次回あたりから新章
「あぁ、すまない大将青雉、大将黄猿。少々取り乱した」
「お、おう……少々ってレベルじゃなかったけど立て直したんなら別にいいや」
いやホント申し訳ねぇ。
目隠しも耳栓もされてなくて、足に重りも鎖も付けられてなくて刃や打撃どころか殺気も剣気も感じないし飛んでこない船旅に馴染むのに時間がかかった。
なんか油断したら船斬る一撃が飛んで来るんじゃないかって警戒してたら海の中の海王類を刺激してしまったのか道中一狩り始まるし……。
地面に足が付いても一切奇襲がなかったあたりで、ようやくここが地獄じゃないことを実感できたなぁ……。
ははっ。
「……にしてもクロ、お前さんしばらく見ていない間にえらく強くなってないか?」
「実感はさほどないんですが、強くなっていないと困りますよ」
いやホント……これで成果がなかったら、何のために仕事しながら地獄のデスマーチをすることになったのか。
ある程度政務を任せられるロビンとハンコックとに加えて、テゾーロが加わったおかげで自由時間を取れるようになった弊害だなぁこんちくしょう。
とにかく一撃は入れようと頑張ったけどミホークに二回、レイリーに一回蹴りが入っただけでそのあと鬼のような連撃が来て軽く顔斬られるわポケットにしまってた眼鏡が割れるわで……
ホント散々だったよコンチクショウ!!
「ともあれ、久しぶり。ああ、初めまして大将黄猿。今回の援助物資の護衛、本当にありがとうございました」
今度は大量の食糧が無事に届いたおかげで、ひたすら跳ね上がっていた食料価格の上がり方が少々緩やかになってくれた。
おかげで非加盟国側の平定にかかるコストが少し抑えられそうだ。
「いいよぉ。むしろ、お前さん達が海賊を狩ってくれたおかげで道中静かだったしねぇ」
「いえ。それこそ我らではなく、目を皿のようにして日々哨戒任務に精を尽くした海兵達のおかげです」
日々の訓練や演習、抜き打ちの親衛隊によるしごきでウチの海賊団も質は跳ね上げているけど、やはり数を使う任務となると海軍一強だ。
海軍が交戦して足止めと報告をしてくれているからエリアの指揮官がすばやく援軍を差配できるし、非加盟国の海域に向かった連中も捕捉できてうちらが速やかに叩ける。
「事前に報告していた通り、今回ダズは拠点の防衛と整備、ミホークはロビンを連れて防衛拠点の増設を命じている。その代わりの遊撃戦力として、彼女を連れてきた」
俺が一歩引くと同時に、新しいウチの幹部が前にでる。
「ミホークの代わりにモグワを中心にした復興、並びに遊撃作戦を担当させてもらう」
「お~、噂の九蛇の子かい」
黄猿ことボルサリーノが、珍しい物を見たとでも言うような声を上げる。
まぁ、実際に珍しいだろう。
なにせ、西の海に
いや、
うん、珍しいのはアマゾン・リリーの戦士か。
「ボア・ハンコック。先日、第一艦隊提督に任命した私の部下です」
俺が紹介すると、ハンコックは「よろしく頼む」と言って敬礼する。
殿下の時と同じく、きちんと周りに合わせられるんだよなぁ。
今回は相手が休戦中とはいえ海軍だから、殿下相手みたいに丁寧じゃなくややぶっきらぼうだけど。
「お前さんが任命して『海兵狩り』の代わりに連れてきたって事は、この子、内政も?」
「さすがに畑仕事やら工事はやらせないが、俺達の代わりに本拠地を取り仕切るくらいには出来る」
「あらら……。それじゃあますますお前さんの勢力が伸びるわけか」
「そうは言っても、人がな」
非加盟国に避難民や、傘下に入りたいという人間は増えているが海賊になりたいというよりは助かりたいだけの人間が多くて……。
とりあえずは復興なり開墾なりの労働役として出来るだけ受け入れてはいるけど、これ勢力が大きくなっているわけじゃないしなぁ……。
「そうでもないさ、クロ」
「ん?」
「お前さんに会いたいって連中がゾロゾロここに集まってるのさ」
「…………」
誰!?
……あ、いやそういえば……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お久しぶりです、キャプテン・クロ!」
「キャプテン・クロ! お変わりはありませんか!?」
「故郷にも貴方の活躍は伝わっていました、キャプテン!」
「……そうか、貴官らか」
青雉の後に続いてモグワ王城――もう持ち主がいなくなってしまって半ば海軍のモノになった城に入ると、とんでもない数の――そして見覚えのある大勢の人間に出迎えられていた。
そうか、モリア戦で助けた――地区本部戦の時にそのまま保護してもらった海兵達だ。
集まっているとは聞いていたが……あの時の顔はほぼ全員いるんじゃないか?
何人か見当たらない人間もいれば、逆に見覚えのない人間もいるが、海兵と顔が似ていたりあるいは親しそうに見える。
家族や友人、あるいは恋人か。
「久しぶりだ。皆、元気そうでよかった。しかし……なぜここに?」
それも、全員私服で。
海軍としての任務でこっちに来てるんじゃないのか?
「あの後、保護をされて海軍に戻ったのですが……」
「皆、あの日キャプテンになにも言えず別れてしまった事を悔やんでおりました」
「すまない。状況が状況だったとはいえ、諸君らにもう少し気を配るべきだったな」
あの時は操船に慣れていた今の親衛隊メンバーを本船に乗せて、モリア戦で救出した人員を乗せた船を牽引していた。
そして予定になかったあの戦闘のために、例の本部大佐にその船をそのまま引き取ってもらったわけだ。
アミスのまさかの宣言があって、船に移らせるはずだった本船メンバーがそのまま部下になるというまさかすぎる事態になったが。
「いいえ、そんな! ……我々も、あの時はどうすればいいのか分からなくなってしまって……」
まぁ、パニックにはなるよなぁ。
ロビンの事は知っていたとはいえ、まさかあんなタイミングで馬鹿な事やらかす馬鹿が出るなんて……。
あっ。
「そういえば、あの支部長はどうなったんだ? あれから色々忙しくなって頭から抜けていたが……」
マジで忘れてた。
あれからはどうやって政府の打つ手を遅らせるかってことにばかり気を取られていたからなぁ。
「あの後、モモンガ大佐に拘束されて本部に移送されました。本部から拘束命令が来たそうで――」
「情報を全部吐かされて、その後インペルダウンに叩きこまれたと聞いています」
おぉう……。
あそこにぶち込まれたのかぁ。
元海兵って事でリンチとかにあってないだろうな? ありそう……。
いやまぁ、出来るだけ苦しんでほしいという気持ちは滅茶苦茶あるが。
(アイツが余計な事したおかげで下手にウチが目立って結果
思えばあんにゃろう、妨害電伝虫のありか吐く前に蹴り一発で沈みやがったし殴りまくっても起きねぇし……もうちょい蹴り回しておけばよかった。
「そうか……。ともあれ、奴から情報が抜かれたというのならば、捜査も進んだことだろう」
「はい。我々の前に囚われた人たちも、帰ってこられる者は解放された……と、思います。……多分」
これだ。問題はここなんだ。
今回みたいな事件の場合、天竜人の
表には出さないだろうが、センゴクさんも含めた上層部も、そういった疑念を抑え込むのに苦労しているだろう。
(実際、隠している海兵奴隷がまだまだたくさんいる可能性は十分にあるしなぁ……。海軍の世界貴族への不信はもうちょっとやそっとじゃ止まらない。……となると、世界政府は当然手綱を握り直したくなるわけだ)
恐らく、あの手この手で政治抗争が起こっていることだろう。
本来の仕事に加えて対応に走り回っているだろうセンゴクさんには、許されるなら差し入れでも送りたい気分だ。
(今海軍に一番足りないのは、政治将校だなぁ。これまでは本来そこまで必要なかったポジションだけど)
物騒な海上警察でよかった原作に比べて、良くも悪くも事態の流動性が高まっている。
……いや良くも悪くもじゃなくてどう考えても悪いな。
世界の不安定感がパネェことになっててお腹いっぱいです。
「あの事件と、空っぽになったあの拠点の姿……そして、ここに来るまでに聞いていたキャプテンの活躍を耳にして覚悟を決めました」
ん?
「元海兵63名、および協力者22名、計85名。大型輸送船二隻と中型キャラベル船一隻。自前の食糧や物資と共に馳せ参じました」
……。
ちょっと待ってここ一応海軍の拠点だし今後ろに本部大将が二人もいる――お前らもうちょっと焦るなり驚くなりしろよ海軍組織の要だろうが!
「どうか、我々も『黒猫』に加えてください!」
戦力になる事覚悟してくれてる人員は喉から手が出る程欲しかったけどさ!
おぉ……もう……。
とりあえずトーヤとかハックに押し付けて白兵戦叩き込む所だな……。
ちくしょう、大きくなりすぎると立ち回りが難しくなるんだが……助けて、助けてクレメンス……
メモ代わりに
総督:キャプテン・クロ
副総督ダズ
幹部:ペローナ(偵察役)
幹部:ニコ・ロビン(オペレーター)
親衛隊隊長:アミス
(以下親衛隊隊員二十一名)
内務官:ギルド・テゾーロ
第一艦隊提督:ボア・ハンコック
― 第一艦隊提督補佐:サンダーソニア
:マリーゴールド
(現在海賊船三隻、輸送船二隻)
客将兼白兵戦指南役:ハック
:ジュラキュール・ミホーク
食客:シルバーズ・レイリー