「しゅ、襲撃だぁぁぁーーーーーっ!!」
5大ファミリーの収入源は多岐に渡るが、その中でもよく知られているのは、いわゆるご禁制の品の運搬、売買である。
「なんだとっ!? おい海軍! てめぇら裏切ったのか!?」
「ち、違う! ちゃんとここは今日のパトロールからは外してい――すみません俺はゴキブリ以下のクソ野郎です……」
「いきなりどうしたてめ――苔になりたい……苔になって日陰でジメジメと静かに生きたい」
よく知られているという事は、多少こそこそ隠れていようが、調べ方によってはあっさり見つかるわけである。
コイツらちょろいな……。
「ダズ、おそらく倉庫は隠されているタイプだ。ペローナの攻撃で倒れていない奴がいたら斬ってかまわん。探せ」
「了解」
コイツらはどうも、ファミリーの中でさらに隠れて横流しをやっていたようだ。
賄賂で繋がりを持った海軍と。
いやぁ、ペローナの島に行く前に海軍の動き探ってた時に見つけたあからさまに怪しい海域がここまでドンピシャだったとは。
「ロビン、外は大丈夫か?」
片手を耳に近づけて呟くと、自分の手の平から
『はい。近づいてくる船は見えません』
「よし、万が一の時はペローナと一緒にこっちに来るか、最悪の場合船を出して逃げてくれ。俺とダズだけなら空を走って追いつける」
『分かりました』
……ロビンは本当にどうしよう。
まさかここでエンカウントするとは思わなかった。
今俺が作ろうとしているイメージというか……ブランド? 的にもここで見捨てるのは論外だから全力で守る必要が出てきた。
これでサカズキとかが「おんどりゃあああああ!!」と追いかけてきたら俺チビる自信あるよマジで。
その場合でも無様晒すわけにはいかんしなぁ。
ダズを暫定船長にして皆を逃がした上で、俺が華々しく散る覚悟で戦い……うーんその場合俺死ぬなぁ。
……それ完全にロビンの過去編で心に傷跡付ける奴じゃん。
出来るだけそうならんようにしなきゃな。
(そもそも俺がクロという時点で難しい事を考えても仕方ないんだよな)
今考えるべきは自分達の取る戦略だ。
「……それにしても海兵がファミリーとつるんでいたとは」
「キャプテンは東の出身だからピンと来ないかもしれんが、よくあることだ」
マジか。
アーロンと組んでたネズミみたいなのって珍しくないのか。
「海兵といってもピンキリだ。末端にはファミリーやマフィアと組んだり、あるいはチンピラを脅して小銭を稼ぐのもよくいる」
「それで、ここにいる連中もその類というわけか」
ちょっと積み荷が心配だな。
取引が禁止されている贅沢品とか金塊とか裏金まんまだったらありがたいんだけど、麻薬の類だったら火を付けなきゃならん。
その場合金目のもの片っ端からかき集めなきゃ……ロビンに能力で手伝ってもらえば多少は楽になるか。
「キャプテン、これがそうじゃないか?」
ペローナのゴースト攻撃で完全にダウンしている連中を退けながら調べていると、ダズが気になる所を発見したようだ。
「まぁ、隠し倉庫は床にあるものか」
某宇宙大戦争の伝説の貨物船的にも。
「ダズ、一応構えていろ」
今いる場所と船の外見から考えると、思った以上にスペースが広いハズだ。
中に倉庫番がいる可能性もあるにはある。
「ロビン、ペローナに中を覗けと伝えてくれ」
再び生えてる耳を通して船に待機している女性陣に伝える。
すると辺りを漂っているゴーストの一体が床の向こうに行こうとして……帰ってきた。
んお?
『キャプテンさん』
拾った時にキャプテンと呼ぶように言ったのだが、どうも名前と勘違いしているような気がしなくもないロビンのさん付けにも慣れてきた。
右手を耳に当てると、ロビンが囁く。
『ペローナさんが、その扉は越えられないって』
マジでか。
「……海楼石か? わかった、そのまま周囲の無力化と警戒を頼むと伝えてくれ」
わざわざ海楼石を仕込む隠し倉庫。
まさか中身は能力者? いや能力者の密輸とか意味分からん。
悪魔の実ならともかく。
「キャプテンが持っているアレと同じか?」
「ああ、俺が開けよう」
後ろでダズが手を刃にさせて控えている。
子供の身体でキツいのは、こういう重い物を動かす時に苦労することだ。
せめてあと5年くらいあっという間に過ぎてくれないかな……。何事もなく。
「よ……っと……!」
ギシギシと音を立てる重い仕掛け床板をズラすと、隠し階段が現れた。
(思った以上にしっかり作られてるな、コレ……)
「キャプテン、俺が先導する」
頼むよダズ君。物理攻撃に対しては現状最強の耐性持ってるからこういう時は頼もしい。
そして階段を降り切ると広い空間が広がっていた。
そこに所狭しと並べられていたのは――
「キャプテン、これは……どういう?」
「人身売買だ。つまり……奴隷としてこれから売られる予定の連中だと思う」
そういうとダズが押し黙り、繋がれている人間の
「…………
――だから高値が付くんだよ。小僧共。
手足と口に枷が付けられて鎖でぶら下げられている、男女共に顔が整っている若い海兵達に驚いていると、後ろから声がした。
「ファミリーの船を襲撃したのが、こんな小僧だとはな。……だが、悪くねぇ」
後ろにいたのはいかにもマフィア、いかにもギャングと言った風体の男。
目つきも雰囲気も鋭いが、10代後半といった所だろうか。
「海賊なのにスーツを着こなして身綺麗にしているってのはいいぜ。身だしなみを整えている奴は信用できる」
……あれ?
若くて一瞬分からなかったけど、コイツひょっとして……
「カポネ・ベッジか?」
そう尋ねると、男は肩を揺らせて小さく笑う。
「俺も有名になったもんだ。かの『抜き足』に名を知られているとはな」
いや、正直なんも分からん。
時期的に多分これからマフィアのボスになってそれから海賊になるんだろうなぁって事しか分からん。
「逆に聞くが、なぜ俺の名が広まっている?」
「あぁ? 一千万前後の懸賞金が付いていたレッドラインの山賊団を片っ端から壊滅させたんだ、そりゃ名も上がる。西の海に来たとたん、デカい賞金稼ぎのグループも潰したんだからな」
…………アイツら、あの弱さでそんなに高かったのか。
仮に賞金首でもせいぜい500万超えるかどうかくらいと思っていた。
「それで、この海兵達はなんだ?」
「お前の言った通り奴隷だよ。正確には、これから奴隷になるんだがな」
そこが分からん。
奴隷と言えばあの天竜人絡みだろうけど、アイツら好き勝手に人を奴隷認定するし、ヒューマンショップとかで買い漁るじゃん。
……いや、待て。
記憶が正しければ、出てきた奴隷は大体が海賊か魚人。それか民間人だ。
つまり海兵の奴隷は珍しい。珍しいということは――
「いくら天竜人といえども、海兵を堂々と奴隷にすると海軍と軋轢が生まれ、世界政府の骨組みが軋んでしまう。だからなんらかの事情で
俺の言葉に、ベッジはニヤリと笑みを深めた。
「いいぜ『抜き足』のクロ。身だしなみに気を使って腕が立って、しかも頭の巡りも悪くない」
「どうだ抜き足。俺と手を組まねぇか?」