とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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071:ニコ・ロビン

「というわけで、少しの間俺は出張することになった」

 

 緊急会議というわけでモグワ城の会議室を借りて、現在の幹部を全員集めている。

 もうちょいざわつくかと思ったが、存外幹部勢――加えて親衛隊の面々は落ち着いている。

 

「その間の指揮はダズに任せる。……当然だがな。ダズ、現段階での西の海で一番の戦略目標は分かっているな?」

「ああ」

 

 こういう緊急事態でも全く動じていないダズはさすがだ。

 いや、内心はどうか分からんけど俺から見ても冷静に見えるのは本当に心強い。

 これなら兵士の動揺も最小限に抑えてくれるだろう。

 

「穀物を主軸に生産力を増強させ、一つでも多くの島から飢えを駆逐する。あるいは遠ざける」

「そうだ」

 

 武力もそうだが、今もっとも伸ばさなければならないのは生産力だ。

 ただでさえ広範囲が政情不安に陥りそうなんだ。

 ここでなんとか生き残れるだけの生産力を確保しておきたい。

 

「ミホーク、もっとも重要なのはお前達の旧キャネット国の開発にある」

「ああ、すでに輸送船には十分な量の食料と苗、資材を用意している。初動分としては問題あるまい」

「よし。戦力はクリスを始め親衛隊に加えて精鋭を付ける。民衆にこれ以上被害を出すな」

「承知だ、クロ」

「ハンコックはモプチ-モグワ間の海の防衛をしながら海軍と連携を。ただ――」

「状況が動いておる故、油断するな……といった所かの?」

「そうだ。万が一を常に考えておけ。……すまんな、本来ならばそっちの内政、外交関係は俺が受け持つはずだったんだが」

「なに、提督に任ぜられた以上そういうこともあるじゃろう。成果を出すと約束はできぬが、下手を打たぬように微力を尽くす。アミスやテゾーロもおることじゃしな」

「……ありがとう、ハンコック」

 

 ミホークもやる気満々で大変よろしい。

 これ、開拓速度は思った以上に早まるかもしれんな。

 少しでも穀物の収量が上がればいいんだが……。

 

 ハンコックも、艦隊指揮をするようになってからますます頼もしい。

 

「ダズはモプチの運営と防衛を。一応考えていた開発の計画草案は金庫に入っている……が、優先順位は特に考えていない。実現、実行が可能な案なのかも熟慮したわけではない。繰り返すが、草案だからな」

 

 上下水道の工事にため池や新規農地の開発に街道整備計画の草案、島内の輸送体制の見直し案やら造船所設営の前段階として船の整備ドックの建築やらやら……。

 ホントにもうあれだ、高校生の喫茶店経営みたいな妄想レベルの走り書きだが、いい機会だし放出しておこう。

 

「親衛隊の面々やテゾーロと相談して、使えそうな物があったら使ってくれ。好きにしていい」

「了解した。……当初の計画にあった、モプチ近海の島はどうする?」

 

 あぁ、ピュリナとかカナガンとかの……最初の制圧目標だったモプチ周りの島か。

 できるだけモプチとキャネットの開発に力を入れたいんだが……被害もあるだろうし変に賊になられても困るか。

 

「余力があるのならば我々の勢力下においても構わん。判断はお前に一任する」

「了解」

「テゾーロはダズや王女殿下の相談役を務めながら金策を頼む。これまでの活動で多少の貯蓄はあるが、復興やその先を考えるといくら金があっても足りない」

「了解です、総督」

 

 よし、テゾーロもいい感じにウチに馴染んできた。

 ダズやペローナのような原作ネームドではないし能力持ちでもないから少々不安だったが、金稼ぎに関してはかなり信頼できる。

 頭の回転が速いのもあるが、かなり現場への理解が深い。

 

「魚人組は自衛を最優先してくれ。最悪の場合は連絡なしで逃げても構わん」

「……やはり、狙われるか」

「残念だが、魚人が金に換わりやすいのは変わらない。西の海はマフィアの海だ、一般人でもそういうツテは見つけやすいし、この緊急事態では金や飯になるネタならば即座に飛びつくだろう」

「うむ、承知した……が、クロ殿には世話になっておる。せめてちょっとした物資の収集や加工程度は手伝わせてもらう」

「……すまん、ハック。助かる」

 

 ハックも正直、ウチになくてはならない存在だよなぁ。

 親衛隊だけじゃなく、一般戦力を文字通り底上げしてくれているのはハックによる教導があるからだ。

 ミホーク? アイツは難しい事考えないから。ぶっ飛ばすだけだから。

 改めて、ついていける親衛隊のガッツには驚かされるばかりというか……。

 

 

「さて、……で、だ」

 

 フードで顔を隠したレイリーは小さく微笑むだけだ。

 まぁ、特にいう事はない。

 好き勝手やってるだけでミホークの剣の腕を上げてくれるし。

 

 問題は……。

 

 

 

――む~~~~~~~~~っ。

 

 

 

「誰か、絡みついてるロビンを引き剥がしてくれないか?」

「無理だ、キャプテン」

「おい副総督、あきらめが早すぎないか?」

「判断が早いと言ってもらいたい」

「ホロホロホロ! もうロビンも一緒に連れて行きゃいいじゃねぇか。クロなら万が一でも逃げ切れるだろう?」

「無茶言うな。なぁ、ロビン。せめて能力くらいは解除してくれないか? なんかこれ蜘蛛か何かに捕食されてるみたいで――」

()!」

「そこをなんとか……」 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ぐす……っ」

「悪かったよ、勝手に決めて。だが、チャンスだったんだ」

 

 結局部下達は誰も助けてくれなかった。

 ちくしょうなんて薄情な部下なんだ。

 アイツら全員ロビンに甘すぎないか?

 

 もしロビンがクーデター起こしたらアイツらなんかノッリノリで乗りそうだぞ?

 特にペローナ。

 

 全員出航やら仕事の用意に出ていって、今ここにいるのは俺とロビンだけだ。

 

「これから先、どうしても俺達は世界政府を相手に立ち回らなきゃならない」

 

 とりあえず能力使った腕の雁字搦めから、普通に(すが)りつくだけにしてくれた。

 

「今回の一件でよく分かった。俺達と海軍は、根底にある……そうだな、文化と言えばいいのか。そういった物に似通ったものがある。だから話し合いがまだ成立する」

 

 まぁ、正確にはアミス達の事件というきっかけがあったのが極めて大きいが……。

 政府との間に溝がなかったらどうしようもなかったなぁ、ホント。

 

「ここで世界政府の根底にある物を理解……まではいかなくとも、肌で感じる必要がある」

 

 ついでにいくつか策も仕込んでおきたい。

 ある程度の安全が担保されている状態で、敵になり得る相手の中枢を覗けるチャンスなんて逃がすわけには行かない。

 

 うん……ある程度は安全なハズ。

 少なくとも会談に何らかの決着がつくまでは。

 その際、カードとして『黒猫』と海軍の協定破棄を使う事があったとしても、これまでの心証と世界情勢から西の海までの安全は確保されるハズだ。

 これまでのダズやハンコック達の活躍に加えて、これから俺抜きでの活動内容次第によってはその安全度は更に上がる。

 

 下手に俺を殺せば、残る『黒猫』が明確な反政府戦力になる。

 そんな事態は政府としては避けたいだろう。

 

(しかし……念のために、革命軍とのツテも作るべきかねぇ)

 

「キャプテンさんは、西の海から海賊を全部追い出したいの?」

「……ゼロというわけには行かないだろうが、まぁ、もう少し落ち着いてもいいとは考えている」

 

 打算だけで言えば、略奪者という分かりやすい敵がいてくれるのは都合がいい。

 いいのだが……多すぎたら今度はこちらの開発計画に影響が出る。

 

「ロビン、俺の目的は分かるな?」

「……世界政府の競合相手として共存可能な、第二の統治勢力の設立」

「うん。……まぁ、前に話したな」

 

 これからモプチを制圧するぞって前にダズ達にはある程度説明していたな。

 ただし、ペローナは堂々と居眠りしていた。いやまぁ、無理もないが。

 

「海賊として追われる以上、取れる進路は二つ。隠れ住むか、手を出せなくするかだ」

「……うん」

「で、俺達の場合前者は難しかった。アミス達の事件に関わった時点でやっかいな連中に追われるのは確定だった以上、勢力を広げなければ海軍なりマフィアなりに飲み込まれるしかなかった」

 

 いやホント、海賊連合の一件がなければ、本拠地の開発と防衛をやりながら未だにマフィア相手への攻勢に専念していただろう。

 手を緩めたら不味い事になっていた。

 

「幸い、俺達は上手く勢力を拡大出来た。一海賊団の戦力としては、すでに西の海では屈指だろう」

 

 ミホーク抜きでも、多分親衛隊を越えられる奴らがいない。

 いやほんと、海賊連合の拠点攻めでつくづく思った。数以外にアイツらが勝ってる点が一切なかった。

 唯一気になった敵の指揮官も、ミホークの言葉を信じるならばウチの通常船員の中の上くらいだったという。

 

「それだけの勢力になったからこそ、政府とは遅かれ早かれ接触する必要があった」

「……キャプテンさん、ちゃんと帰ってこれる?」

「当然。相手が分かっている分、地区本部の時よりも勝算はある」

 

 地区本部の時、もしセンゴクさん達じゃなく地区本部の人間に話を持ちかけていたら危うい所だったからな。

 今度は話す相手は見えている分、不測の事態は起こりにくい。

 

「むしろ、ここで政府との間に繋ぎを作って、もう少し有利に立ち回れるように時間を稼いでくる。大事なのは、ロビン。お前とミホークがどれだけあの島を俺達にとって有益な物にしてくれるかだ」

 

 ……ロビンに伏せていることもあるにはあるのだが、これは真面目に思ってる事でもある。

 

 あのデカい島を、合流した元海兵組も加えた労働力を上手く使って避難民が上手く生産、経済活動に専念できるようにすれば、海軍や政府の介入を躊躇わせるだけの実績になる。

 

 いかに『黒猫』という政府管轄外にある組織が、そう在るだけで全体にとって有益な存在か見せつける必要がある。

 

「ミホークも土地を切り拓く事に関しては一級品だが、例えば町や街道の配置やその計画に関しては親衛隊のクリスやアメリアに任せっきりだ。それでもなんとかなるだろうが、俺はお前にその指揮役になってもらいたい」

 

 正直、『黒猫』という海賊の幹部になるなら統治計画については多少の経験を積んでいてもらいたい。

 

「お前達がキチンと島を復興させて、それが海軍に、そして政府に伝われば俺も有利に事を運べる。頼めるか?」

 

 俺が知ってるニコ・ロビンというキャラクターに比べて、少し涙もろくて普通の女の子っぽい俺の仲間が、涙を拭って頷いてくれる。

 うん、でも俺のジャケットで拭うんじゃない。

 

「キャプテンさん」

「ああ」

「私、頑張る」

 

 

「頑張るよ……っ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ。なるほど、姿を隠したまま勢力を集めるのか」

「ああ、どうせしばらくは宝狙いのミーハーだらけだ。そんな所に縄張りを張り直した所でうっとうしいだけだ」

 

 北の海のとある港町、スパイダーマイルズ。

 ある海賊団の拠点となっているその島の酒場に、三人の男たちが揃っている。

 

「それにしても、『抜き足』のクロ。面白れぇ……まさかあれだけの情報でこっちの拠点を発見するとは」

「悪かったな、祭り屋。デカい花火を打ち上げる予定だったんだろう?」

「ヘッヘヘヘ、気にすることはねぇさ『金獅子』。GOサインを出したのは他ならぬ俺だ。むしろ、謝るのは俺だな」

 

 三人の中の一人――アフロ頭の目立つ初老の男がそう言うと、もっとも若いサングラスの男が首を横に振る。

 

「失敗こそしたが、大きな損失があったわけでもない。むしろ、そういう失敗もあると経験できたのはなによりだ。それに――」

 

 若い男は、アフロの男の側にある空のグラスに酒を注ぎ、

 

「目的は達成した。これから新世界は荒れに荒れる。クロがこちらの目的を読んだからこそ、海軍も楽園から新世界に兵力を配備し始めている」

「ジハハハハ、ミーハーとはいえ海賊は海賊。偉大なる航路(グランドライン)はどこもかしこも膨れ上がる海賊で燃え上がるな」

「いい隠れ蓑にはなったか? 金獅子のシキ」

「ああ、おかげで人員集めにも苦労はしねぇ」

「フッフッフ、ならなによりだ。ここにいる三人で、損をした奴がいないという事だからな」

 

 アフロの男と同じくらいの歳だろう、頭に舵輪が刺さった男がテーブルに並べられた料理を口にしながら、広げられている汚れたどこかの島の地図に目を向ける。

 

「まぁ、後で回収しようと思っていた島を押さえられたのが少し痛手といえば痛手だが……すでに拾った(・・・)島もある。しばらくはゆっくり足場を固めるとするさ」

「いいニュースだ。アンタみてぇに、世界を相手に喧嘩を売る計画を立てている奴の役に立てたのならば、俺にとって何よりさ」

「ジハハ……それにしても、お前さんも上手いな。ドフラミンゴっつったか」

 

 金獅子は、その地図に食べかすや油が飛び散るのも気にせず肉にかぶりつき、それを呑み込んでから若い男に、

 

「大規模な海賊騒ぎを起こさせ、多数の海兵を削る。ここまでは誰もが一度は考える事だが、その後海軍が兵士を補充したがるのをついて、多くの手駒を海軍の中に紛れ込ませるとはな」

「フッフッフ、まぁ、どいつもこいつも各支部で訓練中だ。スパイとして使えるのにも数年はかかるだろうが……布石としちゃあ十分だろう」

「ちげぇねぇぜ! ジハハハハハ!!」

 

 三人の海賊達は、大きく笑うとまた酒を呷る。

 

「それで、ミスター・ドフラミンゴ。こちらの提案は受けてもらえるかい?」

「ああ、問題ない。ブエナ・フェスタからも面白い話を聞いてな。本番までの時間稼ぎにはちょうどいい……といっても、もうしばらく先の話だが」

 

 

 

「今は基本となる戦力を……そして次に、権威を手にするために動く」

 

 

 

「政府にとって、『黒猫』という海賊は面倒だ。ならば必ず、奴らに対抗するための戦力を欲する。海軍以外でだ」

 

 

 

「もうしばらくは、この海でやっておくことがあるが――」

 

 

 

「目指すは七武海。まずはな……」

 

 

 

「フッフッフ……せいぜい利用させてもらうさ」

 

 

 

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