とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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政治繋ぎー


076:黒猫の憂鬱、青雉の胃痛

「では、世界政府は海軍による聖地内部――神々の地の緊急監査は現状では不可能だと」

「そうだ。それは到底受け入れられるものではない」

「今回の一件は海軍から政府への不審感を助長しています。世界貴族が本来手を出すべきではない方法で、自分達に忠誠を誓っている海兵に手を出したのは間違いないのですから」

 

 交渉が始まって三日目。

 改めての挨拶も兼ねた初日と打って変わって、胃が痛くなる話し合いが続いている。

 

 帰りてぇ……。

 帰って積んでた本読んで開発計画書書いて、出発前にダズに投げといた街道整備計画とか港町の整備をちょっとでも進めてぇ……。

 

 必要な事だとは思っているし、政府並びに海軍への影響力を拡大させるという点では大事な仕事なんだけどやる気出ねぇ……。

 

 まだ『鷹の目』と『冥王』による地獄のシゴきの方が成果を実感できるとは思わんかった。

 

「聖地は天竜人の物である。いかに海軍といえど、そこへの介入は決して受け入れられる物ではない」

「ですがこのままでは、この会談が交渉と呼べるものにならない可能性があります」

「そも、現状でも海軍はこちらの指示通り動いているのだ。そこまでやる必要があるというのか?」

「現状はそうでも、この一件が余りにも大きすぎる火種である事は間違いありません。だからこそ、一歩間違えれば不愉快な醜聞になりかねない私の提案を受け入れたのでしょう?」

 

 コイツら、話し合いに踏み切ったからにはある程度進んだ話が出来るかと思いきや、急にのらりくらりと時間を稼ぎやがって……っ!

 

 しかもなんでちょくちょくこうして海軍を挟まずに俺と話す!

 時間の無駄だろうが!

 いやまぁ、こうして海軍のいる時に話したら海軍への印象悪くなりそうな話題を切り出せるって利点もあるにはあるんだがそれで話が進まなかったら意味ないじゃろうがい!!

 

「……聖地に住まう天竜人の説得には骨が折れる」

 

 それがそっちの仕事だろうが!!

 最高権力者らしく権力振るえよ!

 

 滅茶苦茶に権力振り回すのは馬鹿な支配者だけど、アンタら仮にも統治者だろうが! 統治者なんだよな!?

 適切に振り回して馬鹿共黙らせて来い!

 

 ちなみに俺はあの馬鹿共に関わる気はないからな!

 海軍側から囚われていた海兵達の話を聞いたらやる気どころかSAN値削れたわ!

 

「ならば、カードを一枚手に入れるための行動とお考え下さい」

「む」

 

 こっちだってセンゴクさんと一緒にあれこれ、どうにか海兵の不満を宥めながら今後の海軍の活動に支障が出ないような落とし所を見つけ出そうとあれこれ案をひねり出してんだぞ!?

 

 手袋して誤魔化してるけど俺の手とかインクまみれだからな!

 鉛筆でノート何ページ分も漢字の書き取り練習終えた小学生の手みたいになっとるわ!

 

「海軍側――いえ、失礼いたしました。海兵からすると、未だ聖地に囚われたままの兵士がいるのではないかというのが反発する理由の一つであります」

「……政府が全て解放したと宣言してもか」

「恐れながら、天竜人の方々がそういう(・・・・)事をしてもおかしくないという印象を拭うには数年程度ではどうしようもないでしょう」

 

 だから本来、貴族らしい姿を見せて「キャー、貴族様ー!」ってやんなきゃいけないのに、俺の知る限りで天竜人をキャーキャー持ち上げてるのって消費するしか能のない連中だけである。

 ゴア王国の貴族共とか。

 

(……いや、あれはある意味で平和ボケしているだけか。おだてて商品の貴重さを喧伝したら、献上品にちょうどいいと高い物をバカスカ買ってくれたしなぁ)

 

「ならばこそ逆に、海軍からの要請を受け入れていたという実績は十分以上のカードになり得ます」

 

 対してこっちは……狙いが読めん。

 なんでここに来て時間を稼いでる?

 

(まさかと思うけど、聖地の監査を受け入れる前提で、その前に残ってる海兵奴隷やその証拠を消すための時間稼ぎとかか?)

 

 だったら尚更、ここで少し畳みかけておく必要があるか。

 

「迅速に査察を受け入れれば、海軍はそれを政府の誠意と見るでしょう。あるいはそういう事で、元帥が海兵達を説得する材料になります」

「……天竜人を動かすにはどうしても時間がかかる」

 

 時間稼ぎにしか見えなくなってしまってるが、正直そうだろうなぁという気持ちもある。

 なにかしらの形で駄々をこねそうな連中というイメージだ。

 

 だけど、海軍側がどう見るかというと……。

 

「これ以上こじれれば、海軍が割れる可能性もあります。ただですら今回の一件で経験豊富な本部将校が多数軍を抜け、指揮系統に混乱が起こっているのです。最悪、どうにか均衡を保っている現在の勢力バランスが大きく崩れるでしょう」

 

 どうも海軍のお歴々と話をしてみた所、西の海はなんだかんだで東の海並みに安定しているらしい。

 あれでかよ!? と思うんだが、偉大なる航路(グランドライン)は言うに及ばず、北と南は海賊被害に加えて国同士の戦争が激化し始めていてとんでもない事になっているとか。

 

 西の海の現状でマシな方とか、割と本気で綱渡り状態……と思うんだが……。

 

「決して世界政府にとって、緊急査察はマイナスな面だけではありません。海軍に対しての『無茶を通した上で潔白を証明してみせた』というカードは、その後の海軍からの追及や要求に対しての牽制として効力を発揮するでしょう」

 

 

 

「どうか。どうか、ご決断をお願いいたします」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「どうにか、緊急査察は受け入れられました。明日の正午より調査部隊を受け入れると。そちらの用意は……」

「会談が始まった時点で念のために召集をかけている。ギリギリにはなるだろうが定刻には間に合うだろう。よくやってくれた、クロ」

「ただ、奴隷を管理していた区域は公開するが、それ以外への立ち入りは許されないとの事です」

「……時間もかかってしまったが……まぁ、致し方あるまい」

 

 本当に申し訳ない。

 もうちょっとサクサク進むかと思ったら、微妙な言葉遊びで時間を稼がれてしまった。

 

「万が一残っている海兵がいる場合、明日の正午までに完全に痕跡を隠す事は難しいと思うのですが……」

「あぁ、いやよい。そもそも、最初の会談で押し切れなかった我らの方に非がある」

 

 一応自分は中立の立場ではあるのだが、それでもやはり関係性が深いのは海軍である。

 うん、海賊なのにね。おかしいね。

 

 海軍に与えられた部屋で海兵に囲まれて元帥や将官とお茶飲んでるのおかしいよね。

 

「ぶわっはははは! ようやったクロ! どうじゃ、餡子(あんこ)が大丈夫なら菓子を持って来とるぞ。海軍まんじゅうじゃがな!」

「ガープ……貴様は……っ」

「ガープさん……」

 

 本当におかしいね!?

 ガープさん、人の頭掴んで揺らさないでください。

 貴方は握力だけで人の頭潰せそうなんですから!

 

 あとヒナ、お前も平然と茶をしばいてるんじゃない!

 

 海賊の隣に普通に座ってる時点で何かおかしいと思わないのか!

 

「それにしても、元帥」

「む?」

「なぜ、五老星側は海軍をのけて私との会談を小まめに行うのでしょうか」

 

 この余計な時間稼ぎをなんとかできれば仕事も早く終わって、最悪海軍との協定破棄になるかもしれんが西の海に戻って計画続行できるんだが……。

 

「おや、分かっていなかったのかい?」

 

 意外といった様子で声を掛けてくれたのはおつるさんだ。

 モリア戦の後に手紙を頂いていたので察していたが、初めて言葉を交わしたのだがかなり好感触だった。

 

「はい?」

「クロ。世界政府は、アンタを使いたくて使いたくてたまらないのさ」

 

 …………。

 

 ………………。

 

 はぁっ?

 

「どういう意味でしょうか?」

「七武海制度を公表したけど、未だ人が集まっていないのは知っているね?」

「はい。確か集まった数名は、先日白ひげ傘下やその他の新世界の海賊に討ち取られていましたね」

「政府の後ろ盾があるのなら、海軍の兵力も顎で使えると思っていたのさ。こっちの都合などお構いなしにね」

 

 馬鹿かな?

 

 仮に友好的だったとしても、勢力が動くのにそうポンポンと都合良くいく訳がなかろう。

 しかも海賊が海軍の動きに干渉しようとしたら、普通は反発が酷いぞ。

 

 百歩譲ってもまずは海軍の行動に一度合わせて、交渉できる材料用意しないと……。

 

「まぁ、その結果勝手に暴走し、勝手に沈められた。おかげで今や有力な七武海はおらず、海軍は数だけならば海賊に押されつつある」

「政府は、七武海制度の公表前に有力な海賊を押さえておかなかったのですか?」

「役に立ちそうな海賊ほど、事前にそんな話をされた所で罠と思うさ。警戒されるばかりでね」

 

 あぁ、なるほど。そういうことか。

 そういえばパンクハザードの時にも、救難信号が罠に使われる事が多いみたいな話があったな。

 フィッシャータイガーの過去編でも思ったが、情に関わる所に罠の可能性の匂いを付けるべきではないと思うんだけどなぁ。

 

 ともあれ、政府や海軍から胡散臭い話が来たらそりゃ警戒するか。

 考えてみたら、クロコダイルもまだ七武海入りしてないし。

 

 ハンコックやミホークはもう考えても仕方ないとして、モリアはどうなるんだろうな……。

 

「だから政府は、アンタらが欲しいのさ」

 

 七武海としてか? ぶん殴るぞ世界政府。

 つまり小まめに会談を挟むのは、俺が政府と話が出来る程友好的であるというパフォーマンスか。

 

「自分やアミス達が海賊になった理由を、彼らは忘れたんですかね」

「さすがにそれはないだろうさ」

「……そのうえで、ですか」

「ああ」

 

 海軍挟んだ交渉の最中でなかったらちょっとだけキレたかもしれん。

 アイツらホント……。

 

「自分が入った所で、七武海は文字通り海賊七人を集める組織。あと六人はどうするつもりなんですかね」

「いや、そうじゃないんだよ。クロ」

 

 ん?

 

「正確には、アンタの部下を七武海に。そしてアンタをその統括として政府側に引き込みたいのさ」

 

 本気でぶっ飛ばすぞアイツら!?

 ……ちょっと待て、という事は時間を稼いでいるのは――

 

「元帥殿、ひょっとして我々の噂が変な方向に広まってませんか?」

「捻じ曲げた物はないが、少しずつ西の海での――海賊連合事件の詳細が他の海の海兵にも広まり出している」

 

 アイツら! 外から固めるつもりか!

 しかも海賊連合の詳細ってことはその発端になった海兵奴隷の件はあえてスルーしてか! クソ共!

 

「君にとっても、悪い話じゃないんじゃないかぁい? 黒猫殿ぉ~」

 

 結局そのままマリージョアに付いている黄猿――ボルサリーノさんが声を掛けてくる。

 ……正直この人、サカズキさんより苦手なんだよな。

 

 人間的にも戦力的にも。

 

「君達が七武海になって政府側になれば――」

「情勢が落ち着いた途端に、七武海制度を政府が一方的に破棄しないという確約はどこにありますか?」

 

 そもそも、どれほどの条件を提示された所で断じて政府に付くことはない。

 正直、信頼度はそこらの海賊とどっこいどっこいだ。

 

 契約の下に小さい仕事を少し受けるくらいならまだしも、中には決して入らん。

 ロビンの事を別にしてもだ。

 

「今回の発端となった事件やその後の対応を考えると、政府は到底信頼できない」

 

 出来る事ならハッキリ「アイツらマジでクズっすよね」と言いたいが、さすがにそれは不味いだろう。

 

(黄猿が政府側と繋がってる可能性もある……というか、海軍大将って実質天竜人の番犬扱いだったって作中のどこかで言われていたような……)

 

 まぁ、実際政府の人間から聞かれれば誤魔化す事は出来ても、答えないわけにはいかないだろうさ。海兵なら。

 だったらそれも利用するまでだ。聞いている兵士の皆には悪いが、スピーカー役になってもらおう。

 

「世界政府を根本から否定するつもりはありませんが、彼らの統治方法を、私は良い物だとは到底思えません」

 

 七武海制度を盾に非加盟国の開発をやっても、なんか接収されそうなんだよなぁ。

 そうなった場合、他の統治地域から不安を持たれないように接収拒否しなきゃならんが、最悪海軍や政府戦力と小競り合いどころか戦争になりかねん。

 

「……なら、君はどうするつもりだい? 一海賊勢力のまま、追われ続けるのかい?」

「まさか」

 

 

「――策はあります」

 

 

 それよりも問題は、この期に及んで足場固めの策を優先させている世界政府の方なんだが……。

 どうすんべかなぁ……。

 

 ……。

 

 おいヒナ嬢、それ俺の茶菓子。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 モグワの王城――から少し離れた港町の一角。

 主に黒猫海賊団の一般船員たちの拠点となっている一角のテントでは、本来ならばモプチの本拠点にいるはずである『黒猫』副総督の少年と本船幹部ペローナ、そして第一艦隊提督のハンコックが難しい顔をしていた。

 

「とうとう、民による食料の奪い合いが始まったか」

「幸い、アタシと海兵らで発見した時はまだ小競り合い程度だったから、さっさとネガティブ・ホロウで黙らせてきたけどよ……」

「……うむ」

 

 ダズ・ボーネスは海軍から回されてきた報告書数枚を簡素なテーブルの上に並べ、普段よりも難しい顔をしていた。

 

「海軍が配る食料は主にパンと保存食だ。特に気にせずにこれまでと同じく配給を行っていたようだが……」

「その気になれば取って置ける食料だというのが災いしたのじゃな。先行きの不安から貯める者がいれば、それを欲する者も出よう。……今にして思えば、早くから気付くべきじゃったな」

「どうする、ダズ? アタシらは海賊だ。アタシやアミス達が力で黙らせるのが一番手っ取りばえーぞ」

「それでも我らは『黒猫』だ。うかつに民衆に手を上げるわけにもいくまい」

 

 ハンコックは、テゾーロがまとめた今度の配給計画と、こちらの食料の残りや、すぐに調達できる予想量をまとめた書類と睨めっこしている。

 

「せめて、主殿が提案していた売買の自由化が間に合えば、ここまで悪化はせんかったろうに……」

「元帥センゴクも動いたと聞いている。それで実現したのが一部だけという事は、横やりが入ったということだろう」

 

 騒動が起こり始めているのは『黒猫』の直轄地ではない。

 全て加盟国側の避難所であった。

 

「別に政府側の領地で何が起ころうと知ったことではないが、暴徒化の挙句に海賊になられると面倒じゃ」

「数だけの連中なんざ大したことねーだろ。クロがいなくてもアタシとアミス達の誰かがいりゃ余裕だ」

「……一か所に纏まってくれるのならばそうだろう。だが、散らばってしまうと厄介度が跳ねあがる」

 

 ダズは報告書から暴動や小競り合いの発生した地域とその大きさを地図に書き込み、こちらの支配領域に近い所には大きな丸を付けていく。

 

「ハンコックの言うように海賊になる者が多く出れば、こちらの輸送や船団護衛の計画にも見直しの必要が出て来る。出来ればその前になんとか改善したいが……」

「ならばどうする、副総督。……こちらの余ってる食糧を渡すか? 近隣の地域に限れば、多少は熱を冷ますことが出来るやもしれぬ」

 

 ダズに問い掛けながらも対策を考えていたハンコックが思い付きを口にする。

 ダズはそれに対して小さく頷き、

 

「短期的には効果があるだろうが、この状況ではお前の言う通り焼け石に水だろう。冬はまだ長いし春になった途端に解決するわけでもない。それに、下手をすれば奪い合いを加速させかねん」

 

 一度肯定しながらも、更に難しい顔をする。

 

「一時しのぎのために食料を与え、その食料を奪うために争いが起こり治安が悪化すれば意味がない。そもそも、手が届く人間もそれではほんのわずか。もっと根本的な解決が必要だ」

「といってもな、ダズ。根本的な問題って要するに飯が足りねぇんだろ? 早く春が来るの祈るか?」

「いや……」

 

 地図に必要な情報を書き込み、考える。

 それは他ならぬこの海賊団の頭であるクロの癖だった。

 とにかく分かっていることを書き出し、並べて比較精査し、より簡潔に情報をまとめ直して考える。

 

「食料は日々の分はあった。それが途切れる気配も噂もなかった。……にも関わらず、民衆の不安が増大している」

 

 その技法をダズは真似ていた。

 

「……海軍が救護拠点を築いた地点から、ある程度離れた所に集中しているな」

「海軍が側にいるからというある種の安堵が、民衆たちの頭を余計な事に使わせているのではないか?」

「その可能性もある。あるいは……」

 

 ここにいる幹部三人の中でももっともやる気がなく、だが不真面目というわけではないペローナが最初にピンと来た。

 

「おいダズ、まさか海賊連合の時から扇動していた奴か?」

「その可能性もある」

「自信なさげかよ!? 全部可能性可能性ばっかじゃねーか!」

「仕方あるまい、ペローナ。まだ情報が足りん……が、確かにそれはありうるの」

 

 ハンコックは、提督に就任した時に改造したジャケットを羽織り、席を立つ。

 

「こちらで預かっている親衛隊を使う。哨戒や遊撃といった海戦は通常戦力で十分じゃ。妾たちがそちらを受け持つ間に親衛隊員に各地の調査に回ってもらえば、なにか掴めるかもしれん」

「兵士の負担は大丈夫か?」

「ちょうど例の島の攻略での負傷兵が本格的に現場復帰する頃じゃ、海軍側も哨戒の数を増やせるハズ。それに、船員共も戦闘行為に慣れてきたとはいえ、親衛隊頼りのままではいかぬじゃろう?」

 

 かつてはなぜか『黒猫』に紛れ込んでいた九蛇の子供としか見られていなかった少女は、その美しい顔立ちと黒い髪と合わさり、西の海の海兵で知らぬ者はいない存在となっていた。

 

「親衛隊を抜いた上での戦術も少しずつ形になってきておる。ここらで第一艦隊の名声を上げるのも悪くない」

 

 先に征くぞと言い残し、部屋を後にした美少女提督の背中を見送り、残ったダズとペローナの最古参二人組は顔を見合わせる。

 

「戦術って……あの暗殺戦術か?」

「一応、砲戦戦術や通常の白兵戦も磨いている。一番好んでいるのはアレだが」

「この前物資の回収に来た海兵共が、死体の山見てドン引いてたぞ」

「まぁ……ああいうのも必要だろう。事実、兵や物資の損耗が最も少ない。回収した戦利品や救助者にも傷は一切ないとなれば、文句はない」

「まぁ、そうだがよう……」

 

 ペローナは好みのココア――は現在品薄で数が限られているので、代わりにと麦湯を煎れてカップに注ぎ一息吐く。

 

「やれやれ、クロが戻ってくるまでに多少は片付くと思ったが、そう簡単にいきそうにはねぇな」

「その分、我々の出番があるということだ」

「あぁ? なんだダズ、活躍する場が欲しいってか?」

「ある意味な」

 

 ほら、とペローナが差し出したカップを受け取り、ダズもまた一息入れて、

 

「ここで俺達が『黒猫』として活動した成果を出せば、マリージョアにいるキャプテンに取って追い風になるだろう」

「政府が真面目に取り合えばな」

「その可能性は高いと見ている。政府が俺達をただの海賊と見ているのならば、すでに俺達やロビンの捕縛に動いているハズだ」

「まぁ、そりゃそうか……」

 

 ミホーク曰く、初めてにしては中々の出来だという麦を軽く炒ってお湯で煮だしたお茶もどきは、肌寒さを緩めてくれる。

 

「だとしたら、扇動者……いるならって話だが、ソイツの捕縛に狙いを絞るか?」

「……暴動を治めるには、不安の種を取り除くか、あるいはそれを越えられると信じる事のできる支柱が必要だ」

 

 ダズは再び海図に目を落とし、支配している海域に点在する島々を指さす。

 

「キャプテンが言うように、政府とは違う、だが共存できる大きな統治組織というものは、存外必要不可欠な物なのかもしれんな」

「そっちの計画を進めるにも、どの非加盟国も今回ので……お?」

 

 唐突に、扉がノックされた。

 ペローナが「入っていいぞ」と返事をすると、ドアを開けたのは――

 

「ハンコック? お前港に行ったんじゃなかったのかよ」

「うむ、そうだったのじゃが……客人じゃ」

 

 先ほど出ていった第一艦隊の提督だった。

 そしてその後ろにいるのは、

 

「よう、歓談中にすまんね」

「クザン!?」

「青雉……わざわざこちらにまで?」

 

 ほかならぬ海軍最高戦力の一人、大将青雉だった。

 

「港に向かおうとしていた所、こっちに来ているのが見えてな。声を掛けたら、話があるとの事じゃ」

「悪いな。お前らに相談しようと思ってここに来たら迷っちまってね」

「バッカおめぇ、仮にも大将がこんな所に一人で来ちゃ不味いだろうが! とにかく入って座れよ。麦湯で良かったら淹れてやる」

 

 海賊のイメージからは程遠い、整頓の行き届いている部屋へとハンコックが青雉を通し、ダズは椅子を用意しその間にペローナが、先ほど使ったヤカンのお湯を温め直し、飲み物を用意する。

 

「いや、悪いね。ありがたく頂くよ。温かいモノを口にしたいと思っていた所だ」

「ホロホロホロ、氷結人間でもやっぱ熱はほしいものか。待ってろ、ミホーク自慢の麦だ」

 

 存外ペローナは海軍の人間から受けが良い。

 まだまだ幼子と言っていい外見のおかげでもあるが、薬草に関しての知識や簡単な医療術を身に付けているため、海兵の応急治療に当たったこともあり、黒猫の人間は当然海兵にも可愛がられている。

 

「……それで、青雉。相談とはなにかあったのか?」

「お主が来るとは、よほどの事じゃと思うのだが」

「あー、いや。大したことはない。いや、大したことではあるんだけどウチじゃ扱いが難しいというか。……だからまぁ、頼み事なんだが」

 

 ペローナが持ってきた麦湯のカップに小さな氷の欠片を入れて熱さを調整したクザンは、そのカップの中身を一気に飲み干して一息つき、

 

 

 

「お前ら、人を買ってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「………………は?」」」

 

 




新刊が出てくれたおかげで使えるキャラが数名増えたー
どのタイミングで放り込もうかな……
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