とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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080:『黒猫』対『金獅子』―②

「ようハチ、たこ焼き3パック欲しいんだがあるか?」

「にゅ? おう、ちょうどよかった、今焼き上がった所だ。ほい、3パックで1200ベリー」

「サンキュ。お前さんのたこ焼き、ここらのカタギにも評判良いからな。ほれ、1200ベリーきっかりだ」

「にゅ! まいどあり!」

 

 黒猫海賊団の本拠地であるのと同時に、カポネ・ベッジ一味の重要な拠点でもあるモプチの港町。

 黒猫が新しく興し、シャムロックと名付けられたその町の港前の大通りに開かれた屋台に、スーツ姿のマフィアの一団が(たむろ)していた。

 傍から見たらみかじめ料をせびっているように見える光景だが、店を開いているタコの魚人とギャング達は気楽な様子で会話を楽しんでいる。

 

「しかし、お前も度胸あるな。堂々と店を開くなんて……マフィアというかギャングの俺らが言うのもなんだが、魚人は目を付けられるぞ」

「にゅ~。まぁなぁ。俺も最初は、人間が怖くて隠れ島の方の世話になってた」

 

 タコの魚人は、街の人間が作ってくれたたこ焼き用の鉄板に次のたこ焼きを焼くために、一本の手で油を塗りこみながら違う手で器用に頬杖をつく。

 

「隠れ島? あぁ、頭領(ファーザー)も聞かされていない、お前らと黒猫の拠点だったか」

「そう、そこ。向こうの島での工事や畑仕事も嫌いじゃなかったけど、こっちで働けば普通に金を稼げるからなぁ。最近じゃ内地の町に住む家族への土産にって買って行ってくれる人間も増えてきたし、だんだん居心地も良くなってきてる」

 

 周囲には、ギャングや海賊の他に、港での仕事の出稼ぎに来ていたり、あるいは様々な店を開いて働いているモプチの島民で溢れかえっている。

 中にはタコの魚人と同じように軽食の屋台を出している者もいた。

 

「まぁ、この島でもシャムロックに限れば魚人や人魚なんて珍しくねぇもんな。港を見りゃ作業中の魚人の二、三人も一緒に見かける」

「にゅ~。おかげで最初の時みたいに変な目で見られる事は無くなったよ。あんたらベッジさんの所の人間も普通に接してくれるしな」

 

 そうした町の中には、店こそ構えていないが労働に勤しんでいる魚人の姿もチラホラ見える。

 人間以上の腕力を持っている魚人は特に水夫として人気で、普通の人間ならば持ち上げられない中身の詰まった樽や箱をひょいひょいと運んでいる。

 

「こっちじゃまだ魚人の数は少ないが、次の拠点候補として開拓してる所じゃ魚人の割合が跳ね上がるからな。正直、見飽きたぜ」

「あぁ、メイプルもそっちを手伝ってるって言ってたなぁ」

「あのイカの女の子か。おう、あそこに隠れ住んでた海賊を追い出す時には手伝ってもらったぜ。お前もそうだけど、手が何本もあるってのはいいなぁ。最初はビビるけど」

「アッハッハ! まー魚人でも手足が何本もあるのは珍しい方だからな」

 

 おどけるように残る手を全てヒラヒラとさせて、ハチと呼ばれた魚人はニッシシシシと軽く笑う。

 

「珍しい? 親がタコとかイカの魚人なら、生まれてくるのもそうなるんじゃねぇのか?」

「アッハッハ! 人間からするとそうか! いや、魚人は血筋が色々あるから、親とまったく違う姿の子供が生まれるのが普通なんだよ。父親がマグロ、母がカツオで生まれてきたのがサメやタイの魚人なんてのはよくある話だ」

「へぇ、魚人ってのはそういう所も違うのか……」

「まぁ、知らなくて当然なんだろう。俺も人間の事はよく知らなかったし」

 

 

「あんたらみたいにちょっとずつ俺らを知る人間が増えて、こっちも人間をちょっとずつ知って……そうしたらこんな場所が増えるのかなぁ……」

「ハハッ! そいつは確かに正論だけどよ、ハチ」

 

 

「そう簡単に行くなら、世界はもっとマシだったろうさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ガキがっ! 仕上げのための船を破壊しやがって……やってくれるじゃねぇか!」

 

 やけに傷が酷い――明らかにいたぶった跡とみられる傷跡だらけの――魚人を逃がしたのと同時に、舵輪がニワトリの鶏冠みてぇにぶっ刺さってるオッサンが飛んで来た。

 

 切り札失くしたんならもう帰れよ!!

 

「金獅子! お前の後ろにいるのは誰だ!?」

「あぁん?」

「この計画を立てたのはお前じゃない! 違うか!?」

 

 どう考えても海賊の立てる計画じゃない。

 どんだけコイツが大物海賊だろうが、海賊の視点から出る作戦でも計画でもない。

 

 くそ、マジで七面倒な事態を引き起こしやがって!

 あとコイツ飛び方が独特過ぎて、攻撃当てるのがクッソ難しい!

 いや俺も空中戦は初めてだからアレなんだけどさ!

 

 何度か噛猫を乱れ撃って迎撃するが当たらず、相手の斬撃を蹴り落している内にまた高度を上げて空中戦にもつれ込んでいる。

 

 ちくしょう、地面に降りて戦えよ!

 そしたら他の戦力がなだれ込んでくるから無理だよね知ってた!

 

「この襲撃は世界政府と海軍の牽制だろう!? なんちゃら聖の祝い事だかなんだかで世界中から集められた食料を聖地ごと焼き払えば、今度は加盟国からも失ったかなりの量の食料をかき集めようとする。聖地を立て直すための資材もだ! そうなれば多くの加盟国が疲弊し、略奪や小競り合いがまた増える! 西の海の一件はそのための火種作りも兼ねた演習だったか!」

 

 あの野郎変な笑いしやがって、やっぱりそうか!

 合点がいったぞ! 強力な戦略拠点になりえたあの運ばれた島に、まともな指揮役や手勢がいなかったハズだ!

 一番の目的は資材や食料が大きく減った国の動き、そしてそれらを守るために海軍がどう動くかを見る事だったのか!

 

 その挙句にこの聖地襲撃!

 

 チマチマ西の海にこれ以上のダメージが出る事の不利益を遠まわしに遠まわしにそれとなく伝える事で、手持ちの交渉カードを切る事無くふわぁっと西の海の問題の方も解決しようとしていたのに、全部白紙に戻しやがって!

 

 大海賊だろうが知ったことか、ふざけやがって! 蹴り飛ばさなきゃ気が済まん!

 

「そして聖地が襲われた以上、天竜人は確実に大将かそれに並ぶ戦力を常駐させたがる! そうなればさらに各地で増加するだろう海賊や反乱への対応力は著しく落ちる!」

「ついでに奴隷だな。これだけ瓦礫を雨あられと降らせば、奴隷もかなりの数が死んだだろうさ」

「……っ、ただでさえ人間狩りで奴隷をかき集めていた所に!」

「天竜人共は基本的に優秀な護衛が付いている! この騒ぎの中で大怪我する奴はいても死ぬ奴はそこまでいねぇだろ!」

「つまり、奴隷を欲しがる奴は全然減ってないって事だろう!? 貴様はどこまでも……っ!」

「ジハハハハ! お偉い天竜人様は、それが欲しい物ならどこから流れた物かなんざ気にしねぇ。奴隷屋にとっちゃあ書き入れ時になるな」

 

 このっ、舵輪を鶏みたいに生やしやがってピンクグラサンといい鳥野郎ってのはホントマジで……っ!!

 

 大規模な反乱と小競り合いは行き場を失った難民を生み、人攫いや奴隷ブローカーといった裏社会の勢力は莫大な資金と力を得る!

 ついでにコイツに至っちゃ空に身を隠せるから、海軍が身動き取れなければ好きなだけ勢力拡大に専念できる!

 

 せめてコイツだけはここで落とさないと冗談抜きで世界がヤバい!

 

「そうなれば大衆の絶望や、天竜人――いや、目に見える指導者である国家への憎しみと反発は天井知らずだ! 無秩序な反乱と混乱を煽るつもりか!?」

「ジハハ、読みはいい。この作戦についても大体は合ってやがる」

 

 …………。

 

 だいたい(・・・・)

 

「クロ、だったな。てめぇ、俺の部下になれ」

 

 ふざけんなボケカスオルァ!!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「断る。こうも被害を出すような力の振るい方をする輩とは、どうあっても分かり合えん」

「ジハハハ、まぁそう言うなよ」

 

 スーツを役人のように着こなしている少年海賊に、金獅子はニヤニヤ笑いながら話しかける。

 

 互いに隙は見せない。

 

 だが黒猫の表情に余裕はなく、対して金獅子は緊張の欠片も見られない。

 

「お前は強い。リンリンの奴に比べりゃ精々威力は三割といった所だが、まさか巨人族の技をあれだけ高い精度で模倣するとは恐れ入った。すでに偉大なる航路(グランドライン)でも屈指の実力だ。俺の下ならその力の振るい処に困る事はねぇ」

 

 余裕の態度を隠さない金獅子は、懐から葉巻を取り出し口にくわえ火を付ける。

 

「そしてなにより……お前は俺の同類だ。俺に付いた方がお前の能力は伸びるぜぇ?」

「同類だと? 無秩序な破壊に手を出すお前と一緒にしないでもらいたい」

「いいや、一緒さぁ」

 

 

 

俺もお前もここにいる(・・・・・・・・・・)。それが答えだ」

 

 

 

 香りの強い煙を燻らせ、金獅子は続ける。

 

「俺はお前の言う通り計画のために来た。ならお前は?」

「お前達が荒らした西の海の復興のためだ」

「ジハハハ! また随分と生真面目な奴だな!」

「お前らがやりたい放題やらかしたからだろうが!」

「違いねぇ。だが、俺が言いたいのはそこじゃねぇ」

「あ゛?」

「俺にはそれがなにかは分からねぇが、お前はお前の利益のために天竜人の権力を上手く味方に付けようとしていたんだろ。でもなきゃ、いくら政府や海軍の覚えが良い海賊と言っても、ここまで来る理由も聖地を守る理由もねぇ」

 

 

「クロ、お前は支配の価値(・・・・・)を分かっている海賊だ」

 

 

 黒猫が、小さく舌打ちをする。

 

「世界が支配する者と支配される者の二つしかいねぇ事を分かっていやがる。だからこそ聖地くんだりにまで来て、テメェの利のために上手く立ち回ろうとしてやがる」

「……そっちは、今の支配体制に罅を入れるためにか」

「ジハハハハ! 分かってんじゃねぇか!」

 

「俺と来いクロ! お前の武力と知略は人を支配するための物だ! 俺の能力とお前達『黒猫』の戦力が合わされば、政府すら簡単には手出しが出来ねぇ海賊団が出来上がる!」

 

「俺とお前でこの海を支配し、次の時代を作ろうじゃねぇか!」

 

 迎え入れるように両手を広げ、海賊は高らかに叫ぶ。

 海賊王によって始まった大海賊時代の、その次を目指すと宣言する。

 

「興味がない」

 

 だが、黒猫は変わらない。

 

「支配に、というより……お前に興味がない」

 

 会話の時間で息を整えたのか、少し体を楽にして眼鏡のズレを直しながら断言する。

 

「確かに、支配という物は必要だと思っている。人は弱く、些細な理由でも心身を崩しかねない。だからこそ人は集まり協力し合うが、人が集まれば必ずそこには役割が生まれ、役割はそのまま階級へと変化し、良くも悪くも差を生み出し、その構造が大きな一を頭にした支配体制へと成る。法の外にいる海賊ならば尚更だろう」

「そうだ、海賊の本質は支配だ!!」

「否定はしない。だが、それはなんのための支配だ?」

「……なに?」

 

 眉を顰めるのと同時に、こっそりと金獅子は能力を使い、残骸をいつでも操れるように注視する。

 黒猫という海賊が口を開くごとに、言葉を発するごとに、強張る事無くその身に纏わせている覇気が強まるのを感じていた。

 

「俺もまた海賊であり、支配者である。民衆を武力を背景に押さえつけ、労働を課して税を取り立てている」

「……それがどんな感じなのかは、話していておおよそ分かるが、まぁいい。お前の本質であるのは間違いねぇ」

「だが、俺とお前では目指すものが違う。お前の言うそれは支配のための支配に聞こえる。支配し続け、ただ君臨し続けることだ」

「それの何が悪い!」

「ならばその本質は、俺達の足元にいる連中と何も変わらない。お前は時代を作ると言ったが、本質的に不可能だ。お前に出来るのは、ただ役割を受け継ぐだけでしかない」

「なら――テメェは何のために戦っている!!」

 

 

「自由がために」

 

 

 夜が明けて、陽が昇る。

 未だ燃え続ける町や、地上目掛けて落ち続ける残骸の全てを陽の光が照らし始める。

 

 

「人が人を支配する以上、そこに完璧な支配はあり得ない。支配には必ず綻びがあり、必ずそこからあぶれてしまう人間が出る。支配に満足する者はいいが、支配に染まり切れず、だが強い意志も武力もない者は弱者となって追いやられる」

 

 

 金獅子の脳裏に、一人の男の姿がよみがえる。

 

 

「それでもなお、弱者の多くが耐えるのはなぜか。支配を良しとしない者や、支配により追いやられた人間の多くが耐え忍び、次の世代に自分の意思を……思想を語り次に託すのはなぜか」

 

 

 目の前にいる少年と同じく海賊であり、だが『黒猫』とは真逆の男だった。

 目の前の海賊が知性の男なら、その海賊は野生の男だ。

 

 だが、

 

 

「それは、いつか来るだろう自由に手を伸ばすためだ。弱い立場に追いやられたがために、次の世代に自由への希望を託す」

 

 

 その海賊とは真逆の静かな声で、その海賊と同じような言葉を発する海賊がそこにいた。

 

 

「俺の役割はいつかの未来のために、一人でも多くの民衆に、そして弱者とされた者達に寄り添い、自由と平和への道を指し示す事だ。すでに背負った者達のために、この身はそう在ると他ならぬ自分が決めた」

 

 

「お前がその邪魔をすると言うのであれば」

 

 

 来る。

 金獅子は肌で感じていた。

 わずかとはいえ乱れていた黒猫の覇気が、再び流れ出した。

 静かな口調と裏腹に、黒猫の中に闘気がみなぎっているのが分かる。

 

 

「この三本爪に誓った矜持を以って、押し通るまで!」

 

 

「よく抜かしたぜ! なら死になぁ!」

 

 海賊がパチンと小気味よく指を鳴らすのと同時に、周囲を漂っていた残骸が黒猫目掛けて殺到する。

 

「ちぃ……っ」

 

 だがやはり、速さという一点においては黒猫がはるか上だった。

 ぶつかり合う船やその残骸の上を、まるで宙を奔るかのように、時折姿すら捉えさせない速度でその全てを躱していく。

 

「ジハハ、やっぱりこの程度じゃテメェを捉えるのは難しいか。……だがなぁ!」

 

 金獅子は能力で、クロの周りに大小さまざまな残骸を漂わせる。

 一番大きな船の残骸の上に立ち、様子を窺う黒猫は小さく首を傾げるが、大して金獅子はニヤリと笑い、

 

「お前の威国は大したもんだ。瞬きよりも短い間に無数の蹴りによる飛ぶ斬撃を撃ち放ち、その斬撃を全てかち合わせて貫通力に特化した『突き』に変化させるなんざ常人にゃあ無理だ! だがなぁ!!」

 

 金獅子が手の平をクルリと回転させると、更に大小の残骸が戦場に集まる。

 一見黒猫にはもちろん、金獅子にすら邪魔に見えるが――

 

 

「てめぇの威国は、障害物のない空中でしか撃てねぇんだろ!?」

 

 

 金獅子の言葉に、黒猫は顔をしかめる。

 

 

「斬撃を合わせて綺麗な『突き』へと変化させるには広範囲をほぼ同時に蹴って斬撃をぶつかり合わせ、形成(・・)する必要がある!」

 

 黒猫が、なぜか焼けている手を握りしめる。

 

「地上ならば地面が邪魔になる。地面を蹴れば斬撃の無駄撃ちだし、それを避けて高い位置で同じ現象を起こそうとすれば今度は足への負担がかかる! だからなにもない空中でなければ撃てねぇが、これだけ障害物がありゃ蹴ろうとした時の状況の悪さは地上以上だ!」

 

 

「これでお前の切り札は一枚潰れたなぁ! ジハハハハハ!!」

 

 

 有利になったことを確信し高笑いをする金獅子を、黒猫は呆然と見つめている。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だから練習ではいつも脱臼に次ぐ脱臼だったのか」

「わかってなかったんかい!!」

 




本名ハチであだ名がはっちゃんだと思ってたら逆だったのか
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