とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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075:海兵狩りvs砂漠の王

砂漠の大剣(デザート・グランデ・エスパーダ)――」

「そうやすやすと能力を発動させられると思うな」

 

―― ォウッ……!

 

 旧キャネット王国キャネット島。 

 黒猫海賊団の支配の下、急速な復興を見せていたその島の山間部では今、本来この西の海に似付かわしくない二人の実力者が激突していた。

 

「ちっ、そうか思い出した。てめぇ、『海兵狩り』のミホークか」

 

 片手がフックになっている如何にも海賊と言った風体の男は、斬撃によって斬り飛ばされた体を()にして元の形に戻させながら、刀の刀身を覇気によって黒く輝かせているミホークから距離を取った。

 

「お前は偉大なる航路(グランドライン)でも有数のお尋ね者だったはず。なぜこんな海で燻っていやがる」

「こちらの台詞だな。覇気こそ纏っていないが、それでも覇気使いとの戦いに随分と慣れている。かなり修羅場を潜り抜けている海賊と見た」

 

 もしこの海賊が能力頼りの男であれば、砂嵐となって宙を漂っていた瞬間を狙った初手の斬撃ですでに決着はついていた。

 そうなっていないのは、一見無敵に思える能力に胡坐をかかずに回避しきったからである。

 

「なぜ、わざわざ『黒猫』の縄張りを……いや、ニコ・ロビンを狙った?」

 

 ミホークの問いかけに海賊はすぐさま答えず、だがニヤリと笑い、

 

「知りたければニコ・ロビンを連れて俺と組め、海兵狩り」

「……なに?」

「お前ほどの剣士と俺が組み、オハラの知識を今のうちに確保しておけば、後々誰もが無視できない影響力を持った海賊組織を立ち上げられる」

 

 ミホークが誘導したことによって、今二人が戦っているのは地肌が視えている山の斜面である。

 下手に緑が豊富な所で砂の能力者と戦えば、どれほどの影響がでるか分からないと判断したが故である。

 

 なお、その判断の切っ掛けは散々無茶な事はするな環境は大事なんだという、ロビンからのありがたい数々の説教の賜物(たまもの)である。

 

「プランはある。オハラの悪魔――ニコ・ロビンも粗末に扱わないと約束しよう。どうだ?」

 

 金に輝くフックを、まるで握手でも促すように差出し、海賊は続ける。

 

「こんな辺境の海賊団なんざ、退屈だろう? 俺達なら――」

「興味がない」

 

 そして剣士は、あっさりと海賊の提案を一蹴する。

 

「あぁ……?」

「聞こえなかったか? 興味がないと言った」

 

 海賊が腕を振るい、より研ぎ澄まされた砂の刃がいくつもミホーク目掛けて飛び掛かる。

 だが、ミホークの斬撃はそれよりも速かった。

 海賊からすればいつのまにか抜いていた刀を、静かに鞘に戻したようにしか見えないその動作だけで、優に十本近くあった金色に輝く砂の刃を全て斬り払った。

 

「どういうつもりだ。こんな辺鄙な海でイキがっている三下海賊風情と共にいつまでも燻っているつもりか? それほどの剣の腕を腐らせるつもりか?」

「愚かな。『黒猫』に関して何も知らずにここまで来たと見た」

 

 強い。

 この海賊は強いとミホークは分かっていた。

 だが、同時に思う。

 

(若い)

 

 目の前の男よりも更に歳が下の『黒猫』幹部勢に比べて血気に逸っていると。

 

(自信がそうさせるのか、知識の不足が油断を招いているのか)

 

「だったらいい。ここを潰してオハラの悪魔を頂いていく。砂嵐(サーブルス)

「……なるほど、実体のない目隠しか」

 

 右手から立ち上る砂嵐を瞬く間に大きくし、広範囲に巨大な砂嵐が起きる。

 

「クハハハハ。先にオハラの悪魔を逃がしたようだが、それでも島から逃げられるわけがない」

 

 能力を自分の手足として、そして目や耳として使用する能力者の存在は『黒猫』ならば誰もが知っている。

 そういう能力も併せ持っていたのか、あるいは能力の工夫か。

 

 この視界の悪さの中で相手が正確に自分の位置を把握していることを、ミホークは理解した。

 

「この一帯ごとお前を潰せば後は容易い!」

 

 砂嵐の影響は極めて強い。

 ミホークは平然と立っているが、他の一般兵士がここにいれば吹き飛ばされるか、あるいは立っていられなかっただろう。

 

三日月形砂丘(バルハン)!」

 

 完全に潰された視界の中から飛び出た腕を、触れた物を乾燥させるその一撃をミホークは避ける。

 覇気が能力者の実体を捉える物ではあっても、能力の発動そのものを防げるものではないと理解しているからだ。

 

(クロのような触れない覇気(・・・・・・)ならば応戦も楽なのだが……)

 

 仮とはいえ自分が仕える男であり、この『黒猫』という海賊団を率いる総督が戻り次第、また本気で斬り合う事を決めながら刀を握り直す。

 

「お前の剣技は確かに凄まじい。だがそれでも、一人である以上対応できる事象には限界がある!」

 

 ミホークの周囲を吹きすさぶ砂嵐の中から突如大量の、黄金に輝く刃が、これまで以上の数と速さで剣士を襲う。

 

 ミホークはその全ての攻撃を躱すが、同時に決定打も与えられなかった。

 砂嵐が能力によって拡散された海賊の肉体そのものかと思い、覇気を纏わせた斬撃を振るってみるが手ごたえはない。

 

(能力による砂嵐を種として、ここらの岩盤を砂に変えて飛ばしているのか)

 

 覇気は身体や武装を硬化させ、盾となり武器となり、なにより弱点がない限り実体を捉えることが難しい自然(ロギア)系の能力者に攻撃を届かせる数少ない技法である。

 

 だが逆に言えば、ただの自然現象相手では出来る事も限られる。

 このレベルで能力を使いこなす敵の相手は、兵士の平均実力が極めて高い黒猫でも難しい。

 

 ――だが、

 

(そう。確かに普通の兵隊ならばこの砂嵐すら脅威だろうが――)

 

「海賊、お前は……」

 

 

 

「あまりに『黒猫』を舐めすぎたな」

 

 

 

 

――『()っ――――!』

 

 

 

 

 次の瞬間、放っておけば島全体を覆いかねなかった砂嵐が、吹き飛ばされた。

 突如として突風が――いや、突風と錯覚しそうになるほどの斬撃が飛んできたのだ。

 

 砂嵐の中に身を隠していた海賊は、驚愕の顔で吹き飛ばされた砂嵐を追い、そして斬撃が飛んできた方向へと目をやる。

 

 それは、剣士がいる方向ではなかった。

 その方向は山の尾根。

 そこにいたのは、たった六人の女性だけだった。

 

 その六人が、それぞれの得物である刀剣を振りぬいた姿勢から、一切油断のない姿勢でそれらを鞘に戻した時に、

 

「これほど広範囲に能力を発動させれば、無差別の攻撃を狙っていると見て親衛隊が動くのは当然だ」

 

 ようやく海賊が我に返った時には、すでに剣士(ミホーク)は踏み込んでいた。

 

「馬鹿な、これほどの連中が……賞金首はニコ・ロビンも含めて全員ガキだけだったはず……っ!」

「目の前の俺だけが障害だと思ったのがお前の失策だ、海賊」

 

 とっさに身体を砂へと変えて逃げようとした海賊は、だがそれよりも速く黒く染まった刀の柄が腹へと突き刺さっていた。

 

「―― ご……っ……ぁ……」

 

 

 

 

 

「全員俺の弟子だ。甘く見るべきではなかったな」

 

 意識を失いつつも脱出のために能力を発動させようとした海賊の首筋に、武装硬化した手刀を入れて完全に落とした海賊を尻目に、ミホークは刀を振るい鞘に戻す。

 

「先生」

「全員、いい一太刀だった。後はそれぞれ、単独であの斬れ味を出すのが課題だな」

「ハッ」

 

 六人の親衛隊員――主にミホークに付いているために剣術と同時に土木や開墾といった野良仕事に長けた女性たちが、先ほどまで離れた位置にいたにも関わらず全員無音でミホークの側に集まっていた。

 

「その男はまだ息が?」

「確か、以前クロが試作していた海楼石の錠があったな」

「はい。あるいは武器になるかと思って持ってきていますが」

「拘束しておけ」

「……殺しておかないんですか? あるいは海軍に引き渡すか」

 

 海楼石は加工が極めて難しく、ジェルマから接収したメンテナンス用の工作機械を使用した上でいくつもの失敗の果てにいくつか成功といえなくもない形になるのがやっとだった。

 

 余りの難しさにクロが、『残りは出来るだけ保管していずれ造る旗艦用に使う』と言っているため、海楼石製のモノはどうにか試作出来た手錠数個くらいしかなかった。

 

 つまり、今の『黒猫』にとってはかなり貴重な品なのだが――

 

「目的がロビンの身柄だった」

 

 そう言った途端に、親衛隊――最初はペローナやロビンの護衛役として編成される予定だった兵士達の目つきが変わる。

 

「どうやらオハラの知識が目的のようだが、裏に何者かがいないとも限らぬ。政府は言うに及ばず、海軍の可能性もある」

「……本部、でしょうか?」

 

 あえて本部としたのは、実質西の海の暫定トップになっている青雉ことクザンが、今更『黒猫』を裏切るとは考えづらいからである。

 

「分からん。だが万が一に備えて、下手に殺すよりは捕らえて周囲の動きの様子を見たい」

「分かりました。問題は監禁場所ですが……」

「今の作業が一段落付いたらモプチ、並びにモグワに一度俺が出向く。その際にモプチの牢屋に入れておけばよかろう」

「見張りや守備は大丈夫でしょうか?」

「親衛隊二名にダズ・ボーネスがいれば対応は可能だ。加えてあちらならば、ハックもいる」

 

 能力の傾向と、戦場を山を流れる川の付近から変える際にあっさりと乗ってきたことから、大量の水が弱点だろうとミホークは判断していた。

 

 そのために、水や水分を武器とする魚人空手の使い手がハックをはじめ多くいるモプチの方が対応しやすいだろうと。

 

「それに……出来るならば、念のために戻って来てからクロに会わせたい」

「総督に?」

「ああ。尋問した所で吐くような男ではないだろうが、口の上手いクロならば……いや、そもそも知っているかもしれんが……」

 

 

 

 

「これほどの海賊がわざわざ追う程の、オハラの知識とはいったい何なのか、な」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「つまり、海軍としては世界政府の謝罪に加えて、何らかの誠意を見せて欲しいと」

「うむ。可能ならば他にも絞りたいがそこは譲れん。海賊連合事件や他の事件などのせいで有耶無耶になってしまっていたが、あの事件に関して政府からは特に何の言葉もないのだ。それが事情を知る将兵たちの不満になっている」

 

 話を聞けば聞くほどうんざりしそうな話で……いかん、違う意味で胃が死にそうだ。

 道理でヒナを始め海兵側の士気が低いというか政府よりもこんな海賊よりになるわけだ。

 

「では、政府の最後のアクションは囚われていた海兵達の解放と」

「うむ、そうだ」

 

 五老星から受けた精神的公開処刑の後にセンゴクさんの所に顔を出したら……以前お会いした時よりも痩せました?

 

 もうあんまりにあんまりな状況説明にゲッソリだよ。

 先に五老星に顔出ししておいてよかった。

 これを聞いた後だと感情が顔に表れていたかもしれん。

 

「囚われていた海兵達の様子も酷いですね……」

 

 というか玩具(おもちゃ)感覚で人の手足を()ぐなバカ共!

 仮にも貴族を自称するならもうちょっと文化的になってどうぞ!

 

「うむ……。だが、生きて戻れただけでもまだ良い方だ」

「……ええ」

 

 原作でも酷い扱いを受けている連中は多かったが、あれは海賊が奴隷になっている面もあったんだろうなぁとか思ってたらそれ以上でビックリだよ。

 いや、ホント天竜人の文化ってどうなってんの?

 こんなドS文化でよくこれまで政府の形を保てたな……。

 

 下手な創作上の野蛮人より野蛮な貴族ってどうなのさ。

 割とひどい王様って印象だったワポルがまだマシに見えるとか……。

 

「ちなみに、兵士たちは大丈夫ですか?」

「……死を懇願する者もいたが、そこにいるゼファー特別大将の説得でどうにか思いとどまってくれた。一通り治療が終わり、体が動かせる者は少しずつリハビリに入っている」

 

 ここまで案内してくれたゼファー先生が、いたたまれないと言うように顔をしかめる。

 うん、まぁそりゃそうなるわな。

 

 スパンダインの奴こっちに来てなくてよかったな。

 下手にこんな場に出くわしたら敵意ぶつけられまくって針の筵だったぞ。

 

「お前が救出してくれた兵士のうち、こちらに残った者達が彼らの世話をしてくれている」

「……彼女達は、立派な海兵を目指す誇り高い者達でした」

 

 そうか、戻ってきた中にいないと思ったらちゃんと海兵やってたか。

 海兵の正義を信じる子達だったから、戻った後が心配だったがよかった……。

 

「今後このような悲劇を起こさないように、世界政府にはケジメを付けていただかなくては話になりません」

 

 ゼファー先生やおつるさんらしき海兵、それにヒナも頷く。

 

「ですが、世界政府には世界政府の道理と面子があり、そう易々と事は進まないでしょう」

 

 今度はセンゴクさんが、小さく呻くことで同意してくれる。

 そうだよ、悪いことしたから謝ってくださいなんて道徳授業のような言葉で片付くんなら、こんなにねじれてないんだよ。

 

「明後日からの会談では、揺さぶりのために不快な言葉を出すこともあるでしょうが、何卒……」

「分かっておる。……あの事件の時からお前には世話になりっぱなしだった」

 

 

 

「更に恥を上塗りするようだが……すまん、今一度力を貸してほしい」

 

 

 

 いやぁ、むしろ早く本部で動かしたいクザンをわざわざ西の海に残したりして、海軍が出来るギリギリの形での世界政府への牽制をしてくれたり物資を融通してくれたりで、こちらこそセンゴクさんには頭が上がらないというか……。

 いやもうホントよろしくお願いします。

 

「いえ、こちらこそ」

 

 そもそも海賊がこうして動けるのはセンゴクさんの政治手腕のおかげでもある。

 

 

 

「ところで元帥殿」

 

 だけどさ。

 

「……うむ」

 

 

 

 

「なんじゃ、かたっ苦しい話は終わったのか? ならこっちにきて茶にでも付き合わんか? 前々からお前とは一度話を――」

「ガープ、アンタはちょっと黙ってな」

 

 

 

 

 

「なぜ、このギリギリのパワーバランスの所にガープ中将が?」

「すまん、クロ。……本当にすまん」




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