とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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061:夢へ

「海軍主導でのヒューマンショップへの強制査察か。……なるほど」

「ああ、俺達が船に乗せられる所でそのための混乱が起こって……自分達もそれに紛れ込んで……なんとか逃げ出してきたんだ」

 

 王女殿下にハンコックの提督就任の旨を告げたうえで、叙任式の日時と式典の内容について話していたらミアキスに呼ばれて、なんかサロンの方に客人が来たというのであってみれば、また例の海兵奴隷事件の影響を受けた人間だった。

 

 尾を引くなぁ、あの事件……いやぁ無理もないけど。

 一番解決が難しい所だからこそ推定容疑者のアイツも狙ったんだろうし。

 

「査察の直前に無理やり……その……出荷される所で船が止められて、その時に俺は彼女を連れて逃げ出したんだ」

「正直、内容が内容だったからあの事件を暴いて良い所も悪い所も吹き上がった。……よく、そちらの女性を連れて逃げ出せたな」

 

 海兵奴隷絡みなら、下手したらCPがいてもおかしくない――というか、いただろう状況だ。

 

「海軍が船を押さえて……その時に政府の人間と海軍とで揉めてたおかげで、船のアチコチで混乱が酷かったんだ。俺達以外にも、かなりの数の奴隷――いや、奴隷として買われた人間は逃げていた」

「まさか、戦闘に?」

「……ちょっとした小競り合いは起こっていた」

 

 おぉう!?

 ちょっと待って海兵の誰からもそんな話聞いてない……ひょっとして本部の海兵?

 

 …………。

 

 あれ、それかなり滅茶苦茶相当ヤッッバいことになってないか!?

 クザンお前そういうことあったんなら言っておけよ!!

 

 例のノート、余計な事にならないようにいくつか塗りつぶした部分あったけどやっぱり書いときゃよかった!!

 

 俺がモグワに戻るまで頼むから変な事するなよ!??

 

「とにかく、それで彼女を連れて逃げられたんだ。全部、あんたらが奴隷売買をブチ壊してくれたおかげなんだ! 礼を言わせてほしい、本当に助かった!」

 

 そういって男――テゾーロという男が頭を下げ、その後ろに付いてきていた女性も続いて頭を下げる。

 ……えらい美人だな。目を付けられてただろうし、よく連れて逃げられたわ。

 

「着の身着のままでなんとか逃げてきたから金目のモノは一切ないが、働いて少しでも――」

「ミスター・テゾーロ」

 

 まぁ、ということはさぁ……。

 

「先に断言しておくが、貴方達を売り飛ばすような真似は断じてしない。そう無理して恩を持ち出さなくていい」

 

 未だに追われている可能性があるわけだ。

 いや、多分もっとやべぇ状態になりつつあるから多分大丈夫だと思うけど、とっ捕まっていた本人達からすればとても落ち着けないだろう。

 

 俺がそう言うと、女性の方――ステラだったか――は少しホッとしたように息を吐き、テゾーロは少しだけ表情を柔らかくするが少し警戒の気配が残っている。

 

 ……コイツ、いいな。

 ここであからさまに警戒を見せるんじゃなく、警戒を解いたように見せ(・・)られたのは凄い。

 

 大した演技力だ。他に持ってる技能や積んできた経験次第では滅茶苦茶使える人間ですわ。

 他には……。

 

(傷の残った拳に身体……武術とか剣術とかじゃなく、殴る蹴るの喧嘩慣れはしている。若さからするとマフィアの新入りとかチンピラっぽいけど……)

 

 年の頃は……二十歳前後だろう。だが、その若さにしては随分とこう……チンピラ感というか……なんというか、チャラい感じがしない。もっと具体的にいうなら、軽率な真似をするように見えない。

 

 声も響くような出し方するし、演技力も考えると……歌手とか役者みたいな……裏社会なら取引の差配みたいな人前に出る仕事をやってたか?

 

 というか、若くてこんだけ貫禄あるなら……幼いころに親から捨てられたか出ていったかで早い時分に裏の世界に入って、苦労したか自分の役割を見つけたタイプか。

 

 そして、ステラさんの男を見る目からして信頼はされている。

 ……あれか。アオハルか。

 

 いいなぁ……。

 

「うちの団員は、同じように売り飛ばされる前に救出できた人間が多い。だからこそ、一度裏市場に流され、逃げ続ける恐怖は多少なりは理解しているつもりだ。決して、貴方達の気持ちを無下にはしない」

 

 ともあれ、今は仕事だ仕事。

 まずは本音を聞かせてもら……いや違う違う、本人達に口にしてもらわなきゃイカンか。

 

「だから、無駄に肩肘張らなくていい。張り続けると俺みたいに、歳に絶対合わない大事が放り込まれるんだ」

「いや、主殿は自分から業火の中に飛び込み続けておるからじゃろう」

「キャプテンさん、いつも助走を付けて飛び込むよね」

「ハンコック、ロビン、シャラップ」

 

 念のためにと護衛に付いてくれたハンコックと付いてきてくれたロビン、すごいありがたいけどお口にチャック。

 いや、二人が少し笑ってくれたから助かったけど。

 

「だから、飾らずに言ってくれ」

 

 もうね、わざわざ礼を言いに来るとかいう時点で狙いが読めるというか伝わってくるというか。

 

「すまない……すまない、キャプテン・クロ!」

 

 いや、頭……頭どころか土下座しなくていいから……。

 

「彼女を、ステラを買って俺も奴隷にしようとしたのは天竜人(・・・)なんだ!!」

 

 うん、知ってたとしか言いようがねぇ……。

 あいつら、ほんと節操ねぇな。

 

「いざこざの間になんとか逃げられたが、取り戻すために追いかけて来るかもしれない! 俺はともかく、奴は彼女を買ったんだ!」

 

 なるほど、金を使って買おうとしたのなら、執着する可能性もあるか。

 

 あのデブが出てくるんじゃねぇだろうな。

 

「頼む、俺達を匿ってくれ! アンタらは、世界政府でもうかつに手が出せない海賊だと耳にした!」

 

 ……手が出せないというか、出しづらいというか。そういう風に立ち回ってるというか。

 あと海賊強調するな。

 いや、海賊だから海賊っていうのは正しいんだけどステラさん微妙に納得いってないだろう。ちょっと微妙な目でこっち見られてる。

 

 ……実際、俺達悪党だもんなぁ。そりゃ、こんな真っすぐな目をした女の子からしたら海賊なのにそれらしくしない胡散臭い集団なんて下手な海賊より怖い存在であること間違いなしなわけで……。

 

「俺がいくらでも働く! 頼む、せめてステラだけでも!」

「ミスター・テゾーロ。いや、テゾーロ、顔を上げてくれ」

 

 まぁ、ぶっちゃけ問題ない。

 別に天竜人を倒したいと思ってるわけではないが、何らかの形でその権力の暴走を止めようとは考えているわけだし。

 

「世界貴族を敵に回してでも、そちらの女性を連れて逃げて来たのだろう? それほどの必死な……真摯な訴えを無下にしたら、この三本爪の猫が泣く」

 

 その際にどうせ海軍やらCPとはなんらかの形で戦う事になるんだ。

 奴隷だのなんだの気にせず駆け込んでくればいい。

 

 それを守り続けることが最終的にウチの看板になって武器になる。

 

「そもそも、俺も天竜人に奴隷になれと言われた身だ。その怖さはよく分かる」

 

 いやホント、もしチャンスが出来たらアイツらの顎骨と鎖骨を片っ端から蹴り折りたいと常々思うくらいには分かる。

 二十年後を見ておけよアイツらホント……。

 

「二人の身柄は、この『黒猫』が保障する」

 

 さて、とりあえず二人の戸籍作成からだなぁ。

 あと若い女性いるならしっかりした家も用意しないと……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「海賊が支配している街とは思えないわね、テゾーロ……」

「ああ……。もし噂と違い君を襲おうとするような輩なら、暴れて逃げ出すつもりだったけど……噂通り、秩序を求める海賊だったようだ」

 

 どうにか逃げ切り、男のかつてのツテを駆使して一組の男女がたどり着いた島。

 億越えの大物海賊が支配するという西の海のとある非加盟国は、支配という言葉が信じられない程活気にあふれていた。

 

 どうやら祭りが近いらしく、大通りを女性たちが思い思いに飾り付けを施し、男たちは木材やら鍋やらを運んでなにやら出店のようなものを用意している。

 

「……正直、家までもらえるなんて思ってなかったわ」

「ああ。仕事だって普通だ。……金より配給の方が多いのが少し心配だが」

「非加盟国だもの。むしろ、ちゃんとした量の配給がもらえるまで安定していることに驚いているわ。すごい……」

 

 ステラという女性の言葉に、男――テゾーロは頷く。

 実の所、テゾーロからしてもこの光景は想像以上だった。

 

「祭りも……少し寂しいがそれでも良い雰囲気だ」

「貴方からしたら物足りないんじゃないの? テゾーロ」

「ん……」

 

 ステラの言葉に、テゾーロは少し眉をゆるめて苦笑する。

 

「まぁ、それこそ仕方ないさ。どうにか食っていける所まで復興したばかりの国では、そういう事を考え抜く余裕もないだろう」

「なら、貴方がキャプテンさんに進言してみたら?」

「それこそまさかだろう。こんな出会ったばかりのチンピラの言葉なんて」

「やってみなきゃわからないわ。それに、貴方はチンピラじゃないでしょう?」

 

 大通りを抜けて、簡素なものとはいえ木とレンガで建てられた小さな家の前に辿り着く。

 黒猫の大工組が、モプチの国民と共に次々と建てていった民家の一つだ。

 

「言ってたじゃない。いつか大きなステージで、大勢の観客を前に歌いたいって」

「……ステラ」

「貴方はチンピラじゃない。貴方は捕らわれていた私を自由にするために一生懸命働いて稼いで、あの騒動の中血にまみれながら、必死に私の手を掴んで連れ出してくれた素敵な人」

 

 ドアを開けると、中はやはり大きいわけではない。

 少し大きめのテーブルに椅子、棚にかまど。奥にはベッド二つにサイドテーブル。

 意外な事に家具は揃っており、テーブルの上には小さな花瓶に花が活けられていた。

 

 

「私、もう十分すぎる程に幸せよ。テゾーロ」

 

 

 

「だから、貴方のしたい事をやって」

 

 

 

「私を助けてくれた貴方の夢を、手助けしたいの」

 

 

 女の言葉に、男は涙ぐむのを必死に堪える。

 

 

「ああ……」

 

 

 堪えながら、宣言する。

 

 

「ああ、ステラ。やってみせるとも。この先、必ず君に……っ」

 

 

 

 

 

「最高のエンタテイメントを見せてやる……!」

 

 

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