とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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盆明け初投稿


081:『黒猫』対『金獅子』―③

「いい加減に……っ!」

 

 首、肩、腹、胸。

 足はもう無くなっているのでそれ以外を狙って蹴りや噛猫ぶちかまそうと連撃をしているんだが、

 

「てめぇとは年季が違うんだ! そう簡単に当たってたまるかよ!」

 

 ほとんど受け流されるし、当たってもインパクトの瞬間をずらされて手ごたえなし!

 

 やっぱ強い!

 腹が立つけどクソ強い!

 ちくしょう今この瞬間にこのジジィの腰がグッバイしねぇかなちくしょう!!

 

(斬撃飛ばしの準備モーション……違う! フェイクか!)

 

 噛猫を飛ばそうとしていた覇気の流れを切り替え、がっちり足周りを固めて備えた瞬間に、とんでもねぇスピードで突っ込んできたクソジジィの足代わりの刀が首元狙って飛んで来る。

 

 

―― ガギィ……ッ

 

 

「ちぃ……っ、コイツも読みやがるか」

「隙あらば首落とそうとしてくる奴らが俺のスパーリング相手だ! その程度ならば毎日味わっている!」

 

 足で刃を絡めとれたけど覇気おっも!?

 いや十分耐えられるけど!

 

 まさかこんな所でミホークやレイリーがキチンと手加減してくれていた事実を知ることになるとは思わなかったわ!

 

「ジハハハハ、その歳で随分な修羅場を渡ってるようじゃねぇか。さすがだぜ!」

 

 普通に話しかけながら能力の攻撃併用すんな!

 俺の死角から残骸で押しつぶそうとしてんだろ、その程度なら視れるんだからな!?

 

(距離を取ったらまた面倒だ。撃ち落とす!)

 

 伊達に毎日二重の360度全方位攻撃を捌いてきたワケじゃねぇんだ!

 目の前の相手と切り結びながらノールックで迎撃するなんざお手のもんじゃい!

 

 ノールックの噛猫版『障子破り』で飛んできていた残骸を弾き飛ばす。

 先ほどと違い、火のついていなかったソレの残骸が被害の出ない海の方へと吹き飛ばされていくのを見て、金獅子はジハハハハッと好戦的に笑い、

 

「面白れぇ。まさかここまで出来る奴だとは思ってなかった。その歳で真正面から俺と撃ち合える程に鍛え上げてるとは……」

「実戦経験の数はともかく、修羅場の質では決して負けていない」

 

 なにせ『冥王』と『鷹の目』のダブルキラー相手に三日間飲まず食わず寝ずのまま戦い続ける経験なんて原作キャラでも何人いるってんだオルァ!!

 

「ああ、まったく。とんでもねぇ修羅場に身を置いている事は肌で感じらぁ。……だがなぁ――!!」

 

 

 

 

 

 

 

「お前さん、歳が歳なんだからこう……そんなに生き急がなくてもいいんじゃねぇか? 若いし未来がある身なんだからもうちょっとこう、身の振り方を考え直した方が――」

「心配してくれてんじゃねぇぞコラァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(とはいえこのガキ、冗談抜きでとんでもねぇ……っ……まだ若ぇってのに、どんな経験繰り返せばこんな海賊が出来上がるんだ!?)

 

 障害物も兼ねた残骸による攻撃が全て躱されている。

 

(足主体の戦闘にそういう能力者並みの速度。元々見聞色に高い適性があったんだろうが、短期間に見様見真似で鍛えられる限界を超えてやがる!)

 

 火を付けて次々に聖地に落としている残骸も、致命打になりそうな物や命の気配を感じる所に落とそうとしたものは即座にあの強力な蹴りの遠当てで粉々に砕かれ、吹き飛ばされる。

 

(ちぃっ、この前拾ったあの島で迎え撃てば確実にコイツを捕まえて持ち帰れるんだが……っ!)

 

 ここで殺すには余りにも惜しい。

 武力は言うまでもなく合格だ。

 頭も回るし、根が生真面目なのは少し話せば分かる。

 敵だとこうして面倒な相手だが、ひとたび味方に出来ればこれほど頼りに出来る男もいないだろう。

 出来る事ならばその部下も含めて、手元に引き込みたい。

 

「どうした!? 頭の舵輪が疼くか!?」

「大先輩を舐めるなよ、ルーキー!」

 

 だが、そう簡単にはいかない。

 手元に欲しいほどの海賊ということは、これ以上なく厄介な海賊でもある事の証左でもある。

 

 こうして隙を見せた瞬間に首目掛けて鋭い蹴りを撃ち込んでくる。

 まるでライフルの弾丸が通り過ぎたような風音と目視すら難しかった蹴りが、動かした自分の首元ギリギリの所を通り過ぎる。

 

 反撃で足代わりの刀の一撃を入れるが、先ほどから全て覇気を込めた足で止められている。

 

(大体コイツの覇気はなんだ!? 覇気が強いのはまぁいいが、覇気を込める時間の短さが異常だ! どういう訓練をしたらこんな芸当が出来るんだ!!)

 

 通常、一度武装色の覇気を纏えば、何かしらの決着が付くまでそれを解除することはない。

 それに対してこのクロは、判断一つ間違えば大ダメージを受けかねない程に覇気を絞った上で攻防に使用している。

 

 攻撃の際は、蹴るその瞬間だけ攻撃に使う足に覇気を纏わせ、戻す時にはもう覇気は解除されている。

 防御に至っては、その瞬間に最低限のその箇所のみに纏わせている。

 纏わせる箇所が間違っていたり、間に合わなかったその瞬間に手足を失ってもおかしくない。

 

(そんな覇気の使い方でここまで防がれるってことは、見聞色が未来視にまで至ってやがる! それもまだまだ進化中か!)

 

 師匠がいるのは間違いない。

 そう考えた金獅子は、今の時点で分かっている『黒猫』の戦い方を整理し始める。

 

(威国なんて技を知っている以上、新世界でそれなりに名のある奴じゃねぇと無理だ)

 

 足に関しては天賦の才であり、長年の訓練がなければああはならない。師匠に関係ない独自の物である。

 間合いに関しては、接近距離から二、三歩離れた時にためらいが見えることから、おそらく手に何らかの武器を付けるのが本来のスタイルだろう。

 

(剣……いや、コイツの武器は足と速度だ。握りしめて更に斬る時に構えや刃の入り方に意識を割かれる類の武器は合わねぇ)

 

 更に見えない速度の大量の蹴りを、それこそまるで見えない打撃の壁のような猛攻と正面からカチ合いながら、黒猫の手を見る。

 

 浅い切り傷や皸の跡だらけで、しかもなぜか両手共に出来立ての酷いやけどを負っている、歳に見合わないほど使い込まれた手だ。

 

(覇気込めて殴るだけの打撃武器の類かと思ったが、握りしめる手じゃねぇ。だが、妙に指が鍛えられている。……白ひげの所の奴が使ってたような爪か? いや、あの程度の爪じゃあコイツの間合いに合わねぇ……まさか、刀を一本一本? 駄目だ、そんな戦い方をする海賊や海兵に心当たりがねぇ)

 

「正確な間合いを測ろうとするな!」

「間合いを考えねぇ馬鹿がどこにいるんだ小僧!!」

「海賊には割とゴロゴロいるイメージだぞ!」

「……おう、まぁ、そういうのもいるよね」

「納得しちゃうんかい!?」

 

 注意力もそうだがスタミナも段違いだ。

 覇気の素早い切り替えもあって、この海賊はおそらく三日は全力で戦い続けられるだろう。

 

(ちっ、若ぇってのはそれだけで武器だな……。無茶を承知で今一度デカいのをぶつけねぇと振り切れねぇ)

 

 口に咥えた葉巻を手に持ち、側に浮いている油をしみ込ませた欠片を一つ手元に動かし、それを押し付けて小さな火種を作る。

 

「――っ、またか!」

「ジハハ……いい見聞色だな! そうら!」

 

 火種を他の残骸に巻き込ませ、再度巨大な炎に包まれた残骸を集める。

 

 

 

「鉄火巻き!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 このワンパターン野郎!

 さっきよりも規模小さめとはいえ、この距離でそれ撃つか!?

 近づいていればうかつに火を使えねえと思ってたのに!

 

(やべぇ、アイツの言葉を信じるなら、威国を撃てば足にダメージがいく!)

 

 敵の言葉をまんま信じるわけではないが、アイツの見立ては多分正しい。

 

(ただでさえ、最低でもミホークレベルの覇気纏わせた斬撃相手に足を酷使してるんだ……空中戦が出来る親衛隊もハンコックもいねぇ状況で賭けに出るのは無謀すぎる)

 

 相手の無茶苦茶デカイ火まみれ狼がこちらに到着するまで4秒。だけど、見えたイメージだとあと2秒で膨れ上がって散弾みてえにぶっ飛ばされる。チャンスは後1.5秒!

 

 

―― 斬撃を合わせて綺麗な『突き』へと変化させるには広範囲をほぼ同時に蹴って斬撃をぶつかり合わせ、形成(・・)する必要がある!

 

 

 そうだ、レイリーが見せた訳わからん方の一撃をなんとか形にするためにあれこれ模索して、さっきようやく身体を痛めずに初めて撃てたばっかり。

 

 だけど今一度、その一撃が必要になった。

 

(俺があれだけの貫通力を出すのに必要な斬撃は、おおよそだけど200から300!)

 

 正確な数は分からないけど、大体それくらいだろう。

 それだけの斬撃がなぜ必要なのか。簡単だ、それだけの数の斬撃をかち合わせないと飛距離が稼げず、貫通力が出ないからだ。

 

 本気の噛猫では威力が高くても貫通力が全く足りない。ぶつかったら弾けてしまう。

 向こう側の金獅子が二の矢を用意していたらアウトだ。

 

 残り1.2秒!

 

(……ならば!)

 

 

「冬猫……」

 

 

 幸い、障害物のおかげで程よい足場が出来た。

 威力の底上げには十分!

 

 

 

 

「偽典――!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「さぁ! どうする、クロ!?」

 

 圧が強くなった。

 海賊が――そして覇王が身に纏う圧倒的な圧。

 

(あれだけ大小の、それなりに重量がある残骸が周囲に漂ってれば威国は撃てねぇ)

 

 これだけの質量を迎撃するにはかなり足に負担の入る一撃を放たなければならない。

 それが無理なら回避するしかない。『黒猫』の足ならばそれも容易いだろうが、それでもかなりの距離を逃げなければならない。

 

 聖地の居住区を狙って落とし続けた残骸もかなりが吹き飛ばされている。

 

(センゴクの姿は確認できていたが、まさかガープまで来ているとはな……。さすがにこれ以上踏みとどまるのは不味いな)

 

 空中戦ではより自由に動ける自分が有利に立てる。

 だからこそ、自分よりも自由に空中を走り回れるクロという海賊は、手元に置きたい存在であるのと同時に最も脅威になり得る存在だった。

 

(まぁ、仕掛けるもんは仕掛けたし仕事の方は問題ねぇ。そろそろ――)

 

 バチッ、という甲高い音がした。

 乾燥した気候の中で、金属部分に触れた時に小さな火花と共に響くような音が、一回したかと思えば次の瞬間、まるでムクドリの群れの鳴き声のような騒がしさへと膨れ上がり――

 

「おいおい……まさか」

 

 

―― 偽典――!

 

 

「あんな指摘だけでもう仕上げやがったのかっ!?」

 

 

―― 威国っ!!

 

 

「斬波ぁっ!!!」

 

 反射的に、今撃てる最大の斬撃を放つ。

 同時に、自分の衣服や肌を少々焦がしてしまうのと引き換えに放った燃え盛る一撃が、黒い雷(・・・)を纏った強烈な突きによって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(最悪だ、とっさに『やったか!?』とか考えちまった! こりゃ相殺でしまいか!)

 

 間違いなく燃える残骸を使った一撃は吹っ飛ばせた。

 タイムラグを考えて最悪一度は避けられると実験がてらに撃った一撃だったが、それ自体は上手くいったようだ。

 

(斬撃だけで再現するから手間がかかるなら、先に斬撃を置いて(・・・)から強力な突きに纏わせればいい。その場の思い付きにしちゃ十分だろう!)

 

 威力はほとんど落ちていない。

 動きも最小で、労力も削れたので技としては一段階上に昇ったと見ていいだろう。

 

 問題は、猫の手なしで出せる最大火力が通じなかった場合だ。

 

 残骸を燃やし尽くさんばかりの勢いだった炎は火の粉となって辺りに散り、細かくなった残骸は力なくその場に落ちていく。

 放った『威国』は後ろにいた金獅子が放った斬撃と相殺し、轟音と共に弾けてしまう。

 

 そして――

 

 

―― ジハハハハハハ!

 

 

(……にゃろう)

 

 舵輪が頭に刺さった鶏野郎は、技がぶつかり合った時点で遠くへと逃れていた。

 

「常に予想を超えていきやがってこの野郎! ますますお前が欲しくなった!」

「だったら手の届くところまで来たらどうだ!? 手を伸ばさなきゃ欲しいもんは手に入らねぇだろう!?」

「お前の言う通りだが、さすがにそろそろセンゴク達がこっちに来る頃だからな、そろそろおさらばさせてもらうぜ!」

 

 残る残骸が全て自由落下を始め出す。

 クソが。天竜人はちょっとくらい減ってもいいんじゃないかな、と考えてしまうが犠牲になるのは弱い立場の人間の方が先だ。

 深追いすれば残骸の迎撃ができなくなるし、釣り出されて反撃を受けたらセンゴクさんやガープさんの援護も期待できなくなってしまう。

 

「一番の狙いは手に入れたしな!」

 

 ……手に入れた?

 

 奴が遠くに見える、やたらデカイ船へと向かっている。

 残るは落下しつつある残骸と……いや待て!

 

「お前!! まさか!!」

「俺の狙いは知っていただろう? もうちょっと警戒するべきだったな!」

 

 一つ、やたらデカくて綺麗な立方体のようなものが金獅子と共に重力に逆らって船へと向かっている。

 あれひょっとして!!?

 

「食糧庫!?」

 

 なんで!? というか一体いつ――あ!?

 

(俺が魚人を助けた後、なんでわざわざ地表スレスレまで追ってきたのかと思えば……っ!!)

 

 クザンから、奴の能力は触れたものを浮かせることだと聞いている! つまり――

 

(あれは俺を追ってきたんじゃなく、食糧庫に触れるためだったのか!)

 

 不味い、なんとしてでも――それこそ死んでもアレを奪い返さないと!

 

「手を伸ばしてみるか? 手を伸ばさなきゃ欲しいもんを奪えねぇだろう? ジハハ」

「待――」

 

 追いかけようと足に力を込めた瞬間、残る全ての残骸が聖地へと降り注ぐ。

 

 

 

 

「じゃあな、クロ! 荒れに荒れる、暴力と略奪の世界でまた会おうぜ!」

「金獅子――――!」

 

 




初めての戦術的敗北
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