とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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 どうにか終わったか。いや、驚くほど強かった。

 攻撃も妙に洗練されていていくつか危ういのもあった。勘で避けたが。

 

 東の海の海兵がどれだけ弱かったかよく分かるというか。

 棒立ちの的の集団と、油断したら一撃もらいかねない集団くらい違いがあった。

 

 体感だが、なんだかんだで30分くらいは攻防戦をしてたんじゃなかろうか。

 攻撃自体は当てられるけど片っ端から防がれて、それを崩すのに滅茶苦茶時間かかった。

 

(……海兵の数がもうちょっと多いか、あるいはもう一隻戦力あったら危なかったかもな)

 

 あるいは、一番予想外だったあのヒナが『黒檻』になっていれば……アウトだったろうなぁ。

 乱戦状態だと下手に傷つけるかもしれんと思って真っ先に沈めたあの女の子がヒナとは……俺とそう歳変わらねぇじゃん。

 

「キャプテン、終わったか」

「ああ、予定通り……だ……?」

 

 月歩――もとい、差し足で島に戻ってみると、出迎えてくれているのはダズとペローナだけだ。

 あの……ビビり倒してた島民共は?

 

「ホロホロホロ、奴らならお前が軍艦のマストを斬り飛ばしたのを見て泡食って逃げたぞ」

「どこにだ」

 

 島の中に逃げ場があるわけでもなし。

 いや、正直もう用はないんだが。

 

「自分の家だったり山の中だったりだな」

「そうか……ところでダズ」

「なんだ」

「お前、額から煙出てるけどどうした?」

「撃たれた」

「ハッハッハッ!!!!!」

 

 普通の人間ならば大惨事どころか、そもそも口を開く事が出来なくなっている所を平然と口にするダズに、思わず大笑いしてしまった。

 

「そりゃあ驚いただろう!」

 

 そう尋ねるとダズは不敵に笑って、

 

「あぁ、驚いていた(・・)な」

「ハッハッハッハ!!!」

 

 是非ともその光景は見たかったものだ。

 ここの島民たち、きっと化け物を見る目でダズを見たんだろうな。

 

 この世界、映像通信はあるんだしそういうのを保存できるものないかな。

 空島のダイヤル技術ならありそうだ。

 もし行くことがあったら探してみよう。

 

「さて」

 

 一方で、当然のようにここにいるペローナに向き合う。

 

「これからどうするかはともかくとして、とりあえずここを離れないか? さすがにここに留まるのは不味いだろう」

 

 戦ったあの海兵は、なんだかんだで色々キチンと調べてくれそうだけど

 

「というか、ここにいる意味が元々ないからな。……元々、どこかで島を出ようと思っていた」

 

 ダズが、「まぁ、だろうな……」みたいな感じで頷いている。

 まったくもって同意だ。

 島民たちは気付いていないだろうけど、アイツらはもう生贄なしでは村社会を構築できないようになりつつある。

 しばらくはペローナの呪いのせいにしているだろうけど、ここでペローナが消えたら消えたで多分違う生贄を探し出すだろう。

 

 具体的には、今のまとめ役とか。

 

「まったく、まさかいきなり海賊の一味扱いされるとは思ってなかったぞ」

「それはこちらのセリフだ。キャプテンが勧誘こそしていたがこうなるとはな」

 

 ホントそれな。

 いやはや、まさかこうなるとは……。

 

「ホロホロホロ。まぁいい、お前らと行く方が面白そうだ」

 

 

 

「なってやろうじゃないか。海賊に」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『まさか、お前ほどの男が東の海出身のルーキーに敗れるとはな』

「申し訳ありません、コング元帥」

『いや、いい。相手の戦力を見誤っていた』

 

 とある島からの通報によって発生した、とある海賊との戦闘。

 その報告は華々しい物ではなく、未来ある海兵の顔に泥を塗ってしまったという苦々しい物になってしまった。

 

『死人が出なかったのが幸いだった』

「……『抜き足』も、戦闘するつもりはあっても死人が出るのを良しとしなかったようです。幹部候補生の一人が、彼から話を聞いたと」

『……またとんでもない奴が現れたな』

「ええ、驚きました。グランドラインどころか、この四つの海でこれほどの存在が頭角を現すとは」

 

 中将は、『抜き足』と戦った時の感触を思い返すように電伝虫の受話器を持ち換えて、あの時サーベルを握っていた手を閉じたり開いたりしている。

 

「確かにあの男の攻撃は視えて(・・・)いました。現にあの男の攻撃は視えた場所に来た。いえ――」

 

 

 

「視えた時には、もう攻撃が来ていました」

 

 

 

 電伝虫の向こう側で、小さく唸る声がした。

 

「独学で剃や月歩、嵐脚を習得していたことは、驚きこそすれありえない事ではありません。問題は、その習得した技が六式よりも(・・・・・)洗練されている(・・・・・・・)ことです」

『……他の乗船していた幹部からも報告は聞いている』

 

 

 

『姿は捉えられず、そして音も一切しなかった。そうだな?』

「……あの時は背筋が凍りました」

 

 

「真後ろに立たれたにも関わらず、声を掛けられるまでその存在に一切気付けませんでした」

『先ほど聴取した船員たちも同じことを言っていた』

 

 

――貴官の後ろに立つ海兵諸君が見ていたと思うが……走ってきただけだ。

 

 

『一切姿は見えず、音もなく、着地の際にもそれを誰一人気取らせず船に降りたと』

「私も海兵を務めて長いですが……完全な無防備で背中を取られたのは初めてです」

『……『抜き足』か。恐ろしい男だ』

「ええ、おそらくですが」

 

 

 

 

「『抜き足』のクロは速さ(・・)と、それを支える()においては『新世界』でも通用するほどに練り上げられています」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「なんだ、それじゃあ一度東の海に行くのか」

 

 ペローナを仲間にして一月。

 なぜかこっちを狙っている5大ファミリーの刺客を叩きのめして賞金稼ぎを叩きのめしてお腹がすいてきたら海賊を叩きのめす生活に一区切りつけて、今はとある島に落ち着いている。

 

 落ち着いているといっても、こうして船は目立たないところに隠した上にサングラスやらで簡単な変装をしてコソコソ物資の補充やらをしているわけだが。

 

「東の海には色々と置いている物があってな。とりあえずそれを回収しようとは思っているが……」

「まだ三人の集団だ。残る仲間集めは東で?」

「……そこを今考えていてな」

 

 以前から考えている通り、精神に作用する技能持ちは一人でも多く仲間にしたい。

 その中で唯一出身がハッキリしているのは催眠術を扱うジャンゴだ。

 奴の催眠術があれば『覇気』の訓練も進むかもしれない。

 

「とりあえず、それぞれの装備を固めよう。やっと金が貯まったしな」

「島の奴らから略奪すりゃよかったじゃねぇか。海賊らしく」

 

 嫌だよ、なんか汚れそうだ。

 いや違うな、こう……運にケチがつきそうだ。

 

「奴らごときの恨みつらみの種になるのはごめんだ。あの島を訪ねてお前を手に入れた。それだけで戦果としては充分すぎる」

 

 いやホント。ここにきてペローナを仲間にできたのは大きい。

 正直に言うがほとんどの敵は無力化できるんじゃなかろうか。

 鍛えるのを怠ってるとすぐ死ぬ世界だから、あんま多用しないようにしてるけどさ。

 

 せいぜいが雑魚ちらし。

 

「ホロホロ。そう言ってくれるのは嬉しいが、その結果飯と服以外は碌に買えてないぞ」

「それに関してはスマン。服には少し金を掛けたかったんだ」

「それで全員揃って黒スーツか?」

「……アレだ、分かりやすいだろう?」

 

 いいじゃん、黒スーツ。

 ダズは予想通り似合うし、ペローナだって意外と似合ってる。

 荒事とかもあるだろう中でスカートでいられると落ち着かないし、黒スーツで揃えようかなマイ海賊団。

 

「まぁ、とりあえずは装備だ。ダズは実質必要ないだろうがペローナは何か考えておけ」

「私にいるか?」

「万が一のための護身武器は大事だろう」

 

 現にお前が勝てない相手がいるのは間違いないんだし、ついでにいうなら万が一にも四皇……と戦うようなことはないだろうけど、幹部クラスと小競り合いがないとは言い切れん。

 

 そうなるとギャグ特化ともいえるペローナの能力が阻まれる可能性はある。

 ……多分、高レベルの覇気とかなら防げるだろうし。

 

「まぁアレだ。次の仕事は5大ファミリーの密輸船襲撃。ガッツリ頂いていくから船の積み荷の整理をしておくぞ。デカい買い物他諸々はその後というわけだ」

 

 んでもってその略奪が終わったら、西の海の後片付けをして一度東に戻るか。

 やろうと思えばまた二人を抱えて月歩――違う違う、差し足で飛べば時間も短縮できる。

 

「ん、……お?」

「キャプテン?」

「あ、いや、すまない」

 

 空っぽになった樽を運び出そうと持ちあげたのだが、なんか中途半端に重い。何か入ってたか?

 

 蓋を開けて中を覗き込む。

 

「……っ…………ぁ……」

 

 そこには、黒髪黒目の小さい女の子がすっぽり入りこんでいた。

 

 おっとぉペローナの島で一通り目を通した賞金首一覧で見た顔があるぞぉ。

 

「マジか」

 

 今の西の海の台風の目が。

 

 ニコ・ロビンがそこに隠れていた。

 

「あ、あの……」

 

 助けて、助けてクレメンス。

 

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