓作業をあれこれ任せていたせいでそっち方面の知識も付いたか?

 

「ここにいる面々ならよく知っているだろうが、そこのツナギの大剣豪は間違いなく開墾作業のトップエースだ」

 

 全員が吹き出し、爆笑する中で当の本人は『当たり前だ』と言わんばかりに優雅に紅茶飲んでやがる。

 なんだ、地味に自慢だったか?

 

 ……ただ、ロビンが嫌味なく笑ってくれたのは良かった。

 ベッジに対してもそうだが、一連の騒動の中でかなりミホークに対しての敵意が薄れている。

 

「その力を存分に振るってもらったおかげで、モプチは……まぁ、今回の騒動で初手に食料大放出なんて普通ならまずやらない事をやったんだが……収量だけで言えば春先までは持つほどの穀物畑を作れた。これに秋播きの、これから収穫する作物も含めればどうにかなる……が」

「売り物に回せるほどの余裕はない、か」

「ん。……まぁ、来年には更に広げる予定ではあるが、働き手の問題もある。急激には伸ばせない」

 

 当初の予定では、穀物の収量によっては酒とか金になる物を作ってベッジに売りさばかせるつもりだったんだがなぁ。さすがに甘く見すぎていた。

 

 一応、来年は育てられそうな茶葉や煙草、香辛料に薬草の栽培も試してみるから、多少換金率は上がると思うが……。

 それでも面積がどうしても限られる。

 

 現地民からしたら、まだまだ食料自給に余裕が欲しいだろうし。

 

「そこに海賊連合の一件が起こった。非加盟国はただですら余裕がなかった所にトドメだ。これを立て直すには、ここモプチの一件以上に物資と労力が必要になる」

「物資に関しちゃ元々、クロが勢力を立ち上げた時はこうなるというデモンストレーションとして、近隣の非加盟国落ちしそうな国に、加盟国の相場よりやや安価な食料を売り込むつもりで事前に買い溜めていた分がある」

 

 ホント、これが上手くいってればなぁ。

 さすがに政府は無視するだろうが、財政が厳しい加盟国の後押しを得られれば多少は発言力を得られたかもしれんのに……。

 

「まぁ、ほとんど今回の騒動で放出したんだが……。それでもまだ予備分が余っている。足しにゃあなるだろう」

「その食料やこれから手に入る物資を投下したとして、俺達が防衛も担いながら復興に従事できるのは……島一つが限界と見ている」

 

 ダズがもっとも暗い顔をしている。

 うん、今回の事件でよく分かったが、ダズは意外に助けられない人がいると落ち込む。

 そこら辺のメンタルコントロールも教えておかないとな。

 

「開拓は行う。我らにとって、国とも呼べない荒れ地だけの非加盟国を政府の手を借りずに復興、成長させたという実績は、後の立ち回りにおいても大きな武器になりうる」

 

 今度はロビンではなく、俺の手で海図に一本の線を入れる。

 

「しかし、開拓した島数で競うのは影響力を持つまでに時間がかかりすぎる。そこで――」

 

 線の片方はモプチ。俺達の手で、農業面だけはなんとか立ち直りかけてきた非加盟国。

 

「ここから先、我らは航路を以って世界政府に挑む」

 

 遠いわけではないが、それでも近くはない場所にある島。

 

「旧キャネット国。ここは今回の件で人こそかなり連れ去られたが、海軍の迅速な展開のおかげで火を付けられる所まではいかなかった。おかげで貴重な森林が無傷だ」

 

 森は大事。本当に大事。今回の復興作業で実感したけど、材木を自前でどうにか出来るかどうかってのはホント大事。

 特にこのワンピース世界は海洋世界。

 

 燃料や建材になり、炭になり、そして船に必要な木材が作れる土地は本当に大事だ。

 

「海軍と休戦協定を結び、かつ緊急事態だからこそ我らが自由に動ける今、この島を復興させ、ここモプチとの航路を定着させる」

 

 その航路を表す線の中央あたりには、少し広い無人島がある。

 それを大きな丸で囲み、そこから更に線を引く。

 その先には、モグワの影響下にあった国々を始め、加盟国の中でも貧しい国々が多くある。

 

「周辺に他の加盟国がないために休戦協定が終わってから海軍に襲われる可能性も比較的少なく、そしてこの無人島は他の加盟国にやや近い。ここを起点にすれば、裏ルートになるとはいえ加盟国――特に余裕がない国との交易も可能になる。いや、そういう状況を作る」

 

 たとえそれが暗黙の了解だろうと、まっとうな品物の売買取引のルートがあるという実例を作れば、それはのちの交渉材料になるだろう。

 

「テストケースとして程よい大きさで選んだモプチと違い、向こうは開墾可能な土地の面積がこちらの比にならない。これが簡単な地図になる。結構な平地に、川もあるだろう?」

 

 ミホークが、俺が海図の上にマグネットで張り付けたその地図を見て「ほう……」と笑う。

 よーしよしよし、スイッチが入ってなによりだ。

 

「主殿、復興させるのは良いが労働力はどうするのじゃ? 住民が連れ去られたということは、残っているのは働けぬ年寄りがほとんどと見るが」

「いい質問だ。それに関しては当てがある。今回の事件において、奪還できた加盟国民は保護されているが、非加盟国民は少し扱いがややこしいことになっている」

 

 最終的にはどこかに放り出すあたりになるんだろうけど、それまで食わせるのが海軍はともかく世界政府としては微妙な問題ということだろう。

 

「そこで元帥と、彼らの扱いを俺に一任させてもらえないかと交渉を行っている。向こうとしても困っていたのか、感触は悪くない」

「つまり、臨時の移民か」

「非常事態に付け込んでいるようでアレだが、今は人の力を合わせる必要がある」

「なるほど……。じゃが、もし交渉が失敗した際の代案は?」

 

 ……マジでハンコック、デカい仕事を任せてから凄い成長してるなぁ。

 

「代案というのは少し違うが……実は、以前一時行動していた人間……アミスたちのように救助した海兵――元海兵が、俺がそこにいると耳にしてモグワに集まりつつある。現時点で数は四十ほどだ」

「間者の可能性はないか?」

「ないとはいえない。が、本人であるのは確認している。少なくともCPのような諜報訓練を受けた者ではないんだ。現場の情報が抜かれる程度ならば、むしろ広告塔になってくれる」

「ふむ……だが、四十か」

「初動での最低労力としては十分だと思う。考えてみろハンコック」

 

 横で紅茶を飲んでるツナギの人に目線を送る。

 

「開拓力がアホみたいにずば抜けている上に防衛戦力としても破格の男がいるんだぞ」

「…………………………そうじゃったな」

「まかせろ。次に備えて、収穫後に多めに苗の用意をさせている」

 

 お、おう。

 

「前々から思っていたのじゃがミホーク、お主それでよいのか?」

「必要だと感じたことを実行に移しているだけにすぎん」

「う、うむ……。いや、実際に助かっておるのじゃが……」

 

 頼もしすぎて変な笑いが出てくるな。いやマジで頼もしいけど。

 

 見ろ、お前とさっきまで遊んでいた海賊王の右腕さんがまーた爆笑してるじゃん。

 

「ベッジ、お前に頼みたいのは――」

「その無人島だろう? ここを将来の交易拠点として俺達のアジトと倉庫、港くらいを用意しておけば、お前らの島が旨みを持った時に即座に動ける」

「そうだ。無論、のんびりで構わない。正直、重要度で言えば交易も兼ねた物資調達の方が今は大きい。同盟者であるお前達にただ働きだけを頼むわけにもいかんしな。最悪、変な海賊に奪われないように確保だけしてくれればそれでいい」

 

 ベッジも自分の強みを理解している。

 ベッジのやべぇ所は裏の要人を把握して、売買ルートを新たに作れるという強みだ。

 だから俺は商売事に関してはベッジとその部下の力が必須だし、向こうもこちらがうかつに裏切ることはないと確信しているハズだ。

 

「へっへっへ、出費もデカいがその分なんだかんだで稼がせてもらってるからな。任せな」

「よし。……当面の行動方針はそんなところだ」

 

 海軍との行動を共にすることで改めて実感したが、名声というものは馬鹿にできない。

 こちらにとっては生産力を上げるための行動なのだが、

 

「さて、正直幹部で共有しておくべき情報は今ので全部なのだが……今日は偉大なる航路(グランドライン)を世界でもっとも知っている客人を招いている」

 

 分かる人間の顔に緊張が走る。あるいはニヤリと笑っている。

 ロビンはキョトンと首を傾げていてペローナはまたココアを飲んでいる。

 

「せっかくなので、よろしければ偉大なる航路(グランドライン)についていくつかここで聞かせていただきたいのですが」

「ほう。この隠居人に、なにか聞きたいことでもあるのかね?」

 

 ……なんで微妙に凄むんです?

 

「えぇ。いい機会なので、以前幹部……いや、正確にはダズとペローナには偉大なる航路(グランドライン)での自分の計画を少し話していたのですが……」

 

 あいつら絶対まだ半信半疑だからな。特にサウスバードのくだり。

 現にダズはなんか静かに笑い始めるし、ペローナに至ってはホロホロホロと大笑いであるこんちくしょう。

 

「ここで一度、自分がどう動くつもりだったのかを皆に話しておこうかと。できれば、実際に偉大なる航路(グランドライン)を知る貴方に、私の知る知識が合っているかどうか補足していただきたいのです」

「……君の航海がどこに繋がっているか、か」

 

 レイリーは、手にしていた酒を呷りグラスを空にすると、

 

「いいだろう。何が知りたい……いや、確認したいのかね?」 

「ありがとうございます。では……」

 

 

 

 

「ジャヤという島について、まずはご存じでしょうか?」

 

 

 

「……………………は」

 

 

 

 え、なにその反応。

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