とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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筆が乗ったので今週二回目の投稿です


085:黒猫海賊団幹部会

 クロから聖地襲撃の知らせを受けた日の翌日。

 捕縛した海賊の見張りや、見込みのある兵士の練兵に忙しいハックやミホークといった客将勢こそいないが、三本爪の猫を背負った正式な幹部達やその付き人が一室に集まっていた。

 

「……こうしてモプチの城に、黒猫の幹部や同盟者のベッジが全員揃うのも久しぶりだな」

 

 この場にいないクロの代わりに場を仕切る副総督、『鋼刃』ダズ・ボーネス。

 

「ホロホロホロ、私らも最近じゃ縄張りが増えたからな、そりゃ仕方ねぇさ」

 

 会議室周辺に聞き耳を立てている者がいないかを能力を用いて警戒している最年少幹部、『ゴースト・プリンセス』ペローナ。

 

「ハックさんはともかく、ミホークがここに来てないのはなんか引っかかるけど……」

 

 練兵に専念するミホークから預かった書類や言伝のメモを何度も読み返して会議の準備をしている『オハラの悪魔』ニコ・ロビン。

 

「戦力の増強が急務と先生は見ているみたいです。……おかげで凄い数の兵士が程よくふっ飛ばされてますけど……」

「あぁ~、それでさっきウチの制服きた人間が空を飛んでたんですねぇ……」

「毎回人が空を飛ぶ訓練はどうかと私は思うがね」

 

 隊員のミアキスとキャザリーを左右に控えさせたうえで会議に臨む『親衛隊隊長』のアミス。

 

「わらわも後ほど練兵に参加しろと声をかけられておる。大方、覇気の訓練であろうが……」

「うふふ、覇気の教え方はあの男より姉様の方が上手だもの」

 

 同じように妹のサンダーソニアと、なぜか髪をいじって数字の『3』を模した特徴的な髪形にしている眼鏡の優男を左右に控えさせている『第一艦隊提督』ボア・ハンコック。

 

「造船体制も強化する頃合いだったが……話に聞く状況では計画通りに増やすのは難しいですね」

「へっへっへ、お前らの戦力なら、多少船が少ない程度で止められる戦力じゃねぇだろうがな」

 

 徐々に組織に慣れ始め、今では各地の開拓計画や税収の調整役である『内務官』ギルド・テゾーロ。

 そして黒猫の同盟相手であり、マフィアであるにも関わらず海軍にも徐々に影響力を持ちだした『ビッグ・ファーザー』カポネ・ベッジ。

 

 黒猫という海賊団をよく知っている西の海の海兵ならば、この光景を見るだけで気圧されるだろう錚々たる顔ぶれが集まっていた。

 

「さて、それでは会議を始めるが……ハンコック」

「うむ。時間を割いてもらって済まぬが、初めに皆に改めて紹介しておく者がいる。……ギャルディーノ」

 

 会議の始まりはハンコックからだった。

 未だ幼さを見せながら、一味の中でも客将を除けば特に頭角を現し始めた海賊少女が椅子から立ち上がり、そして発した一声に、後ろに控えていた眼鏡の男が一歩前に出る。

 

「副総督やペローナ嬢、一部親衛隊には顔見せしていたが、他の幹部の皆様にはお初にお目にかかるカネ。先日の騒動に於いて『黒猫』に投降した、ギャルディーノという者だガネ」

「海賊連合事件での扇動役にして、その後の工作を指揮していた者だ。例の人身売買騒動において我らに降り、その後モグワを始めとする各地の復興作業に於いて、蝋を生み出し操る能力を以って貢献しておる」

 

「いやその前にその3の髪形はなんなんだよ。前に会った時は違っただろ」

 

 ペローナの小さいつぶやきに、ハンコックも思わず同意しそうになるがグッと堪える。

 

「主殿が不在のため、あくまで暫定的な物ではあるが……この者を第一艦隊の参謀に任じたい」

「アタシはいいと思うぞ。ソイツの能力は復興に滅茶苦茶役に立った。それに、冬越えに大事な燃料で頭を悩ます必要もなくなったしな」

 

 どうか? と一同を見回すハンコックに、まずペローナが賛同する。

 

「話自体は昨晩耳にしていますが、なぜ参謀役を?」

 

 人身売買を利用したという点で少々引っかかるものがあるものの、実績は確かな物なので大きく反対はしていないアミスが、それでも気になった点を尋ねる。

 

「一言でいえば、テゾーロのような者が船に欲しかったのじゃ」

 

 第一艦隊は新造艦隊でこそあるが、現状唯一の完全な別働隊である。

 そのため、クロやダズ率いる本隊の代理のような役割を求められることも多い。

 戦闘に関してはハンコックや随伴している親衛隊、訓練と実戦を重ねて力を付けつつある兵達と、戦闘に関して第一艦隊は十分な戦力を手にしている。

 

 が、万全の状態の本隊に比べ、開発やその計画立案に関しては大きく劣るとハンコックは判断していた。

 

「主殿の名代(みょうだい)として動くには、主に内務に関しての能力がわらわには足りておらぬ。致命的に。経験を積み重ね、伸ばさねばならぬのは分かっておるが、今はどうしても相談役がいる。かといって、テゾーロはもちろん、適した親衛隊を常に連れ回すわけにもいかぬ」

「ははぁ……。それで参謀役ですか」

「うむ。艦隊の行動を決断するのは当然わらわじゃが、その選択肢をある程度助言できる者がいれば、海戦においても助かる。それに知っての通り、この男は戦闘慣れした能力者。艦隊での行動において、少なくとも自衛するには十分な力を持っておる」

 

 アミスや付いてきていた親衛隊も納得し、他の幹部勢もおおよそ同意していた。

 ハンコックも知っていたが、この男は完全な捕虜扱いの頃から出来る範囲で顔見せや根回しをかかしておらず、その手際の良さやマメさを、特に内務官のテゾーロは評価している。

 

「……で、ペローナも申しておったがギャルディーノ、本当にその髪はどうしたのじゃ」

「妹君とも話したのだが、親衛隊を余所にすれば、艦隊内の位階は第三位だガネ」

「…………だからか?」

「同僚達に三番目の人間という印象が強く残れば、私にとっても安心できるのでね」

「……十分な階級はもらっている故、叛意はないというアピールも兼ねた喧伝か? 相変わらず狡い男だの」

 

 だがそれが頼もしい。とハンコックが微笑み、ダズを見る。

 副総督である男は小さく頷き、

 

「ギャルディーノ。お前を暫定的に、第一艦隊参謀に任命する。このまま会議に参加しろ」

「了解したガネ。……で、提督から本日の本題はすでに聞いているが……」

「うむ」

 

 そして、ギャルディーノの話題で少しだけ明るくなった雰囲気が瞬く間に重くなった。

 

「先日通達した通り、キャプテン・クロが聖地にて海賊『金獅子』と交戦した」

 

 ここにいる面々は顔を合わせた事こそないが、因縁のある相手だ。

 計画の主軸にいたわけではないが、それでもこの西の海を荒らしまわった最大の要因。

 こうして総督であるクロと交戦した以上、いつの日にか総力を挙げて相手をすることになるだろう敵である。

 

「撃退にこそ成功したが、天竜人の食料を根こそぎ奪われた。当然、世界政府は聖地に保存されていた膨大な食料を再度かき集めようとするだろう」

「……少し前の聖地の祝い事のための食料徴収では西の海は除外されたが、さすがに此度はそういかぬか」

 

 もっとも寒い大寒の日は過ぎ去り、まだまだ寒いがうかつに出歩けぬほどの寒さは越えた。

 とはいえ、食料の問題は依然として残っており、ダズとテゾーロは食料の配給の調整などで日々頭を悩ませていた。

 

「ロビン、キャネットの方はどうだ? 当初の予定じゃ、あそこをこちら側の穀倉拠点にする計画だったろ」

 

 ペローナの質問に、ミホークという農業的な意味でも最大の戦力を使ったキャネット島の開拓を任されていたロビンが立ち上がる。

 

「とにかく量を用意しないとって事で、育ちの早くて手のかからない麦を、植えられるだけ全部植えてきたよ。ただ……収穫までになにもなければいいけど、どうしても鳥や獣の被害は出るから」

「目減り量次第、か」

「うん。目減り量を多めに見積もっても、キャネットの人の食べる分を十分に残して、売ったり他の所に回せる分は確保できるようにしてるつもりだけど……」

 

 ミホークとロビンが書いた現状での収量予想と、今後の開墾、種まきの計画予定などが書かれた資料は、すでに写しが全員の手に渡っている。

 

「……色々それでいいのかといつも思ってんだが、やっぱり畑仕事となると頼りになるなアイツ」

 

 わざわざ本を書いてるだけはあるとペローナは感嘆してしきりに頷く。

 以前あの剣豪に依頼していた薬草畑も、依頼通りにしっかり作ってくれていることに満足しているのもあった。

 

「問題は海軍――いや、政府がどう動くか……か。ハンコック」

「うむ、クザンは本部に戻った。今回の件で、西の海に張り付くわけには行かなくなったと」

「……政府にとって最大の要地である聖地が襲われたのだ。それ自体に違和感はないが……」

 

 出来る事ならばもう一度クロに会いたかったと言っていた海軍本部大将は、昨日付けで海軍本部マリンフォードに帰還していた。

 本人曰く、おそらく聖地の守りに付かされるのだろうという話だったが――

 

「すいません。内務を担当している身としては、縄張りの防衛に関わってくる海軍との休戦協定がどうなるかが気になるのですが……ハンコック提督、その後の海軍の動きは?」

「めぼしい動きはない。指揮権はクザンから今の西の海の地区本部長に返還されたが、それだけじゃ」

「……食料の援助要請などの話も出ていないと?」

「うむ。……まぁ、まだ新しい西の海の指揮官とは話しておらぬが……。現在、モグワにいる兵はタキ殿を中心にまとまっておる」

 

 特に現場で動く親衛隊の三人は少しだけホッとした様子を見せる。

 元海兵というのもあるが、共に戦う事で人柄を知っており、信頼のあるタキ准将が西の海の軍の実権を握っている事は、安堵に値する知らせだった。

 

「数日後には後任がモグワに到着するゆえ、顔合わせをしておいた方がいいとクザンは言うておったが……」

「少し不安そうだった……ですか?」

「なんともいえぬのう。まず聖地に行かねばならぬだろうことを心底嫌がっておったし」

「なるほど……」

 

 クロの意向で、あまり海軍への顔出しをしていないテゾーロだが、それでも状況は各幹部や親衛隊から話、あるいはクロが定めた書式で送られてくる定例報告書にて把握はしていた。

 

「ハンコック提督、参謀役を置いたばかりで言うのもなんですが、次のモグワ行きには自分も同行させてください」

 

 テゾーロの言葉にハンコックは小さく驚き、参謀役に置いた男に小さく目線を向ける。

 不機嫌になっていないだろうかと小さく危惧していたのだが、本人は「当然だガネ」と頷いていた。

 

「海軍、あるいは政府の動き次第では彼らと戦争になる可能性もあります。念のために、直接次の相手を見定めておかねば咄嗟の判断で迷ってしまうかと……」

「テゾーロ、お前は戦争まで行くと思うのか?」

 

 ダズは少し納得が行かないのか、あるいはその場合を恐れてか顔をいつもよりしかめている。

 

「今回の一件を受けて、加盟国が再びそれなりの負担を強いられるのは間違いないと思います。となれば、その不満を逸らすために更に非加盟国に負担をかけようとしてもおかしくありません」

「……食料の強制徴収か?」

「あるいは、前回は総督が交渉のための条件として引かせた、労働力の徴収もありえます」

 

 前回モグワで睨み合った、腹立たしい役人の顔を思い出してダズはこめかみを指で軽くノックする。

 

「……念のために、あくまで交渉を用いて食料などの協力を要請してきた時に備えて、ある程度の量を渡す用意だけはしておこう。無論、こちらに悪影響が出ない範囲での量に留める。ロビン、いいか?」

「うん、わかった。それじゃミホークも後で呼んで、ベッジやテゾーロさんと話し合ってみる」

 

 ロビンの言葉に、黒猫の一味はもちろん同盟者のベッジも小さく微笑んでいた。

 クロという首魁が聖地へと向かった後、この少女が頑張っているのを良く知るためである。

 

 とくにロビンが開発を任されているキャネットと、交易拠点候補のまだ名前のない島を結ぶ航路の安定をクロに頼まれているベッジは、度々ロビンと顔を合わせていたのもあるだろう。

 

「さて、では戦力の再編成の目安決めに移ろう。現在、二つの艦隊と島の防衛戦力を合わせれば戦闘艦十四隻、護衛砲戦艦六隻に輸送艦が大中合わせて五隻ある、これにさらに新造中の――」

 

 その後も黒猫の会議は続いていた。

 海軍との万が一の戦闘に備えた部隊の再編、テゾーロ主導の保険業の用意やその前段階の輸送船団の護衛依頼、開発計画などを話し合っていた。

 

 その様子を半ば聞き流しながら、ペローナは能力を操作しつつ静かに思う。

 

(……ちっ。なんとか中に入ろうとしている奴らが妙に増えたな。全員追い返すか黙らせているが、一区切りついた所で報告するか)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、スパさん」

「……なんだ」

「なんか急にお仕事増えたよね。復興計画絡みの」

「……ちゃんと人手は貸し出してんだろうが」

「うん、そうだねスパさん」

 

 なんで俺は寝泊まりする部屋の隣に執務室まで作ってもらっちゃったんだろうね。

 いや、それはいいんだ。

 繋がってるからすぐに眠れるし、少しずつ睡眠時間は確保できてるし。なんとか二時間は。

 

 俺の執務机の他に、何席か作業机がセットされて政府の役人があれこれ雑務処理してこっちの指示で動いてくれるのは正直助かる。

 

 復興作業のおおよそのプランも受け入れてくれたし、センゴク元帥との連名で要請していた天竜人の一時避難……という名目での現場からの隔離も通った。

 

 今は物資や労働力の受け入れ計画の調整と、その為の搬入口の拡張なんかをセンゴクさんとスパさんで話し合いながらなんとか最初の搬入日までに間に合わせようと……。

 

 いやどう考えても俺がこの仕事してるのおかしいな?

 

 ……ま、まぁそこは別にいいんだ。

 

「ねぇ、スパさん」

「……おう」

「なんで俺の周りを固めているのが女性ばっかなの?」

「男はほら……復興作業の方に回されてんだよ」

「そうですか。でも狙ったかのように美人ばっかりですね」

「……むさくるしいよりはマシだろうが」

「俺の目を見てそれ言ってくださいよ」

 

 ねぇスパさん。

 ねえってば。

 

「スパンダイン、クロの方を向きなさいよ」

「おい小娘、俺は一応CPの長官なんだぞ。口の利き方に気を付けろ」

 

 ヒナが秘書みたいに側に付いていてくれてスゲェ助かる。

 同じ美人でもコイツは完全にこっち側だし信用も信頼も出来るから、正直コイツの調べた食べ物や飲み物以外怖くて口に出来ねぇし。

 

「……ええ、わかったわ」

「ムハハ。おう、若ぇ時こそこういうのはキチンとしねぇとだな――」

「被告、答えなさい」

「おい裁判か!?」

 

 いやもう、今日の仕事はここまでって解散できてよかったよかった。

 あの美人軍団いるとスゲェ落ち着かねぇ。飯食ってても飯の味しねぇ。

 同じ美人の集団でも、自然と側にいてくれる親衛隊と違ってこう……一挙手一投足を観察されてる感が凄くてすげぇ落ち着かねぇ。

 

 昼飯の時とか、食いながら急ぎの仕事しなきゃいけなかったから仕方なかったけど、気不味い昼食だったなぁ……。

 

「で、被告スパンダイン」

「クロ、お前まで!?」

 

 ええから答えんかい。

 いやもう答えは分かってるんだけど。

 

 だけどさ……。

 

「14歳のガキにハニトラ本気で仕掛けるのは正直どうなんです? いい年した大人として」

「心を刺してくるんじゃねぇよ!」

「正直私、貴方にドン引きしてるわ。ヒナ、軽蔑」

「うるせぇ、ちくしょう!」

 

 いい歳したオッサンが小娘に言いやられてんじゃないよ。ちょっと泣きそうじゃん。

 

「というかだなぁ、全部が全部俺の手配した奴なわけねぇだろ! 俺はCP長官っていってもNo.9の長官だ!他の部署もお前ん所に女送ってんだよ! 俺が用意したのは本当に事務仕事に使える奴がいい女だっただけだ!」

「じゃあその動き牽制してくださいよ……。スパさんなら出来るでしょ」

「てめえがさっさと政府に付くか海軍になれば済む話だろうが! 西の海に残ってる連中引き連れてこっちに来い!」

「丁重にお断りだって言ってんでしょーがコノヤロー」

 

 どう考えても飼い殺しにされる未来が目に見えるし、ロビンの事を忘れたとは言わせんぞ。

 大体これまでの一件で、天竜人周りが信用に値しないってハッキリわかってるでしょうに。

 

 ……いや、スパさんには結構同情してるよ?

 度を越えて横暴な上がいる宮仕えはマジで辛いよね。

 

 せめて天竜人の目がなければマシなんだけど、今回はお膝元の聖地に留まらなきゃイケないんだから。

 

「だいたい、初手ハニトラってCPの連中は色々と大丈夫ですか?」

 

 もっとCPってまともな……。

 あ、いや、そういえばサンジが交戦した連中は色々とダメダメな連中ばっかだったな。

 

「好きな仕事出来て危ねぇ事は部下に任せられる職場の何が悪ぃんだよ! しかもいい女を好きなだけ侍らせられるんだぞ!? 俺がその立ち位置になりたかったわ!!」

「最低」

「ヒナ、一言で斬り捨てるのは止めておあげ」

 

 男は歳取ると脆くなるんだよ。ハートが。

 

「というか、マジでなんでこうなってるんです? 例のレポート出してきてもらったあたりから勧誘がしつこいですが」

「大体はお前も分かってるだろ。あの手この手でお前を引き留めろって勅令が各CPに出たんだよ」

「それでなぜハニトラなんです?」

「年頃の男なんざ大抵一度は女で失敗するもんだ」

「………………実体験?」

「やめろ小娘、分析するんじゃねぇ」

 

 ヒナ、その生ゴミを見る目は止めて差し上げて。

 

 …………。

 

 あれ? 俺も見られてる?

 大丈夫だって、この程度のハニトラなんざ生温すぎてハニトラにも入らないんだから。

 

 

「実際、お前は価値を見せすぎたんだよ。なんでここまで働いた? 金獅子もそうだが、城に籠ってりゃよかっただろ」

「聖地の影響力を考えると、多少でも被害を抑えるのは当然です」

 

 いやホント。

 多分今頃ダズ達が、政府や海軍からの援助要請なり強硬手段に備えて対策練ってる頃だ。

 

 その影響力のデカさというか……。

 政府としてのボーダーラインが天竜人の気分次第な所が大きすぎて、下に付くのも不安過ぎるんだよなぁ。

 

 マジで百歩譲って七武海もどきにならなければならないとしても、海軍主導での計画じゃないと怖すぎる。

 

「食糧問題における徴収はほどほどに控えると一応自分とセンゴクさんの前で、口頭とはいえ約束してくれましたが、それでも世界への影響は大きいでしょう?」

「…………まぁ、な」

「自分がここに来た時に起こっていた食料徴収の時点でも、非加盟国落ちした国が数か国ありました。それが更に増えると考えると……」

「海賊が気にする事じゃねぇだろ」

「気にしますって。我々は『黒猫』です」

 

 いやホント、西の海はベッジの協力で交易網を調整している最中だったから多少はなんとかなると思うが、食う物がなければ安売りも援助も出来ないからなぁ。

 

(今ロビンとミホークが開拓してるキャネットと、守り抜いたエリアAの国……スーペリアとリガロ。どっちも元のモグワ同様、贅沢しまくり女侍らせまくりの王様って噂だったけど……そこらが要だな)

 

 スーペリアはゴア王国同様、天竜人へのあこがれが強い国家だった。

 リガロはそこまでではないが、中々に抜け目のない国家。

 

(……多分、後々周辺国への交渉武器になるとして、かなりの食料を貯めているのは間違いない)

 

 クザンとかダズ、ハンコック辺りはキレてるかもしれないが、こういう状況で食料のプールがあるのは頼もしい。いや、不幸中の幸いと言うべきか。

 ともあれ、それが聖地へ献上されれば、周辺国家の負担はかなり軽減される……ハズ。

 

「ただ暴れるだけの海賊だったら、ヒナはともかくこうしてスパさんとお会いすることはおろか、肩を並べて仕事をすることもなかったでしょうし」

「お前と出会わなきゃ俺ぁこんなに胃がすり減る思いはしてねぇんだよ!」

 

 まぁ、それは違いない。

 

「私の目指すモノは究極的に言えば、世界の安定した発展です。そして正直、世界政府は政府を自称しながらその任に真摯に当たっているとは思えないんですよ」

「クロてめぇ、ここ聖地だって何回言わせんだ!!」

 

 聖地だから言ってるんですよ。

 

「真面目にスパさん、当初スパさんがやろうとしていた非加盟国民の労働力の徴収、アレしなくてもどうにか出来たでしょう? 今回の一件で白紙になっちゃいましたが」

「…………だから尚更政府に入れよ、クロ」

 

 あらま、俺の前で煙草なんて久々っすね。

 なんだかんだで相当ストレス来てんのかな?

 

「交渉のついでにお前がアレコレ調整を手伝っていたから、各国への援助要請で回収できた分だけでどうにかなりそうだったんだ」

「……中には世界政府がやりすぎた所もありましたが」

「ああ、いやまぁ……まぁな」

 

 具体的に言うと、ほぼ非加盟国落ちした国家とか。

 なんかそうする理由があったんですよね? 正当な理由があったんですよね? 少なくとも書類上では、それしなくても求められていた食料量はクリアしていたハズなんですがね?

 

 頼むからそうだと言ってほしい。怖くて聞けないけど。

 

「消費することに……使い潰す事に慣れ過ぎている」

「お前らがこっち側になれば少しは変わるんじゃねぇか? 西の海に残した部下から聞いてるが、お前の部下達もやり手じゃねぇか」

「まだ育成中ですよ」

 

 いやぁ、テゾーロがいるからどうにか回ってる所があるからなぁ。

 ダズはもちろん、親衛隊の皆もアレコレ統治やら金儲けに関して勉強してるけど、テゾーロいなかったらさすがに俺も別行動できなかったな。

 

(一応ダズやロビン、アミスにハンコックも頑張ってくれてるけど、物になるにはまだ時間がかかる)

 

 生産に関しては最強農家ミホークがいるうちはなんかこう……安心感があるけど。

 加えてウチの兵隊、畑仕事も土木作業も慣れてるし。

 

 もう一人か二人くらい、統治というか大衆感情と実益のバランスを見れる人材一人か二人欲しいけど、どっかに転がってねぇかなホント……。

 

(それに、金獅子の襲撃で忘れかかってたけど、五老星の不自然なまでの統率。中に入るのはあまりに危険だ)

 

 やっぱりこう、解雇とか懲戒処分以上の物を常に恐れなきゃならないって、ブラック通り越してやべぇよなぁ。

 

「……お前だって、世界政府のやり方見てきて、これはこうした方がいいと思った事はあっただろう?」

「そりゃそうですけど……」

「例えば?」

「…………それこそ、オハラの一件とか」

 

 あれ、もっとやりようがあったと思うんだけどなぁ。

 

「クロ、貴方ならどうしたの?」

 

 おぉう。ヒナ、お前中々答えにくい所に切り込んできたな。

 

「そう……だな……」

 

 俺なら――

 

 

―― ふん、中々興味深い話をしておるな。

 

 

 …………おっとぉ。

 

 

「これは……まさかそちらからお越しくださるとは思いませんでした」

 

 数回ノックしたドアを、返事を待たずに開けたのは予想外過ぎる人だった。

 てっきり外を固めてくれているゼファー大将かと思いきや……。

 出歩くこともあるんですね。

 

 

「五老星『法務武神』、トップマン・ウォーキュリー聖」

 

 

 スパさん、姿勢を正すくらいなら分かるけど土下座する必要ないでしょ。

 五老星の一人とは言え向こうから来たんだし、ここ俺の執務室なんだから。

 

 ヒナ、お前は不審感もうちょっとだけ押さえてくれ。

 俺の客なんだから。

 

「すぐに用件を済ませて戻る予定だったが……」

 

 じゃあ早く帰ってくださいって言ったら、さすがにスパさんからドロップキックが飛んで来るか。

 

 

「面白い。雑談がてら聞かせろ、クロ」

 

 

「貴様なら、オハラの件はどう対処した」

 

 

 お経でも唱えたらコイツラ緑の液体撒き散らしながら爆発四散しないかなチクショウ……。

 

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