黒猫海賊団の実質本拠であり、最大の拠点であるモプチ。
その王城からやや離れた所に設けられた、やけに頑丈に造られた巨大な地下室。
黒猫という海賊の支配に慣れてきたモプチの住民にとって、海賊とマフィアの街であるシャムロックよりもはるかに恐怖の象徴。
罪人と見なされた人間が連れていかれる収容所。牢獄である。
幸いな事に黒猫が支配を行ってからは、造られたものの大した回数は使われていない。
せいぜいちょっとした窃盗犯が入れられるくらいで、その入れられたのも調子に乗ってしまった黒猫の新入りだけだった。
「俺の見張りがお前とはな、海兵狩り」
「貴様を捕らえるように指示したのは俺だ。その責は取らねばな」
ここモプチは、繰り返すが黒猫の本拠地である。
ミホークがロビンの指揮の下で開拓に当たっていたキャネット島とは違い、今の黒猫の持つ資材や研究成果を最も潤沢に使える場である。
「ふん……さすがの俺も、この状況じゃあ手も足も出ねぇよ。海楼石の錠をこうも使われてはな」
「油断はせぬ。貴様に一度勝ちはしたが、あれは親衛隊の援護があったからこその勝利」
つまり、クロや工作班が試行錯誤した海楼石製の品がある程度自由に使えるという事である。
「クロコダイル……だったか。貴様はしぶとい海賊だ。俺はもちろん、親衛隊もお前に対して慢心はないと思え」
ただの牢屋ならば平然とすり抜けられるだろう『スナスナの実』の砂人間である海賊の手足や首に嵌められている、少々歪な枷のように。
「まぁ、貴様が政府の意向を受けた訳ではないのはなんとなく分かった。貴様ほどの海賊を動かし失敗したのであれば、とっくにクロの方になんらかのアクションがあったハズだからな」
「貴様らご自慢の総督殿か。クハハ……一度面を拝んでみてぇな。今ここにはいねぇのか?」
「今は聖地で政府、海軍の折衝に手を貸している。いつもならばそろそろ定時の連絡が来るハズなのだが――」
「……それは……海賊か?」
「海軍はともかく政府にはことさら危険視されている。海賊には違いあるまい」
「…………そうか」
海賊は囚われの身であるにも関わらず、口に葉巻をくわえている。
敵として打ち破ったのだが、一対一の勝負ではなかった事に加えて、間違いなく強者である事へのミホークなりの敬意の差し入れである。
―― ホロホロホロ、なんだかんだでお前ら話が合うようだな。
そうしていると、扉の方ではなく天井から少女の声がする。
それと同時に、スゥ……っと日傘を差したままの幼女が、天井を
「む? お前がここに来るとはな。どうした、ペローナ」
「アタシだって、ロビンを狙ってきたって海賊には興味ある。それも、お前ができるだけ見張りに付くくらいに強いんだろう?」
鋭い剣気がその身にこびり付いているにもかかわらず存外面倒見がいいミホークは、生徒である親衛隊や一部の兵士の他にもペローナやロビンといった年少組とも良好な関係を築いている。
「あぁ、ゴースト娘か。そういえば手配書が出ていたな」
「ペローナだ! ……まぁいい。ミホーク、クロから定時連絡が入ったぞ。忙しいみたいで話すだけ話してすぐに切ったけど」
「珍しいな。大抵ロビンやアミス達と少しは会話をしているのに」
「余裕がねぇんだろ、滅茶苦茶眠そうな声だったぞ」
「それで、なにがあった。お前がわざわざこちらまで顔を出したという事は、なにか動きがあったのだろう?」
「おう。なんでも、聖地が海賊に襲われたらしいぞ」
ペローナの口からさらりと報告されたとんでもないニュースに、ミホークとクロコダイルの眉がピクリと動く。
「聖地襲撃だと? クロの事だ、防衛のために交戦しただろう。何者だ?」
「金獅子のシキって奴だ。アタシはこの間の戦いで運び屋やってた奴としか知らねぇんだが、お前ら知ってるか?」
「…………っ」
「金獅子だと?」
檻の中の海賊、そしてミホークは
「ゴールドロジャーと渡り合った大海賊だ。そうか、奴の能力なら……クロは無事だったのだな?」
「おう。なんとか撃退したけど、実質遊ばれていたから今度はぶちのめすって言ってたぞ。あぁ、おまけに以前ウチらが戦った筋肉達磨と手を組んだとか」
「筋肉達磨? ……あぁ、例の」
「おい、海兵狩り。どいつの事を言ってるんだ?」
「俺がここに来る前の話だが、ゲッコー・モリアだ」
「――っ。カイドウとやり合った海賊か」
クロコダイルは、内心で黒猫という海賊団に驚いていた。
西の海で根を張ろうとしているようにしか見えない海賊団にしては、その戦績が驚愕に値する代物ばかりだったからだ。
(海兵狩りが、なぜ四つの海でちんたらしているのか不思議でたまらなかったが……)
出入口に交代で控えている兵士達が、自分の砂嵐を斬撃のみで吹き飛ばしたあの兵士に勝るとも劣らない精鋭揃いであることは、身のこなしや気配だけで分かる。
(顔を見る限り、最低でもこの島に十名。あの島にいた銀髪の女はさすがに頭一つ抜けていたが、それでも下手な海賊団の頭くらいにはやれる連中が集まっている)
その全てが覇気使い。
鉄格子の向こう側でテーブルに着き、大量の紙とインクを使い何かを書き続けている『海兵狩り』から剣を叩き込まれている精鋭集団。
(親衛隊と呼ばれていたな。……なるほど、確かに使える駒だ)
見通しが余りに甘かったことをわずかに恥じながら、この海賊団の実力に感嘆していた。
(……あの時に、これだけの手勢がいれば)
海賊は先日、敗れていた。
海賊、白ひげ。生きる伝説。
海賊王亡き今、世界最強の海賊に。
(古代兵器のような強力な切り札もそうだが……優秀な手駒も必要か)
もし、自分の手元に親衛隊のような精鋭がいれば。
クロコダイルが檻の中で静かに考えを張り巡らす中、
「で、シキってヤローは追い返せたが天竜人の食糧を根こそぎ奪われたらしい。直接口では言ってねぇが、それを受けて政府や海軍がどう動くか分からねぇから警戒しておけって事だろ」
「……クロの事だ。囚われるようなことはないだろうが、真っすぐ戻っては来られんかもしれんな」
書き込んだ紙の束をまとめて軽く紐で縛り、紙袋の中に詰めて海兵狩りは立ち上がる。
「親衛隊もここに集結していることだ。久々にハックと共に親衛隊希望の連中をしごくとしよう。中にはクリス程とは言わずとも、アミスやトーヤに近づきつつある者もいる」
「おう、そうしとけ。ダズやハンコックも船の装備を確認し直してる」
「……ところで海兵狩り。その紙に書いていたのはなんだ?」
「む? 黒猫の兵士向けに、開拓や農耕作業、それに山賊狩りなどの経験で役立ったことや気にかかった点を纏めて本にしていた所だ」
「…………」
「…………」
「? クロが書いた戦術教本があれだけ役に立っているのだ。こういう物も残しておいて損はあるまい?」
「……そうか」
「いや、まぁ、ハンコックも海戦や開拓の記録をまとめて読み返せるようにしてるけどよぉ……本?」
「? 分かりやすく書いているつもりだぞ?」
「……ミホークお前、クロをぶった斬った奴なのに、気が付いたら完全にウチに染まったなぁ」
「お前ら、どういう海賊だ?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ヒナ、天竜人の日常での食料消費量の統計資料、どこにやったっけ?」
「あっ、ごめんなさい。興味本位で私が読んでたわ」
「……頭痛くなるだろう?」
「痛くなるし、痒くなるわね」
「お前ら、ここが臨時でクロにあてがわれた執務室っつっても聖地の中だって事を忘れるなよ?」
「うふふ、そうでしたっけ?」
「……うふふって、クロお前……」
あらあら、そういえばそうでしたね。
ここはあのクソ共がいるクソみたいな土地のクソみたいな城の中でしたね忘れてましたわフフハハハハ……。
ハ…………。
(…………おい、小娘。クロの奴、そうとうキテねぇか?)
(政府が本題の交渉以外の仕事押し付けるからでしょうっ? あれからもほとんど寝てないのよ!? 海賊になにやらせてるのよ!?)
(おめぇだってクロ中心に海軍の指揮系統立てたじゃねぇか……っ!)
(あの時はそれが最善だと思ったのよ……っ!!)
(俺だって五老星からの指示通りに動いているだけなんだよ!)
(突っぱねなさいよ! ヒナ、不服よ!?)
(出来るかぁ!?)
いいからお前ら手を……いや頭を働かせてくれ。
ここで下手に政府に丸投げしたら、滅茶苦茶な奴隷補充とか食料の強制徴収とかやりかねん。
なんとか可能な限り外への影響を最小にする復興プラン組み立てて、それを通すための五老星と海軍の理解を得なきゃ……なるだけシンプルで分かりやすい計画書の作成に根回しに……あぁ、場合によっては最大限の安全の確保を確約した上で人足を雇わなきゃならないから、そのルートも当たらなきゃ……でも天竜人の悪評はどうしようもねぇし……あっと、そうだ。
「スパさん、残骸の撤去と資材回収作業の方はどうなってます? 一応戦闘終了の後に一度視察してきたけど、現状が分からねぇ……」
「あーーーーーーー……それなんだがな、クロ」
やめてスパさんお願いホント頼むから。
その言い方はなんかトラブル発生してるってことでしょ……。
もうやめて……なんとか一時間だけ寝れたけど胃が死ぬ……。
センゴクさん……も走り回ってるしおつるさんも可能な限り調整手伝ってくれるし……。
ガープさんは現場であれこれ仕切ってくれてるし、
(ぐ、愚痴をある程度零せる相手がここにいる二人しかいねぇ……)
というかそもそも、人手が致命的に足りん上に中途半端に権力持ってる馬鹿共が邪魔すぎる。
復興作業に着手した海兵達に当たり散らすわ憂さ晴らしに生き残った奴隷を虐待した上に酷使させて現場の士気をだだ下がりさせるわ顔の良い女海兵に無茶言った挙句に手ぇ出そうとするわ……なんとか即強硬手段に出そうなガープさんを押さえながらスパさん経由でCPの連中使って処理して回ってるけど、アイツらへの殺意消すのが大変で大変で胃も心も死ぬ……死んじゃう……。
五老星だけならまだ話が付くんだがホントあいつら!
本来こういう時に働き手になる奴隷もかなりの人数が亡くなってしまったし、気の早い天竜人はシャボンディやらのヒューマンショップに出掛けたらしいし死んでしまえ。
「天竜人の皆様は、焦げた臭いがこびり付いた家なんて耐えられないと……残骸全て撤去して、どうにか無傷で済んだ屋敷も潰してすぐに建て替えろと」
「……まぁ、想定内です。
「明日までに……って言われてるんだが――」
「ふざけんなボケカス共がしばきまわすぞオ゛ル゛ァ!!!!」
「おい馬鹿止めろ! 小娘、クロの口塞げ――知らねぇ顔してんじゃねぇ! 俺らの首が飛びかねねぇんだぞ!? 物理的に!!!」
アイツらホント作る事がどんだけ大変なのか分かってんのかあぁん!!?
そもそも突然の襲撃かつ復興作業なんざ、突然緊急の計画が生えたようなもんで手配や根回しゼロ! 人手とかどうすんだよ!
奴隷とかいって適当な人間集めて無理やり働かせても上手くいく訳ねぇんだよ!!
大体効率悪いだろう!!?
「ちょっと五老星に説得材料まとめた手紙ってかレポート書くんでスパさん、後で渡してきてください」
「気安く言うな馬鹿野郎! 五老星だぞ!?」
「一番の面倒事を押さえられるのがそこしかいないんで仕方ないでしょう。ヒナ、棚から緑色の七番と黄色の三番のファイル取ってくれ」
「え? えぇ……でも何の資料なの?」
「燃える前の聖地の地図やら測量やらの奴と、ここ五年の天竜人の購入や搬入した物の帳簿だ。三年前にカマエル聖が屋敷を建て直してたってCPの人間から聞き出している。そこらのデータからおおよそかかる時間やら資材量やらは計算できるだろ」
「……持ち込まれた資料、全部覚えたの?」
「さすがに中身までは無理だけど、大まかには」
もう時間がない。
下手にここで時間をかければ肝心の政府に海軍への謝罪をさせて両組織の関係を仕切り直して、せめて四つの海の治安だけでもある程度回復するという計画がおしゃかになってしまう。
また海軍が政府へのヘイト溜めちゃいかねない事態だ、せめてその前に政府は海軍と上手くやっていくつもりがあるという姿勢を見せたい。
……っていうのは政府としても同じだと思うんだけどなぁ!!?
(目指しているものが不透明すぎるから信頼できないって事にいい加減気付いてくれ!!)
せめてこの緊急事態に好き放題しかしない馬鹿共の手綱握っておいてくれ!
「はい、クロ。でも、手は大丈夫?」
「紙をめくるくらいは問題ない。ただ、手紙となるとさすがに綺麗な字を書く自信がない。悪いが代筆頼む」
「分かったわ」
まさかアウェーの環境下での戦闘手伝った後に政治の仕事が生えて来るなんて誰も思わんじゃろがい!?
いや、そもそも戦闘が起こるなんて事自体予想の外も外だけど!
あの鶏野郎見てろよ!?
今度はぐっすり眠ったうえで猫の手といつもの靴装備して相手にしてやる!
あの戦闘でいくつかお前の弱点見えたからな!?
「……うげぇ、屋敷一つにそこそこの面積使うな……必要資材量も相当なものになるけど……」
「実際、どれくらいかかりそう?」
「普通なら年単位」
「奴隷集めて来て死ぬほど働かせる、じゃダメなのかよ。クロ」
スパさんの発言にヒナがジロリと睨むが、実際選択肢には十分入る意見だろう。ただ……
「物資だって問題ですよ。搬入にかかる時間と手間。それに、奴隷を使った所で不慣れな人間を無理やり労働力にすれば、天竜人が満足する屋敷が建つとは思えません。必ず細かい粗が出てしまう物です」
ただでさえ今の天竜人は家を失ったり……癪だが奴隷といった財を失ってストレスフルな状態だ。
ぶっちゃけなにをやっても気に食わないだろう。
そんな中で下手な仕事をして、無駄に手間や被害を増やしたくない。
(……いやそもそも、本題の一つである両組織の関係修復という面ではどうするべきかな。現状、ここまでの交渉では海兵奴隷の件を前面に出して、政府側に数歩引かせられそうな手応えを得ていた。ここらで海兵側もどこかで一歩譲るアピールは必要か)
聖地復興は、いっちゃなんだがいい機会である。
聖地を守るために海兵も頑張ったんだし、センゴクさん達も通常戦力では迎撃が難しい一団の鎮圧に活躍してくれたし……いやホント……見てないけどヤベェデカブツがいたらしいしな。
(かといって奴隷絡みの仕事を海兵に任せるとか鬼畜の所業だし、それ以外で政府側からポイント稼げそうな仕事……)
「よし、まずはセンゴクさんから動かそう。ヒナ、俺がささっと文面を書くから、それを清書して元帥に届けてくれ」
「ええ、分かったわ」
「クロ、俺はお前の手紙待ち以外は特になしか?」
「……奴隷ではなく、労働力を雇う方向で計画を出します。そのために、現状で天竜人以外で生き残った奴隷や警備がどういう状況なのか正確に知りたいので、私と海兵、そしてCP数名での合同視察の手続きをお願いしたいのですが」
「構わねぇ。今からならそうだな……。明日の昼ごろの時間なら用意できると思うがそれでいいか?」
「ええ。すみません、お願いします」
えぇと、さて…………。
…………。
あれ? 何をする所だっけ?
…………。
あぁ、そうだそうだセンゴクさんへの手紙だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「で、ヒナちゃん経由でクロ坊やから手紙かい」
「うむ」
「なんじゃ、クロの奴も細かいことをするのう。直接顔を出して話せば良いのに」
「馬鹿だねガープ。文書として残すことに意味がある事もあるんだよ」
金獅子のシキによる襲撃の事後処理でバタついている海軍の詰所では、センゴクが想定していたほどの被害が出ていなかった海兵達が慌ただしく動き回っていた。
「それで、クロ坊やはなんて?」
「うむ」
センゴクが読んでいたのは、いつものクロの文体――だが、文字はクロに比べて少し小さい手紙を、テーブルを囲んでいたつるやガープへと回す。
「復興の労働力に、奴隷ではなく一時的な労働者として各海の建築家やその作業員を雇う形にするべきだと五老星に提案、説得をするつもりらしい。そのための下準備や、海軍のツテでの協力要請だな」
センゴクの言葉に、ガープはさぞ愉快だと豪快に笑い飛ばし、おつるは小さくため息を吐く。
「働き者だね。まだ体調も万全ではないだろう?」
「うむ、ヒナには彼を休ませるように言いつけて、護衛としてゼファーも付けたが」
「ああ、それがよかろう」
ゾンビ兵を片づけ、ようやく兵士たちと合流できた時にはすでに再編成を終わらせ、瓦礫の撤去作業に入りながらいつでも指示を受けて動けるようになっていた。
話を聞けば、クロの指示だったそうだ。
おそらく西の海での一連の活動で、こういう事態での海兵の基本的な動きを理解していたのだろう。
「この一戦では、あまりにもクロを頼り過ぎた。面子の問題もあるが、ここで我々海軍が折衝の矢面に立たねばならん」
「……それはそうだけど……政府はどうも、海軍よりもクロ坊やを重視しているように見える。ここで海軍が主導権を握るには、どうしてもあの子にテコ入れしてもらわないと難しいよ」
おつるの言葉に、今まで愉快気だったガープはわずかに顔を歪め、
「ヒナ嬢だけではなく、ゼファーも付けたのは正解じゃな。あのクズ共、儂に何と言ってきたか知っとるか?」
「ガープ、ここは天竜人の……いや、いい。それで、なんと?」
「儂にクロを捕らえろと言うてきおった」
センゴクやおつるの顔がわずかに引き攣り、近くで作業をしていた海兵達も一瞬言葉を失った後にザワつきだす。
「……本当か?」
「最初は、奴が船を蹴り飛ばして広場に被害を与えた事に文句を言っておるのかと思ったが……」
話しているたびにその時の腹立たしさが蘇ってきたのだろう。
菓子箱から煎餅を一枚摘み、乱暴に一口齧る。
「クロの戦いをこの城から見ていたらしい。奴の戦いは空中戦だったからのう。それを見て、クロがいい奴隷になると思ったのじゃと」
「馬鹿な……っ。明らかに自分達を守った者ではないか!」
「ふん。恩という言葉が奴らの頭にあるのならば、海兵奴隷事件なんぞ起こっておらぬ」
センゴクの頭は、最悪の事態が起こり得る可能性について考えていた。
「奴らめ、挙句の果てには本人もいない所で、誰がクロを買うか勝手に競りを始めよって……思わず儂が聖地を破壊する所じゃったわい」
すなわち、この状況でクロが強権を振りかざされ、捕縛される可能性である。
「ガープ、それで天竜人は――」
「安心せい。儂が殴り飛ばす前に五老星が直接来おったわ。クロは自分達の客人ゆえ、手出しは許さぬと」
「……それも、良い知らせとは言えぬな」
「そうだね、センゴク」
三人が座っているテーブルの上には、事件が終わってすぐにクロがまとめた復興現場の報告書や必要資材の試算とその根拠をまとめた上での要請書などが数枚積み上がっている。
書類の量を最小の枚数に上手く纏めて、効率的にこの聖地を復興させようというクロの意図がよくわかる仕事ぶりだ。
「私達にとっても、そして政府にとっても、クロ坊やの価値が跳ね上がっている」
現場に当たっていた海軍は当然、CPを通して政府もクロという海賊らしからぬ海賊の実力を思い知った。
二度の答弁ですでに彼らが知っていた政治力、シキと戦える個人としての武力、押され気味だった戦況をひっくり返した指揮者としての実力、今まさに八面六臂の活躍を見せる内務能力。
「七武海か、あるいはもっと別の役職を与えてでもクロ坊やを取ろうとするだろうね」
「じゃが、クロが従うわけなかろう。それだけの気骨があるからこそ、あれだけの実力を手にしたんじゃろうから」
ガープの言葉はもっともだった。
そしてそれが最大の問題だった。
「政府も注目するほどの政治力を持つクロが、政府に入る事を良しとしない」
「何らかの形で手元に置きたいが、それが叶わないとなれば」
「政府がどう動くか……」