とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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088:着火

「さて、改めて状況を確認する。報告では今日の正午前後に、最初の復興物資の輸送船団が到着する。これより我々はその受け入れの補助、作業人員の割り振りと監督、監査に入る」

 

 執務室に加えて実質ウチの班員と化した連中の事務部屋まで頂いてしまってもはや何がなんだかわからない状況だがまぁいい。

 

 昨日までならば、微妙に胸元緩めたり足を見せる服装の連中が多かったが今日は違う。

 ウチの制服に近いパンツスーツに着替えている。

 

 特に命令してないのに、なんで全員示し合わせたように……。

 あぁ、親衛隊の格好に合わせたのか?

 

 さすがにそこら辺の情報は持ってるだろうし。

 

「今回の作業中、天竜人は全員被害の少ない北部エリアにて療養(・・)されているが、基本的に彼らの行動を縛る事は出来ない。念のために、CPの人間が彼らの行動を逐一回してくれるが、それを活用してトラブルを抑えられるかどうかは我々にかかっている」

 

 やる気はある。

 昨日までと違って、女の子達は全員滅茶苦茶やる気が出てる。出すぎて顔が真っ青になってる子までいる。

 どうした。

 

―― どう考えても昨日の怪獣同士の喧嘩が原因だろうが!!

―― 全くよ、もうちょっと貴方自分の影響力ってものを考え直しなさい!!

 

 左右の二人、ステレオで小さく文句を言わない。

 

 とにかく、俺に影響力があって成果を出さなきゃどうなるか分からないと思われている?

 ちくしょう、作業の中で少しずつ掴んでいこうと思ったけど……。

 

(これは複数を当たるより、アミスみたいに代表というか前例を一人作っておいた方が効果的か)

 

 となると……能力のあるなしよりは、まずは指示に対して従順な子が望ましいが……。

 

(政府の役人という事はこの子達全員、それなりの能力はあるんだよなぁ。基本的に一定のハードルを乗り越えてきた人間だから、エリート特有の上昇志向寄り。……その中で上手く登れなかったか足を引っ張られたか、あるいは現実と理想の違いにやる気を失ったか)

 

 目を付けているのは三人。

 その中で使いやすいのは……。

 

「そこの貴女」

 

 ビクリと、特に小柄な女の子の肩が震える。

 

「もう一度、名前を教えてもらえるかな?」

「じぇ……ジェネッタ……です」

 

 うん、知ってる。

 わざわざ聞き直してゴメンね?

 

 とはいえ、前々から目をかけていた子だ。

 

 他の面子が中途半端な色仕掛けやら俺の周辺の情報収集に力を入れる中、少し頼りないが頼んだ仕事をまず確実にこなしていた。

 今の面子での『アミス役』にはちょうどいいだろう。

 

「ジャケットもブラウスも随分馴染んでいる。大切な物なんだね?」

「あの……はい」

「襟元の縫い方からして、ハーメット商会の所が契約している被服職人の一品。東の海(イーストブルー)……スコティッシュ島あたりの出身かな?」

 

 ……あの。

 なぜ突然処刑宣言を受けた被告のような顔をしてるんでしょうか。

 

 俺、別にあの天竜人(チンカス共)みたいな無茶ぶりなんてしないし酷い事しないよ!?

 

「あの商会が活動している範囲で、優秀な学徒を有し、世界政府の役人を輩出するとなればシュルトリュー大学の卒業生といった所か」

「は、はい……。総督のおっしゃるとおりです」

「優秀だな」

 

 いや、ホント。

 あそこに入るには金もかかるし試験難易度も高かったし、そもそも入試の資格要綱が滅茶苦茶ハードル高かったハズ。

 

(親はそれなりの資産家。そしてあの衣類はおそらく親からのお祝いの品。家族仲はかなり良好、だが対人関係での対立は得意ではない。……兄弟姉妹とも良好か、あるいは一人娘)

 

 多分、一人娘だ。

 箱入り娘で大事に育てられ、真っ当な競争ではなく足の引っ張り合いでもある政治戦に疲れて自分のパフォーマンスを発揮するのに疲れている。

 

(昨日までの時点では、他の子から明らかに侮られていた。大方、初手で派閥の形成か選択に失敗した手合いか)

 

 日本の普通の会社とかならばそれほど関係ないけど、これだけ凝り固まった組織だとそこらの見極めミスると悲惨だからな。

 横のスパさんも何か察したのか、苦々しい顔で小さく頷いてるし。

 

(リカバリーしようとすればするほど通常業務に加えてとんでもねぇ負荷がドロッドロに伸し掛かる蟻地獄。ストレスがかかればかかる程トチって慌ててしまいそうになる無限メビウス。加えて俺のいた世界以上に何を言い出すか分からない上役……やべぇ、色々思い出して吐き気ぶり返してきた)

 

「ジェネッタさん、貴女は確か、先日の海軍との合同視察に付いてきていましたね」

「はい……」

「その中でなにかこれが必要だと思ったことはありませんでしたか?」

「ぇ……ぇぇと……私、ただ付いていくだけで精一杯で」

「それでも見て感じた事はあるハズだ。素直に話していただけませんか?」

 

 ……あれ?

 てっきり他の女の子からもうちょっと嫌な目が集まるかと思ったけど、なんかすんごい同情的な視線が集まってるな。

 

 俺、まさかマジで天竜人共と悪い意味で同じ存在と思われてる?

 まことに遺憾である。訴訟。

 

「……石材が」

 

 仮に的外れだったとしても使い道はある。

 というか、能力に応じてそれを活かせる環境を考えて整え、上手く回すのが今の俺の仕事だ。

 

「二回目以降の石材の輸送計画を見直さないと、作業工程に乱れが出るかもしれません……なんて……」

 

 まぁ、今回に至ってはそんな心配は無用だったわけだが。

 

(やっぱいるじゃん! 人材の原石! ちゃんと磨けよ政府!!)

 

 この子だけじゃなくて、周りの女の中にも薄々気になってたっぽい子がチラホラと!

 目を付けていた奴以外にもいるじゃないか! なんで中途半端なハニトラなんてどうでもいい仕事に割り振ったのさ!!?

 

 朝方に訂正する予定だった計画書を、机の下でこっそり握り潰す。

 二度手間になるが、トータルでの効率を考えると今は使える人材を一人でも増やした方がいい。

 

 大丈夫、こういう仕事は慣れている。むしろこういう仕事の方が慣れている。

 予算面や他部署とのパワーバランスの問題がほぼほぼ解決している以上、死ぬ気で頭を絞り尽くせばここにいる二十名の内七、八名は使える人材に仕立てて見せる。

 

(幸い資金面は潤沢だし、足りないならば好きなだけ要請していいと五老星からもお墨付きをもらっている)

 

 これ以上は使わないけど。

 絶対変な方向で無理やり国家から徴収しかねないから、意地でも現予算でやりくりしてみせるけど。

 

「消費量が想定を超えると?」

「は……い……。それに質も……天竜人の方は、派手な物を好みますので」

 

 ……そっちも!?

 現状でもかなりの質の石材を選んでいたんだけど……まだ足りない可能性あるのか。

 

 ぐおおおお、これ以上の質の石材を大量にとなると予算……予算がすげぇ勢いで圧迫される……いやまだ余裕はあるし作ってみせるが……っ!

 

(だけど、政府の中にいる彼女の見立ての方が多分正しい)

 

 チラリとスパさんに目をやると、気まずそうに視線を逸らす。

 

 貴様ぁっ! その感じは薄々そうじゃねぇかなと思ってたんだな!?

 

 ヒナ、ローキックだ! 脛に思い切りかましてやれ!

 

 この緊急事態に何いらん気を使ってるんですか!!

 気になった事は全部言えって言ったでしょうが!?

 

「ジェネッタ、君を暫定的に私の秘書官に任命する。すまないが、君の見識で私を助けて欲しい」

「で、でも私! 仕事できません! だから、顔だけが取り柄だって……っ!!」

 

 スパさんスパさん、あの子の上司、一緒に叩き潰そうよ。

 とりあえず無能リストの一番上に名前を記録しておかねば。

 

 ……いや、脛押さえて涙目になってないで。

 

「そんなことはない。君の感覚は、私に取って黄金に等しい――いや、勝る価値がある」

 

 正確には黄金というよりも宝石か。

 そのままだと価値はあっても安く、磨いて初めて高値が付く。

 

「周りが貴女に価値がないというのならば、それは間違いだ。貴女に価値がないのではなく、貴女を扱う者に価値がない」

 

 いや、人員の教育、育成が大変だってのは吐くほど同意する。

 十人部下持って三人くらいが使い物になればいい方だ。半分が育てば大したもん。

 全てが十全に育った上で誰も向上心を失っていない親衛隊なんて奇跡の存在だ。

 

(ただ、自分の育て方に合わないなら合わないなりのやり方や回し方ってもんがあるけど……それなりに優秀なスパさんのこれまでを見ても、そういうノウハウが世界政府内部に根付いているとは言えねぇなぁ……)

 

 立ち上がり、頭を下げる。

 とにかく信頼を得なければ育つものも育たん。

 

「改めて、お願いする。どうか私の力になってもらいたい」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「つまりアレか。お前の言う本気を出すってのは、人員の教育と統率か?」

「限定的な物ですが……まぁ、そういうことです。自分個人という意味ならば、とっくの昔に全部絞り切ってますよ」

 

 出来るだけ手の内晒したくなかったから、なんとか人員には干渉せずに個々人がすでに持ってる特色のみを活かしてなんとか捌き切りたかったんだが……。

 

 無理。

 さすがに限界。

 仕事が積み重なれば積み重なるほど、せめてある程度自分に合わせられる手駒が最低一人二人いないと潰れる。

 

(全部海軍に押し付けて交渉に専念しようとしたら、政府サイドは政治的圧力の狙いを海軍に変えるだろうしなぁ)

 

 ヒナの話だと、それなりの数の本部将校が海軍を辞めてしまったらしい。

 もうちょっとバランスを考えてタイミングを見計らってほしかったのだが、起こってしまったことは仕方ない。

 問題はその後だ。

 

(おそらく今回の交渉、俺の関与しない所で政府は海軍に人員の補充を申し出る)

 

 補充という名目で、有力な政府側の人材を海軍に押し込む。

 つまり、海軍内部に政府派閥を作るだろう。

 多かれ少なかれ、この流れはもう変えられないだろう。

 干渉しようと思えばできなくもないが……それで『黒猫』が得られる利はほとんどない。

 

(……手出ししないと決めたことに意識を割いても仕方ない。俺に出来るのは、さっさと状況を立て直す事に専念することか)

 

 聖地復興もそうだが、海軍側には少しでも多く成果を上げて手札を増やしてもらわないと困る。

 

「ねぇ、クロ。貴方から見て、ジェネッタって子は使えるの?」

「あれを冷遇していた馬鹿は今すぐ降格処分にすべきだと思うレベルで」

 

 いや、マジで俺とここにいる二人で頭を突き合わせて出た輸送計画の問題点に薄々気付いてた時点で滅茶苦茶使える。

 他の子達もだ。

 なんであのレベルを使い潰そうとしているのか理解が出来ない。

 

「いや、冗談抜きであのレベルの子を原石と思えないのならば、世界政府はやはり組織内部に致命的な問題があるとしか言えない。どこかで中身を見直す必要がある」

 

 もしフリーの人材だったのならば今すぐ連れ帰ってテゾーロの補佐に付けるレベルだ。

 残る二人はジェネッタの体制を整えてから接触するけど、俺の見立て通りなら同様に連れて帰りたいレベルの子だ。

 

 薄々勘付いていたとみられる他の子達も……。

 

「……なぁ、クロ」

「他の人員の教育に時間割けってんなら却下」

「まぁ、そう言うなよクロ。お前にとっての手柄、つまり手札になるじゃねぇか」

 

 ふざけんな、前世も合わせて積み重ねてきた俺なりのメソッドだぞ! あのジェネッタと、目を付けてる他二名に+αを使ってギリッッッギリの所までは開示してやるんだからそれで満足しやがれ!!

 

「そこまでやると人員の教育だけじゃなくて、俺なりの組織運営の手法まで開示することになるから却下です」

「いっそ政府内部に貴方の派閥作ればいいじゃない」

「バッカ小娘、さすがにそこまでいくとクロが排除される可能性が高まるぞ」

「なら、海軍の中になら?」

「…………難しい所だな」

 

 お前ら、勝手に人の行方を決めようとするんじゃありません。

 

「仮に今、俺達『黒猫』が海軍の勢力下に入るとしたら、政府は海軍への圧力を高めるでしょうね」

「違ぇねえ。そうなると、センゴク元帥やその周りがどれだけ発言力を維持できるかが焦点になる」

「……そういう話になると、回りまわって結局あなたの周りが騒がしくなりそうね、クロ」

「だから俺は海賊のままでいいんだってば……」

 

 現在の勢力の外側にいるからどうにか立ち回れるんであって、内部に入ってしまうと余計な混乱を招く。

 

(具体的には、ロビンの身柄とか戦力の具体的な所在とかで……あぁ、考えただけで胃が痛ぇ……)

 

「ヒナ、スパさん、もうじきジェネッタが荷物を持ってこの執務室に来る。悪いけど、彼女の机周りの整備を手伝ってあげてください」

「ええ、わかったわ」

「お、おぉいクロ! 俺までかよ! 俺ぁCP9の長官だぞ!?」

「あの子が優秀だと分かれば、あの子の上司、CP6の長官の足を引っ張るカードになります。……確か、スパさんのCP9長官の座を狙って何かと隙を窺っている人ですよね?」

「なんでそこまで知ってるんだテメェ!!?」

 

 そりゃ、これだけアチコチで政争起こってれば、その分情報の入手先だって増えるって。

 

 ましてや周りに自分達から、情報だけは持っている人間をばら撒いてくれたんだ。

 しかも任務は俺の懐柔。つまりどうしても会話を重ねる必要がある。

 

 二日もあればフェイク情報を排除してCP各部署の勢力関係図を、おぼろげながら把握するには十分だったわ。

 そこからさらに時間が経てば、詳細まで掴むのも難しくない。

 

「彼女は、事務仕事に関してはしっかり育ててそちらに渡します。政治的なカードと優秀な事務員兼秘書候補を同時に手に出来ると思えば、悪くないでしょう?」

「いや、手伝うのは別に構わねぇがお前もやれよ! 書類の整理も把握もお前の方が上手ぇだろうが!」

「そうね、海賊なのに政府の長官よりも仕事が上手よね」

「黙れぇい、小娘ぇ……っ」

 

 ……ホント仲良くなったなぁ、君達。

 

「俺はちょっと海軍の方に顔を出してくるよ」

「海軍だぁ? テメェ、昨日も負傷した海兵の見舞いに行って様子を見て回っただろうが!」

 

 政府側の負傷者の見舞いもちゃんとしてきたでしょうが。

 

 まさか負傷者への天竜人の『さっさと起き上がって働かぬか!』なんて無茶ぶりを見かけて口八丁で場を宥めるなんて仕事が生えるとは思わんかったけど。

 

「センゴク元帥とちょっと打ち合わせておきたいことがあるんですよ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「まさか、天竜人から勧誘されるとは……ますますもって海賊らしくないな、お前は」

「なんといいますか……恐れ入ります。まさか、そのような手を打ってくるとは思いませんでした」

 

 海軍側の執務室は、いつもよりも喧騒が少ない。

 少なくない数の将兵たちが、先日の聖地襲撃で負傷してしまっているからだろう。

 

 いつもの執務室ではなく、海兵達が休憩に使う談話所で、いつもの海軍上層部と話し合っている。

 

「やはり、政府は噂を?」

「以前からばら撒いていた分に加えて、今回の件もすでに広まりつつある。四つの海はもちろん偉大なる航路(グランドライン)まで、金獅子とお前の戦いや、その後の指揮っぷりをな」

 

 おお、もう。

 金獅子戦はともかく、その後のゾンビ軍団との戦闘まで持ちだしたのは、黒猫を巻き込みつつ海軍の威光を多少でも下げさせるためか。

 

 随分大胆な手を打ってきたな……。

 革命の動きが活発になりつつある時に。

 

(海軍を切り捨てる――訳はさすがにないだろうし……まさか、これを機に政府主導で再編するつもりか? 謝罪までするだろう上で?)

 

 混乱が更にひどくなりそうだが……逆に言えばそこまで今の環境を重視しているという事でもある。

 

「その功績で、天竜人に誘われたという話が出まわっている。どこもかしこも大騒ぎになっておるぞ」

「部下との定時連絡で聞いておりましたが……面倒な事をやらかしてくれますね」

 

 いやもうホント……。

 ダズを通して、そういうつもりはないので兵の動揺を抑えるように頼んでいるが……さすがにそれこそビッグニュースすぎる。

 

「海兵達の様子はどうです?」

「……正直に言えば、クロ坊やが天竜人になる事に肯定的な者が多いよ。それなら安心できると」

 

 おぉい海兵諸君!!?

 

 俺が天竜人になった所で、状況は何にも変わらねぇぞ!?

 

 それどころか、状況を改善できる可能性が大幅に減るぞ!?

 ようはアイツら、俺らを飼い殺して戦力とノウハウを取り込みたいだけなんだから!!

 

「……政治将校の教育を急がれた方がよろしいかと」

「うむ。とはいえ腕っぷしと戦功を重視するのが海軍という物だ」

「あの戦いで、クロ坊やは金獅子と渡り合った上で指揮官としての腕を見せたからねぇ……」

「ぶわっははははは! いい機会じゃ、どうじゃクロ? 奴らの仲間入りするくらいなら儂の養子にならんか?」

「今と全く変わらないレベルで毎日生死の境を彷徨いそうなので遠慮いたします」

 

 森に放置されるくらいならばともかく、『物足りんであろう?』とか言って本気の戦闘が始まりそうだ。

 

 …………。

 

 あれ? ミホークとレイリーのダブルアタックを捌き続けるよりかは生存率高い?

 

 ……いや、手加減が二人よりも下手そうだな。

 

「実際クロ、海兵からのお前の評判は悪くない。お前の手腕を見習いたいと励む兵士達も多く出ている」

「……私は海賊なのですが……」

「今更であろう。中には、お前を海軍の将校だと勘違いした者もいると聞いている」

 

 海軍は非加盟国を占拠したり民衆を働かせたり税を取り立てたりしません!!

 

「実際、昨晩の条件を政府が飲めば、天竜人になる気はあるのか?」

「悪くはないと思っています。……政府が契約を遵守できれば、ですが」

 

 実際、あくまで聖地の外で勢力の拡大と独自統治が許されるのであれば悪くない。

 

(正直、打たれる一手としてはモプチを中心とした現勢力圏での加盟国入りの提案だと思ってたんだが……)

 

 俺らの罪を減じた上で加盟国入り――延いては俺を王として認める。

 ニコ・ロビンの知識を有する俺達によるポーネグリフの探索を封じ、国家と認める事によって俺達の勢力拡大を鈍らせ、西の海に留める。

 

 定期的にレヴェリーで聖地に呼び寄せるという足かせも付けさせられるし、そのあたりが来るだろうと警戒していたら場外からデッドボール投げ付けて来やがって……。

 

「儂としても、お前が天竜人になるのは悪くないとは思うんじゃがなぁ。お前の下でなら、兵士達も真摯に任務に当たれるじゃろうて」

「……正直、贅沢三昧の生活の中で自分がそれに溺れる事はないと確信できるほど、私は自分を信じておりません」

 

 実際、それこそロビンやハンコック達みたいな美人達を好きに嫁に出来て、なんでもかんでも好き勝手に出来る生活をずっと続けていたら、最初は嫌悪したとしても慣れてしまってズブズブになりそうなんだよなぁ。

 

 金次第でなんでも出来るんならば、ある意味で俺のやりたかった事を出来るようになる。悪い意味で。

 

「いつか、他の天竜人同様に民や兵士の命は消費して当たり前の物だと思うようになる。それは私にとって、何よりも恐ろしい事なのです、ガープ中将。せめて天竜人の暮らしの外に身を置かねば、私は安堵できません」

 

 仮に聖地の中に入れば、古参の天竜人との間にどうしても差が出来るから無茶ぶりの対象になるだろうしなぁ。

 

「ぶわっははははは! まったく、海賊という物は贅を尽くした暮らしを夢見る者のハズだがな!!」

 

 そんなバギーみたいな奴――。

 

 ……ゴロゴロいるな、確かに。

 海賊連合の奴らとか正にそんなんだったし。

 

「……ならば」

「はい、元帥」

 

 政府から借りた聖地の地図を広げて見せる。

 俺とスパさんが大枠を決めて、ヒナ――つまりは海軍の視点での意見を取り入れて修正してきた復興計画である。

 

「この後から始まり第一次輸送船団からの物資の受け入れ、並びにその後の復興着手の様子を見た上で次の船団の計画を立てた辺りで、私は西の海に戻ろうと思います」

 

 そこらへんまで形になれば、後はキチンと物も人も流れていくはずだ。

 

「……まだ他の者には漏らしておらぬが、昨晩のお前とウォーキュリー聖の非公式の会談は、間違いなく事態を改善してくれた。あの通りに事態が進行すれば、政府と海軍は関係を再構築できるだろう」

 

 その再構築の際にかなりの鞘当てがあるとは思うが、そこは頑張っていただきたい。

 

「その際、恐らく我らの関係は元に戻るだろう」

「休戦協定の破棄、ですか?」

「……札として、チラ付かされておる」

 

 黒猫と敵対したくなければ政府入り、あるいは天竜人入りの説得を手伝え……か。

 

(サカズキさんやらとは仕方ないとしても、クザンやセンゴクさん達とはやり合いたくないんだが……)

 

 ガープさんとも、違う意味というか本能的な意味でやりあいたくはない。ない、が……。

 

「その時はお気になさらず。我らは海賊」

 

 

 

「進みたいところへ進みたいように進むものです」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 北の海(ノースブルー)のとある島の、古びた酒場で一人の海賊が酒を呷っていた。

 

『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

 かつては天竜人の一人であった海賊は、いち早く手に入れた情報を――すでに世界中で出回っている大ニュースを耳にしてから、こうして一人で酒を口にする時間が増えていた。

 

「ふ、ふふ……」

 

 毎夜毎夜、

 

「フッフッフッフ!」

 

 確実にその時間は伸びていた。

 

「天竜人の在り方を否定し、逃げ延びて、下界で自分の意思を貫き通した挙句天竜人に求められる?」

 

 裏にいる者では『黒猫』を政府の犬と蔑むことが多いが、同時に噂が事実ならば我もと、羨望の声もまた聞こえているのが事実だ。

 

「なんで――」

 

 テーブルの上に、現在出ている『黒猫』の一味の手配書が並べられている。

 

『海兵狩り』ジュラキュール・ミホーク

 

『オハラの悪魔』ニコ・ロビン

 

『ゴースト・プリンセス』ペローナ

 

『鋼刃』ダズ・ボーネス

 

 それらの手配書をドフラミンゴは酒瓶や灰皿ごと乱雑に脇にどけ、残る一枚を目の前に残す。

 

『抜き足』のクロ

 

 まごうこと無き『黒猫』の首魁。

 もはや『抜き足』ではなく『黒猫』と呼称される、大海賊。

 

「なんで――」

 

 その手配書の写真目掛けて、ドフラミンゴは側に転がっていたナイフを抜き、

 

「なんであの時にこれ(・・)が出来なかったんだ!!!!」

 

 その印刷された顔に目掛けて刃を突き立てる。

 

 

 

「――クソ親父ぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!!」

 

 

 




あと数話で聖地終わりですかな
まだしばらく低浮上ですが、それでも隔週投稿を超えることはないと思われます
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