とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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094:ウエスト・ブルー海戦―①

―― 先日の要請によって、我ら世界政府は行方不明となっていた非加盟国モプチ国王、並びにその第一王子を発見。

 

 

―― 我々(・・)世界政府が現在保護しているが、本人達の希望により本人達の帰国、並びにモプチの加盟国入りを希望しており、その証としてモプチ第一王女シャンティリー姫と天竜人、カマエル聖の婚姻に承諾した。

 

 

―― それにともない、モプチは世界政府加盟国にして直轄地となる。現在不法に土地を占拠している海賊『黒猫』は捕らえている王族を解放し、降伏せよ。

 

 

 

「まさか……仮にも海軍が、ここまで堂々と恥知らずな真似をしてくるとは……」

「保護もなにも、奴隷としていたのはあ奴らであろうに」

 

 モプチ近海。

 かつてはこのあたりを縄張りとしていたマフィアの密輸船などを相手に戦った海で、今まで肩を並べていた海軍の艦隊を相手に、黒猫海賊団は副総督ダズ・ボーネスを中心に艦隊を展開していた。

 

「しかも、殿下との婚姻と申したか。なにを勝手な事を……。我々がこの半年でどうにか国体を成せるところまで復興させた所で王族ごと奪おうとは、中々に海賊らしいではないか」

「ほう。お前でもそういう怒りを持つか、ボア・ハンコック」

「貴様とて同じじゃろう、ミホーク。今日はいつも以上に剣気が研ぎ澄まされておるぞ」

 

 そしてその艦隊の中でも主力となる第一艦隊旗艦の甲板では、黒猫の最大戦力の二人が敵を見据えていた。

 

 黒猫海賊団が短期間で西の海どころか世界でも有数の戦力を持つに至った最大の要因。

 

 九蛇海賊団の一人にして、覇気に関して天賦の才を持つメロメロの実の能力者、ボア・ハンコック。

 

 偉大なる航路(グランドライン)の後半――通称新世界でも屈指の腕を持ち、黒猫兵士の剣――特に親衛隊の育成に多大な貢献をした『海兵狩り』、ジュラキュール・ミホーク。

 

「趣味の範疇とはいえ、俺が手をかけた土地でもあるのだ。それを一方的に奪うというのであれば腹も立つ」

「趣味」

「うむ。手の空いた時を狙って手を入れていた苗も無事に育っている」

「苗」

「モプチやキャネットに植える物だ。今度は種から厳選している。次の収量は去年より期待していいぞ」

「……素直に頼もしい言葉ではあるのがまたなんともな」

 

 色々と言いたいことはあるが、今更ではあるのでグッと堪えたハンコックは、眼前に広がる敵艦隊を改めて目にする。

 

「しかし、バスターコールとやらならば、たしか本部軍艦十隻に中将クラスが最低五名……であったか。数こそ数隻足りぬ八隻じゃが……」

「大将赤犬、それにあの『黒腕』が来ている。クロめ、なにをやらかしたかは知らぬが随分と政府を恐れさせたらしい」

「ふん。随分と目立つ旗頭じゃな」

 

 

 

「あの二人を無力化すれば大勢は決する」

 

 

 

―― 提督、敵旗艦に動きあり!!

 

 

 

「が、その前に一仕事が必要じゃの」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「モプチの制圧、王族の保護(・・)、そしてニコ・ロビンを始めとする幹部の拿捕……」

「ようするに、クロに対する人質にしたいというのが政府の意向じゃろう。……どこまでも……っ」

「口にするな、赤犬。兵士を率いているのだ」

「……見覚えのない兵士がやけに多いですがのぅ」

 

 本来ならば偉大なる航路(グランドライン)――それも新世界で活動する強力な海賊を相手にするための精鋭部隊は、有力だった将官は半減とまではいかずとも、下手すれば一つの支部基地の兵数に匹敵する者達が海軍を去り、その代わりに入ってきたのは政府子飼いの戦力である。

 

「CP崩れがどこまでやれるかのぅ……」

「相手は黒猫の精鋭。こと集団戦闘においては、あるいは海軍以上に練り上げているかもしれん。ゆえに初撃が肝だ」

「わかっちょります」

 

 この戦場にいる最高戦力の一人。

 マグマグの実を口にし、能力者の中でも極めて高い攻撃力を手にした、海軍本部最高戦力。

 

 その右腕が紅く輝き、ボゴボゴォ……ッと不気味に泡立ち始める。

 それが何を意味するか分かっている兵士達は、一様に大将赤犬から距離を取る。

 

 そして、

 

「流星火山!!!!」

 

 それが爆発し、はじけ飛ぶ。

 かすりでもすれば船など瞬く間に燃やし尽くす業火球が、『黒猫』目掛けて飛び散り――

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「そう来ると思っていたぞ。大将赤犬」

 

 足場が船しかなく、しかも悪魔の実の能力者であるために泳いで逃げる事が出来ない絶体絶命な状況にも関わらず、黒猫海賊団の副総督は、冷静に迫りくる火球を見据えていた。

 

「副総督、ポンプ正常に稼働。圧縮も演習通り完了しました」

「冷却は?」

「常温よりは下がっていますが、それでも冷水というには温度が高いです」

「構わん、初撃をくじくには十分だ。総員、配置に付け」

 

 船の甲板には、それぞれの能力を駆使して敵海軍の攻撃を推し量っているニコ・ロビンとペローナがいる。

 大抵ホロホロと笑っているペローナも、今この時は真剣な顔で、周囲に漂わせている大量のゴーストに紛れ込ませた高所からの観測用のゴーストと視界を共有し、

 

「ったく、本当に効くんだろうなコイツは! 5……4……」

「ダズさん、前線艦の射程まで三秒!」

「よし」

 

 

 

 

 

放水(・・)開始」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――あ゛ぁ?」

 

 突然、黒猫の艦隊の前面を構成する海賊船のその行動に、赤犬は不快そうに眉を顰める。

 

「……各艦とも、船から海へとホースのようなものが何本も伸びている。……海水を放っているのか?」

「舐められたもんじゃのう。あんな水鉄砲ごときで、儂のマグマが消えると思うちょるのか」

 

 事実、まさに黒猫の艦隊を燃やし尽くさんとするマグマの塊は、やけに勢いの強い水流を当てられてもビクともしない。

 触れた水を瞬く間に水蒸気へと変化させ、その影響か小さな爆発音のようなものが細かく聞こえるがそれだけである。

 

 このまま船に当たればそれでも火が付き、瞬く間に燃え盛るのは避けられないだろう。

 

「さっさと片付けて、ニコ・ロビンを確保せにゃならん。政府のお偉方は、二重の意味であの娘の身柄を欲しがっちょる」

 

 その言葉に、隣に立つゼファーは不快そうな顔をするが、何も言わずに水蒸気を上げながら迫る火球の数々を眺め――

 

 

 

 

 それが突然斬り飛ばされ、勢いを失くして海へと落ちるその瞬間を目にするのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― 海軍本部大将の内赤犬と黄猿を相手にする際、最も効率的なのは海上で迎え撃つ事だ。

 

 

 まだクロがモプチ、モグワで敵海賊の迎撃や復興の指揮を執っていた頃、同時に彼は海軍が敵になった際の対処法を幹部達と話し合っていた。

 

 

―― 特に赤犬は絶対に海上で迎え撃て。下手に陸に上げるとその火力を十全に使えるようになる。

 

 

―― 逆に船の上ならば、船が木造である以上出せる火力には限度がある。

 

 

「確かに、木造である船に対してマグマ火球による遠距離範囲攻撃は一見有効だろう」

 

 そう言った場の全てに参加し、その内容の全てを自分なりにかみ砕いてきたのがダズ・ボーネスという男である。

 

 特に海賊連合事件が始まってから、キャプテン・クロという頭脳と別れて独自に判断を下さなければならない事が増えたのも一因ではあるが、それでもこの半年で、『鋼刃』と呼ばれる男は自身の戦闘力を鍛えながら、同時に集団での戦い方も磨き続けていた。

 

「だが、マグマという事はつまり高温で溶けた岩石。ギャルディーノのように大量に精製した上で一点に集中した一撃ならばともかく、広範囲を攻撃するために細かく分けた火球ならば勝ちの目もある」

「ホロホロホロホロ! あの時ジェルマ(・・・・)から奪った消火用のホースやらポンプやらがこんな形で役に立つとはな!!」

 

 旗艦を始め、前線を担当する艦にはすべからく消火装置が過剰(・・)に設置されていた。

 領土が船上に限られるがゆえに火を恐れ、備えを欠かしていないジェルマ特製の品である。

 

「完全に鎮火することは不可能でも、温度を下げる事で多少でも硬化し形を持てば対処は容易い。通常の戦闘員ならともかくこちらには――親衛隊がいる」

 

 そして、一般船員がホースを構えて火球を狙う横には、基本となる三人一組(スリーマンセル)を組んだ黒猫海賊団の象徴――親衛隊が抜いた刀を静かに鞘に戻し、残心へと入っていた。

 

 かつてキャネット島にて、海賊クロコダイルの産み出した砂塵を吹き飛ばした親衛隊の必殺技。

 三位一体で放つ強力な飛ぶ斬撃。

 

 その威力を落とした、個々で撃てる負担の軽い技によって固まりかけたマグマ火球を砕き、海へと落としたのだ。

 

自然系(ロギア)の能力者は確かに恐ろしい。特に近づくだけでも対処が求められるお前のような能力は」

 

 

―― 注水再開! 急げ!

 

―― タンク一番から二番問題なし! 三番タンク、現在容量三割!!

 

―― 予備分のホースを追加して! 冷却は考えなくていい!! とにかく海水の補充と圧縮を!

 

 

 海水を用いた放水設備――否、放水装備周りでは、指揮役の親衛隊の下黒猫の兵士達が走り回り、大将赤犬の次射に備えている。

 

「だが同時に言えば、自然系(ロギア)の元となる自然現象の特性からは逃げられん。たとえ覇気を纏っていてもだ」

 

 皆、海軍の目の届かぬモプチの近海にて演習を繰り返した兵士である。

 

 中には初の大戦(おおいくさ)で動きのぎこちない者や、顔を青ざめさせている者もいるが、モプチ制圧の前から黒猫にいる比較的古参の兵士が上手く手を貸し、部隊としての行動にほぼ乱れは無い。

 

「ダズさん、第一艦隊を前に出していいかって!」

 

 火球を始めとする砲弾の観測と、万が一零れたマグマが船にかかりそうなときは爆発で弾き飛ばす役割を持っていたペローナに代わり、艦隊行動の把握に務めているロビンが叫ぶ。

 

 その叫びにダズは、ハンコックとミホークが敵勢に乱れを感じたのだと察する。

 

「了承だ、こちらも援護する。各砲、第一艦隊前方の艦を狙え」

「ハッ! 各砲門、立ち上げ! 目標、第一艦隊前方の艦!!」

 

 補佐役として側に置いているアミスの号令に、黒猫本隊全艦の砲兵達が狙いを定める。

 かつての砲戦のときとは違い、軍事大国であったモグワが開発していた新型大砲へと更新されたそれは、射程も威力も大きく向上している。

 

 

 

「ゆえに――撃ち合いでは、我ら『黒猫』に分がある」

 

 

「ゴーストフル稼働してキチンと観測している! 問題ねぇぞ、ダズ!! いけ!!」

 

 

 

「攻撃開始」

「全艦、撃ちーーー方ぁ始めぇっ!!!!」

 

 

 

 轟音と共に、こちら側の砲弾が海軍艦目掛けて発射される。

 それらには赤犬の攻撃のような火力はなく、特異性もない。

 

 だが、この短い期間の間に実戦を踏まえて磨きに磨いた、『黒猫』のその乱れ無き砲撃の数発は、海軍艦の装甲を確実に削っていく。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「やはり、こやつらは海兵ではないの? 愚か者共め、即席の艦隊で我ら『黒猫』を相手にするとは……この三本爪も軽く見られたモノじゃ」

 

 初手にして必殺だったハズの業火球が斬り飛ばされ、失速して海へと落ちる。

 であるのならば、即座に大砲による広範囲の牽制が来ると思いきや、明らかにモタついている。

 

『ハンコックさん、そのまま行って! こっちからも援護する!』

 

 耳元で、オペレーターのロビンの声がする。

 相手の一番やっかいな能力による砲撃を防いだといっても、無尽蔵と言っていいそれを受け続ける事は難しい。

 

 よって最精鋭による突撃、敵主力への攻撃――あるいは足止めは必務であり、それに当たるのはハンコック率いる第一艦隊しかあり得なかった。

 

「感謝するぞ、本隊! 征くぞ、第一艦隊! このまま突っ込む!」

 

 ロビンの返答を受けて突撃を指示したのとほぼ同時に、本隊からの一斉射が放たれる。

 

 ペローナの高高度測量を基に繰り返した演習の経験、そのデータを元に演算と実験を繰り返してきた本隊砲兵の実力は、下手な海兵の及ぶ所ではなかった。

 

 観測のための初弾斉射にも関わらず、その半数はすでに夾叉弾となり、残る三分の一は運もあったとはいえ敵艦装甲に突き刺さり、その炸裂で敵の動きに隙を作る。

 

 その動きを逃さず、ハンコック率いる海賊船六隻が海軍艦隊の左翼側から喰らい付かんと舵を取り、帆で風を受ける。

 

 三本爪の猫。

 黒猫海賊団の象徴の旗であるソレに、一匹の蛇が描き足されている。

 

 黒猫を守るようにグルリと囲み、一周回って自らの尾に喰らい付く一匹の蛇が。

 

 この西の海に、黒猫海賊団『第一艦隊』の旗が風を受けて燦然と靡いている。

 

「風向きも強さも悪くない。これなら……全砲門、ぶどう弾装填!!」

「ハッ! 復唱! 全砲門ぶどう弾装填!」

 

 ハンコックが艦隊提督となったばかりの頃、面と向かっての近接戦闘に不安のあった艦隊兵士の戦闘時に被害をいかに減らすかを訓練以外で、かつ安価で済む策がないか考えた際、交戦する前に効率的に相手の氣勢を削ぐ事へと思い至った結果、彼女がたどり着いたのは船に打撃を与えるのではなく、敵船甲板の人間に初手で大打撃を与える攻撃方法の研究だった。

 

 ぶどう弾とはそれをクロを始めとする幹部勢と相談し、結果開発された散弾である。

 程よく丈夫な帆布で作った袋の中に手頃な大きさの鉄球を込め、当たれば負傷は免れぬ散弾の雨を敵頭上に降らせる特殊砲弾。

 

 複数の子弾が袋の中で纏まっている姿が葡萄(ぶどう)に似ているから、ミホークにより『ぶどう弾』と仮称された名称がそのまま使われるようになったのだ。

 

 なお、その仮称がそのまま定着したのを耳にして、なぜか総督のクロは微妙な顔をしていた。

 

「最接近と同時に敵甲板を狙い一斉射! 敵隊列を崩し、ミホーク達の突入口を開く!!」

「ハッ!」

「弓兵隊、半数はフックショット装備! 射程に入り次第敵艦のマストやロープを狙い、その航行に負担を掛けよ!」

「了解! 総員、まだ構えるな! 最接近の際の大きな揺れを越えてから撃つ! 揺れに耐えながら狙う先から目を離すな!」

 

 矢に括りつけられているのは、鋭く研いだフックが付いた頑丈な紐である。

 これを放ち、フックが相手の船のロープに引っかかればあっさり斬り裂かれ、それが敵船の航行を不能にする。

 

 弓の名手であるハンコックが直々に鍛え、認めた弓の精鋭でなければ使いこなせないだろう装備が、海軍に飛び掛からんと待ち構えている。

 

「親衛隊は最前列を! 危険域の砲弾は我らが受け持つ!」

 

 帆の性能を最善に活かせる程度の強さの風が来ているため、第一艦隊の船は最大船速で目標敵艦の斜め前――敵艦砲の死角を縫って接近する。

 敵も気付いてマストを操り船首を第一艦隊へ向けようとしているが、本艦隊の第二射によりその応対にも手を取られ、その動きはかなり鈍いものだった。

 

 他の海軍艦がギリギリ向けられる艦砲を以って近づく海賊目掛けて大砲で迎撃しようと試みるが、そのどれもが届かない。

 グングン近づくために狙いやすく、間違いなく直撃コースを取ったとしても、その砲弾は飛んで来た斬撃や正確な狙撃によって、次々に無力化されていく。

 

 親衛隊や、一部の精鋭兵士の実力は精鋭海兵のソレにも決して劣っていない。

 

「提督! 射程、入りました!」

 

「よし! ()ぇーーーーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「く……っ、こうも早いとは!!」

 

 その海軍艦は、主に政府から派遣された兵士で構成されていた。

 共に肩を並べて戦っていた西の海の兵士とは違い、『黒猫』をその目で見たことがない者達だ。

 

 無論油断しているわけではない。

 むしろ、海兵達よりも『黒猫』の拿捕に真摯であると言えるかもしれない。

 

 だが――彼らは海兵ではなかった。

 

 敵の大砲がこちらを向いている。

 それらが一斉に火を噴いた時、即座にそれ目掛けてこちらも撃ち返していた。

 彼らはCPにこそなれなかったが、それでも厳しい訓練を受けて来た者達。

 自分の腕には自信があった。

 

 轟音と共に、予想していた砲弾が飛んでこず、代わりに乗り込んでくるだろう敵を待ち構えていた味方が次々に倒れていく。

 

 訳が分からなかった。

 砲弾を受けたのならばもっと派手に吹き飛ぶはずだ。

 人も船も、派手に。

 

 だが、飛んできたのはとても砲弾とはいえない、だが兵士に致命傷を与えるには十分な鉄球の数々だ。

 

 次々と撃ち込まれる鉄球が、砲弾よりも静かに、だが次々に味方を削っていく。

 

「クソが! おい、こんな小さい鉄球なら射程が短い! 大砲を撃ち込みながら距離を取れ!!」

 

 男はこの船の船長ではない。

 船長はこの西の海で長年任務に就いていた、だが『黒猫』と直接面識のない大佐である。

 

 本来ならば男の方が立場は下のはずなのだが、誰もそれを気にしていない。

 なぜなら――

 

 

「なるほど、個々はそれなりの練度はあるようですが、致命的に集団戦に向いていない。敵旗艦を囲むように配備されている船であれば、おそらくジェルマ以上に船上の方が戦いやすいだろうというギャルディーノの読みは当たりましたね」

 

 気が付けば全員が斬り伏せられていた。

 いつ乗り込んだのか分からない、銀髪の美女が刀を振るった瞬間、周囲にいた仲間は全員斬り伏せられていた。

 

「クリスさん油断しないでくださいよ、距離的にすぐにでもサカズキ大将かゼファー先生が乗り込んできてもおかしくないんですから」

 

 慌てて応戦しようとしている味方は、短い剣二本を手にした、長い黒髪を後ろで蝶々のように結い上げている女の牽制で動けなくなっている。

 一人が無理やりサーベルを手に斬りかかるが、振り下ろす前に右手の剣で切っ先を押さえられ、次の瞬間には左の剣で喉を刈っ斬られて地に倒れる。

 

 その剣はあまりに早く、剣を振るった二刀の女は返り血一つ浴びていない。

 

「いや、乗り込んでもらったほうが楽なのだがな」

 

 そしてもう一人。

 黒い革帽子を深く被り、白鞘の刀を腰に下げて堂々としている長身の男。

 

 男は、鷹のように鋭い眼(・・・・・・・・)で周囲を見回し、

 

「あまり殺すと船ごと我らを焼き殺そうとしかねん。それはそれでなんとでもしてみせるが面倒だ、二人ともやりすぎるな」

「……いやぁ、あの……」

「それこそ我らの言葉であります。先生」

 

 共に乗り込んで来た女達の言葉に「そうか」と小さな笑みで返し、だが次の瞬間にはニヤリと鋭く笑い、

 

「ではいくぞ。すまんな、お前達」

 

 

 

「黒猫が横切る。せいぜい気を付けろ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「フッハハハハハ! いやぁ、本部戦力が来ると聞いた時はどうなるかと思ったが、いざという時に逃げやすいここに配置してくれるとは、提督もいい所があるじゃないカ」

 

 かつての西の海の復興の象徴、そしてクザン率いる海軍とクロ率いる海賊が共に、海賊と貧困を相手に立ち向かった戦いの一大拠点、モグワ。

 

 国王は殺され、王妃や王女達の行方は知れず、妾や給仕の女性数名だけはかつての海賊連合拠点攻略戦の折に黒猫に保護されているが、実質治める者のいなくなった国は現在、黒猫海賊団第一艦隊の別動隊によって占拠されていた。

 

「ギャルディーノ、姉様(あねさま)を放って逃げようとしたら容赦しないよ」

「分かっているガネ、サンダーソニア君。能力者である上に覇気という物を使う君達の怒りを進んで買うつもりはない。とはいえ、余裕があるというのは大事な事だよ」

 

 戦いが始まる前、事実上モグワを治めていた新生海軍の面々は、モグワ城内部の中庭にギッシリ敷き詰められていた。

 ある者は手足を縄で縛られ、ある者は海楼石の錠を掛けられ、ある者は石になり――そしてほとんどの者は手足を蝋で固められていた。

 

「とりあえず、これで危うい所にいた海兵達は回収完了。あとはギャング・ベッジの増援が到着次第次の計画に移る予定ダガ……」

「でも、それは本隊が勝てばでしょう? 海軍本部戦力が来ているけど、ダズや姉様は大丈夫かしら」

「少なくとも一方的に敗れる事はまずない。仮に負ける事があっても壊滅ではなく、敗走する余裕はあるハズ」

 

 緑の髪の少女――ボア・ハンコックの妹にしてヘビヘビの実、モデル:アナコンダを口にした第一艦隊の副長の不安げな言葉を、同艦隊の参謀長が否定する。

 

「私が海賊連合の連中の下にいた時から海軍と協力している海賊の話はチラホラ――まぁ、アチコチを歩き回る役目だったためにしっかり聞いてはいなかったが、それでもすでに本部戦力に匹敵するという話は聞いていた」

「でも大将が来ている」

「それでも、だガネ。……いや、だからこそか」

 

 別動隊の仕事は、戦闘が始まった際にモプチを強襲しかねないモグワの戦力を抑える事。

 かなりの大仕事になるハズのそれは、敵艦隊を通りすがりに一瞬で無力化したボア・ハンコックのおかげでほぼほぼ消化戦となったのだ。

 

 逆に、後々交渉の材料になると思い安全な所まで運ぶという普通の作業が、極めて労力を使う物になってしまったのは、対価というものだろう。

 

「第一艦隊の訓練や運営は知っているし、そこにあの海兵狩りと提督がいるのならば大将クラスといえどもそう簡単に崩せるものではない」

「崩せたら?」

「とうの昔にここかモプチに無傷の海軍艦隊が来ているガネ」

 

 縁の厚い眼鏡をクイッと気障ったらしく上げて、ギャルディーノはニヤリと笑う。

 

「となれば戦力は拮抗しているのは間違いない。だが、こちらは規律を組み立てた上で、演習を繰り返して艦隊行動を確立させている。一方で相手は日々の海賊相手の戦いは基本単艦での対応なのに加えて、再編の真っただ中。個々の戦力がいかに強かろうが、不安要素がここまでアレば十分戦える」

「なるほど……ねぇ」

 

 男は口が上手かった。

 だからこそ、経験を積んできているとはいえまだ幼いサンダーソニアは半分納得し――

 

 

 

―― 伝令! 伝令!

 

 

 

―― 西部海域より接近する海軍艦を発見! 数四隻!!

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

「……ふむ」

「で?」

 

 

 

「ちょっと待ちたまえ」

 

 

 

 

 

 

「ここで西からの四隻艦隊はさすがに予想外なのだガネ!!!?」

「誰か、この3メガネちょっと海に捨ててきてちょうだい」

 




※前回外見はお自由にと言ってしまったクリスですが、結局幻想水滸伝縛りにともないⅢの仕様で行く事にしました、申し訳ありません。

https://suikoden.fandom.com/ja/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%83%BC

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