[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
「最終試験は、実際にレッドドラゴンと戦ってもらいます」
その言葉と共に周囲がどよめいた。
「試験官さん!それはこちらに死んでもらうということですか!」
「そうだそうだ!」
ウサギや野鳥ならまだいい、だが相手は全身が処刑道具のドラゴンだ。
年に何十人もの死者を出している奴だ。
下手をすればこちらが死ぬことになる。
受験者にはまだ本でしか狩りのノウハウが身に着けられていないというのにいきなり実戦に放り込むのスパルタ染みた行為は受け居られるものではなかった。
格闘技を始めた初日にプロに勝利しろと言うものである。
しかし甲冑はその反応が想定内と言わんばかりに淡々と答えた。
「その点についてはご心配なく。あのドラゴンは訓練用にこちらが養殖したものです。爪、牙、角は全て切り取ってあり、また防衛隊の特殊な育成法でいざと言う時動きを止めることもできます。こちらが死ぬことはありません」
非難の声は少しだけ和らいだ。
「まずは私が見本を見せます」
その場の空気が緩んだのを好機に甲冑は最終試験を次のステップに進めた。
先ほどの安全神話を実証させるのだろうか、
一連の狩りの流れを見せるためか
鉄製の槍を片手にトンネルへ足を進めた。
トンネルの向こうではドラゴンが鎧の擦れる音に反応して再び咆哮を上げる。
しかし甲冑はそれに臆せず足を進めた。
「…なんだあの鎧野郎、なんて無茶言いやがる」
「でも実技は君の得意分野だろう?」
「そうは言っても試験に盛り込むのは非現実的だろ…」
スティーブ達が話す中、
トンネルを歩く甲冑男は事前に上げられた鉄格子潜り抜けた
そして今、竜と対峙
甲冑男は手慣れた様子で槍を前に構える。
「まずは目標に武器を向けます!視線は絶対に逸らさない様に!」
その言葉が受験者に飛んだと同時、
竜は赤い鱗を閃かせ、
大きな音を響き渡らせ、
甲冑めがけて走り出した。
巨大な頭が目の前に
「ドラゴンの突進は避けるように!」
甲冑は冷静に身体を右へ投げた。
なんとか紙一重
突撃を避ける。
避けられたことに竜は不満のうなり声を上げた。
床には爪のブレーキ痕
その数メートル横では甲冑が竜に槍を構えている。
竜は間髪容れず再突撃
辺りに土埃が舞う
「まずは罠でもって動きを封じてください!」
何を血迷ったのか、甲冑は構えを解いた。
そして正方形上の物体を取り出し、手前に投げる。
物体はサイコロのように転がり、幾らもたたず動きを止めた。
その間にも竜は間近に迫る。
両者の間隔は2メートル未満
この距離だと甲冑の命はすぐにもぎ取られる。
―危ない
甲冑と竜の影が重なった。
やはり仕留められたか
誰もがそう感じた
だがそうではなかった。
床から蒼い火花が散る。
その瞬間竜の身体が硬直
巨体を弓なりに仰け反らす。
全身には稲妻が這いずり始めた。
「動きを止めたら…攻撃を始めます!」
甲冑は生きていた。
姿勢を低くして竜に迫る。
竜は動けずにいた。おそらく罠のせいだろう。
甲冑はそれを好機に槍を構え、素早く竜の懐に潜り込む。
そして
「弱点である腹を優先的に攻撃してください!」
首の付け根あたりだろうか、
槍がそこへねじ込まれる。
他の部位と違い固い鱗がなく無防備そこへ容赦なく槍が突き立った。
刃はギリギリと肉を裂いていく。
竜は咆哮を上げる。
いや叫び声か、
かつてないほど大きな、
壊れた金管楽器を彷彿させる声にもならない断末魔が、コロシアム中に反響する。
甲冑はそれを気にも留めず腕に力を込めた。
そして
、
うなじの辺りだろうか
音無くして
血だらけの穂先が勢いよく飛び出した。
固い鱗を突き破って
金属の穂先にはその巨体と同様に稲妻が蠢いている。
「ドラゴンは罠で動きが止められているうちに仕留めるように」
そう付け足すと竜の喉元を串刺しにしている槍を引き抜いた。
辺りに付着した血が飛び散る。
竜の巨体はタイミングを計ったように倒れた。
数秒後その巨体で身体で這いずり回っていた電流は姿を消す。
罠が止まったのだ。
無論、ドラゴンの方も生命活動を止め辺りに深紅の海をつくっている。
100メートル離れても識別できる刺激臭は、血より早く会場内を駆け抜けた。
ものの数秒、
その短時間で甲冑は竜を仕留めたのだ。
自分より巨大な生物を
受験者らはその様を目を見開いて伺っていた。
誰もが感嘆し、開けた口を閉じない。
だが当の甲冑は周囲にの様子に関心を示していない。
穂先にベッタリついた血を手持ちの布で拭き取っている。
そして戦闘前の状態に戻した槍を床に突き立てると
コロシアムから会場に向けてこう呟いた。
「以上の様な流れで最終試験を行ってもらいます。もちろんこれ以外の方法で戦ってもらっても構いません。しかし、ドラゴンを仕留める覚悟が無い者は…」
―その時点で試験を終了とさせていただきます―
覚悟が無い者に戦う資格は無い。
そう言いたいのだろう。
甲冑試験官の顔は兜に包まれその表情は目視できない。
しかし睨みつけるようなその雰囲気は言葉の重みを大きくした。
だが受験者からは、心を挫き辞退する者はいない。
試験官の威圧に蹴落とされたのではない、誰もが軍人にも劣らない覚悟を持ち合わせているのだ。
「それでは!最終試験を開始します!」
―――
――
―
「うわああ!」
ゾンビの身体に大蛇の様な尻尾が迫る。
「…あいつ死んだな」
「恐ろしい試験だね」
だがその尻尾はギリギリの所で止められた。
甲冑が言った『防衛隊の特殊な育成法』の力だろう。
横たわる鱗の前でゾンビは腰を抜かしている。
「はい、試験終了です」
「あ、はい…わかりました…」
ゾンビの試験はそこで終了した。
甲冑が書類にチェックを入れる。
コロシアムでは他の試験関係者が総動員になって動かぬ竜を奥へ運んで行った。
「いやー試験は番号の早い人から進むからねー」
「こうして前の奴の戦法を参考にできる訳か」
「だがとうとう私の出番が来てしまったようだ」
試験官が127番、マタルの受験番号を告げた
「あ…ハイ!」
緊張したために返事が遅れた、
右手にナックル、左手にクロスボウを
何とも互い違いの装備をしたその人物は、歩み遅めにトンネルの前へ進んだ。
マタルはまさかの事態に緊張していた。
鬼からはレッドドラゴンと戦うことを聞いていなかった。
数日前まではしがない薬屋
こうした実技にはスティーブ程強くないので不安がぬぐえなかった。
その様子を察したのか甲冑はマタルに一声かける。
「身体の力は抜いて、敵から目を離さない様に」
「わかりました」
その一声に少し勇気づけられた。
「それではゲートを上げます」
トンネルの向こうで鉄格子が口を開けだした
その向こうには別のレッドドラゴンが確認できる。
緊張は最高潮に達した。
生きた身体なら心臓がバクバクなっていただろう。
―大丈夫、安全はしっかりしている。
そう言い聞かせ
明らかな軽装、皮鎧のマタルはトンネルを駆けた
―おそらく奇襲は難しいだろう。
ドラゴンには、臭いや姿がはっきりと確認できていた。
直ぐにマタルに反応し、咆哮を上げた。
―だけど…根っから騙し討ちに出る気は無い!
そしてコロシアムに飛び込んだ。
ドラゴンの咆哮は止まりを見せない。
「…ウィザーよりは静かだね…」
その大音量に気にを留めずクロスボウにボルト―弓で言う矢を装填した。
―落ち着け…落ち着くんだ…
先の試験と同じように完了まで地面と水平に構えず、
その時、前から地鳴りが響いてきた。
甲冑同様に体当たりを食らわそうと言うのだ。
―この時は…先ずは呼吸を整えて…
何故かクロスボウを撃たずにその場に留まり始めた。
まるでカカシだ。
竜に臆さず、反応を示す様子も無くその間に立ち止まっている。
―右腕を後ろに引いて…
ドラゴンは暴走車の如くスピードを緩めずこちらに迫る。
「拳に力を入れて…」
爪が床を叩く音が徐々に大きくなる。
その大きな息遣いも、
空気を裂く音も
「マタルの野郎!何やっているんだ!」
スティーブはトンネルの前で困惑し始めた。
「…127番…怖気づいたか」
甲冑は竜の動きを止める準備をした。
マタルの目の前に自分の身体と同じ大きさの頭
脇には一対の目玉
目の前の風景はスローモーションに
弾頭並みの速さで迫る眉間もカタツムリの様にゆっくりと動いて見える。
―射程十分
引いた右腕は一瞬消えた。
その刹那
竜の頭に消えた右手が捻じ込まれた。
そして辺りに鱗がキラキラと舞う
巨体は本の数メートルだがはじけ飛んだ。
「っ!?腕の力だけで!?」
スティーブだけではない、受験者も驚いた。
―あー右腕は捨てたね…
マタルはナックルのついた腕をだらりと垂らしていた。
数歩向こうには顔を陥没させたドラゴンが体勢を持ち直していた。
「だけど…もう攻撃はさせないよ!」
今度は無傷の左手でクロスボウを構えた。
それはがら空きの竜の腹部に向けられている。
トリガーは引かれ
ボルトは喉元に命中した。
それと同時にドラゴンは完全に動きを止めた。
首がだらりと床に落ちる。
「試験終了!」
甲冑は号令をかける。
それと同時に他の試験官が後始末に出てくる。
次の受験者が戦う際、死骸を残しておくわけにはいかない。
マタルは光景を見守っていた。
横から救護に当たる係が駆け寄る。
おそらく右手を察してのことだろう。
痛みを感じない分声をかけられるまで忘れていたようだ。
思い出したように治療に当たる。
一方トンネル入り口では、一風変わった戦闘に受験者のざわつきがあった。
その喧噪の中
「…127番…あの動き…赤い鬼か…」
甲冑も一言、静かに呟いた。
次回、スティーブの最終試験になります。
ご意見、ご感想お待ちしています。