[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
「「カンパーイ!」」
酒場の一席で、ジョッキが打ち鳴らされた。たっぷりビールが注がれた器からは、衝撃でいくらか中身が零れ落ちていく。だが二人は構わず酒を飲み交わしていった。
「いやー合格できてよかったよ」
「おう、余裕だったがな」
「最後の試験で苦労していたよね?」
ハンター試験の後日、スティーブとマタルと共に『酒呑童子』にやってきていた。理由はお互いの合格を祝っての
こと。言い換えれば勝利の美酒である。
「あの程度、どうってことはない」
マタルの問いに淡々と答えた。
最終試験の時、レッドドラゴンの飛行行動に手間取ったことだろう。確かに苦労はした。ただ光一つで難なく地面に叩き落とすことができたので、スティーブに取っては特に障害には感じられなかった。
「へぇー、よくそんなこと」
「まあ、前の世界でよくやったからな」
手元の酒を口に運び、そうつぶやく。この事に関してはスティーブは無関心のようだ。それを察してかマタルは話を変えた。
「そういえば…前の世界でドラゴンと戦ったのかい?」
「…まあ、な」
「どんなのだったんだい?」
スティーブは焼き鳥を頬張り、串を皿に戻した。
「ここの奴のより弱かったな、エンダードラゴンというやつだが」
厳密に言えばあれは『ジ・エンド』と呼ばれる異世界にいた生物だ。村があったような『前の世界』の定義からは外れるが説明が面倒なのでスティーブはそのまま話を進めることにする。
「…知らない名前だねぇ…首が9つあるのかい?」
「違うぞ、レッドドラゴンと同じ『翼の生えたトカゲ』みたいなのだ。ただ身体が黒くて‘此処の奴‘より小ぶりだな」
「…弱そうだね、矢で一発だろう?」
「流石にそれで倒れそうには見えなかったが…弾幕を張ればすぐに死んだな」
「試験会場にいた生首みたいな?」
思わずその問いが出た。
弾幕と言えば最近最終試験で‘生首‘が魔法の弾で張っているのを見たからだ。
だがスティーブは違うと言って話を進める。
「魔法じゃなくて機関砲を使った」
「待った待った、話が見えてこない!キカンホウってなんだよ!?」
マタルはジョッキをトンと置いた。スティーブの話に混乱する。
彼はてっきり最終試験の時みたいに弓矢でもって戦ったと思っていた。だが本人が言うにはそうではないようだ。
更にマタルは問いただす。
「『連合軍』の特殊部隊から借りた武器だが…ああ、討伐は大人数で行った」
「…はぁ。その『連合軍』と言うのは一体?」
「前の世界がモンスターだらけだったの話しただろ?」
―ああそうだった。
スティーブに最初に会った時に聞いていた。確かこの世界と違って知性が低く動物みたいに襲い掛かるとか。それに村一つが壊滅させられるとか。
「その対抗策として作られた組織だ」
「特殊部隊は?」
「その組織の精鋭を集めたチームだ」
―ああ、怖い怖い
要するにモンスターを虐殺する集団であることだろう。マタルとしては想像したくもない集まりだ。考えただけで寒気が走る。
「…できれば会いたくないね」
「お前だったら殺されているな」
「キカンホウとやらで?」
「おそらくな、バラバラになるぞ」
マタルは‘バラバラ‘というワードから生物が木端微塵になるとしか想像できなかった。というよりそうだとしか想像できない。
―それが自分に向けられるとしたら…
できれば考えたくないので酒を飲んで紛らわした。
「…キカンホウとは大砲か何かで?」
「いや、銃だな」
「ジュウジュウ…知らないね」
一応気になったので聞いては見たものの、薬屋の知識には無いものだった。焼きの入った砂肝を口の中で転がしどんな物なのか想像をめぐらす。
「鉄の塊を飛ばす武器だ」
「結局大砲じゃないか」
串を放り出し、呆れたようにそう答える。
「まあ似たような物だ」
「大砲に似たような物で戦う……君の居た世界って本当に人間が住んでいたのかい?」
「居るぞコラ、人間離れした人間もいたが」
「ジー」
思わずスティーブに目を向ける。
「俺を見るな」
スティーブが投げた串がマタルの額に突き立った。
「いや~ごめんごめん」
「謝るくらいなら言うな」
「それで、その世界では剣とか弓矢はどんな立ち位置になっているんだい?」
マタルは突き立った串を抜いて話を逸らす。
「……銃の性能から影に隠れがちだったが、使っている奴も結構いたぞ」
「まあ…祭典とか儀式とかの時だけでしょ?」
「いや、実戦で使っている奴がいた。確かエンダードラゴンにも…」
「男のロマンだね」
「女が使っていたがな」
「ヘ?」
。マタルは思わず間抜けな返事をした。
「ドラゴン相手には基本男」が世間で通っている。ヘラクレスという男がヒドラを倒したのも有名な話だ。だがそれと打って変わって女性が竜と戦うのは神話でもあまり聞かないこと。とても異例なことなのだ。
「…女性兵士なんだよね?」
「いや、メイドだ」
「メイドって…家政婦みたいな人だよ?兵士じゃないよ?」
「本人はメイドと名乗っていたな」
「それ自称メイドの特殊な訓練を積んだ女性兵士でしょ」
「それを言ったら俺は殴られた」
「おお、こわいこわい」
とりあえずその自称メイドの女性がプライドを高く持っていることだけはマタルに分かった。つくづく危ないものを感じた。スティーブは依然その人物に面倒をかけられたかどうなのか、酒も回って愚痴をたらし始めた。
「エンダードラゴンに対して斧一本で突っ込んで行ったんだよ」
「それ危ない、レッドドラゴンにしたらあっという間に殺されちゃうからね」
「トーピングしたのか…全身真っ赤だったぞ」
「ドーピング!ダメ!絶対だよ!」
「どこ向いて言っているんだ」
「…その人って身体に異常は出ていなかった?」
「頭がおかしくなっていたような…戦闘中ゲラゲラ笑っていたぞ」
「ダメだよその子…生きているのかい?」
「TNTによる自爆をよく図ったりしたな」
「死んだんだね…」
「それが何故か生きているんだぞ」
「アンデットかな?」
「それを本人に言ったら斧を投げつけられた」
「きっと人間じゃないでしょうな…」
「ついでに食糧が底をついたときゲリラ兵を―」
凶暴な人間もいくらかいるものだな。マタルはつくづくそう感じた。スティーブの話を聞く限り防壁の中に立てこもるだけの虚弱な生き物だと思っていた。
…しかし今の自分たちも似たようなものか、レッドドラゴンに相手には生存圏を狭められているし。
「湿気た顔してんな!お前ら!」
そうして気分を落としているところへ赤鬼がやってきた。片手には牛串の乗った皿がある。
「…オーダーはしてねぇぞ」
スティーブはぶっきらぼうにそう答えた。片手を振り『帰れ』のサインを出す。
「店からのサービスだ!試験に受かったんだろ!」
「いや~オヤジさんの情報があったからですよ」
マタルは頑なに謙虚になる。講習の時何かあったのだろうか
「確かにそうだが…祝杯にしては些か貧層ではないか?」
赤鬼はテーブルに目を下した。テーブルには焼き鳥3本とビールがあるだけ、他の席と比べると明らかに格差がある。
「焼きエビとかタイの姿焼きもメニューにあるんだぞ、豆はオレのごく個人的かつ単純な事情で置いてないがな。…祝杯くらい贅沢したらどうだ」
「残念ながら…」
「何だァ!オレの飯が食えねえって言うのか!ァァ!?」
マタルらの湿気た反応が鬼の思考にカチンと来たのだろう。赤鬼がこちらに顔を突き出し怒鳴りつけてきた。
「違えよ、財布の事情で安い飯しか頼めねぇんだよ」
―お金がない。とははっきり言わずスティーブは撤回し、酒を一口含んだ。
「だったらタダで出してやる!存分に味わえ!」
その言葉を待っていたように赤鬼は皿を置いた。二本だけの牛串は彼らの鼻元に胡椒と炭火焼の香りを送った。湯気も上がっており、出来立てなのが直ぐに察しられる。
「どうした…食わんのか?」
赤鬼は皿を下ろそうとする。
「「いただきます!」」
その言葉と同時に牛串は皿から消えた。串は豚とオッサンの二人が握っておりどちらも満足そうに肉を咀嚼している。鬼は彼らの空腹を見越したような顔をしていた。
「どうだ?うまいだろ?」
「うまいぞ!」
「おいしいです!」
マタルとスティーブは塩味を吟味しながら答える。噛むと肉汁は口中に溢れ出す。素材が良いといことが分かった。そしてその肉はあっという間に彼らの胃袋へ納められた。串に残った汁も勿体ない気分になる。二人はがっかりした様子で串を皿に戻した。
「…相当貧層な暮らしをしていたんだな…お前ら…」
鬼は呆れた様子で溜息をついた。
「それで…ハンターの資格は手に入れた、職は失ったも同然、これからどうするつもりだ?」
赤鬼は開いた椅子にドサリと座り、聞いてきた。酒屋の仕事はしなくていいのかと問いただしたいがきっと「アルバイトに任せた」とでも答えるのだろう。
「そりゃあ、ドラゴン狩りだろう」
「もう少し言えば道具を買いに行く予定だけど」
ビール片手に彼らはそう呟く。
「どこで買う気なんだ?」
元ハンターの鬼は更に問いただしてきた。店の奥からは赤鬼を呼ぶ声が聞こえる。仕事を放り出したのがまずかったのだろうか。
「…あ、武器屋の場所知らなかった」
「「バカたれ」」
へらへらした様子で答えるマタルにスティーブは不満を持った。そもそもこの町の地理には詳しくないので道案内はマタルに任せている。
受験会場に行った時もこの酒屋に飲みに来た時だってそうだ。
マタルがわからなければこちらにもどうしようもない。
「全く…オレが二つ紹介してやる」
赤鬼がエプロンからメモ帳を取り出し呆れた。平謝りするマタルを他所に筆を走らせると一枚メモを千切って放り出した。
男特有の乱れた文字で読みにくいが手書きの地図て店名がしっかり記されている。
「この酒屋からのルートだ、一つは大型専門店だが…もう一つは分かりにくいところにあるからな…注意するんだな」
意味深に鬼は呟くと席を立ち、また店の奥へ戻って行った。先ほど他の従業員に呼ばれていたためだろう。マタルは手渡されたメモを覗き込んでいる。
理解できるのはマタルだけのようなのでスティーブは適当に酒飲みに勤しんでいた。そしてジョッキが空になった頃、ようやくマタルが顔を上げた。
「ふーむ、薬屋とは正反対の方角にあるね…でも何回か立ち寄ったことはあるし大丈夫だよ」
「そうか…いつ行くんだ?」
「今から行くよ」
マタルはさも同然のように答えた。会計をするために荷物を整えている。
「なんだって?」
酒も回っているからできれば休みたい。それもそうだまず夜に営業する武器屋がある訳無いと考えた。刀だって日が落ちた時間帯に打つことが多い。武器を売っている方の暇は無いのだ。
「ほら、メモに『24時間営業』と書いてあるよ」
確かにそこには汚い文字でそう書かれていた。その馴染みのない営業時間に目をパチクリさせるが赤鬼が嘘をつくとも考えにくい。
「それじゃ、店に向かうとしよう」
マタルはメモをポケットに入れると席を立った。スティーブは慌ててその後を追う。
「おい、いくらなんでもその時間は閉まって…」
「はいはいわかったから」
そう話すと手持ちのカバンから財布と共に瓶を取り出した。そして瓶の方をスティーブに手渡した。瓶には深緑の液体が入っている。
「なんだこれ」
「酔い止め」
マタルは店員に食事代を手渡し淡々と答えた。だが聞きたいことはそれではない。
「なんで夜に武器屋が開いているんだよ、これって危ない裏社会的な何か…」
「…スティーブ君、吸血鬼はいつ活動していたっけな」
「そりゃあ夜だろ…あ」
スティーブはやっと疑問が晴れた。夜行性の客層に向けて営業しているのだ。
ゾンビやスケルトンらの場合昼間に出る太陽の紫外線で身体が焼けてしまうことがままある。かの有名な吸血鬼だって太陽に当たれば身体が灰になる。彼らの場合、昼間に外に足を運ぶことは難しい。
「だから夜に店を開いているってわけ」
マタルはスティーブに手渡した薬を飲み、そう言った。
「なるほど…俺達はこれからそのシステムを利用しようって訳か」
「そういうこと。とりあえず家に一旦戻るよ」
そう言うとメモとは正反対の方向に足を向けた。
「待て、なんでだ?このまま歩いて武器屋までいけばいいだろ」
「えー、歩くの嫌だ。車を使おう」
以前スティーブが荷車を改造して作った自動車を使おうというのだろう。確かにアレは便利だ。動作テストの際、警官隊に見つかって速度等のスペックを落としたりしなくてはいけなくなったが十分な機能は持ち合わせている。だがそれを使うには一つ問題があった。
「…飲酒運転だぞ」
「え?さっき薬を飲んだでしょ?」
「俺はそんな怪しい液体飲まねえよ」
「そりゃあ非公式の薬品だけど…」
「なおさら飲むわけにはいかねえよ」
「まあまあ、効果はちゃんとあるから」
「それでも飲酒運転は飲酒運転だろ」
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
マタルは卑しい顔をしてそう告げた。もちろんバレないと訴えられることは無い。ただそれはそうである場合のみである。
マタルの後ろに大きな影が映った。そのシルエットはなんとも機械的なものだ。
その影の主がマタルに声をかける。
「もし、その薬に効果が無かったらどうするおつもりですか。」
マタルは反射的にその声の方向へ振り向いた。そこには自分より数倍身体の大きいゴーレムがいた。
「警官隊の者ですが…少し酔いが醒めていないご様子ですね」
まさかの人物にトラウマがよみがえった。薬の効果よりは心理効果か、酒がどんどん引いていくのを感じる。
「あー、すみません、二度としません」
「連れが酔っていただけだ、気にするな」
また金を取られるなんて堪ったものではないのでスティーブは慌ててごまかした。無表情のゴーレムがどう動くかその顔を伺った。
「…おっと、暴力事件の捜査でした、急がないと」
ゴーレムはそう言い残すと何もせず通りを歩いて行った。どうやら見逃してくれたようだ。後から―バレなくとも犯罪ですよ―と聞こえた気がするのは気のせいと思いたい。
「それじゃあ、歩いていこう」
「ああ、24時間営業だから慌てず行こう」
彼らは改めて武器屋に歩みを進めるのであった…
以上になります。
ちなみに酒屋の名前は日本の伝承にある『酒呑童子』という鬼から取っています。いやーファンタジーと言えばお酒を飲むところがよく出ますからそれにあやかって…。
本当はゾンビが経営する焼き鳥屋を出そうなんて考えましたが食品衛生的にマズイですしね。
大酒飲みな鬼を代わりに店主にしました。
え?ヤマタノオロチだってそれっぽいじゃなかって?…聞かなかったことにしましょう。
ご意見ご感想、待っております(^O^)