とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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色々と過去が追いつけてきたので執筆を再開したいと思います!
(一月一杯までは不定期投稿になりますが、よろしくお願いします!)


091:聖地、出航

―― 先日、西の海の海軍支部の活躍により表層化した、世界貴族による海兵への不適切な扱いにつき、早急に内部調査を行ったところ数名の天竜人による関与が判明した。

 

 

―― 現在、『神の騎士団』による拘束、取り調べが行われているが、本人らも日頃重なる心労から常識(・・)的な分別を欠き、このような行為に至ったことを認め反省している。

 

 

―― だが、いかに天竜人といえど此度の行為は秩序を逸脱した行為であると言わざるを得ず、関与した天竜人らは取り調べの(のち)に天竜人内での裁判にて決定した刑罰を与えるのと同時に、個々人から被害にあった海兵、並びにその家族へ、それぞれ海軍上層部との合議を経た上での額の賠償金を更に支払わせることを決定した。

 

 

―― 繰り返し、世界政府より被害にあった海兵とその家族に対し、深く陳謝するものである。

 

 

 

 

 

「人によっては喧嘩を売ってると取られかねない……ですかね」

 

 これでも相当キチンと謝罪させた方だとかポロッとでも零したら、それこそ海軍組織全体がブチ切れるんじゃねぇかな。

 

「まぁ、聖地にて働いていた海兵達は、君がどれだけ苦労してこの言葉を引き出したか理解している。それを抑えるのがセンゴク元帥や、特別大将である俺の仕事という物だ。それよりも、よく更なる賠償金を確約出来たな」

 

 ゼファー大将も護衛含めてアレコレありがとうございました。

 おかげでかなり安心して仕事に臨めて……睡眠時間も確保できた。

 

 毒や薬物による暗殺やら意識の混濁が怖かったので、部屋のドアは外させてもらったけど。

 

 というか、乗船する船の確認に来ただけなのにわざわざ港まで来てくれるとはありがたい。

 

「……せめて得る物がなければ、被害者はおろか事を知る海兵達の納得は到底得られないでしょうから」

 

 というような事を、渋る五老星相手にあの手この手で説き伏せて、どうにか最低でも一人三千万ベリー以上の賠償額をセンゴクさん達の前で確約させるのは骨が折れた……。本当に疲れたよ……。

 

 絶対にアイツら心から反省とかしない連中だし。

 面と向かって謝罪とかやったら、謝罪以上のやらかしをするのが目に見えている。

 

 事態に区切りをつけるために公式の謝罪声明は絶対に必要だったが、それだけで生きて帰れた海兵達や死んだと思っていた家族の気が晴れる訳でもなし。

 犠牲者の遺族なんて、やるせないにも程があるだろう。

 

 となると、せめて金だけでも引っ張って来れなければ、俺が聖地くんだりまで来た意味がないというものだ。

 

「ある意味で金品の没収、譲渡は天竜人にとってもっとも堪える罰になるでしょう、本質的な解決には遠く、せめてもの気休めにしかならないでしょうが……海兵や家族が少しでも何かを得なければ、何も前に進まないでしょうし……」

「うむ……」

 

 特別大将のゼファーさんも、斜め後ろに控えているヒナも渋い顔をしている。

 まぁ、そりゃそうだ。

 

 ……ところでヒナ、立ち位置おかしくない?

 俺じゃなくてゼファーさんの後ろ固めろよ。

 

 ともかく。

 俺の仕事はここまでだが、元帥のセンゴクさんや将校たちはこれからが一番キツい仕事になるだろう。

 その空気の中で訓練や任務に当たらなければならない下士官や兵士たちもだ。

 

(納得してない海兵は相当いる……というか、ほとんどだろうしなぁ……)

 

 海軍政府双方に恩を売った上で俺達の方向性を示し、今後どういう方向性に動こうとも『黒猫』という海賊団に一定の信頼と箔を付けることには成功したと思う。

 

 ……正確には、成功しすぎて一部の海兵がいつも顔を合わせるたびに最敬礼で迎えてくれるようになった。

 大丈夫か海兵諸君。

 お前らの身の危険にも繋がるからできるだけ大人しくしていてくれ。いやホント。

 

 役人の方も俺を立てる必要なんてこれっぽっちもないから。

 全体の3割程度こなしてくれればいいと思って出していた指示を、全員がそれぞれ期待以上に応えてくれただけで充分すぎる。

 

 さすがにCPは俺を警戒したままだが、普通の役人連中は上司を間違えていないか?

 指示を仰がれた時とか死ぬほどビビったわ。

 しかもゼファーさんやセンゴクさんの目の前で。

 

(一番の目的である西の海の治安改善は、成功するかどうかがこれからにかかっているし……訳わからん理由で死んでくれるなよ、皆)

 

 安い命なんて一人もいない。

 それぞれの小さな仕事の一つ一つがなければ、政治も治安も良くなる――いや、そもそも維持できるハズがないんだ。

 それを政府が軽視するのならば、崩れる時は一気に崩れる。

 

 誰もかれもが自分の存在を安く見ているようだが、一人一人の価値は決して軽い物ではないと……しっかり伝えられる程に深くかかわる機会も時間もなかったからなぁ……。

 

「結局、直接顔を合わせる事はありませんでしたが、聖地より戻れた海兵達は……」

 

 被害にあった海兵からもだ。

 

 比較的マシな扱いを受けてどうにか心身共に回復しつつある海兵からは、感謝の手紙をそれこそ大量にもらってしまった。返信に下手な仕事より気ぃ使ったなもう……。

 

 くそう。こんなん絶対捨てられないから持って帰るしかねぇし荷物になるじゃねぇか。

 死んでも西の海の拠点まで守らなくては……。

 

 戻ったらキチンとした手紙箱みたいなものをミホークに作ってもらうか。

 

「やはり、皆海兵を辞めると決めたようだ」

 

 だろうなぁ……。

 そもそも、海兵を続けるどうこうの話の前に人間として生活を送れるかどうかの方が心配だ。

 

「生活の方は?」

「海軍とつながりのある商会などで預かってもらおうと思っているが……クロ、君はどう思う?」

 

 なぜ俺に……。

 いやまぁ――

 

「それでよろしいかと。彼女達には申し訳ないですが、海軍の目の届くところに置いていた方が安全です」

 

 賠償とはいえ大金を手に入れる事になるしな。

 

 あくどい連中はそれがどういう金かなんて気にしないだろうし、さすがにそれはないと思いたいが……天竜人が金をあの手この手で回収しようと変な策を弄する可能性も考えないわけにはいかない。

 

 念には念を入れておいた方がいいだろう。

 

「うむ。……もうすぐ出発か」

「はい。元々身一つで来た身ですので、荷物もあまりありませんし……」

「武器の一つでも持って来てたら、金獅子戦はもっと楽だったのに。ヒナ、不満よ」

「無茶言うな」

 

 武装解除するのが条件だったろうが!

 いやまぁ、足は仮に枷が着けられてもどうにかなると計算した上で俺も言ったんだけどさ!

 

「……その、だな。クロ」

「はい」

「帰りの船にはヒナ伍長を同乗させる」

「…………は?」

「なによ、文句あるっていうの?」

 

 そうじゃねぇよバカ!

 

「ヒナ」

「なによ?」

「それなりに長い航海になるんだ。荷物のチェックは入念にな」

「? ええ、分かってるわよ」

「まだ時間があるとはいえ、これからちょっとしたあいさつ回りになる」

「そうね。……そういえば、スパンダインの奴顔見せないわね。昨日の貴方の送別会ではガバガバ酒飲んで酔いつぶれてたのに」

 

 おう、タダで飲める酒ほど美味い物はないとか言ってガブ飲みした結果一人で先に潰れてたな、あの人。

 多分ガチの二日酔いとかで死んでるんじゃねぇかな。

 

 ――じゃなくて。

 

「念のために荷物チェックしといてくれ。ついでに俺の分も」

「はぁ?」

「海賊が聖地を出ていくんだ。念のために海兵の目でチェックしてもらえば、やましい物は何もないとアピールできる」

「貴方の名声稼ぎの片棒を担げって言うの?」

「頼むよ」

 

 ヒナに軽く頭を下げると、コイツはもはやお決まりになったため息を吐いて、おざなりの敬礼をして立って行った。

 外にはジェネッタ達も控えているし、一緒に行けば大丈夫だろう。

 

 ……まさか、アイツらに別れを惜しんで泣かれるとは思ってなかったなぁ。

 ともかく、

 

「ゼファー特別大将」

「うむ」

「ヒナ伍長は、それほどまでに危険なのですか?」

 

 海賊が――しかも天竜人が身柄を欲している海賊が、一応の安全地帯であった聖地から出ていくのだ。

 正直、何かしらのトラブルやら交戦やらがあってもおかしくない。

 

 最悪、出た瞬間に砲撃食らったとしてもおかしくない。十分にあり得ると思っている。

 そこにヒナをわざわざ付けるなんて。

 

(どっちだ? 海軍は動くつもりがないのか、命令を受けていないか……あるいは)

 

「……君は、我々海軍が望んだとおりの成果を挙げてくれた。この謝罪声明と賠償だけではない。伍長を始めとする兵士達の育成。そしてそのノウハウ。あの防衛戦では、見事な差配で兵の犠牲も最小限の物としてくれた」

 

 育成って……俺がヒナとか周辺の兵士に教えたのって出涸らしレベルの、つまりウチの一般兵士にやってる教育の基礎の基礎のそのまた基礎レベルなんですがそれは……。

 

 船上と陸上での戦いの違い、密集陣形の強みと弱み、それらを補うための個々人で出来る状況把握のコツ、要地防衛戦でのポイントの目途の付け方、その他諸々――

 

(逆に軍艦バッグなんていう頭のおかしい訓練方法教えてもらったけど……もっと他に教え込む事あったろうに)

 

 具体的に言うと加盟国同士のパワーバランスや争点となっている問題の分析とか……。

 戦う力や操船技術は当然だけど、この海洋世界で巨大な連合国家の海軍ともなれば、そこら辺を周知しておかないと対応力にデカいムラが出来ると……思うん……だが?

 

 担当海域の国の内情も曖昧な兵士が多くてビビり散らかしたわ。

 せめて文化の解析くらいはやらせてやってくれ。

 

「あくまで触りだけですが」

「いや、ヒナ伍長の成長にはつる中将も驚いていた。あの混戦の中で、素早く君を中心に指揮系統を立て直した手腕。あの混乱した状況では、多少経験を積んだ将校では無理だったろう」

 

 腕っぷしだけじゃなくもうちょっと大事な所の質を上げてどうぞ!!

 

「彼女が君の下で得た経験を元に、改めてセンゴク元帥の体制を支える新たな海兵達を育成していく。我々としてはそのつもりだったのだが……」

 

 我々。

 つまり海軍としてはということならば、この場合は……。

 

「政府が?」

「……ヒナ伍長を、君に極めて近しい人物と見ているようだ」

 

 まさか、ヒナを人質にするつもりか?

 しばくぞ、あいつら。

 

 ……正直、情が移ってるか否かと言われればめっちゃくちゃ情は移ってる。

 

 仲間以上に優先させることはないが、万が一が起こった時に冷静でいられるかと言われると……無理だ。

 なんとか外面整えても内心でめちゃくちゃ取り乱す自信がある。

 

 状況が許すなら、聖地でひと暴れするのが割と早い段階で選択肢に入るだろうくらいには。

 

「まさか、五老星が……じゃないですよね?」

「分からん。だが、君と別行動をしている間の伍長には、かなりの手練れによる複数、監視が付けられていた」

「……当然、海兵ではない」

「うむ。我々の把握している存在ではない」

 

 それほぼほぼ五老星じゃん!

 

 だから防衛戦の後からヒナの奴、俺の執務室にベッド持ち込んで泊まるようになったのか!

 

 シキとの戦闘やらでなんか余計な目を付けられて、それで俺への監視がキツくなったのかと思ってたのだが……。

 アイツが俺の側にいなかった日なんてなかったし。

 

 海兵の万が一のために頼る先が海賊って……世界政府君ちょっと足元見直そうよ。いやホント。

 

(佐官クラスがジェネッタ達と一緒にいたのも、てっきり監視・観察が目的だと思ってたら護衛だったのかもな)

 

 まぁ、それがヒナと一緒にいるなら大丈夫だろう。

 それに、ここで政府が仕掛けるには理由が薄い。

 

 問題があるとすれば、むしろ――

 

「分かりました。この先の航海で何が起ころうとも、必ずヒナ伍長を無事に西の海までお守りいたします」

「すまない、クロ。君にそう言ってもらえると安心できる」

 

 ……海賊、なんだけどなぁ。

 そしてあいつは海兵で……いやまぁ、無理はないか。

 

 何度か時間の隙間を見てアイツと模擬戦やってみたけど、やっぱり親衛隊に数歩届いていない。

 純粋な身体能力だけなら、結構高いんだけどな……。

 

「その信頼に応えて見せます。ですが、ゼファー大将。代わりと言ってはなんですがお願いしたい事が」

「ああ、言ってくれ。可能な限り応えよう」

「ジェネッタ女史達の身の安全の確保を」

 

 アイツらの方が危険だろう。

 元々捨て駒のような扱われ方をしていたんだ。

 思い返してみると、天竜人と関わる事が多かった俺の周りに置くという事は一種の捧げモノ候補だったのかもしれない。

 

(まぁ、打てる手は出来るだけ打っておくけど)

 

 仕事の合間合間に考えていた仕事――前世でいう企画書とその有用性を裏付ける資料をまとめた物をゼファーさんに渡しておく。

 

「これは?」

「今後の世界政府の統治に必要不可欠だと私が考えるセクションの新設企画書と、その有用性の裏付け資料です」

 

 センゴクさんに渡すつもりだったけど、一段落落ち着いた今は突然上に掛け合うよりも多少は段階を踏むべきだろう。

 

(センゴクさんやおつるさんは、いざという時は私情を切り離して判断を下す人だしなぁ。とりあえずは、情に厚くて現場にこだわるこの人が適任だろう)

 

 書類をパラパラとめくり、小さく息を吐いてゼファー大将が眼鏡を直す。

 

「……海賊被害や戦災にあった地域の復興任務を専門とする部隊か」

「はい。その性質上、大きく兵力を割くことは出来ませんが……緊急事態において、情勢に左右されず即時対応できる部隊の有無は、民衆の生存率やその後の治安の安定率。なにより、海軍の名声を大きく左右します」

「そして、その運営スタッフとして君の部下達を……」

「はい、いいえ大将。彼女らは世界政府より預かっていた貴重な人材であって、部下ではありません」

 

 肩書と建前しっかり整えてあげないと危ないからな。

 キチンと線引きしておかないと。

 

(政府としても、まとまっていた方が監視と観察がしやすいと踏むだろうし、海軍からすれば比較的好感の持てる、政府とのパイプ役になる)

 

 つまり、どちらからも捨てがたい――というよりは捨てにくい存在になる。

 そこからスタートして実績を積んでしっかりした付加価値を身に付けていけば、それがアイツらを守るハズだ。

 

(そこら辺を意識して、教えられることは全部教えた。アイツらならやれる。問題なのはアイツらじゃなくて――)

 

 ここで『ハズ』としか言えないのが、世界政府が世界政府である所以。世界貴族がチンカスである所以なのがもどかしいけど、それはもう仕方ない。

 

 その上で出来るだけの事はしないと。

 

「……つる中将にさっそく話を通してみよう」

「可能ならば、環境部門事務次官のピンシャー卿にも」

「あぁ……。三日に一度は君の執務室に泣きじゃくりながら怒鳴り込んでいたという?」

「ほぼ二日に一度でしたが。ですが仕事に真摯で、自分が世界政府市民の命を背負う存在だという自覚を強く持つお方です」

「……信頼できるのか?」

「政府の人間の中で、私がもっとも信頼し、敬意を示せるお方です」

 

 スパさんはいざって時にはちゃっかり足切りするタイプだから、信頼度という意味では低い。

 防衛戦しかり復興作業の時しかり、同じ仕事をしていてかつ利害が一致するという形であれば、この上なく頼りになる人なんだけどなぁ。

 

「クロ」

「ハッ」

「海賊として追われながらも、我々の掲げる正義に勝るとも劣らない矜持を貫き通してきた貴殿の覚悟に誓おう」

 

 

 

「必ず、彼女達を守ってみせる」

 

「……ありがとうございます。ゼファー特別大将」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「手紙で感じた人柄と、まったく変わらぬ人物だったな……」

 

 戻ってきたヒナ伍長と共に、多くの人間に惜しまれながら――件のピンシャー卿には襟元を掴み上げられ『政府に残らんか貴様ぁ! お前が手配した仕事が山ほど残っておるんだぞ! 海賊なら働いて儂を助けんか!!?』と泣きじゃくられて困り果てていた海賊は、政府の船に乗船し、去っていった。

 

 本当に慕われていたのだろう。

 彼の下で仕事をしていた人間――彼から頼まれていたジェネッタ女史を始めとする面々は、本当に悲しそうに見送り続けている。

 

 船の後ろ姿が、もはや小さくなってもだ。

 

 ピンシャー卿はクロを引き留めている内にひきつけを起こして担架で運ばれていった。

 

(約束を守るためにも、さっそく動かねばならんな。(まつりごと)は苦手なのだが……)

 

 政府が、在野の優秀な人材を天竜人として引き上げる事もあるという前例の喧伝のために、クロの名前は偉大なる航路(グランドライン)を含めてすべての海に広がりつつある。

 同時に、その要請を断ったという情報も。

 

(政府は、政府の要請を断ったという罪状でますます彼ら『黒猫』への圧力をかけるだろうが……同時に彼を信奉。いや、心酔すらしている海兵も多くいる。西の海はもちろん、本部の兵ですら)

 

 あのゲッコー・モリアによって作成された大量のゾンビ兵を相手にその指揮下で戦った兵士達。 

 なによりも、子供や孫が同じく海兵となっている――いわゆる二世、三世海兵の親や祖父母の代からは静かに、だが強い支持を得ている。

 

 主に減刑処分――海賊としての罪を消して、海兵として迎え入れる事は出来ないかと非公式の会議を開いて話し合っているのがこの世代になる。

 

(まずは真っ先に味方になってくれるだろう彼らに話を持っていくか。俺には思いもつかないような知恵を貸してくれるかもしれん)

 

「ゼファー、ここにいたか」

「元帥」

 

 自分よりも数年年上で、だが同期である男がいつの間にか来ていた。

 

「港まで来ているとはな」

「申し訳ありません。どうしてもクロをこの目で見送りたかったのです」

「……クロ、か」

 

 元帥センゴクは、どこか緊張したような面持ちで少しだけ口ごもり、

 

「ゼファー」

「はっ」

「……話がある」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「提督。本拠地より連絡が入って、総督殿本人から、これから聖地を出るという知らせが来たらしいガネ」

「うむ。まずは一安心といった所じゃな」

「クロの姿を直接確認できるまでは油断できねぇがな……」

 

 海軍との共同拠点となっているモグワの港にて、ボア・ハンコック率いる『黒猫』海賊団第一艦隊は回収した戦利品の整理と海軍への引き渡しを終え、港側に用意している『黒猫』の詰所に集まっていた。

 

 その奥の幹部用の大きい会議室の前にはハンコックの妹二人が見張りに立っており、中には親衛隊を含む幹部級が揃っている。

 

 提督であるハンコックに参謀のギャルディーノ、今回観測手役で同行したペローナ、そして今回の遠征に同行した『黒猫』本隊の参謀ともいえるギルド・テゾーロ。

 

 並みの海軍部隊なら一方的に沈められるだろう面々は、景気の悪い顔を突き合わせていた。

 

「それにしても、クザンが抜けた上にタキ殿達が主流から外されるとはのぅ……」

「あの運ばれた島の件も含めて、今の西の海でもっとも武功を上げた部隊のハズなんですが」

 

 西の海の海軍の中で、大将『青雉』ことクザンについで『黒猫』と良好な関係を築いた上で、互いの連携にも慣れていた海兵達がこのモグワから突如外されたという知らせに、幹部の全員が不吉な予感を抱いていた。

 

「ビグルやバーセンジーと言った、主殿がことさら頼りにしていた兵士達も異動。……テゾーロ、ギャルディーノ。どう思う?」

「海軍内部が、二派に割れつつあるかと」

「私も同意見だガネ」

 

 海賊には酒が付き物なのだろうが、『黒猫』の会議では大体が紅茶か緑茶が定番である。

 

「これは親衛隊の子からの話だが、逆に異動でこちらにきた兵士の指揮役は、足運びが少々総督殿に似ているらしい。……まぁ、私はまだ直接総督殿と顔を合わせた事はないガ、それでも想像出来る事はいくつかある」

 

 紅茶好きの第一艦隊参謀のギャルディーノは、アールグレイが注がれたカップを傾け、

 

「総督殿の事前の読み通り、大量の欠員が出た海軍内部に、世界政府が直属の戦力やその候補員たちを送り込んで派閥を形成しようとしているのだろうネ」

「……確かに、クザンの奴が抜ける少し前からこっちの内情を探ろうとする連中の一部は、クロみてぇな動きをする奴らが増えてたな。……クロに比べて予備動作もデカいし動きが分かりやすい上に、覇気とかいう奴は使えないみたいだから、アタシのゴーストで黙らせてきたが」

 

 茶ではなく、こちらは熱いココアをチビチビ口にしながらうっとうしそうな顔で同意する。

 今も能力であるゴーストを操作して、周囲を警戒していた。

 

「……センゴクなる元帥は、ますます動きが取りづらくなったわけじゃな?」

「はい、そして我々の問題としましては新興派閥である……そうですね、政府派……天竜……いえ、貴族派と呼称しましょう。彼ら貴族派が、どうやって軍内部での発言権を伸ばそうとするか。その動きによっては、我々『黒猫』の動きも左右されるでしょう」

 

 先ほどハンコックと共に顔合わせをした新たな西の海の統括支部長――ヒバカリ中将と名乗った男の顔を思い出して、テゾーロは思わず顔をさらにしかめてしまう。

 

 その目つきは、彼にとってなじみ深く、そして嫌悪――いや唾棄する物だった。

 人に値段を付けようとする、かつて自分の愛しい人を売りさばこうとした奴隷商とそっくりな目で、ハンコックを見ていた。

 

「海兵達に口実を与えてしまうかもしれませんが……そうですね」

 

 

 

「田畑の種まきに向けた用意が始まるため、一時兵力を下げる。……といったような理由で、戦力もモプチに集めるべきかと」




いやホント、ここ最近の過去編で世界政府の割れないと思ってた底値ブチ抜けちゃって正直色々ビビっちゃってます……

いくらなんでも、ここまで非合理的で酷いことはしないだろうなという最底辺の予想がブチ抜けるとは……
何書いても『天竜人ならやるよ。絶対やる』とかなりそうでちょっと怖い(;゚д゚)
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