とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

6 / 107
タグでも明記しておりますが、例えばレッドラインの下りや今回のペローナの下りの当たりで独自設定が入っております。
なにとぞご了承下さい


005:魔女の娘

「驚いた、本当に子供じゃないか」

「ホロホロ、そういうお前だって子供だろう」

「……いや、それはそうなんだが……」

 

 俺を家の中に招いてくれたペローナは、歳の割には大人びているが少女――いや、幼女と言っていい姿だった。

 

 明らかにずっと着の身着のままだったのだろう、少しくすみ始めた服を身に纏ったまま、埃の積もったソファを軽くはたいて俺とダズに勧めてくれた。

 

 こら、ダズ。鼻をひくつかせるんじゃない。

 そういう小さい行為こそ人傷つける事多いんだから。

 

 軽く注意すると、ダズも悪いと思っていたのか小さく頭を下げた。

 

「すまない、キャプテン。だが、匂いが少々強くてな」

 

 あぁ、まぁ……嗅ぎ慣れていないと分かんないだろうな。

 

「これは薬草の匂いだ。壁や家具にたくさんのものが染みついていて分かりづらいが……」

「ホロ……お前、よく分かったな」

「海に出る用意をしていた時に、簡単な医学は覚えておいて損はないと思って少しだけ勉強したことがあってな。その時に野草も少し触っていた」

 

 ダズ少年が目をまん丸くして驚く。

 

「キャプテンは医学知識も?」

「いや、触りで学ぶにも複雑でややこしくて結局匙投げた……というか壁に本を叩きつけた。あんな面倒くさい本を書いた奴は性格が悪いに違いない」

 

 なにが『優しい初歩の医学』だ。初歩に踏み出すのに更に必要な知識があるなら最初っから違うこの本を買えと表紙にデカデカと書いておけ。

 

 一方、ペローナは何がツボに入ったのか、漫画で散々見たあのホロホロ笑いをしている。

 ダズも少し笑っている。

 

「ホロホロホロ! あぁ、わかるぞお前。この家に住んでいた女が同じことを言っていた」

「……母親か?」

「私を拾った女だ。村の人間からは、魔女と呼ばれていた」

「魔女。……あぁ、なるほど。土着の薬師か何かだったのか?」

「……お前本当によく知っているな。私もそれを知ったのはついこの間なのに」

 

 そこらへんは、クロになる前にどこかで知った雑学だ。

 まさかこんな形で役に立つというか披露することになるとは思わなかった。

 

「村の連中とここに住んでいた女にどういう確執があったかは知らないけど、まぁ疎まれていたらしい」

「……その人は今?」

「死んだ。海賊が来る一月くらい前にだ」

「……ついでに、悪魔の実を食べたのは?」

「同じ頃だ。……食べる物がなくなって、家の中を漁っていたら見つけた」

 

 この家からは埃と薬草の匂いはしても死臭が一切しない。

 おそらくその魔女の遺体の運搬や埋葬自体はどういう形にせよキチンとされたのだろう。

 そしてそれを今のペローナが一人で出来るハズがない。

 

 最低限手伝った人間はいるハズだ。

 

(村の連中、この子の現状知ったうえで全部放置していたな?)

 

 魔女の子だから、気味悪がった――といった所だろう。

 しかし、まさか食べ物や衣類の援助も一切なしか。

 子供相手にえげつねぇ……。

 

「ん?」

 

 ふと、最初に比べて上機嫌だったペローナが顔を上げて、外を――村の方に顔を向ける。

 

「おい、お前ら。お尋ね者だったのか?」

「あぁ、一応俺がな。……連中がなにか騒いでいるか?」

 

 海賊がここで逃げ出せるわけはないし、なにかやらかすとしたら村の連中だろう。

 といっても、ペローナのネガティブ・ホロウ一回食らってまだ立ち上がるとかまず無理だと思うんだけど――。

 

「急いで逃げろ。奴ら、電伝虫で海軍を呼んでやがる」

 

 ――。

 

 やりやがったなあのクソ野郎ども!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お、おい、本当にいいのか?」

「うるせぇ見ろ! あの眼鏡のガキだって賞金首だ!」

 

 村人たちは、一番大きな広間に集まって相談していた。

 村人たちが囲んでいるのは一枚の紙。

 この村で海賊の捕縛を行った眼鏡の少年――『抜き足』のクロの指名手配のポスターだった。

 

「だけど魔女の子がいる。あの呪いで暴れられたら……」

「それでもガキ三人だ。いくらなんでも海軍に勝てるハズがねぇ!」

 

 きっかけは海賊に支配されている間は止まっていた新聞などの情報の整理だった。

 ゴールド・ロジャーの処刑と、その最後に残された一繋ぎの財宝(ワンピース)の存在によって海賊の数は尋常じゃなく増えていた。

 

 この島を支配していた海賊もそういった中の一つで、ただ暴力だけでのし上がってきた男達だった。

 

 そういった存在がどこにいるのか知ることは、島民に取って重要な情報になる。

 

「あの眼鏡のガキをとっ捕まえれば3700万ベリーになるんだ! しかもファミリーが奴に1000万ベリーの報奨金を懸けている!」

「じゃあ、合わせたら5000万ベリー近くになるのか!?」

 

 村人の誰かの喉がゴクリとなった。

 

「それだけじゃない、こんなド田舎でもファミリーの影響が強まれば金が動くようになる。豊かになれるんだ!」

 

 その様子を見て、まとめ役の男が満足げに頷く。

 

「なにも難しい話じゃない。全員で奥の方に隠れよう。あのガキの船を持ってだ。アイツら、海賊のお宝を手に入れてやがった。それごと一度船を預かって島の反対側に――」

 

 

 

――面白い話をしているな。お前ら。

 

 

 

 そして次の計画を話している次の瞬間、隠れていた建物の半分が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「おま、お前! 空飛ぶなら空飛ぶと言え! というか飛べたのか!!」

「驚かされるばかりだな……キャプテン、こんな事も出来たのか」

「……いつか出来る事は知っていたが、今とは思わなかった。すまん、二人とも今降ろす」

 

 いやホント、話を聞いた時、生まれて初めて頭に血が上るっていう感覚が分かった。

 百歩譲って海軍に通報程度ならば理解できるが、ここまでアレコレされるとさすがにちょっとくらい暴れたくなっても仕方ないだろう。

 

 俺の蹴りから出た斬撃(・・)でズタボロになった建物を見上げる。

 あーあー、まさかこんな形で嵐脚まで覚えるとか。

 いや嬉しい誤算ちゃあ誤算だがそれはそれとしてぶっ飛ばすか。

 

「馬鹿共が、ペローナの能力を舐めていたな?」

 

 散々迫害されてきたことを知っているペローナが、お前らを警戒しないわけないだろうが。

 ホロホロの実のゴーストは諜報も出来るって事を知らなかったのか?

 

 ……いや違う。ペローナが子供だと舐めていたんだろう。

 どうせ何をしても、やり返しの仕方一つ知らない子供だと舐めていたんだ。

 

 それが自分達や海賊を容易く捻ったので怖くなったんだろう。

 

「ま、待て……待ってくれ」

「何が待ってくれだ。お前たちが奪われた物は全部取り返した。お前達に危害を加える事もしなかった。その上で我々を海軍に売った」

 

 あぁ、やっぱ予想通りの連中だったかこの村。

 まとめ役の男以外が腰が抜けて動けなくなっているか、なんとか逃げ出そうとしている奴しかいない。

 

「いや、それはいい。どうあがいても俺はお尋ね者の賞金首だ。『生死を問わず(DEAD OR ALIVE)』を背負うのも今更だ」 

 

 そうだ、繰り返すがそれはどうでもいい。

 業腹極まりないがそれはいいんだ。

 

「だがなぜだ」

 

 

「なぜ、『抜き足』のクロの一味としてペローナ(・・・・)まで入れて報告した?」

 

 ペローナがゴーストを通して耳にした話を聞いて驚いた。

 ダズは分かる。

 本人もいつかそうなる事を覚悟して俺をキャプテンと呼んでくれている。

 

 だがペローナは違う。いや違う違わないとかいう話ですらない。

 このクソ共、曲がりなりにもこの島にいて自分達の命助けてくれた奴を、見捨てるとか通り越して濡れ衣着せて海軍に処分させようとしてやがる。

 

 あ? なんだお前らその顔は。

 

「キャプテン、海軍の船だ」

「数は」

「一隻」

 

 あぁ、それでちょっとホッとしやがったのか。

 馬鹿共が。

 

「ダズ、ここでペローナを守れ」

「キャプテンは?」

 

 こちらでも視認した。

 海軍の船一隻。数は一。

 

「あの船を沈める」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。