「ク……ッソォ!
「面白い曲芸だが、肝心の出だしが遅い。寝ていろ」
―― ザシュ……ッ
「ぎゃああああああああ!!!」
一人、また一人と『海兵狩り』はその名に恥じぬ活躍を見せる。
本来ならば親衛隊が得意とする
(ふむ。確かに新兵ではない。戦いに慣れている様子はある。ある、が……クリスが言うように海兵特有の粘りがない。むしろ海賊に近いと感じる)
一対一であれば、こちらの兵士は容易く討ち取られるだろう。
だがジェルマの一戦の時同様、船上という連携が必要不可欠な状況に追いやった上で、ぶどう弾のような対人に特化した砲弾を用いて更に混乱を助長させているためにこうも脆くなっている。
(海戦の経験――いや、体験が少ない、あくまで強力な個を作る訓練を受けた者……やはり、CPとやらの訓練を受けていた者達を、今回の攻撃のためにかき集めたと見ていいか)
今度はクロのように宙を駆ける二人組が、上空から挟み込むように襲い掛かって来る。
が、クロのソレに比べれば余りにうるさく、あまりに遅いそれは親衛隊どころか一部の兵士からしても止まって見える代物だ。
一人はクリスが飛ばした斬撃によって斬り飛ばされ、一人はミアキスが懐から取り出し投げつけたナイフが腹に突き刺さり、呆気なく甲板へと落ちていく。
(……数は向こうが上かつ世界政府という確固たる立場があり、対してこちらは増やすのには苦労する立場。それがこうも無理やりな理由をつけてまで襲ったのは……やはり、クロがいない事が理由か?)
こちらを侮っていたというのならば別に良い。
だがそうでないのならば、政府側が『今しか機がない』と判断したという事になる。
であれば、クロの何かが政府に焦りを招いたということだ。
―― クックク……ッ。
そう判断した途端に、ミホークの口から思わず笑いが零れる。
とっさにかみ殺そうとしたが、それでもだ。
「先生? どうしました、急にニヤけて」
「確かに面白い技を使う敵ですが、それでも先生の興味を惹く程とは思えませんが」
ともに船に乗り込んだのはこの二人と、第一艦隊付きの親衛隊もう一組の計五人。
仮にも海軍艦に乗り込むにしては余りに心もとない数なのだが、少なくともこの船の戦況は圧倒的にこちらに傾いている。
もう一組はハンコック達の援護を受けながら的確にこの船の操舵能力を奪って行っている。
直にこの船は碌に動けないただの障害物になるだろう。
「いや、なに。クロの土産話が楽しみになっただけだ」
「ああ……」
「金獅子と交戦したと聞いて、今モプチに控えているお爺様とかお腹抱えて涙が出る程笑ってましたもんね」
万が一の場合は王族の人間を連れて隠れアジトに向かってくれと頼んでいた海軍も把握していない鬼札は、あくまで客人である彼を戦力に組み込むことを躊躇ったダズとロビンの判断により、最後の切り札――否、攻撃ではなく生存のための伏せ札となっていた。
「さて、上手く後方にハンコックが手配した船が回っている、一度戻るぞ」
ハンコック率いる第一艦隊は、こちらに接舷しようとしている艦を狙う船を、弾を切り替えた砲撃によって牽制していた。
その砲撃の傘の下でミホークたちの回収を任とした船が、今襲っている軍艦の死角――砲門の用意がない後背にひっそりと付けられていた。
「あの娘は俺寄りの人間だと思っていたが中々どうして……兵を率いる事に才があったか」
「総督達との盤上演習や論議を繰り返している方ですので」
「そうだったな」
「ですので、総督が帰ってきたらもう少し日課の鍛錬に手心を加えて頂けると我々の総合的な戦力向上にとってありがたいのですが?」
「考えておこう」
「それ、考えるだけで終わる奴ですよね?」
「ハッハッハ」
笑い飛ばしてからミホークがミアキスを一瞥すると、ミアキスはやれやれと首を振りながら、紐を通して首に下げていた笛を口にくわえ強く。
短く、キレよく三回。
特徴的な高音を響かせる。
一拍置いて同じリズムを。
するとやや離れた所から今度は短く二回、長く二回。
同時に乗り込んだ親衛隊の部隊から返信だ。
これも同じように、一拍置いて同じ旋律が流れる。
「――、向こうも任務完了とのことです。砲戦能力を完全に、航行能力は適度に破壊」
「よし」
トドメとばかりに剣を振るい斬撃を飛ばし、まだ戦意の残っていた敵勢力を一掃する。
ただ敵を殲滅するだけならマストを斬り裂けば終わりなのだが、そうなれば海兵達から逃走という手段を完全に奪いかねない為、船体へのダメージを最小にしながら戦っていた。
少し前の自分ならば考えもしなかった剣の振るい方に、だが満足そうにミホークは戦況を見渡す。
白兵能力も適度に削れ、作戦行動の邪魔になる者は全員甲板に倒れている。
どうにか一矢報いようと海賊船に乗り込んだ者達も、控えていた親衛隊に撃ち落とされているのを先ほど目撃していた。
「このまま
「「ハッ」」
戦いは順調だ。少なくとも、今のところは。
(まったく、クロの奴め。一体聖地にて何をやらかしたのか)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
新世界。
「
「クザンといい好きな所で武器作り出せる能力者ってのは……っ! 本当に厄介ですね!!」
「それを徒手空拳で正面からかち合う君の方がおかしいと思うんだけどねぇ。どうだい? 降参して海兵になるってのは」
「勧誘みたいな投降呼びかけなんて聞いたことありません!!」
まさか西の海で勢力の地盤固めしようって海賊が本部大将相手に空中戦やってるのはホントなんでさ。
おい、黄猿! だよねぇじゃないんだよ貴様ァァァァッ!!!
ヒナ達に船を出させたタイミングでなんか撃ち出された大砲の弾に乗ってきたオッサンに先制攻撃かまして海に叩き落したと思ったら、あっさり高速移動して来てそのまま格闘戦とかお前ホント!
これでヒナ達の船目掛けての能力による砲戦仕掛けられてたらますます防戦一方で打つ手が無くなる所だったわクソが!!
ただでさえ常に差し足で空中にいるまま戦闘するのは、滅茶苦茶神経使うってのに!
「そもそもなんで大将まで出張っているんですか本当に! むしろ助かったとはいえ! 自分なにかやらかしました!? 聖地で死ぬほど頑張ったじゃないですかご存じでしょう!!?」
「いやぁ……わっしに言われてもねぇ……」
「この状況下でアナタ以外の誰に愚痴れと言うんですか! ふざけないでください!!」
「お、おぉ……なんか、ごめんねぇ?」
涼しい顔しやがって腹立つわボケェ!!
ちくしょう! なんで! 全体のバランスを取るために死ぬ気であれこれやったのがこうなったのか!
いやまぁ、再編に次ぐ再編真っただ中の海軍が相手――しかも最大の不安要素だったクザンが留守番で黄猿がここにいるんならばどうにかなるだろうけども!!
(とにかく今はコイツをどうにかしないと!)
多少の逃亡戦の可能性は当然考えていたけど、まさか二連続でこんな空中戦をするとは誰も思わんじゃろがい!!
ありがとうシキ! お前との戦闘経験してなかったらちょっとコイツの捕捉難しかったわ!!
今度会ったら懇切丁寧に海に沈めてあげるね!!?
「なぜ、政府は突然自分の捕縛に!?」
「海賊がいるなら捕まえろというのが政府というものだろう?」
「聞かされていないならそう言え!」
「おっとぉ……。分かっちゃうものなのかねぇ」
空中戦の経験は、意外にもこちらの方が少々上のようだ。
能力が強すぎて格上相手の戦闘の数が思ったよりも少ないのか、滞空できる時間は圧倒的にこちらが上だ。
そのせいか、戦闘の駆け引きが読みやすい。勝負を決めようとする一撃が非常に視えやすい。
能力で作った剣を振り下ろして来るが、覇気を込めた靴でその切っ先を逸らして、空いたもう片方の足で首元を狙った瞬間能力でギリギリ目視が可能な所まで距離を取られる
(人を指で――差すな!!)
とっさに軽く宙を
遅れて独特の甲高い音が通り過ぎる頃には、文字通り光の速さで加速してきた黄猿の蹴りが飛んで来る。
だが――
「視えている!」
「――ぉぐ……っっっ!」
突き出される蹴りと交差させるように覇気を込めた足を突き出しかえす。
光の速さで蹴ろうとしてきたやつを、逆に光の速さで蹴り返す。
確実に動きを潰せるならと喉元を狙おうとしたのだが速すぎるために細かいイメージがブれ、仕方なく命中率の高い胸に俺の足が突き刺さった瞬間、つま先から頭にまで衝撃が走る。
(ぅ……ぉっ! 体格差に加えて速度が乗ると、迎撃するだけでも体にダメージが……っ!)
猫の手があれば斬撃主体の攻防にも入れるのだが、このレベルの速度を持つ相手だと、瞬きより短いとはいえ予備動作が必要となる足技では取れる戦術が限られる。
(決めた! 今度からどんな状況でもアミスと誰かもう一人は出来るだけ側に置いておこう!)
俺と同じレベルで空中戦できる子が今ではそれなりに揃ってるんだから、もうちょっと彼女達に甘えよう!
「ゲホッ……まさか、その歳でここまで強いとはねぇ。センゴクさんがあれだけ惜しむのも分かるよ」
「惜しむなら見逃がしていただけませんか。世界政府と袂は分かっていますが、それでも全面戦争をするつもりはこちらにありません」
本音である。いや本当に。
ロビンの事があるから向こうから仕掛けて来るのであれば全力で戦うが、勢力としては相互共存が可能な状況を目指してる。
欲を言えば、向こうがこちら側に依存せざるを得ない安定した生産、経済圏の確立まで出来たらなぁとかは考えているが!
だからこその初期のモプチ含めた五島経済圏計画!
海賊連合のあれこれで吹っ飛んだそれの代わりに立案したキャネット制圧とそれを結ぶ航路の開発計画!
今度はそれも吹っ飛ばしやがってホンッッットいい加減にしろよ!!
「政府はそうは思っていないんだろうねぇ。それが理由なのかは分からないけど、君の勢力がこれ以上拡大する事を恐れている」
「もっと他に注意を払うべき所があるでしょう。聖地襲撃という前代未聞の事態を引き起こした金獅子の捜索は?」
「……金獅子よりも厄介だと思われたってことじゃないかい?」
「なんっっっでじゃ!!!!?」
襲った側が守った側よりマシに見られる理由を三十字以上五十字以内で説明してみせろ聖地のハゲ共!!!
いい加減にしないと本気でグレるぞ!!
…………。
いや海賊なんだからもうグレてるわ。
あとゴメン、よくよく考えるとハゲは使っちゃ駄目な言葉だった。
何があっても頭皮の事を使って罵倒するのは男に――いや、人にあるまじき言動だったわ。マジでゴメン。
これからは気を付けよう。
「それよりも、人質たちは大丈夫かい? このままだとこちらが確保できそうだけど?」
「ああ、それなら問題ありません」
ちょうどそう言った時に、ヒナ達の進行方向から酷い異音が響く。
頑丈な装甲を貼り付けた船の板材が、それでも衝撃に耐えきれず破砕した音だ。
何が起こったかは、向かい合っている黄猿の表情を見れば分かる。
―― こ、航行不能! 航行不能! 浅瀬に座礁したようです!!
―― 浸水が進んでいます! 大佐、指示を!!
―― 馬鹿な!?
―― 護送船は平然と船を進めているのだぞ!!?
見聞色を鍛えてからの影響か、離れていても少し集中すればそこの声が聞こえてくる。
「……これは?」
「最近は事務や現場監督といった仕事の方が多かったのでお忘れかもしれませんが、私は海賊」
伊達にソナーもレーダーもない海を渡り抜こうとしている訳ではない。
それなりに戦術やよく分からない海域の突破方法は考え抜いている。
「海の通り抜け方は熟知しております」
海の専門家である海軍に対しての意趣返しも兼ねてそう挑発してみる。
「まず」
すると黄猿は溜息を吐いて。
「海賊は事務仕事とは無縁なものだけどねぇ?」
…………。
「まぁ……はい。それはそうなんですが……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ワイアード大佐、動きを止めた仕掛けを前方に発見! 距離150、塗装あり! 繋ぎの紐に弛みを確認!」
「っ! 減速! 帆をたため! 取り舵一杯!」
クロが大将黄猿との戦闘を開始してから、護送船の人員はこの場を切り抜けるために行動を開始した。
ワイアード大佐を船長として、追跡艦隊から逃げ回っている。
こちらの速度はかなり遅い。
だがそれでも、こちらは悠々と海を乗り越え、一方で真っすぐ向かってきていた海軍艦は座礁し、動きが取れなくなった。
逃がすくらいならばと判断したのか、座礁した船が大砲を撃ち始める。
私は思わず身をすくめてしまうが、
「大丈夫だヒナ伍長、追跡艦とは十分な距離が取れている。あれでは砲弾など届きはしない。安心して観測と操船に専念せよ!」
「ハッ! 申し訳ありません!」
それでも逃げ切るための策を、クロは用意していた。
―― 幸い鎖は錨用に結構な量が残されている。ある程度の木材や、ダミーだったために空の樽や箱も。
―― これと残ってる資材を使って目印を作る。
―― 樽でも箱でもなんでもいい。浮きとして使える物に均一な長さの縄を括りつけて、それから錨の代わりに適当に引っかける物を用意してくれ。
―― 鎖の長さは、余裕があるなら三種類。用意できそうにないなら長短の二種類でいい。長さは揃えて。
―― 長い方は確実に船の喫水を越える長さに、短い方は危ういと思う長さよりもやや短めに。
―― ここは元々島があった場所だ。陸地こそほとんど無くなっているが
―― 海流に任せて仕掛けを流せば、長さに合わせて仕掛けが引っかかるだろう。それを利用して進行方向の目安を作る。
クロがその場で作ってみせた仕掛けは、最初は半信半疑な兵士もいたが、結果として上手く作動している。
短いものは浮きの樽や箱を赤く塗り、そうでないものは塗装せずに放り込む。
あとは流して様子を見ながら進めばいい。
引っかかってる所が塗装無し、かつ鎖と浮きの間に挟んだ紐や縄が浮いてなければ確実に通れる。
色を付けた樽が引っかかっていればそこは浅く、座礁の危険がある。
色が付いてなくても、縄が浮いているならば同じく危険な可能性が高い。
これらのサインを逃さずに焦らず、慎重に進めばこの複雑な海域を、ある程度安全に進んでいける。
―― 仮に座礁したとしても問題ない、要は追尾艦隊の手の届かない所まで逃げ切ってくれればいいのだ。
―― その場合は黄猿を食い止めた後に、適当に艦を奪って逃げる。大人しく待っていてくれ。
(……クロ)
防衛戦の時は見ることが出来なかった、あの海賊の戦いが今ではよく分かる。
この新世界の海で、その空で、黄猿と黒猫がその力をぶつけ合っている。
多数の光弾が襲い掛かる中、一見隙がないとしか思えないソレを潜り抜け、再び肉薄した接近戦へと移行する。
きっと、あの金獅子と戦っていた時もこのような有様だったのだろう。
本来飛べない人間が自在に宙を駆け回り、能力によるあり得ない猿の攻撃が飛び交い、それを猫が躱して反撃を加える。
(強ければ……もっと、私が強ければ……)
(――力があれば……っ!)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「確かにここが危険な海域だっていうのは知っていたし、だからまたここを選んだんだがねぇ。どういう手品だい?」
また?!
「戦術と言ってもらいたい」
その言い方はここで何度か人に言えない工作活動を重ねた事があるな!?
ひょっとして、明らかに数字やら購入履歴をいじった形跡があった奴隷関連の書類の改竄か!?
ということは海軍、お前ら!!
(まさかとは思っていたが、マジで加盟国の王族にも手を出していたな!? それも海軍経由で堂々と!!)
非加盟国ならばわざわざ工作を選ぶ必要がない。加盟国の民間人にも直接関われば人権なんざ消し飛ぶし、海賊とかならばなおさら! ならば残るのはそこらへんしかねぇ!
これが非加盟国ならばせいぜい情報の封鎖と操作くらいで済むだろうが、加盟国となると話が違う。
最低でもそれらしいカバーストーリーは必要になるはずだ。
数日経過しているとはいえ聖地に近く、さらには航行が難しい云わば船の墓場。
なんらかの間違いで迷い込んでしまい、船が座礁。
乗っていた要人は行方不明、海軍にて捜索しているが発見できずという形ならば波風は立たない。
……なんで最悪の想定を常に上回る醜悪さを見せて来るんだよ天竜人! いい加減にしろよ!!
――
(目くらましか)
甲高い耳障りな高音の嵐と共に、目の前が光の弾で一杯一杯になる。
(――だが!)
近距離だからこそ危険度は上がっているが、それでも隙間はある!
ミホークの零距離一人散斬撃よりはマシだ!
レイリーが加わったダブル全方位斬撃でも一割――その半分くらいは活路が広い!
なによりも――!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
追跡している海軍艦の中で、唯一やや下がっている艦がある。
大将黄猿の乗艦である。
パシュウウウ、という音と共にその甲板に黄猿ことボルサリーノ大将が戻ってきた。
その姿を見て、彼の配下たちは驚愕に顔を歪めてしまった。
初めてだったからだ。
これまでどのような海賊も涼しい顔で捕縛してきた大将が、疲弊していた。
海軍の象徴たる絶対正義のマントの下の、彼の象徴とも言えるスーツは所々ボロボロになっている。
「サカズキが――」
本人は荒い息を少しでも落ち着けようとしている。
だが、それでも思わずと言った様子で、誰に聞かせるわけでもなく口を開く。
「殺すべきだが、殺せなかった海賊に会った。……なんて言ってた時はなんのことやらと思っていたけど……」
ふぅー、と深く息を吐き、
「確かにこれは――戦いづらいねぇ」
―― 戦いづらいと言うのならば、ここらで手を引いてもらいたいのですがね。
突然響いた声に、兵士の誰もが虚を突かれた。
それこそ、大将である黄猿さえも。
「ど――」
思わず辺りを見回そうとした黄猿の腹に黒い足が突き刺さる。
「失礼、足癖が悪い物で」
次の瞬間、大将黄猿の姿が掻き消えたのと同時に轟音がする。
蹴り飛ばされた黄猿が、船室へと繋がるドアを貫いて吹き飛ばされる。
兵士達は、とっさにライフルを構えて海賊へと銃口を向ける。
子供だ。
兵士達の中には、同じ年ごろの息子がいる者もいた。
だが、誰もがその子供を恐れていた。
その子供こそ、政府をこうも動かす
「く、黒猫だ」
「黒猫が来た……っ!!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(確かに、ピカピカの実の能力は汎用性が高すぎてやっかい。近距離から遠距離まで隙が無い。三大将の中でも、それこそピカイチだろう)
海兵達は全員、銃口を向けながら怯えている。
兵士の中でも若い、新兵に近い者は震えている。
おいやめろ、なんか俺が悪い事してるみたいだろうが。してたわ。
(だから海上で戦えたのは幸いだった。サカズキさんと違い、比較的という程度でしかないんだけど……)
蹴り飛ばした時に後方に飛んで衝撃殺していたから、ダメージらしいダメージは入っていないハズだ。
どこから来るかはわからない、が……
(一番やっかいなのはその機動力。その機動力を封じる事は無理だ。だけど――)
(船を用いた海戦ならば、肝心の足場が
それこそ、今やってみせたような先回りもだ。
最初のCPもそうだが、海軍――世界政府戦力は戦術を間違えた。
互いの選択肢が制限される海戦ではなく、より広い手札を用意できる陸戦を選択するべきだった。
(まぁ、海軍らしく得意な海での戦いの方が成功率が高いと踏んだのかもしれないけど)
声が聞こえる。
銃を構えて、だが何もできずにいる海兵達の声だ。
声、というよりは音かもしれない。
レイリー曰く、見聞色に関して自分は天賦の才があるということだ。
それを鵜呑みにするわけではないが、確かに鍛えれば鍛える程色々な物が視えて、聴こえるようになってきた。
集中すれば集中するほど――それこそ数秒先の未来っぽいイメージが視えたり、相手の感情やら思考やらがこう……色とか音、時には味覚……味覚か? とにかく五感で直感的に感じることが出来る。
今まさにそれを全開にしているんだが――
(どいつもこいつも、やっぱり戦いたくないんじゃないか)
ヒナ達の船を追いかけて座礁しまくっている連中――おっ、更に一隻やったな――はともかく、ここにいるのはほとんどが正規の海兵だ。
(クソ、これで敵意を持ってくれればやりやすいんだが)
そのそれぞれから、恐怖以外に疑問と懐疑の声と色が見える。
誰も彼もが、この戦いに意味を見出だせていない。
だからこの状況下で撃つ事にも躊躇う。
まぁ、引き金に力込めた瞬間顎蹴り飛ばすけど。
(一方で……)
よくわからんが、どっかに陽気なバカがいるな?
なんかちょっと離れた所でグルグル俺の周りをまわりながら変な太鼓を叩く音が聞こえるんだが……そこに船はない……よな?
なにこれ? 誰これ? どこのどいつが出してる音だ??
どこの誰かは知らないけど、こんな状況下なんだからもうちょっと真面目にやれよ。
いや、ドンドットット、ドンドットットじゃなくて。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―― 消さねばならぬ。
―― 滅さねばならぬ。
―― あ奴を目にした時、確かに聞いた。
―― この耳に届いた。
―― あの忌々しい……
―― 忌々しき
―― 消さねばならぬ。
―― 滅さねばならぬ。
―― あの男の存在は、
―― 許されない。
?????聖「ちょっと用事思い出したので月に居座ります」