とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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066:『抜き足』、再び

「少将、お加減はいかがですか?」

「……黒猫。それに大将殿達も」

 

 サルーキ本部少将。

 本部からの増援艦隊の指揮官だった人で、シキとかいう海賊の襲撃を受けて壊滅していた所をダズ達が助けた人間だ。

 

「足の方はもう大丈夫ですか?」

「あぁ。杖さえあれば、なんとか一人で用を足しに行けるくらいには……。すまぬ、黒猫。お前達には随分と世話になった」

 

 よしよし、かなり印象は改善しているようだ。

 救助した当初は「おのれ、休戦しているとはいえ海賊に救われるとは……っ」とか言っていた人だったのに。

 

 元海兵の親衛隊やら民間の救護班が、よほど対応を頑張ってくれたと見える。

 

「今日は、詳しいお話を伺いに」

「話というと……」

「本部内部での我々に対しての印象というか、評判についてです」

 

 この間まで強気に俺達を睨んでいた海軍の猛者が、少し気まずそうにしている。

 

「あれ? 本部じゃあお前さんらの評判はかなりいい物だったけどな」

「わっしも、『黒猫』が海賊である事を惜しむ声は耳にしていたけどねぇ……」

 

 おう、そうでなくちゃ困る。

 出来るだけそういうように立ち回って戦力面以外の危険度を可能な限り下げてたんだから。

 

 そのために、もうあんまりやりたくなかった政治というか、そっち関係の仕事でわざと目立ってるんだから。

 

「だからこそ、我々『黒猫』が上層部に取り入り……そう……ですね……非加盟国を好き勝手にしている、とかでしょうか。そのような感じの噂が静かに出回っていたのでは?」

「…………そのとおりだ」

 

 それなら当然、反発もそれなりにあるはずだと思ったらやっぱりかい。

 

「我々が拠点としているモプチへとまず航路を取ったのは、いわば抜き打ちの視察のようなもののつもりだったのでしょうか。自らの目で正しく我々の実態を探ろうと」

 

 ベッドの上で少将が小さく頷き、クザンが「そういう事だったのか……」と呟いている。

 天竜人をコントロールできていない政府への不信と、本部戦力五隻という数で見誤ったかな……。

 

「……その通りだ。今にして思えば……申し訳ない」

「いえ、我らは間違いなく海賊。世界政府とは決して相容れない存在です。それを思えば、海軍と良好な仲を築いている我々に、あるいは海賊と繋がりを持っている上層部に不審な物を感じるのも理解できます。どうか、お気になさらず」

 

 クザンやボルサリーノがちょっと驚いているが、そんなものだ。

 これは良いものだ、って騒いでると必ず反発者が出るんだよ……。

 

 あとそういうのに限って、主流側じゃない分熱が入りやすくて手に負えない。

 感情面の問題だから、説得とかでコントロールしようとしても大抵悪い方向に進むんだよ。

 

「しかし……そのために多くの部下を……それに、この西の海の民を救うはずだった物資まで……っ」

「ですが、あの襲撃がなければ我々は未だに敵の拠点を探すために哨戒による目撃情報と海流を読む事に必死になるばかりで敵拠点も把握できず、多くの民が攫われ奴隷にされていました」

 

 いやホント。

 犠牲になった海兵達には申し訳ないのだが、あの襲撃があったおかげで敵の情報が手に入り、拠点を抑える事に成功できた。

 

 まさか自分で空を飛ぶどころか物を飛ばすことが出来るとか……。

 それも船一隻二隻じゃなくて島。

 

 偉大なる航路(グランドライン)に入るまでには間に合わんだろうけど、対空兵器も用意しておいて損はないという事がよく分かった。

 

 まさかそういう方法があったとは……考えてみれば原作の大将『藤虎』も、重力操作が可能って事はそういうことが出来るんだよな。

 

 ……まずはガトリングの試作からだな。

 意外に変な方法で空飛ぶ奴はいるし、原作思い返せば空からだけじゃなくワポルやらローみたいな潜水艦持ちもいる。

 

 そっちの対策も何か考えておかないとなぁ。

 

「決して、貴方達の行動は無駄ではありません。そのおかげで多くの民が救われたのです」

「……正直、お前達が敵拠点を押さえたと聞いた時は、心から安堵した。マンチカン少将からも、お前達の行動は真摯な物であったと聞いている」

 

 あらま。

 あの人はずっとこっちに探りを入れているタイプだと思ったんだが……。

 

 となると、あの戦闘でヒナを俺に付けたのって純粋な好意というか、ヒナの教材として俺が適切だと本気で思っていたのか?

 

 なんか、意外だ。

 

「私が気になっているのは、抜き打ちの視察を行おうとした理由にあります。視察を考えたのはサルーキ少将でしょうか?」

「そうだ」

「そう考えた……いえ、決断した理由はなんでしょうか」

 

 決断を下したのがこの人でも、そこに至るまでの判断材料があったはずだ。

 

「……色々あった。が……一番の理由は、モプチへの海兵の入港に制限が掛けられていたことだ。……いや、すまない。今ならその理由も分かる。非加盟国民は人権を認められていない」

 

「はい。加盟国民の緊急事態のための物資や労力が不足している。それを理由に、海軍組織はともかくその上から強硬手段の命令が飛んで来る可能性は十分にありました。海軍か、あるいは政府の持つ武力か。そのため、どうしても制限をかけざるを得なかったのです。……不審に思わせてしまい、申し訳ない」

 

「……うむ。だが遠く離れ、お前達の人となりを憶測のみでしか捉えていなかった我らには、この緊急事態においても利己を通す……その、所詮は海賊とタカをくくってしまっていた」

 

 いや、それでいいんですが……。

 この状況を利用して自分達に有利な状況を作ろうとしているっていうのはそれほど間違っていないんだし。

 

「噂はどこから流れていたか、分かりますか?」

「……下士官の間で、そういう声もあると耳にしていたが……詳しくは」

 

 ちぃ、尻尾を掴ませてはくれないか。

 海賊の俺には無理でも、センゴクさんなら政府に対して上手く使えるカードになり得るかと思ったんだが……。

 

「ちなみに、船団の数を五隻にしようと決めたのは?」

「……万が一黒猫を相手にするような事態になれば、まとまった本部戦力が必要になるだろうというのは元々話題の一つだった」

「それで、五隻と上申したのですね」

「ああ。元帥殿には、より多くの物資が必要だと訴え……すまぬ、浅はかにも程があった」

 

 なるほどなぁ。

 完璧とは言わずとも準バスターコール戦力を、万が一にも俺達と戦う時のために持ってきておきたかったのか。

 

 まぁ、ミホークの存在がある以上そう考えていたならそうなるか。

 それでモプチに行って一悶着起こしてた場合、今度はあの島でのんびりしていた冥王さんにずんばらりとされていたかもしれんけど。

 

(にしても、(そそのか)した奴らの存在を確かめたかったけど証拠はなしだなぁ。こんなんばっかだね、俺)

 

 結局、ここまで俺達が関わった厄介事は解決にまで至っていない。

 なんとか相手の一手をしのいでいるだけで、海兵奴隷にせよ海賊連合にせよ、そしてその隙間隙間で搦め手を仕込んでくる世界政府に有効打を打てていない。

 

(まぁ、偉大なる航路(グランドライン)で影響力を持っているならともかく、まだ西の海の一角ってだけの話だし)

 

「……政府は、現状で我々『黒猫』の団員に接触しようとしている様子はない。なら……」

「なぁ、クロ」

 

 大将青雉、もうちょっとこう……他の海兵の前では海賊と海兵の立場を……あぁ、いや、それなら呼び捨ての方がらしいのか。

 

「なんです?」

「増援艦隊の動向と、その理由も分かった。なら……」

「はい」

「センゴクさんがお前に伝えた『強行』ってのは、一体何を指してるんだ?」

「……ようするに、グレーゾーンでの挑発です」

 

 センゴクさん、マジで武力以外の方面での教育強化した方がいい気がするよ。

 いや、俺が知らんだけかもしれんけど、正直兵隊以外は準無双要員しか目につかねぇ……。

 

 いっそタキ准将本部入りさせようよ。

 

「世界政府には今、喉から手が出る程欲しいものがあるんです」

「そりゃあ、ニコ・ロビンの首だろう?」

「ついでに、その守り手である君の首も欲しいだろうねぇ」

「……まぁ、そうです。政府からしたら、なんとしても俺達を沈めたい。だけど、状況がそれを許さない」

 

 そうか。こうして状況を整理すると、海賊連合の発足は俺達にとってもある意味で都合が良かったのか。

 

「海賊連合、そこに付随する食糧危機の問題。それがなくとも増え続ける海賊問題に最近活発になりだした革命運動。それに対処するには海軍の力が必要ですが、海兵奴隷の一件から政府と海軍の間には齟齬があります」

 

 確証はないけど、海賊連合の裏にいる誰かの狙いが政府転覆……とまではいかなくとも政府の力を削ごうとしているならば、まず第一弾として奴隷の一件を静かにバラ撒いているはずだ。

 いろんな意味で現場になったこの西の海程ではないだろうが、確実に海軍の士気は下がる。

 日に日に悪化する状況に、政府は当然海軍に不満を持つが、強権を振るうには材料が足りない。

 

「つまり、政府は海軍への影響力を強化したくてたまらないのです。お二人やセンゴクさんが突然昇進した緊急再編も、恐らくその一環でしょう」

「俺達の昇進が?」

「戦力としては確かに妥当ですが、軍組織の把握に手間取ったでしょう?」

 

 求心力のあるガープは上に昇ろうとする人間ではないし、詳細は分からないけど原作時での階級で見るにおつるさんも同じタイプ。

 センゴクさんが想定よりもはるかに有能で上手くいかなかったって言うのもあるだろうが……。

 

「センゴク元帥を始め、大きな戦力を据えた三大将やその配下に対して揺らいだ政治的優位を取り戻す。その力を以って海賊問題や我々『黒猫』の問題を解決したかったのでしょうが……。センゴク元帥は上手く立ち回り、政府の過剰な干渉の影響を最小限にしました」

 

 そういうやり取りがあったと手紙にこっそり書かれていた。

 

 いや、向こうからの手紙の普通の文章の中に暗号めいた別の文章に読み取れる物を見つけたので、ひょっとしたらとそれを真似て返信した所、さらに来た手紙の中からそういう話がこっそり出てきたわけなんだけど。

 

「それでも政府が諦めるはずがない。海軍は政府にとっていわば表の顔役です。これが不信から政府と距離を置きたがるようでは、政府はこれまでのような統治が難しくなる」

「じゃあ……政府が喉から手が出るほど欲しい物ってのは……」

「はい。海軍の多大な失点です」

 

 クザンはともかく、ボルサリーノの苦虫を噛み潰したような顔とか初めてみたな。

 いっつも胡散臭い顔してる人間だと思ってた。

 

「正確には、海軍が政府の意向を無視していることは悪であるというのを大々的な物としたいのです。それを口実に、海軍の実権を握るつもりかと」

「……ならば、グレーゾーンっていうのは?」

「色々手は思いつきますが……」 

 

 一応世界政府の敷いた法を遵守した上で海軍としてはギリギリの所を突こうとしたのならば、その手段は限られる。

 

「おそらく、非加盟国とその国民を利用するつもりでしょう」

「……非加盟国は、庇護の対象から外れる」

「はい。色んな意味で、海軍が動きづらい所です」

 

 俺が世界政府ならば、海軍の実権を握るには海軍を共犯者に仕立てるのが一番だ。

 

 今回の一件で言う休戦協定がそうだった。

 

 俺は海軍の正義を立てる方向性で策を立てていたが、政府からすればそこにより濃いめの()が混じる。

 

「まぁ、それに関しては――」

 

 

 

 

「主殿! 来たぞ!」

「クロ! 大将青雉!」

 

 

 

 おっとぉ。

 

 

 

「ハンコック……ヒナもか。ダズ達が到着したか?」

「それもあるが政府じゃ!」

「クロ! 突然、サイファーポールが一方的に……」

 

 

 

「加盟国の危機への対処のために、今こっちで保護している非加盟国民を労働力として徴収するって……!」

 

 ははぁ、なるほど……。

 

 妥当だ。妥当な一手だけど……。

 

「ハンコック、ダズに通達。現在この島にある全戦力を以て非加盟国民を保護。ただしこちらからは手を出さず、専守防衛を第一とする。お前もそのまま、サイファーポールと少し睨み合っててくれ。すぐに行く」

「うむ、承知した」

 

 世界政府……。いや、狙いは大体読めるし理解もできる。

 だけど、それ自体が目的とは言え、裏方で行うべきだった事を舞台の上でやることのリスクをもっと考えるべきだったよ。

 

 いや、それ以前に――

 

(どれだけ異色だろうと海賊は海賊だとでも思ったか。多少強引でも政治方面で話を進めれば、海賊に過ぎない俺達には武力しかないと踏んだか)

 

 馬鹿め。

 

 さすがに俺を舐めすぎだ。

 

「クロ、これは――」

「大丈夫。十分に想定の範囲内です」

 

 

 

「大将青雉、黄猿。それにヒナも……行きましょう。ここで事態を仕切り直します」

 

 

 

 




スタンピードが結構好きでたまに見返すんですが、しれっと新世界の中でもやっていけてるジャンゴの成長っぷりに驚いてる

扉絵連載の時とかアラバスタの描写でも思ってたけどアイツまじで強いな
なんであの時のウソップの一撃で倒れたんだ……。

あれか、攻撃力は高いけど防御力はカスなのか

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