[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
スティーブはトンネルの向こうへ目を向けた。
目には次の受験者の戦いが写る。
右手に包帯を巻いたマタルも観戦していた。
先の戦闘で怪我をしてしまったためだ。アンデットなので痛みは殆ど無いが、傷はちゃんと残る。治療のためにポーションを染み込ませたガーゼを当て今のような処置を為されていた。
「おお…あれが魔法とやらか」
「たぶん…」
コロシアムでは光の玉で弾幕が張られている。
弾幕の張り手はアンデットの類だろうか、饅頭顔の生首がとんがり帽子を被って戦っていた。
無論マタルのような大怪我は負わず、着々と勝利を掴みつつある。
「ただ…目立つな、あの魔法」
「派手であることはいいことだよ」
周囲に水晶玉のような球体を浮かせ、それに弾を撃たせている。
星を模った弾が流れた。
実戦だと結構目立つ。だが威力は派手さに比例して上がっていた。
ツバメ並みの速さの星弾が赤い鱗を抉り、時折放たれるレーザーが装甲を貫いていた。
一部の者しか使えない、いわば超能力といったものか、残念ながらスティーブにそう言った能力は持ち合わせていない。マタルの様に肉体を駆使した荒業もできないし、目の前の魔法使いの異次元殺法もできるわけが無かった。
種族の差である。
本人は他の受験者との能力の差を感じ溜息をついた。
ゴーレムと人間、綱引きをすればもちろんゴーレムが圧勝する。
例え人間が力を付けようとその結果は変わらない。
それほど異種族というものは力のが強いのだ。
―だが俺にも力がある。
手元の剣に視線を下した。試験用に貸し出された狩猟用の武具である。
武具の所有は基本ハンター、一部の自治組織のみにしか許可をされていない。そのため一般の受験者にはこうして剣等を貸し出して戦闘に臨んでもらうことになっていた。
そのため道具を駆使してドラゴンに対抗することも可能である。自分より強大な生物を武器で蹂躙する。古くから人類が頼ってきた手段だ。
「しっかし、鎧まで貸し出してくれるとはな…」
スティーブは着込んだ板金鎧を震わせた。
「ついでに弓矢に罠、手投げ弾…バーゲンセールだね」
「全くだ」
剣は手入れがしっかりされているし弓は新素材を使ったらしい高級品、他の道具も申し分ない性能だ。
ここまでしっかりした装備で挑ませてくれる
流石行政機関と感心した。
「試験終了!」
戦闘はとっくに終わったようだ。ドラゴンの死骸が運ばれていくのが遠目に分かる。
トンネルからは先ほど戦っていた受験者がスライムの様に飛び跳ねて戻って来た。
自分の出番が近いことをスティーブは痛感する。
―やはり戦いに慣れることは無いか…
「最後!131番!」
甲冑の号令を聞いて心拍数が上がった。
「おう」
マタル同様返事をミスする。
「返事は『はい』でしょ…」
「はいはい」
この場に及んで礼儀を気にするなんて馬鹿馬鹿しい、そう心の中で言い訳した。スティーブはマタルを残してトンネルに向かう。
トンネル前では甲冑がこちらの姿を確認した。
「131番ですね、健闘を祈ります」
「そう期待をするな」
見栄を張ってリラックス、トンネルに歩みを進めた。
前ではゆっくりとゲートが開く。
格子の稼働装置の音に混じって足音と鎧のパーツ同士がぶつかる音が響く。響いた音はトンネル内を反響しエコーをかけた。だがスティーブの耳には自分の息遣いしか聞こえてこない。
そしてコロシアムに入場する。
「さてさて…エンダードラゴンとレッドドラゴン、どっちが強いか」
距離離れたところで咆哮が響く。
だがそれに気にせず矢を放った。
矢は猛スピードで飛び去り、右の片目に命中する。
竜は短く嘶いた。
「おし…もう一発」
固い弦を大きく引き、弓を撓らせた。自分が前に使っていた物と違いキリキリと軋む音は出ない。素材がしなやかな証拠であろう。
そして再び矢を放った。狙いはもう一方の目
矢が空気を裂いて飛んでいく
だが矢は大きく外れた。
いや、避けられたのだ。竜は矢を回避するために天井高く飛び上がっていた。射った矢は遠くの壁に突き立つ。
「墜ちろ!」
すかさず上に矢を放った。射程には十分入っている。
だが外れた。
もう一発
しかし当たらない。
矢は何も無い空間へ飛ぶ
「この野郎…!」
予知射撃で竜の飛ぶ先を狙う。だが翼で急停止、矢は空を切った。
とっさに次の矢を手に取る。慣れた動作で矢をつがえる。
だが隙が大きかった。竜は羽ばたきを強くして急上昇をし始める。
―このままでは弓矢の射程圏外へ上がられてしまう。
それを覚って先ほどと同様に弓を引き絞った。
弧の字のそれは大きく撓る。(しなる)
そして矢は放たれた。竜の腹目掛けて。矢じりはその弱点へコースを変えようとしない。
―当たった!
心の中で歓喜する。
だが外れた。
というより届かなかった。寸前の所で射程圏外に逃げられていたのだ。
竜は高い天井のギリギリを旋回している。
攻城バリスタだったら届いたかもしれない。または、対空用のミサイルを持ち出すか。
どちらもこの場にはないため攻撃はできない。
八方塞がりだった。
「クソッたれ!降りて来い!」
地上でスティーブは叫んだ。
射程内に入ればすぐに射落とす、そのためにまた矢をつがえた。
だが向こうは鷹の様に空を周りこちらを見下ろすだけ。
いや、
謀ったように急降下を開始した。
風を切って真っ逆さま
ウサギを狩る鷲の如くこちらを仕留めようというのだ。
未だ生きる片目をカッと開いて突っ込んでくる。
「エンダードラゴンもやったアレか…」
急降下攻撃、前の世界で戦った奴もこの戦法を得意としていた。
巨体が織りなすその攻撃は軍用車を吹き飛ばすパワーを持ち合わせている。
だがそれはこちらの好機ともなる。急降下するということはこちらに近づいてくるということ。
つまり射程圏内に入り次第こちらから迎撃すればいいのだ。
空中に何本も矢をばら撒く。
向こうは当てればすぐ逃げる。リーチが届く限り射るのみ。
一発目が鼻先に立つ。そして二発目がこめかみを掠った。三はわずかに残る角に弾かれた。
しかし、
「…は?」
竜は急降下を止めない。
自分の身を潰してでもこちらを仕留めにかかるのか。
むしろスピードが増している。
構えを解いてとっさに横に飛んだ。
間一髪で避けることが出来た。
すぐ後ろで竜は飛び退っていくのを肌で感じる。
スティーブは床に肘を大きく打ち付けた。鎧に包まれているとはいえ痛みが走る。
だがそれをこらえて矢を構える。
振り向きざまに一発
だがそれは背中の固い鱗に阻まれた。
急降下の勢いそのままに急上昇していく。あっという間に空へ逃げられた。
そしてまたもや空中で旋回、最初と同じ流れだ。
矢を放つか、いや届かない。罠を仕掛けるか、それは地上戦でしか使えない。
他にも支給品ポーチにポーション等色々な物が入れらていた。
だがどれもあの竜を倒す威力も射程も持ち合わせていなかった。
―ではどうする
頭の中で知識を総動員する。
エンダードラゴンとの持久戦、ゲリラヘリとの銃撃戦
目の先で竜が軌道を変えた。
しかし脳が認識するのは走馬灯ともいえる過去のビジョンだけ
前の世界での戦闘が再び現れる。
ゾンビの大群、亡霊のように浮かぶガスト、振り向いたらそこにいたクリーパー
―どれも使えん…!
いや待て、向こうを地上に引きずり降ろしさえすればいいんだ。
どうする
どうするんだ。
スティーブは再度記憶を総動員する。
いくつか使えるのがあった。狩猟が盛んな地域に行った思い出だ。最近付け焼き刃で備えた知識も。
思考が現実に戻った。
竜は急降下を既に始めている。
スティーブは背中の矢筒…ではなくてポーチに手を突っ込んだ。
そうして取り出したのは手に収まる程度のボール。側面には安全ピンがついている。
迷うことなくピンを抜き捨てる。
そしてボールを竜に向かって思いっきり投げた。
しかしボール程度では対してダメージにならない。
竜はボールに気を留めずこちらに突っ込んでくる。
だがスティーブは弓矢の迎撃を行わず床に伏せた。
その瞬間
頭上で閃光が走った。
フラッシュバンだ、あの地域では閃光玉と呼ばれていた。
100万カンデラの光が周囲に放たれる。
一時的だが失明に陥れるその光は、竜の片目を一気に潰した。
「落ちて来い、ヘタレ」
方向感覚を失い、パニックになった竜はたまらず床に墜落した。腹を打ち付け、のた打ち回っている。
そして悪あがきに咆哮を打ち鳴らした。
が、
「少し黙れ」
竜の足元で罠がスパークした。甲冑が使っていた電気罠である。
スティーブが竜の足元に投げ込んだのだ。
それを踏んでしまった竜は叫ぶこともなく身体を仰け反らした。
すかさずスティーブは矢を引き絞った。
狙いは胴と首の境界線、すなわち喉元
そこへ3本矢を射る。
矢は弧を描いて飛び、喉元をハリネズミにした。
竜の瞳孔は反応を無くす。
これで勝利も確定した。試験終了の合図がでるのも時間の問題だ。
普通なら罠が止まるまでその場に待機しているところだ。
だがスティーブは竜の左脇に駆けた。鎧が大きく撥ねる。
そして全身が確認できる距離に立つと、
矢を射った。
標準を合わせたところは、まだ射抜いていない片目
鷹の速さで矢は飛び
見事に左目を射抜いた。
「これでよし」
―最初に外した借りもこれで返した。
いわゆるリベンジである。
そして罠は止まり、竜は巨体を横に倒した。
少し間が空いて
「試験終了!」
甲冑が号令をかけた。戦いが終わった印である。
試験関係者が後片付けにやってきた。ゴーレムらが5人がかりで死骸を持ち上げている。
相当重いようで全員が掛け声をかけながら運んで行った。
―やっと終わったか
スティーブは周囲の雰囲気でやっとそれを感じた。誰もが表情を緩め、後片付けに専念している。先ほどとは大違いの空気だ。
腕をうんと上に伸ばしてリラックスした。
その時マタルと同様に衛生師が駆けつけてきた。怪我は無いかなどこちらの具合を確かめる。負った怪我と言えば身を投げたときにできた打撲程度だ。
スティーブは適当に答え、トンネルに引き返していった。
余談ですが「前の世界」もMOD込の設定にしているんですよね…スティーブはバニラMOB以外にも色んなのと戦っています。
ご意見、ご感想お待ちしております。