とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

60 / 106
059:新しい種

「……確かに知っているが……いやはや、予想の外を突かれたな」

 

 予想ってなんぞや。

 

「こう言っては何だが、ロジャーの船に乗っていたのだ。なので正直、ひとつなぎの秘宝(ワンピース)へのたどり着き方については絶対聞かれると思っていたのだよ」

 

 いらんわそんなもん!! 見る必要はあるかもしれんが!! そもそも!!!

 

「わざわざ答えを聞きたがる人間に手に入る宝ではないでしょう?」

 

 ポーネグリフを読めなきゃたどり着けない島にあるお宝って時点でヤベーいわくの気配ビンビンだし。

 ロビンもいるし、麦わらと合流できなきゃいつかは行かなきゃならんのだろうけど、一足飛びでラフテル立ち入ったら手痛いしっぺ返しを食らうか、あるいは価値に気付かない可能性がビンビンじゃい!!

 

 ゲームでショートカットや裏道を見つけるのは大好きだが、それはそれとしてフラグ未回収で進行不能ゲームリセットみたいな奴ほど腹立つ事はない!

 

「わっははははははははははは!!!!」

 

 ……あの、それはそれとしてレイリーさんえらいご機嫌ですね?

 そんな周りがちょっと引くほど笑わんでも。

 

「いや、すまん。はっはっは……なるほど、いやしかし……西の海でこのような男が産まれるとはな」

「産まれたのは東の海ですが……」

 

 結局妙にこの海が馴染んでるけど、お尋ね者になったのが今くらいだったらそこまで舐められなかったのになぁ。

 

「ほう……東の……」

 

 おかしい。質問したのこっちなのに気が付いたらあれこれ聞かれてる。

 

「では、赤い大地(レッドライン)はどうやって? 東からなら、マリージョアを突破せねばならないが」

「走りました。マリージョアを越える時は壁面を」

「はははははははははははは!!!」

 

 ……ええ、もう、はい。

 どうも俺の話は酒が進むようで……美味そうに飲むなぁ……まぁいいか。

 

「やれやれ、まだまだ聞きたいが後の楽しみとしよう。……あぁ、ジャヤは知っている。偉大なる航路(グランドライン)前半の……およそ中域ほどに位置する常夏の島だな。血の気の多い海賊がたむろする海賊島でもある」

「ええ。そこに、変わった鳴き声のする鳥がいますよね?」

「あぁ、サウスバードか。うむ、ロジャーが喧嘩していたからよく覚えている」

「喧嘩……」

 

 あぁ、そういやサウスバードってえらく知能高かったっけか。

 ……説得役にドラムでドクトリーヌとチョッパーに頼み込んで通訳頼むか?

 そのころまでにはそれなりに金は稼いでいるハズだし。

 

「その鳥は、南しか向けないというのは本当か?」

 

 そこに、ダズが立ち上がって尋ねる。

 そういや、何気に一番俺とその件について話し合ってる人間だったわ。

 

「その通り、南しか向けない。我々も、とある場所に向かうために利用したものだ」

「…………やはり、事実だったのか」

 

 ロビンがアミスとなにやらひそひそ話したり、ベッジが金の匂いを嗅ぎつけたのか目を輝かせていたりする。

 さすがだよ、お前ら。

 

「さて、ここまでの話を踏まえた上で、話を聞いて欲しい」

 

 

「私の目的は、偉大なる航路(グランドライン)の解放にある」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 自分も、そして『抜き足』という海賊に付いてきた者達も、一部を除いてポカンと口を開けてしまっている。

 

「今聞いた通り、サウスバードは天然のコンパスだ。これを利用すれば、磁気の乱れによって方角の把握が難しい偉大なる航路(グランドライン)の航行に幅が出来る。無論、予測の難しい嵐や特殊な海流に悩まされるのは変わらないのだが……」

 

 かつての船長が、死の間際に残した言葉によって引き起こされた大海賊時代。

 海賊になる者は皆、あの男が残した『財宝』を求めて海に出ている。

 そういった中で腐っていくものもいる。

 脱落する者もいれば略奪に味を占める者もいる。あるいは、ただ暴力に酔う者も。

 

「特殊な環境により航路がある程度絞られている偉大なる航路(グランドライン)と、そこへの大きな壁となる凪の帯(カームベルト)。この二つを自由に航海できる(すべ)を手に入れれば、現在の環境は大きく変化する」

 

 だが、新しい時代になったばかりだというのに、これまでいたどの海賊とも違う道を歩もうとしている男を見るのは、これが初めてだった。

 

凪の帯(カームベルト)に対して必要なモノは分かっている。大量の海楼石と、風がなくても進める船――外輪船(パドルシップ)だ」

「そして、偉大なる航路(グランドライン)の中では、その鳥を使うと」

「……そうだ。いや、正確には最初の内だな。使うには使うが、なにせ生き物だ。途中で亡くなることだって十分にあり得る。ゆえに、サブプランが必要になる。まぁ、これに関しては改めて説明するが……」

 

 

「海楼石船による凪の海(カームベルト)の行き来、そしてサウスバードを用いて作成する偉大なる航路(グランドライン)の自由航路」

 

「この二つを軸にして、閉鎖環境にある偉大なる航路(グランドライン)の発達した技術と文化を大きく広げ、世界を変える!」

 

「これまで狭い場所で発達してきた技術と学問のぶつかり合いは必ず革新を起こし、文化風俗の広がりは世界に新しい潤いを与える!」

 

「そしてそれらを運ぶ航路はより大きく市場を刺激し、売買を加速させ、各島により豊かになるチャンスを運ぶ!」

 

 

 恐らく詳しい話を知っていたのだろう少年の副総督と、畳んだ幽霊を模した日傘を手で弄んでいる少女は小さく笑っている。

 

 一方で、『黒猫』と呼ばれている海賊の親衛隊の女性隊長は、横に並んでいるオハラの遺児と共に目を輝かせている。

 

「これが、以前から考えていた私の計画だ。いくつか修正が必要な所もあるが……どうだ?」

「馬鹿野郎、クロてめぇ!!」

 

 パッと見なら舐められてもおかしくない少年海賊と、対等な立場を築いているマフィアの男は叫んで立ち上がり、

 

「そんな面白い話持ってんならもっと早く言わねぇか!!」

「すまん、ベッジ。なにせ偉大なる航路(グランドライン)に行くタイミングを(ことごと)く潰されていたから、中々話す機会がなかったんだ」

 

 そう、笑いながら怒鳴っていた。

 どこまでも海賊らしくない一団が、海賊らしく笑っていた。

 まるで、かつて乗っていたあの船の連中のように。

 

「……そうか」

 

 男は確信した。

 この海賊の計画が上手くいくかは分からない。

 だが――

 

「次の時代の種はもう芽生えつつある、か」

 

 この海賊団は更に大きくなる。若い能力者が、新世界の剣士が、時代に見捨てられた人間が、時代を――そして、残されたオハラの意思が集まった理由が。

 なんとなく分かるような気がした。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 キャプテン・クロの発表が終わり、そのままサロンはちょっとした宴会の場となった。

 別室で控えていた親衛隊やカポネ・ベッジの部下達も集まり、給仕の人間に思い思いの料理や酒を注文して歓談している。

 

 普段よりは質素な料理をつまみながら、キャプテン・クロはベッジやミホークと話をしている。

 ニコ・ロビンは、その後ろでクロの長く伸びた髪に一生懸命櫛を通して、なぜか三つ編みにしている。

 ハンコックは姉妹と共にその様子を眺めていた所に、果物を持ってふらりと寄ってきた親衛隊の面々と話を。

 ペローナは魚人や人魚たちと、隠し港のある拠点の開発についてなにやら話し込んでいる。

 

「しかし、君達もその歳で大変な海賊になったな。補佐役は大変だろう?」

「ああ。……ただ、部下が皆役割を理解してくれているので助かっている」

「そうですね、船員は全員、持ち場を死守するという意味を分かってくれて……逆に親衛隊は、少し役割がバラけ始めているので、一度考えないといけないかもしれません」

 

 そしてサロンのカウンターでは、海賊王の右腕と共に、『黒猫』を支える主力と言っていい二人。副総督のダズと、親衛隊隊長のアミスが酒を酌み交わしていた。―― 一名はお茶だが。

 

「いや、私の目から見ても親衛隊は中々の精鋭だ。このまま覇気を鍛えていけば、新世界でもそうそう崩されん精強な部隊に成長するだろう。……いや、うらやましい」

「? うらやましい、ですか?」

「一般船員も含めて、ここまで統率された海賊を見たことがなくてね。……君達のような部下がいてくれれば、私ももう少し楽が出来ただろう」

 

 その言葉に、ダズは鉄仮面を少し崩す。

 

「確かに、言われてみればこれまで沈めてきた海賊達は、暴れるだけで戦術もなにもあったものじゃなかったな」

「はっはっは! それが普通だ。クロ君や君達のように、海賊を組織立てた上で、海軍以上に戦略、戦術を用いて運用するなど……」

「海軍以上、ですか?」

「そう感じる。ハンコックの修行の合間に、残る親衛隊や船員の訓練を観察させてもらったが、実に面白かった」

 

 カポネ・ベッジが仕入れてクロが買い取った、サロン用のやや上等な酒。『冥王』レイリーは、普段あまり口にしないその酒を、さぞ美味そうに口にしながら、

 

「新世界――後半の海では特に、個の武力と数の世界だからな。そこでもある程度なら通用するレベルの覇気を纏う程に鍛えられた上で、個ではなく群としての動きを重視する一団は……いやはや、怖いな」

「集団で当たってもミホーク先生にもキャプテンにもまだまだ敵わないんですがね」

「キャプテンは、武装色を覚えてからはより速くなった……らしいからな」

「……副総督、それ本当ですか?」

「なんでも、加速時に足に武装色を纏わせていれば足が保護されて、より静かに加速できるらしい。傍目には分からんが」

「…………無理、追いつけない」

「はっはっは!!!」

 

 ただでさえキャプテン・クロの速さを良く知る二人は、より強くなっている自分達の総督に頼もしさを覚えながらも、相当手加減してもらわなければ模擬戦すら成立しないレベルになっていることに頭が痛くなっていた。

 

「あの『海兵狩り』とも訓練を?」

「はい、親衛隊は全員。後は船員で先生が目を付けた人も……」

「だいたい訓練に参加している中から五人ずつで斬りかかって全員のされるのを繰り返すだけだが」

 

 ダズもアミスも、いつもの地獄を思い出して顔を顰める。

 

 指揮を執る事が多い二人なので毎回ではないが、参加するたびに前回のやり取りを思い出し、そしてその度に「そうではない」と言わんばかりに再び蹴散らされるのだ。

 

 何度も何度も挑むことによって、ようやく単独では十五分以上。瞬殺ではなく連携次第で二十分以上は斬り合えるようになってきた。

 他の隊員だと、防御に長けたミアキスを除けばもっと早く気絶させられる。

 

「ダズ君。君は若い。総督であるクロもそうだが、まだまだ少年と呼ばれてよい頃だろう。なぜ、海賊に?」

「……元々、偶然悪魔の実を食べてからは賞金稼ぎの真似事をやっていた。キャプテンと知り合ったのはその時だ」

「つまり……敵としてかね」

「ああ。キャプテンは当時、元々の賞金に加えてマフィアから追加の報奨金が付けられていた。……賞金首のビラを見れば、少し年上だがそこまでではない。自分のような能力者という情報もなかった」

 

 一人だけ酒ではなく茶――マテ茶を飲んでいたダズはカップをカウンターに置き、当時を――まだ最近と言える時期であるのに、もう数年は前のようなその時の事を。

 

「あの時からキャプテンは速かった。まず目では追えず、ダメージこそ負わなかったが一方的に蹴り続けられていた。蹴った瞬間ならば斬れると思い、刃に変化させた腕を振るってももうそこにはいない。……正直に言えば、怖かった」

 

 今ではどうだろうかと、ダズは手のひらを何度か開いて見せる。

 

「まぁ、そうしてやり合っていたら……唐突に、『一緒に行こう』と言い出した」

 

 

―― 弱者が虐げられるのは、強者が敬意を忘れつつあるからだ。

 

 

―― 強者が敬意を忘れつつあるのは、自分達も弱者であったことを忘れつつあるからだ。

 

 

 当時、クロの言った言葉をダズは今でも覚えている。

 間違いなく、この西の海の中では敵らしい敵などもはやいないだろう強者となっても、そのキャプテンが他者への敬意を忘れていないから。

 

「本当に、馬鹿な誘い方だった」

 

 クックック、と小さく笑うダズにレイリーが、

 

「なんと彼は言ったのかね?」

「あぁ、詐欺師のような事を言い出したんだ」

 

 と尋ねる。

 

「俺と一緒に世界をひっくり返そう。この出会いは運命だ、と」

 

 思わずアミスが吹き出す。

 

「副総督、そんな誘いに乗ったんですか?」

「その後に、先ほどの与太話を聞かされてな。……まぁ、その後に「俺がリーダーなら仲間になる」と切り返したらもう一戦始める事になって……その後は知っての通りだ」

 

 そうして、ダズがこの話を振ってきた初老の男に向き合うと――男は愕然とした表情をしていた。

 

 まるで、あり得ないものを見るかのように呆然と。

 だがその後に、

 

 

「はっはははははははははははははは!!!!!」

 

 

 

 と手にした酒をカウンターの上に置き、目尻にわずかに涙を浮かべながら、大きく笑い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「というわけで、ハンコック達を心配していた九蛇の知り合いには手紙を送っておいた。しばらくはこちらのやっかいになる」

 

 なるなよ!!

 

 思わずそう叫びそうになった俺を誰が責められるだろうか!?

 ここ西の海だぞ!? しかも俺達は海軍と休戦協定結んでるというややこしい状況下にいる海賊だぞ!?

 

 さすがにクザンにも「すいません、ウチにしばらく『冥王』いますけど気にしないでくださいね?」とか言えんじゃろがい!!

 

「まぁ、君たちの成長も興味があるのでな。特に……」

 

 ねぇ、レイリーさんやい。

 とりあえずそのサーベルを鞘に納めてそこに置いてお茶でも飲みません? いや、酒でもいいんだけど。

 

「君には、少々興味が湧いた」

 

 湧かなくていいで――殺気!? 後ろ!!

 

 

―― ザンッッッッ!!!

 

 

「ほう、今のを避けたな? 思った通り、良い具合に仕上がりつつある」

「ミホーク貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 なに!? なんなの!? どうして俺の目の前で『冥王』がサーベル構えて後ろで『鷹の目』が刀抜いてるの!!?

 

「しかしレイリー、いいのか? クロの訓練に付き合ってもらって」

「構わんさ。君の見立て通り、クロ君はその思慮深さが覇気を纏う際のブレーキになっている。ならば、彼の武器である思考速度を落とさず意図的にブレーキを壊せるように、限界を超えた所まで追い詰めるのが一番早い」

「限界を超えたら人は死ぬんですよ!!」

 

 思わずそう叫んだ俺を誰が責められるだろうか!?

 

「はっはっは! 安心したまえ、君は身体面では相当鍛えられているし若いんだ。なぁに、骨さえ無事なら繋がるだろうとも」

「ひょっとして今手足ハーフカット宣言しました!!?」

「安心しろクロ、俺が保証する」

「なにを!?」

「俺は無論、レイリーも綺麗に斬れる。船医も待機させているのだ。問題ない」

「お前ちょっと問題という言葉を辞書で引いてこい!!」

 

 確かに雑談の中でポロッと覇気の訓練を見てくれとか言ったよ!

 後の主人公に覇気を教えた師匠ポジだから、多少スパルタでも筋の通った訓練を教えてくれると思ったんですよ!

 多少無茶でもやってみせますとも言ったよ!

 

 でもそれは自分の訓練の話なんですよ! 誰も自分を処刑してくれとか言ってないんですよ!!

 

「クロ君も、しばらくしたらモグワに向かわねばならん」

「この男は五日は戦い続けられるくらいには鍛えている。多少の無茶は利くぞ」

 

 多少の無茶は手足ハーフカットを覚悟する所まで行かないという事を知ってクレメンス! 理解してクレメンス!!

 

「ほう、そうか。ではまず軽く流そう。そうだな……六時間。私とミホークが一つ隙を残して斬りかかり続ける」

「それを見切り、生き残って見せろ」

「すいません俺の耳にはそれ判断一つミスったら死ぬレベル設定だって聞こえたんだけど嘘だよね!?」

 

「いくぞ」

「あの夜のように力を見せてみろ、クロ」

 

 

 

「――ぬ゛わ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」




白雨白刃様、日真日様、ファンアートの提供ありがとうございました!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。