とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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073:総督不在の作戦行動

「ギッヒャヒャヒャヒャヒャ! 見ろ、たんまり奪った食料を! これでしばらくは食い扶持に困らねぇ!」

「次は金目のモノの多そうな所を狙おうぜ」

「馬鹿野郎、金なんざ使い道がねぇと意味がねぇだろ!」

「だったら、女のいるところがいいぜ。この近くに、えらく栄え始めた街があるって話だ」

「ギャハハハ! ソイツはいいぜ、奪い甲斐がある!」

 

 暗い海の上で錨を下ろし、停留している一隻の海賊船があった。

 近隣のくたびれた村々を襲い、貯めていた食料や金目のモノを全て奪い尽くした船だ。

 

「うー、駄目だ。ガラにもなく飲みすぎちまったようだ。小便行ってくる」

「さっさと戻ってこねぇと酒飲み干しちまうぞ!?」

「馬鹿言え、五つの村と三つの町を襲って奪い尽くしたんだ! 浴びる程飲んでも今晩だけで消えるものか!」

「ちげぇねぇ!! ヒッヒャッヒャッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「う~~~っと、ちくしょう奪ったはいいが安い樽酒ばっかじゃねぇか。たまにはたっけぇラム酒を浴びる程飲んでみてぇぜ」

 

 小汚いトイレで用を足しながら、まだ若い海賊がぶつぶつと愚痴を呟いていた。

 

「ちくしょう、灯りも消えてるし……油が切れたかぁ?」

 

 そうして用を足し終わり、酔っぱらった手つきでズボンを戻そうと視線を下に向けた海賊は――

 

「……え?」

 

 自分の胸から生えている刃を見て言葉を失った。

 

 

―― 総督がトイレにこだわるのも、こんな汚くて臭いのを目の当たりにするとやっぱり正しい気がしてくるな。

 

 

―― あまり無駄口を開くな。作戦行動中だぞ。

 

 

―― わりぃ。

 

 

 気が付けば、黒いスーツの上から更に真っ黒な外套を被った三人の男たちが海賊の後ろに立っていた。

 海賊の胸を後ろから突き刺している男は、すばやく海賊の口に手を当ててからナイフを――わざわざ刃を黒く塗っているそれを引き抜き、海賊の喉を搔き切って確実に絶命させる。

 

 同じナイフを手にした二人は周囲を警戒し、海賊の気配がない事を確認すると懐から小さな電伝虫を取り出す。

 

「三班、トイレに来た敵一名を排除。引き続き船内出入口の確保を続ける」

 

 小電伝虫を通した男の報告を皮切りに、他の海賊(・・)からも報告が続く。

 

 

―― 第二班、船底部の制圧を完了。敵や囚われた民間人の姿はなし。これより確認した物資の運搬用意に入る。

 

 

―― 五班、六,七班と共に船倉部を制圧完了。こちらも敵や監禁されている者の姿は確認できず。このまま物資の確認と保管に回る。

 

 

―― 一班、中層部制圧完了。船室にて泥酔していた敵六名を排除、死体はとりあえず手頃な木箱の中に隠した。指示が出るまで待機する。

 

 

 電伝虫からは次々に若い男女の声が響く。

 報告を聞いている内に三人は殺した敵の死体を処理し、またトイレに来た敵が死体を見つけないように掃除用具入れの中にそれを隠す。

 

(さて――報告通りならこれで全部制圧したし、要救助者もいないって事は……)

 

 男――『黒猫』という海賊団がモプチを制圧してから、もっといい生活をするには一味に入った方がいいと判断し『黒猫』の兵士となった、比較的古参と言える一般兵士――本作戦の第二班班長は、外套で手足や顔を隠し闇に紛れながら、今後の展開を想像する。

 

 

―― 者共、ご苦労じゃったな。灯りを点けて良いぞ。

 

 

 そして、兵士の想像通りの展開になったようだ。

 扉が開くと同時に、海賊には似付かわしくない少女の――聞き慣れた声がした。

 

 一度消したランプに再度明かりを灯すと、第二班ことそれなりに実力の高い兵士三名が整列し、敬礼で扉を開けた人間を出迎える。

 

「第二班、欠員はありません。ハンコック提督(・・)

「よし。外の敵はわらわが片づけた。他の班が物資を甲板に運び出すので、その間に親衛隊と共に海軍の受け入れ態勢を整えよ」

 

 月明かりが漏れる扉の向こう側の甲板には、敵海賊の姿はない。

 ただ、多数の石像(・・・・・)が転がっているだけだ。

 

 脆そうで、少し力のある者ならば容易く砕けそうな石像が。

 

 その光景を目にするのと同時に、三人は少女へ「ハッ」と言葉を返す。

 まるで少女の兵隊ごっこに付き合っているような光景だが、大人の男三人の顔には緊張が走っていた。

 

 黒猫海賊団第一艦隊提督、ボア・ハンコック。

 

 彼女は、決して有名な海賊ではない。

 彼女は、未だ懸賞金を付けられていない無名の海賊である。

 

 仮に外で彼女が名乗りを上げたところで、何も知らぬ海賊や民衆はたいそうな肩書を持つ彼女を笑うだろう。

 

 だがしかし、『黒猫』内部に彼女を侮る者など一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あらら、また捕まえたの。向こうのダズ・ボーネスと変わらないくらい戦果を挙げてるじゃないの」

「えぇい、雑魚海賊が余りに多すぎるわ! どこまで増えるのじゃコヤツらは! 船ごと沈めるわけにもいかんから厄介極まりない!」

「お前さんなら丸ごと石にできるでしょ」

「人質ごと石にした結果くっついて面倒なことになったのじゃ!! 報告したであろうが!」

 

 クロがおらず、モプチの防衛をダズが受け持っている以上海軍との共闘はハンコックの仕事となった。

 結果としてクロの定位置だった大将青雉の横は彼女の席となり、上げられてくる報告に向き合うのが彼女と、その補佐をするアミスの仕事となった。

 

 もっとも、クロと違い戦場に立つ事も多かった。

 それなりに精鋭揃いではあるが、まだ編成したばかりの艦隊での戦闘指揮もあるので、どうしても現場に立つ必要があるのだ。

 

「ま、助かってるよ。少しずつではあるが、各地で奪われた物資も取り戻せている」

「二割はこちらが頂いておるがの」

「むしろ二割でいいのか? 正直、戦力的にもお前さん達『黒猫』の方が戦果上げてる気がするし、協定では三割だったんだけど」

「出航する前に主殿と話し合って決めた割合じゃ、問題ない。それに、ああ……こうして兵士を動かしながら復興や物資のやりくりをしていると、少しずつではあるが主殿が苦労していた物が視えて来る」

 

 艦隊の指揮もそうだが、同時に事務仕事に慣れた親衛隊の面子と共に、ダズ・ボーネスと分担した政務面の仕事をこなし始めたハンコックは、一海賊にしては広い視野を持っていた。

 

「海が落ち着かねば、民の動揺が大きくなる。たかがその程度と思っていたが……生産の効率や物資消費に大きく関係する。幸い、我らは主殿が生産の計画を立てていた上に被害がないので、許容の範囲内ではあるのじゃが……」

 

 ミホークが夏から秋ごろに民衆と共に植えた大根や白菜、ほうれん草といった作物が収穫され、黒猫の持つジェルマ製食料保存庫には、豊富とは言えないが春を迎えるにはそれなりに十分な量の蓄えが詰まっている。

 

「そっちも民衆が不安がっている?」

「我らも海賊じゃからな。現状の危機にこれまでの支配を止めて、食料などを奪うのではないかと(のたま)う輩が出ておる」

「おいおい……大丈夫か?」

「副総督を始め、政務に長けた者を残しておるのだ。問題あるまい。……ただ」

 

 モグワ王城内の執務室からは、城下町だった所が一望できる。

 元は市場だった場所に燃え残った板やレンガを使って民衆がバラックを建てて、寒さに震えながら耐え忍んでいた光景は、少しずつだが小さな木造の家に建て直され、キチンと町の形を取り戻しつつある。

 

「一刻も早く耕作地を広げねば、今度は夏の辺りでまた窮地が来るじゃろう。だが恐怖と不信が民衆の気力を削いでおる。……我らは兵士をそのまま開墾に使えるが……」

「海兵はそういう運用を想定してないからな。いや、冗談抜きでそっちの兵隊が欲しいよ。戦闘もそうだけど、それ以外の面で頼もしすぎる」

「羨ましがっておる場合か。物資は我らが取り戻すから、早くおぬしらで情勢を安定させよ。加盟国には我らが介入出来ぬゆえな」

「そうなんだけどねぇ」

 

 実際、海兵達がもっとも度肝を抜かれたのは『黒猫』の兵士達の戦いぶりよりも、全員がいつものスーツから同じマークの入ったつなぎの作業服に着替え、田畑の耕しから街の復旧作業まで幅広くこなす汎用性だろう。

 

 その中でも特に驚いたのは、総督であるクロ本人がそういう工事を優先して行う時がある事だった。

 

「復興作業にも人手不足でね。働き手になる人員はかなり連れ去られてるし……いっそ『黒猫』の兵士借りて一海兵の振りさせたいくらいだよ」

 

 割と問題のある発言をする海軍大将だが、幸いここにいるのは海軍大将と大海賊の幹部だけだ。

 わざわざ槍玉にあげようとする者はいなかった。

 

「主殿の目指す一団の姿は海賊らしくないと最初は思っておったが、こうしてみると主殿が兵士に仕込んだり経験させたことは確かに糧になっておる。我々の活動を見せる事で、略奪目的で我らに志願するならず者もまずおらぬしの」

「その兵士がますます『黒猫』の生産力を引き上げると……いやはや、うらやましいね」

 

 クザンはいつもかけているサングラスを外してテーブルの上に置き、近隣加盟国からの防衛や援助の要請書の束を見てため息を吐きながらコキッコキッと首を鳴らす。

 

「まぁ、その分訓練や教育に時間がかかるのが難点かの。……む? おい青雉、そろそろ出発の時間じゃぞ」

「あぁ? ああ、もうそんな時間か」

「……加盟国の王族への顔出しも兼ねた援助の要請か。大将というのも骨じゃの」

 

 かけていたサングラスではなくなぜかアイマスクを手に取った海軍大将が、そのまま椅子の背もたれに適当に引っかけていた正義のコートに手を伸ばす。――手を伸ばし、

 

「なぁ」

「む?」

「正義ってなんだ?」

「……海軍大将が海賊に聞く言葉ではあるまい。ましてや、肩書こそ立派であるがわらわは主殿ほどの知識や経験がない」

 

 クザンは、コートに手を置いたままじっと何かを考えている。

 現在周辺加盟国が不足している物資の一覧と、現在『黒猫』が提供してもいい物資の種類とその限界量をまとめたテゾーロからの報告書を見比べていたハンコックは、ため息を吐く。

 

「今は目の前の事に向き合うしかあるまい。主殿が戻るまではな」

「……クロは戻ってこれると思うか?」

「政府の出方にもよるであろうが……なに」

 

 

 

「帰ってこれぬような事態であれば、迎えに往くまでよ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「つまり、埋めるのではなく山から流れる水を減らすほうが良いと」

「うん、ミホーク。湿地帯が消えることはないけど、それで緩やかに縮小できると思う」

 

 当初の予定に比べて、キャネットの開拓計画はスムーズに進んでいた。

 予想されていた住民の抵抗や混乱がなかったことに加えて、驚くほどに彼らが従順なこともあった。

 

「それで、山に田畑か」

「池もあればいいし、田畑が出来れば保水も出来て環境もよくなる。問題があるとすれば獣や虫の害だけど……」

「それに対処するにも、やはり山賊どもが邪魔だな」

 

 

 

「今まさに退治中だけど」

「お前もやるではないか、ロビン」

 

 それはおそらく、これまでさんざん苦しめてきた山賊が次々に駆除(・・)されているのも大きいだろう。

 親衛隊の面々を見て売り物になると考えた者達は次々に首を落とされ、あるいは飛ぶ斬撃に蹴散らされ、あるいは突如生えてきた腕に足をへし折られていたりしていた。

 

 徹底的な山賊の排除を提案したロビンに乗ったミホーク、並びに実践訓練も兼ねた新兵達を率いる親衛隊によって、険しい山々に隠れ潜んでいた山賊たちは次々に蹴散らされていた。

 

 巧妙に隠れて建てられていたアジトも、高く上げられた凧とロビンの能力の組み合わせによって高所から発見されており次々に強襲を受けていた。

 

「む、そういえばレイリーは?」

「港町で飲んでるよ。……なんでドックや倉庫、家より先に酒場が建っちゃうんだろう」

「我々は海賊なのだ。常に町や村にいるよりも、我々がいる場所を分かりやすくしていた方が現地住民にとっては安心できるものだろう」

「……確かに私がそう提案したけど、それがなんで酒場?」

「海賊とはそういうものだろう」

「……そう……かな……?」

「客将の俺が口を出すのもなんだが、クロを参考にするな。海賊とは基本的に、これまで我々が討ち取って来たような人間だ」

 

 もはや愛刀になりつつある名刀・宮尾弐式を鞘に戻し、ジュラキュール・ミホークはあたりを見回す。

 

「ミアキス、山賊共は適当に処理しておけ」

「わかりました。けど……ん~~~、見せしめ分としては十分斬りましたし、適当な小舟で追放辺りでいいですかね?」

「……小舟も貴重なのだが仕方ないか。ロビン、どうだ?」

「うん。大人しく働いてくれるとも思えないし、それでいいと思う。ミアキスさん、お願い」

 

 ロビンの言葉に、長く伸ばした髪をちょうちょ結びのように結い上げている親衛隊の双剣使いは、いつも通り笑みを崩さずに、

 

「了解しました~」

「あの、嫌な仕事をさせてごめんなさい……」

「いえいえ、こういう事こそ親衛隊の役割ですので。それじゃあコイツら引っ立てますね~」

 

 ロビンが特に懐いているその親衛隊員は、指揮官としても優秀だった。

 ようやく実戦に慣れてきた新兵たちに指示を出して、ロビンに足を折られたなどしてまだ息がある山賊たちを手早く縛り上げていく。

 

「ともかく、山に田畑を作るということは削るのか」

「うん。面の広い階段みたいに、畑か田んぼを作っていけたら……どう?」

「なるほど、理解はしたが……ふむ」

 

 この程度の山賊相手ならば大した作業ではないと、いつものつなぎ服のままのミホークは山の斜面に手を当てて、傾きを肌で感じながら自分の開墾の経験と照らし合わせる。

 

「いつものように力任せにやるわけにもいかんな。およその計測と縄張りをしたら、港と新しい開拓村の拡大に注力した方がよさそうだ」

「やっぱり時間がかかる?」

「それと人手だな。まずは基本的な地盤を固める方が……む」

 

 ふと、ミホークが空へと目を向ける。

 

「? どうしたの、ミホーク?」

「…………クリス、いるな?」

 

 突然目つきが鋭くなったミホークにロビンが声をかけるが、ミホークはそれには答えず、自分に最も近づきつつある親衛隊員を呼ぶ。

 

「ここに」

「ロビンを連れて少し離れていろ」

「承知しました」

 

 ロビンが改めて何か声を出そうとするが、その前にクリスがロビンを抱きかかえ、抜き足で姿を消す。

 そちらを見ておらずとも気配が消えたのを確認したミホークは、鞘に納めた宮尾に手をかけ、鞘の中で刃を滑らすようにして素早く抜刀する。

 

 

 

――ォウ……ッ……!

 

 

 

 クロとの訓練――いや、戦いを繰り返した結果、ミホークもまた剣の腕を上げていた。

 クロと行動を共にし始めたころに比べて、より鋭さを増した斬撃が宙を割き、ミホークが感じた()がいる方向の空を切り裂いた。

 

 

―― クッハハハハ、なるほど。それなりに名前を上げてる海賊なだけはあるか。

 

 

 だが、ミホークは手ごたえを感じなかった。

 躱されたと感じ、刀を構え直すミホークの前に、突如として小さな砂嵐(・・)が吹く。

 

「……驚いた。まさかここに来て、明確に『黒猫』を狙う者がいるとは思わなかったぞ」

 

 そして、その砂嵐が止んだと同時に、そこには一人の男が立っていた。

 

 顔に一直線に入った傷跡、ミホークを値踏みするかの様な嫌な目、そして左手があるべき所に収まった大きなフック。

 

「まぁいい。さっさと目的を果たして偉大なる航路(グランドライン)に戻らせてもらう。おい――」

 

 

「オハラの悪魔はどこだ?」

「この一刀の先に」

「渡せ」

「断る」

「そうか」

 

 

 次の瞬間、突如現れた砂の刃がミホークめがけて飛び、即座にミホークの一閃によって散らされた。

 

「てめぇ……覇気使いだと?」

「なるほど、砂の能力者か。相変わらず、クロの周りは強者が集まる」

 

 蹴散らせると思っていた一撃を容易く蹴散らされ、フックを持つ海賊は警戒を強くし、対してミホークは不敵に笑っている。

 

 

 

「あの少女もクロの道を往く者だ。容易く手に入ると思わぬことだな」

 

 

 

「思わぬところで痛手を負うことになる」

「ちっ……」

 

 

 この西の海で、思いもよらぬ大海賊の激突が始まった。

 

 




※前回少し出した親衛隊

『キカ』、『トロイ』
前回お話した通り幻想水滸伝縛りになった親衛隊
シリーズの中でも海戦がテーマになっているⅣに搭乗したへそ出しクール女海賊と、主人公の敵となる海の騎士です

外見ですが、基本的に幻想水滸伝wikiにて外見が確認できる人で固めようと思っております
https://suikoden.fandom.com/ja


……調べたらさっそくキャザリーとかが見当たらねぇけど勘弁してくだせぇ。
ようつべとかなら出てくるんで……


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