とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

84 / 199
勢いでもっと早く投稿したかったんだが時間がかかってしまった……申し訳ない


083:黒猫による迎撃戦

「――よしっと。敵の動きはこんなもんか」

 

 ロビンかペローナがいれば、今頃とっくに敵の配置を書き込んだ地図が出来上がっているんだけど……やっぱ一人で出来る事は限られてしまうな。

 

 ただでさえ高いレッドラインのさらに高い所にいるから風強いし。

 手ぇ火傷してるから風で飛ばないように紙押さえるのもペン持つのも大変だし……。

 

「城周辺。正確には堀の外側が主戦場。特に障害物は無し。柵なんかである程度行動に制限をかけようとしているが効果は薄いと……」

 

 震える手で書いてるからかなり汚いが、状況の整理には役に立つだろう。

 

「障害物がないから、その分敵の層が厚くなって勢い負けしてんのか」

 

 ここら辺は残骸がそれほど落ちていない。

 最初から兵力で押し切る……というかゾンビ兵を展開しやすいようにしていたのだろう。

 

 いくつか、踏み越えられた防御柵の残骸が見られる。

 押し負けて後退した痕跡だろう。

 

「海兵や奴隷の死体がチラホラ見られる。つまりゾンビとしての再利用はないし回収するつもりもなし」

 

 これであの筋肉達磨がこの場にいないのはほぼ確実と見ていいだろう。

 それでも奇襲食らって影斬られるのは勘弁だから最大限警戒するけど。

 

「……海賊らしく勢いのある攻撃だが……大体わかった」

 

 

 

「切り口は見つけたけど、どうやってそこを突くかな……」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ちっくしょう! よりにもよってこの聖地でなんてザマだ!」

 

 パンゲア城北門側で、雪崩のように襲い掛かって来るゾンビの集団を相手に、CP長官であるスパンダインは部下に指揮を飛ばしながら、その顔は汗でダラダラだった。

 

「お前らしっかり気張れ! 兵隊一人でも向こう側に通したら俺達全員の首が飛ぶぞ!」

 

 比喩などではない。冗談抜きで全員の首が飛ぶ――いや、首が落とされ(・・・・)かねないと必死だった。

 いや、殺されるのならばマシかもしれない。

 事故に遭い、行方不明という形で自分達の雇い主に飼われた(・・・・)海兵や王族の悲惨な姿は死ぬほど見てきている。

 

(クソダラァ! こっちや騎士団が守ってる場所はともかく、海軍の方は大丈夫か!?)

 

 海兵に失敗してほしいという気持ちはある。

 ここで海兵が目立つ失点を出せば、自分達の身も少しとはいえ安全になるし、そもそも機会を見て海軍の失点を引き出せというのが自分達CPに課せられた任務だった。

 

 だが、今後怒りがどこに飛ぶか分からない程事態が悪化した今では、向こう側の戦況も気になって仕方がなかった。

 

(クロの奴、さっさとあの小娘連れてこっちに来い! おめぇ、現状唯一の俺達と海兵のパイプ役だろうが!)

 

 敵の首魁である金獅子との交戦に移ったとの報告は入っていたが、その後どうなったかは分かっていない。

 そもそも、その報告の直後に入ったこの軍団との戦闘、防衛線の維持で情報の収集に回せる余裕がないありさまである。

 

 

―― プルルルルル。プルルッ

 

 

「おせぇぞクロこの野郎!!」

『……スパさん、反応早すぎないですか?』

「うるせぇこの野郎、馬鹿野郎! この事態で俺に外から電伝虫掛けてくる奴なんざおめぇ以外にどこにいるんだ! 敵を倒したんだな! 倒したんだな!? そうだと言え! そうだな!? そうだよなぁっ!!?」

『スパさん、ちょっと落ち着いて』

 

 だからこそか、それまで沈黙を続けていた電伝虫が反応した瞬間、CP長官は他の副官が反応する前に自らその電伝虫を取っていた。

 

『どうにか金獅子のシキは撃退しました。ですが、食糧庫を持っていかれてしまい――』

「そっちは後からでもどうにかなる! つまりオメェは今動けるんだな!? だったら今すぐ俺達を助けろ!」

『スパさん、もう少し視野を広く持ってくださいよ……これ相当不味いですよ』

「うるせぇ、こっちは目の前の事で精一杯なんだよなんとかしやがれ! お前海賊なんだろ!? 義務を果たしやがれ!!」

『ちょっと矛盾が渋滞してますね?』

 

 西の海の加盟国モグワにて、CP長官スパンダインが敵として出会った海賊。抜き足のクロこと、『黒猫』。

 

 スパンダインからすればどうにも苦手な相手だったが、職務上『黒猫』とは会話を重ねなければならず、彼の周りに大抵控えている少女海兵と共に言葉を交わしている間に、気が付けばその少女海兵くらいしか人目がない所では、一応気軽に話すくらいの仲にはなっていた。

 

 なお、上手くスパンダインの警戒を解かせる為にペラ回しに専念していた『黒猫』は、内心舌なめずりをしていた。

 

『正直、戦力としては力を出し切って微妙ですが、それでも敵の動きを見ていて思いついた事が――』

「策があるってことだな!?」

『……はい。で、スパンダイン長官』

「なんだ!?」

『ちょっとそこら一帯を火の海にしてもらってよろしいですか?』

「よろしい訳あるかバカヤロウ!!!!!」

 

 ごーん……っと大きく口を開けて受話器に向かって叫ぶスパンダイン。

 それに対して受話器の向こう側にいる海賊は小さく、『ですよねー』と呟く。

 

「ここ聖地だぞ!? 敵に火をかけられたならまだしもこっちから燃やして回ればぶった斬られるわ!!」

『まぁ、そんな気はしていました。なら、少々疲れますがプランBで』

「駄目だと思ってたんなら一々口に出すなよ!」

『すみません、楽したい年頃でして』

 

 まったく余裕がないスパンダインと違って、海賊はこの会話を楽しんでさえいた。

 

「それで! プランBってのは!?」

『はい。敵の動きを阻害する……というよりは、敵の本質を確かめるために、ちょっとした(せき)を用意します』

「堰だぁ!? どうやって!!?」

『そのために少々用意してほしい物と、多少の人員を貸していただきたい』

 

 それから数分……どころか一分程度で説明は終わった。

 海賊が提案したのは常人では不可能な、だがシンプルな策だからだ。

 

「話は分かった。その程度ならば人員含めて回せる」

『出来るだけ急がせてください。こちらもすぐに準備に入ります』

「分かった! ……クロ!」

『はい?』

「勝てるんだな!?」

 

『無論です』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― 撃てぇっ!!

 

 

 もはや最終防衛ラインと言っていい前線で、ヒナは他の兵士と共にライフルを撃って迎撃していた。

 

(もう、先生やマンチカン少将からクロのやり方を学べと言われていたけど、こんな状況でどうしろっていうの!?)

 

 黒腕のゼファーと恐れられる男が、その二つ名の通り覇気で真っ黒に染まった腕を振るい次々に改造されたゾンビを吹き飛ばしているのだろうが、一度見た彼の実戦程の勢いがない。

 比較的開けた場所であり、全力を出そうと思えば出せるハズなのだがその拳にいつものキレがない。

 

 ここが聖地であるという事が、無意識にその拳を鈍らせている。

 

(頭……とにかく頭を狙って……っ!)

 

 本来は格闘戦の方が得意なヒナだが、銃火器の扱いも下手な海兵よりも上手く扱える。

 黒猫と出会ったあの日から調子は狂いっぱなしだと本人は言うが、近年稀にみる海軍の秀才は伊達ではない。

 

 もしこの場にクロがいれば、「なんかお前一人だけやけにキルレートというかヘッショ率バカ高いな」と呟いただろう。

 

「二等兵、弾薬の補充は大丈夫か!?」

「ハッ、不足はありません!」

 

 幸い、聖地での防衛線だけあって今の所弾薬に不足することはなかった。

 おかげでそれなりに弾幕を張って、多少は敵の足を止める事に成功している。

 

 だが、このまま敵が途切れなければどうなるのか。

 なにせ敵は、まるで無限に湧いているのではないかと思う程に途切れない。

 

(このままじゃ……堀の橋を落とせればいいけど、ソレを天竜人が許すかどうかも分からない。最悪、城門まで下がらなきゃ……)

 

 皮肉な事に、ヒナはこの戦いを以って、優秀な指揮者の有無の差を思い知っていた。

 もし、センゴクかつる中将がここにいれば、せめて連絡がたやすく取れる状況ならばこうはなっていないだろう。

 

 あるいは……あるいは……。

 

 

(クロ! 貴方、無事なんでしょうね!?)

 

 瓦礫の雨は全て降り尽くし、もはや空からの脅威はない。

 そもそも本当に危ない巨大な瓦礫は全て、遠くから飛んできた衝撃波――としかいえないものが吹き飛ばしてくれていた。

 

 何が起こっているか分からない海兵がほとんどだが、ヒナや一部の人間にはそれが誰の攻撃なのか分かっていた。

 それがクロの無事を知らせていたのだが、同時にどれだけ激しい戦闘が繰り広げられているかも伝わっていた。

 

 それが止んだという事は、どういう形であれ決着が付いたということだ。

 

(無事ならさっさと姿を見せなさいよ!)

 

 内心でヒナがそう叫んだ瞬間、それが伝わったのか戦場に新たな変化が起こった。

 空から轟音が響く。

 数名の海兵は、よもや再び空から攻撃を受けるのかと頭上を見上げるが、そこには何もない。

 

 逆に、真っすぐ敵を見据えていたものは、ソレに気付いた。

 

 船が空を走って(・・・)いる。

 上からではなく、巨大な船が真横(・・)に飛んで来ていた。

 

「総員、退避ーーーっ!!」

 

 現場を指揮している将官の声と同時に、轟音と共に多くのゾンビ兵をすり潰しながら、城の前の大広場に巨大な船が着陸(・・)する。

 

「これ、ひょっとして……!?」

 

 号令に従い、戦場に一度背を向け退避しながら、船が飛んできた向こう側を睨みつける。

 その空には、同じようにかっ飛んで来る次の船が来ている。

 

「――もうっ!!」

 

 

「行動を起こす前に報告しなさい!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「よしよし、距離、向き共に完璧」

 

 さすがにガレオン船クラスの巨船は無理だったので、それよりは小ぶりで燃えていない船――最後の三隻目の着地を確認して、ようやく安堵する。

 

(島で洞窟蹴り抜いた経験が生きたか。力に頼って掘り抜けば天井崩れそうだったからなぁ)

 

 おかげで船を壊さないように蹴り飛ばせた。

 覇気抜きっていうのがちょいと辛かったが、まぁ、問題ない。

 

(うし、形としては完璧な三角形だ)

 

 角の部分が空いている正三角形のような配置だ。

 奴らが殺到しようとしているパンゲア城の方向に、ちょうどその一角が向くようにしてある。

 

「さて、敵もパニックを起こしてる……けど流れが崩れた訳じゃない」

 

 予想通り、もう一押し必要か。

 もう動いているんだろうけど、スパンダインことスパさんに電伝虫で行動の確認を取ろうとしたら、その電伝虫が鳴りだした。

 

「ん、向こうから来たか……スパさんかい?」

 

 

『――この馬鹿!!!! 何か仕掛けるなら仕掛ける前に言いなさいよ!!!!!!!!』

 

 

 ……ヒナのほうだったか。

 

 

「とりあえずは無事でよかった。そっちはどうだ?」

『どうもこうも! 突然船が飛んで来るから部隊を少し下げたわよ!』

「ゾンビ兵は雪崩れ込んできてるか?」

『……いいえ、向こうもちょっと混乱しているみたい。おかげでこっちも部隊の再配置が完了したわ』

 

 うん、よし。読んだ通りだ。

 

「ヒナ、先ほどCPと連絡を取った。おそらくそろそろアクションを起こす頃だから、出来るのならばそのままそちらの状況を伝えて欲しい」

『それはいいけど、何をするの!?』

「なに、すぐに分かる」

 

 そうこうしている間に、気配が動く。

 CP数名だろう。

 さて……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「本当にこんな事でこれだけの数を止められるのかしら?」

「何もないよりはマシだろう。しっかり打ち込んで固定するぞ」

 

 黒猫という海賊が、蹴りで飛ばしてきた船三隻。

 その内、最もパンゲア城に近い所に飛ばされた船――ちょうど帆先が城門へと向けられているその二隻に、仮面を付けた男女数名が近寄り、作業を行っている。

 

「敵が流れを乱せば、狭まったここに一気に雪崩れ込む。急げ」

 

 そうして彼らがやっていることは、何という事はない。二つの帆先の間――まるで出口(・・)のようになっているそれの、大量の鎖での封鎖(・・)だった。

 

 鎖をしっかり括りつけた金属製の杭を、それぞれが得意な六式の技を用いて船に叩き込んでいく。

 

「失敗した所で、この場所でなら責任は海軍と、策を立案した黒猫とかいうふざけた海賊の物だ。むしろ失敗してくれた方が後々やりやすい」

「あら、海軍はともかくあの海賊はいいじゃない。強いし、五老星が惜しむくらいの切れ者、それにあのキレイな顔……ふふ、数年後が楽しみ」

「いいからさっさと仕上げるぞ。タイミングを損なうな」

「はいはい」

 

 

―― ビビるな! 俺達の体の頑強さは常人の何倍もある!

 

 

―― 城の中のモノを根こそぎ頂け!!

 

 

 多くのゾンビ兵士が、雄たけびを上げて再び進軍を開始する。

 船という障害物こそ出来ているが、それでも軍隊が動くには十分な広さがあり、むしろ軍団はより勢いづいている。

 

 それを見て、仮面を付けた二人組の男の方は小さく鼻を鳴らし、懐から取り出した石を杭へ思い切り叩きつけた。

 勢いよく火花が散り、その火花は鎖へ――鎖によく塗り込んでいた油に熱を加えた。

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

 

「……なるほど。ゾンビの兵隊は燃えやすいのか」 

 

 火が付いた鎖に押し付けられた先頭のゾンビ兵達は瞬く間に火に包まれ、その火が後続の兵士達へと飛び火している。

 

「片っ端から火だるまになっているわねぇ」

「とはいえ、それだけだ。このまま雪崩れ込めばこの程度の鎖の封鎖なぞ簡単に破られる。せいぜい、少し数を減らした程度で――」

 

 

 

 

「……なに?」

「あらあら」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クロ、貴方の火計で敵の兵士の足が止まったわ! というか、混乱して逆走しようとしているゾンビが多数出てる!」

 

 いつの間にか現れた数名の男女が、クロが蹴り飛ばしてきた船に仕掛けをしてきた。

 鎖による封鎖と炎上網。おそらく鎖にも油か何か仕掛けていたのだろう。

 

 そして、たったそれだけの工作で、途端にゾンビの軍団は混乱に陥っていた。

 

『あぁ、やっぱり。念のための迎撃プランは必要なさそうだな……』

「どういうことなの!? たったあれだけの炎上網でこんなに崩れるなんて……」

『要するに、あの軍団は海賊じゃないんだ』

 

 自分達が苦戦し、多くの兵士が倒れながらも止められなかった軍団が、工作一つで容易く崩れ出したのを見て、周囲の将兵は呆気に取られている。

 

 そしてその答えを聞こうと、電伝虫の向こう側にいる海賊の言葉に耳を傾けている。

 

『死体を集めてちょいと手を加えるまではなんとかできても、問題は動かす影』

「影?」

『このゾンビ共の人格のベースは、影の持ち主なんだ。で、それだけの数の影をこの半年でどうやって集めたかとなれば』

「……西の海で攫われた人達!」

『そう。つまり、ゾンビ兵として指示に従うようになったとしても、その本質は戦闘はおろか暴力にもなじみが少ない民衆』

 

 

『繰り返すが、こいつらは軍勢じゃない。どちらかといえば暴徒に近い連中だ』

「……暴徒」

 

 

 知識にはあるし、どういうものかも知っている。

 だが、海軍として相手にすることは珍しい相手だ。

 

 近くにいた本部の中将が、小さく呻く。

 

 

『痛覚がないのだろう体に加えて周囲に同じ方向に向かい、そして同じ行動を取っている味方がいるという集団心理が奴らの突進力の正体(なかみ)だ』

 

 電伝虫から聞こえる声は、いつものクロに比べて疲労の色が濃い。

 

『一体一体潰した所で止まらない。止めるには、人による銃撃や暴力よりもより根源的な恐怖である炎が一番効果がある。なにせ、連中の体の最大の弱点の一つだからな。目の前で大勢が燃えて倒れればそりゃビビる』

 

 半ば付き人をしているヒナは、クロがこの二日で十五分しか寝ていない事を思い出した。

 

『ヒナ、周囲の将校に、船の囲いから外れた奴の掃討を上申してほしい。炎の恐怖から遠い奴らでも、船という壁の向こう側で何かが起こっていることは感じているハズ』

 

 実際、こっちから見ても足が鈍っているしな。というクロの言葉通り、言われてみれば応戦している兵士たちは余裕が出てきている。

 

 中将や少将が踵を返し、掃討戦の指揮を執りに向かう。

 

「大丈夫、今本部の将官が指揮に向かったわ」

 

 

『よし、それじゃ後は任せ――』

「それで、次はどうすればいいの!?」

 

 

 

 

 

『…………ん?』

「え?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「センゴク、ガープ」

「分かっておる、空気が変わった」

 

 えらく強力なゾンビ兵士たちをそれぞれ四十は倒した所で、自分達のはるか後方――パンゲア城のあたりで氣勢が大きく変わったのを、三人は肌で感じていた。

 

 必死に応戦する兵士の氣勢ではない。

 殺し合いという熱に浮かされながらも、一定のルールを以って交戦を続ける軍隊の氣勢だ。

 

「クロか! わははははは! つくづく海賊であるのがもったいないのう!!」

 

 三つの失策がここまで状況を追い詰めていた。

 一つは、今回の会談に於いて政府を刺激しすぎないように、海兵の数を減らしていた事。

 そして同じ理由で、高い実力を持つ本部将校をマリンフォードに置いていた事。

 最後に、敵がシキだけならば初手の残骸による攻撃から聖地を守ればクロに合流できると、真っ先に残骸の迎撃に自分達が出てしまった事。

 

 そのために指揮が分断され、後方を守っていた中将たちに任せざるを得なかった。

 

「センゴク、気を抜くな! デカいのが来るぞ!」

 

 とうの昔に改造されたものはおろか、兵隊ゾンビも出てこなくなったガレオン船が二つに割れ、ゆっくりと何かが動き出す。

 何をどうやって作ったのか、巨人族に匹敵する大きさを持った、ゴリラのような体毛を持つゾンビだ。

 

「……コイツの中にも火薬が詰められているかのう?」

「おそらくな。中にギッシリ詰まっておれば、下手に倒せばかなりの被害が出る」

「かと言って放っておけば、せっかく持ち直した前線が崩れかねない。止めるよ」

 

 おつるの言葉に、二人も続いて頷く。

 この巨兵以外にも、数が減ってきたとはいえやっかいかつ下手に攻撃できない敵が多くいる。

 

 後方で戦う兵士達のためにも、ここは死守せねばならなかった。

 

「クロ坊や……頼んだよ」

「センゴク、おつるちゃん、中型の連中は任せた」

「あのデカブツをやる気か!?」

「なに、やりようはある」

 

 

 

「上手くやれば、ひよっこ共やクロへの援護に使えるからのう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『キャプテン・クロ! 炎上網から抜けてきたゾンビ兵との交戦、開始しました!』

 

 はいオッケー、そのまま押し込んで押し込んで。

 

「そのまま前進してください。敵兵は真っすぐ後ろに逃げようとすれば、後方の船が壁になって逃げ場に迷う。結果、逃げ場である二つの出口ではより大きな混乱が起こります」

 

 うん、こっちでも見えてるから間違いない。

 出口となる三角形の底辺部分の二角では、船の中を避けて両舷側から攻めようとする軍勢と、囲いから逃げようとする兵士で混乱が起こっている。

 

 ちくしょうヒナの奴、無駄に手際よく連絡網整備しやがって……。

 おかげで仕事が増えやがった。

 

 頼むから、頼むから寝かせてくれ。

 

「ゼファー大将。そちらから見て、逆走する兵隊の中でその場に留まろうとしている、浮いた兵士がいませんか?」

『うむ、数名確認した。……指揮官か?』

「というよりは誘導役でしょう。混乱を抑え切れない以上指揮の腕は大したことないようですが、放置すると面倒です」

『了解した、優先して潰そう』

 

 助かる。混乱しているとはいえそこは思いっきり敵陣の中だから、単独で強い駒じゃないと押しつぶされてしまう。

 

(混乱の方向を逸らしただけで、まだ暴徒のまんまだからなぁ)

 

 あんまり燃やしたくないと言われるし、出来るだけ意向に沿った上で被害を最小に抑えるには……まぁ、こんな所だろう。

 

(火薬仕込まれた工作兵の対策も兼ねた囲いだけど、思ったよりも数が少ないな。これなら広場の被害も想定より下か)

 

 というか、なんで俺またこんな事やってるんだろう。

 指揮系統立て直す前の海賊連合騒ぎの時といい、海兵君達みんな素直過ぎるだろう……。

 よく海賊の指示に従ってくれるな。

 

(……そういえば来ていた将校、一部を除いてそんなに圧を感じなかったな。……おっと)

 

「アーフェン准将の部隊は敵の牽制をしながら後退。補給に入ってください。シーズー大佐、ノーリッチ大佐は代わりに前に」

『待て、黒猫! 我らはまだ戦える!!』

「承知しています。ですが、部隊の残弾がそろそろ三割を切る頃でしょう」

『我らは精鋭だ! 各々の手にサーベルさえあれば――』

「想定よりも数が少ないとはいえ、火薬を仕込んだ工作兵がまだ紛れている可能性があります」

『……っ』

 

(急な編成で繰り上がったタイプかな……前線での仕事に慣れ過ぎてる)

 

 今までの防衛戦と違い、押し返して攻勢に転じた今では補給タイミングの重要度が跳ね上がってるんだがなぁ。

 

「准将、戦闘には心理戦の側面があります。今でこそ混乱を煽り敵を切り崩しましたが、追い詰めすぎると再びガムシャラな一点突破に流れかねません」

『なればこそ!』

「ここで下手に工作兵を叩き、その爆発で部隊に負傷者が出れば暴徒はそれを突破口と見なしかねません」

『……だがっ』

 

 ん~~~~~、まだ納得してくれない……コンバットハイか? なら――

 

「准将の部隊には、弾薬を補給し万全に戦える状態を整えた上で、後々状況を決着させる後詰を任せたいのです」

『後詰?』

「軍勢との戦いはおおよそ決着が付いています。ここからは、いかに被害を抑えながら敵を鎮圧するかの戦いです。准将の部隊には、そのトドメになりうる一戦をお願いしたい」

 

 嘘は言っていない。いないですよー。

 ただし、ここから戻って手持ちのライフルの弾の補充に刀剣の簡単な洗浄、軽傷の簡単な手当となれば……。

 

(最低でも十五分は休ませられるな。前後の移動時間もあれば、少しは熱を引かせられるだろう)

 

「なのでここは一度後退し、兵たちの調子を可能な限り万全にしてもらいたい。これ以上兵士達に被害はおろか、出来る事なら負担も残したくないのですよ」

 

 さて、どうだ?

 

『……了解した。後退する』

「ご理解、感謝します」

『クロ殿、我らは押し込めばいいのか!?』

「はい、大佐二名の部隊はそのまま前進。ただし、相手との間合いに気を付けてください。アーフェン准将の退路を挟んで守るように前進、追撃をお願いします」

『承った!!』

 

 うん、今更だけど承っちゃダメだよね。

 ……ホントに今更だけど。

 

 というか、戦場の中で一々コミュとって信頼取らなアカンのが面倒くさい。

 何度も何度も何度も何度も思うけど、ここに親衛隊が数名いるだけでかなり違ったなぁ。

 

(せめて、西の海で一緒に戦った海兵達なら……)

 

「スパさん、そっちはどうです?」

『こっちに流れる兵隊はかなり減ってる! どうする、押し込むか!?』

 

 悪くない。ここでCPに側面を突いてもらえば……あぁ、いや――

 

「今は囲いを利用して軍勢に混乱を起こしているからです、一歩間違えば統率を取り戻しかねません」

『そうか……ならどうする?』

 

 ……そうだなぁ。

 

「ゆっくりそちらの前線を押し上げ、戦線に余裕を持たせるのと同時に、通常戦力を少しお借りしたい」

『あぁ? そりゃ、こんだけ状況落ち着いてんなら別に構わねぇが……役に立つのか?』

「はい。そして彼らを、パンゲア城方面の弁になっている船二隻に上げてもらいたいのですが」

『船の上? ……そうか、高所から!』

「ええ。火計策の規模を最小のモノにしたので、それを補うために高所からの銃撃で暴徒に圧を加えたいんです」

 

 よし、対してこっちはある程度信頼を得たおかげもあって話が早い。

 これで背中を警戒する必要なければもっと楽なんだけどなぁ!!

 

『滅茶苦茶燃やすわけにはいかねぇが、火炎瓶程度なら使わせられるぞ! 囲いの中なら火が広がるのも抑えられる!』

「お願いします」

 

 いやぁ……、まさかスパンダインを頼りに思える日が来るとは。

 ロビンの事を考えると滅茶苦茶複雑なんだけど。

 

 さて……

 

(CPや政府戦力が動いてくれれば、混乱はもうしばらく続く。ゼファー大将のおかげで扇動、誘導役は潰されていっている。改造ゾンビが確認された範囲には、最低でも本部佐官クラス三名を配置。兵の損耗を考えると、余裕を持たせるためにももう少し後押しが欲しいな……気絶覚悟で一撃ぶっ放……いや駄目だ、一回指揮役になった以上、最後まで気を失うわけにはいかねぇし……)

 

 その時突如、聖地上空――かなり高い、それこそ俺がシキとやり合ってた程の高さの所で突如轟音と衝撃が炸裂した。

 

 完全に油断していたので敵の――あの腐れニワトリジジィの攻撃かと構えるが、空にはとんでもなくデカい花火が上がっている。

 

(……アラバスタのアレみてえ……ってか、これは……)

 

 その少し下の方で、ガープさんの気配がする。

 纏ってる覇気が強すぎるせいか、なんか見聞色が上手く働かないというかブレて感じるが。

 

(いやいや、ボーッとしてる場合じゃねぇな。仕事はキチンとこなさないと)

 

 これはチャンスだ。一気に畳みかけられるかもしれん。

 電伝虫を個別ではなく、オープン回線に切り替えて叫ぶ。

 

 いやもうキッッツいけど、士気を上げるにはこういうのが大事だからなぁ。

 

「海兵諸君! 敵の切り札は元帥センゴク、並びにガープ、つる両中将によって破壊された! もはや敵勢に状況を覆す札はない!!」

 

 切り札かどうかは知らんけど、まぁ間違ってはないだろう。

 少なくとも、あれだけのデカい花火が無駄撃ちに終わった以上、同じものが複数ない限りもう意味がないのは事実だ。

 

 仮にあったとしてもセンゴクさんとガープさんいりゃどうとでもなるだろうし。

 

「残るは敵を殲滅するのみ! 決して焦る必要はない! 指示した通りに包囲を狭めれば負ける事は断じてない!!」

 

 これで一気に突撃で片が付くならそれに越したことはないけど、こちらの戦力的に物量勝負に持ち込むと被害デカくなる。

 

 どれだけ敵に動かせず、一方的に殴るかが大事だ。

 

「ウィペット中将の隊はその場で一時待機! 混乱を深めるだろう敵の動きを見てから対応を」

『了解した』

「アーフェン准将、現在地は?」

『ちょうど後方に辿り着き、補給と手当てを急がせている所だ』

 

 お、おう。

 別にゆっくりでいいんだけど。

 

「補給と治療を終え次第、南西の巨大な噴水があるポイントを固めて頂きたい」

『そこに敵が来ると?』

「今はまだ。ですが、敵が完全に混乱した場合、もっとも雪崩れ込みやすいのはそこです」

『分かった。だが、敵が雪崩れ込むとなると私の隊だけでは不安がある』

 

 だよね。

 えぇと、待て待て今一時後方に回してる部隊は……シェット准将は南門側への守りの要になる隊の一つ、スタッフォード中将……個人の実力は低いほうだけど機転の速い人だから前線の維持を任せたい、リタニー少将は部隊の編制が近接寄り……あとは……

 

「ペンブローク大佐、並びにワイアード大佐、動けますか?」

 

 判断こそ遅いが指示を忠実に守るタイプの二人がいいだろう。

 俺の目が届く範囲での防衛ならば特に使えるタイプだ。

 

『黒猫か、こちらは問題ない』

『兵士の手当ても終わりました。いつでも出動できます』

 

 よし、行けるな。

 

「アーフェン准将の補給と治療が終わり次第、彼の援護をお願いいたします」

『承知!』

『了解しました』

 

『クロ! 南西側の出口の敵兵がこっちに流れ込みそうよ!』

 

 分かってるわヒナ! 対策は済んでるから安心しろ!!

 

「大丈夫だ。キースホンド中将がすでに守りを固めている。それが崩せないと知れば敵は更に散る。三班、五班はキースホンド中将の後背に待機。戦闘が始まってから敵勢の側面を突いてください」

 

 もうホント……

 

 これ絶対復興も多少は手伝う羽目になるんだろうなぁ。

 

 頼むから休ませて、休ませてクレメンス。

 

 

 

 

 

 

 結局、敵の掃討まで更に二時間の時間を費やす羽目になった件について。

 何が聖地だ、こんなん地獄じゃねぇかチクショウ……

 

 




CPのモブはモブのつもりなんですが、女性の方はちょっとだけステューシーに寄ってしまった感ある
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。