[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。   作:えだまミィカン

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第二十話 負と陽 オーブとスーツ

俺の心は何故か活き活きとしていた。おそらく吸血鬼にされずに済むことへの安堵か、新しく武器を手に入れたことによる高揚感か。おもちゃを買ってもらった子供のように、ケースを大事に抱えていた。俺の四次元ポケット的なポーチは家に置いてきてしまったからこうして抱えている。まあ、ご機嫌という意味もあるのだが。

「…スティーブ君、随分と楽しそうだね」

繁華街の喧騒に負けない声量で、マタルは横から声をかけてきた。感情が外に漏れていたことにギクリとする。

「お、おう!これであのトカゲも一発だ!」

心の内を見越されるのは好きではない。いい歳して顔から火が出る思いになる。

「ならいいけど…防具はどうするんだい?」

マタルは俺の様子を気に留めることも無く話を進める。狩りで着用する鎧の話だ。普通は今持っている銃等の武器とセットで仕入れるのだが現在はそれが出来る程お金に余裕は無い。銃を買うときに防具の分のお金もすべて使ってしまったのだ。

「そりゃあ…皮防具程度で済まそうかと」

後先考えずに銃を買った。衝動買いに近いものとも否めないず、返答に困った。まあ遠くから攻撃するのだからわざわざ全身をフルプレートに固める必要も無いだろう。動きやすい皮鎧で充分だ。いざ接近されたら避ければいい。

「素早さ…重視なんだね」

それを聞いた隣でマタルが、不安そうな調子で呟く。

「人間の身体能力じゃ難しいだろうってことか?」

おそらくマタルもそれを察しているに違いない。実際俺も生身では勝算がないと踏んでいる。では何故その戦法を押すのか教えてあげよう。

「家にある車を使うんだ」

「まさか…カミカゼアタックをしようと言うんじゃないよね」

「バカ言うな。それで距離を保ちながら戦うんだ」

狩りには以前作った例の車を使おうと考えている。アレで素早く動き回ればドラゴンに蹂躙されずに済む。そして車の動きに対象が手間取っている隙にこちら銃で攻撃すれば首尾よく狩猟達成できる。

「…運転手は誰なんだい?」

恐る恐るマタルは聞く。

「お前に任せた」

俺には砲撃手の役割がある。ドラゴンを狙いながら車を運転するなんて芸当はとてもじゃないができたものではない。

「…だから私に頼もうということか」

「そういうことだ。お前が手を汚すことは無い」

マタルの肩に手を置き俺はそう話す。だが本人は何故か尻込みをする。

「…車の運転できないのだけど」

「単純な構造だ。今度人目につかないところで練習するぞ」

「さいですか…」

半分納得していない様子でマタルはうなずいた。本当は車を動かす気は無いだろうが、狩猟のためということでとりあえずOKを出したのだろう。俺はそうだと察した。察したところで何もする気は無いが。

「それはさておきスティーブ君」

今度はマタルがきり出してきた。コイツのことだから薬か金のどちらかを話すだろう。

「君の資金はその武器に吸い込まれたようだが、鎧とか他の費用はどこから算出する気だね」

―私の武具を買うと君の分をフォローするお金は残らないのだ

そう彼は付け足した。いわば金欠に関する問題だ。もちろんこの件に関しては先手を打ってある。

「オーブを売ろうと思っている」

俺の身体にはエンチャントを行う際に必要な『オーブ』がたんまりとある。前の世界でモンスターを狩ったり鉱石を採ったりして貯め込んだのだ。

「君の身体にあるオーブを売れば、多少のもうけになるんだろうね」

「まあ、図書館で店の情報を見ただけだが」

それと自分ではどれだけオーブが溜まっているかはわからない。脂肪みたいに外面には現れないからな。ただダイヤモンドを大量にとったから50レベル位はあるはずだ。

「根拠は一応あるわけか…では私は武具の購入だ。できるだけ安いやつにしておくよ」

ふとマタルは歩みを止めたと思うと、そう告げた。

「俺はオーブ売買を専門とした店に行くぞ。…場所は一応調べてある」

「お互い行先が違うようだね。じゃあ要件がすんだらあそこで待っているように」

マタルは近くのベンチを指さした。集合場所と言うことだろう。

「わかった、では俺はひと稼ぎするとするか」

「じゃあ迷子にならないように」

マタルは一言そう告げると、最初に行った武器屋へ歩みを進めていった。夜の人ごみでその姿もすぐに見えなくなった。

「ほんとうに迷子にならないとだな…」

マタルを見届けた俺は、さっそくを目的の店に向かうのであった。

………

……

俺が目を付けた店はスケルトンの経営していたようなこじんまりとしたところではない。マタルが今行っているようなしっかりとした大型店舗だ。今、目の前で城塞のごとく建っているような。

「ここで…いいな」

表に大きく出された看板を見てそう確信した。白を基調とした建物が電灯に照らされ、神殿のように神々しく映る。

「さあ、入るか」

開店していることを確かめると、俺は町では珍しいレッドストーン式の自動ドアを通り抜けた。店内は俺と同様にハンターの集団でごった返していた。経験値の売買を目的としてだろう。前の世界でもこんな光景を見たことがあった。

「おっといけねえ、早く済ませねえと」

懐かしみを胸の奥に仕舞うと、ずらりと並んだ受付に足を進めた。風景はどちらかと言えば銀行に近い。

「おい、俺のオーブある分だけ金にしてほしいんだが」

開いたカウンターに滑り込むと、目の前にいる受付嬢に要件を伝えた。

「かしこまりました。それではオーブのインサートの貯めに装置を起動させます」

「お、おう。頼んだ」

言葉を理解できない俺を他所に、尖り耳の女は手元で何かを操作し始めた。

―なんだろうか

そして最後にボタンか何かを押したと思うと、いきなり俺の身体から光―オーブがあふれ始めた。

「うわ!?なんだ!」

「お客様、インサート中です。その場から動かない様に」

「そ、そういうものなのか!?」

言われた通りジッとしていると、溢れ出したオーブが足元にある金網の下へ吸い込まれていった。おそらく何かしらの装置が俺のオーブを吸収しているのだろう。

「インサート完了しました。オーブレベルを確認します」

舞台装置のタネを考察していると、対して時間もかからず俺のオーブは吸い込まれていった。

受付嬢が再び口を動かす。

「お客様のオーブレベルは10でございます」

「へ?」

間抜けな返事をすると、受付嬢は表情を変えず先ほどの言葉を繰り返した。本当なら50は堅いはずだ、10なんて値はありえない。信じがたい事実に現実に、混乱した。

「そのオーブレベルって…俺の中にあったオーブの量だよな」

「左様でございます」

だとしたら10しかないのはおかしいだろう。俺はダイヤモンドをガッポリ採ったのだ。この世界でオーブがびた一文取得できなかったとしても、50あるのは固いはずだ。

「…50あるのだと思うのだが」

「それでは、再度装置を作動させますね」

その言葉を聞いた受付嬢は、最初に行った操作をそのまま繰り返した。だが俺の身体からはオーブはあふれることは無く、装置に表示された数字は変化しなかった。機械の誤作動ではないようだ。

「お客様のオーブレベルは10でございます。売却されますか?」

本当に俺のオーブが無いとしたらどこに行ってしまったのか、財布を掏られたと言わんばかりに顔を真っ青にする。

「…いくらだ?」

とりあえず、だ。思考転換しよう。そもそも俺の身体にオーブがどれだけあるかなんてどうでもいいんだ。金になるかどうかだ。目の前にエルフに俺のオーブにどれくらいの価値があったか、血目になって問いただす。

「10000エメラでございます」

俺の月給には届かないが多少は足しになりそうだ。皮鎧もこの金で材料を買えば、自作でなんとか用意できる。

「それではこちらの書類に…」

その後は紙に俺の犯罪防止のために個人情報やら提出して、晴れてエメラルドの硬貨を手に入れる事ができた。といっても硬貨の数はほんの数枚程度。それがどうも俺の価値に見えて、やるせない気分になった…

「クソッたれが…」

肺を空にしないばかりに深い溜息をつくと、マタルが言った集合場所に向かうのであった。

………

……

「すみません、何かいい防具はありませんか?」

一方マタルは、最初に赴いた武器屋で防具を探していた。武器は石等を投擲するためのバレットクロスボウ。そして鬼の秘術を使っても怪我をしないようナックルダスターと決め込んでいたのだが、防具の方は何にしようか考えていなかった。

「お客様は具体的にどのような品をお探しで?」

店員がマニュアルを復唱したような具合で答える。その顔にはいささか困惑が見えた。おそらく此処で働いてしばらくたっていないのだろう。

「そうだね…とにかく死ににくい奴で。後は値段を抑えた品で」

居酒屋の鬼は皮鎧を好んで使っていたと聞いた。試験の時もそれに習ってみたもののやはり皮が素材では心もとなない。それなら身軽さを生かして回避に転じればいいのだが…自分にその神技をこなす自信は無かった。

なのでこうして鎧について店に問いただしてみたのである。

「死ににくい…丈夫な装備ということですか?」

「そうとも言うね。重くても吸血鬼になってもいいから…金銭以外のリスクは惜しまないつもりだよ」

「左様でございますか…では商品一覧をご覧になりますか?」

なんとも目茶苦茶なオーダーをされた店員は、暫し考えたような素振りをすると懐から紙の束を取り出した。一枚一枚に鎧の絵と説明が記されている。

「これを見れば大体の目星がつくということだね」

「あ、はい」

「それじゃあ…この重鎧で」

とりあえず目に入った鎧を指さした。説明文にも曲面加工云々と強そうなことが書かれている。

しかしバイト店員はボソボソと渋り始めた。

「お客様…そちらは現在お取扱いしていない品でして…再注文しようにも旧式なので高くかかってしまいます」

「ありゃ、それは重大な問題だね…」

「一応現在人気の物がありますよ」

そう切り返すとマタルが示したのと似たようなタイプの鎧を指さした。おそらく同じ系統のものなのだろう。

「おお、安いね。これにしよう」

「わかりました、ただ現在工場の予約が殺到していまして、お届けできるのは一ヶ月先になる場合があります」

マタルの耳がピクリと動いた。『一ヶ月先』というのは聞き捨てならない言葉だ。

「恥ずかしながら急を要していてね…一週間以内にできないかな?」

「可能ですが、追加料金がかかります」

お金がかかるなら却下だ。だけどこのまま手ぶらで帰るわけにはいかない。

「じゃあ、他に安くていいやつは無いのかな?さっき言ったような重鎧でなくてもいいから」

この際軽鎧で我慢してもいいだろうとマタルは覚った。実際の車に乗りながら動くのならドラゴンと接触するのは少ないと思うし。

「さいですか…では、一つだけいいのがありますよ」

店員は再び考え込むと、カタログを仕舞いマタルを店の奥へ案内した。マタルも意気揚揚とついて行った。

………

……

しょんぼりと俺はベンチに座っていた。夜風に晒されていたためか、背もたれはひんやりとしている。

「なんであんなに安いんだよ…」

オーブの価値は期待外れだった。あれから何故こんな結果になったか考察したが答えは二つ、考えたくも無い答えだった。

一つは以前に何かしらの形でオーブが吸い取られた。または盗まれたとも考えよう。店にオーブを吸い取る装置があったのだ。第三者がそれを隠し持ち、俺から掠め取って行ったとしてもおかしくは無いだろう。

二つ目はこの世界ではオーブの価値は低いこと。俺としてはこちらの方が納得できる。以前旅をした時も水なんかは地域によって値段が変わっていた。オーブも同様の扱いを受けているのだろう。また受付嬢が宣告した『10レベル』というのはおそらくこの世界での表し方、前の世界の50レベルがこちらの10レベルなのだろう。通貨みたいなものか。

どちらにしろ俺は釈然としなかった。事態はよくないのだ。しかしそんなこと考えていたってどにもならない。

俺は気晴らしに空を仰いだ。雲はかかっておらず、いくつか星が確認できた。深い藍のビロードに、いくつもの宝石が散りばめられたような風景。その遥か東の空はうっすら明るくなっている。日の出が近いのだろう。

採石場でダイヤモンドをばら撒いたとしても、再現できない景色だ。

「ここでは違う時期の星座が見えるのか…」

知っている星座も空にあった。古代の戦士、はたまた天界の使者。どれも神話にでてくる名を冠したものだった。奇妙な点と言えば前の世界とでは時期がずれているということか。

「ふあ~マタル遅いな」

ふいにあくびが出た。夜もそろそろ明けるころである。道を歩いているアンデットの数も時が経つにつれ少なくなってきた。丁度家に引き返す時間なのだろう。朝の世界の訪れだ。

ともすれば…俺はまた夜を一睡もせずに過ごしたということだ。車を作るときもそうだった。何かとつけて睡眠を放棄する。こんな無理が利くとは…つくづく丈夫な身体だな。心な中で一人呟いた。

「いや~スティーブ君、お待たせ」

そうしてたそがれる俺の横から、マタルが呑気にやってきた。

「…お前、どういう格好しているんだ」

ただ恰好がおかしい。

「その場で着られるサービスがあるなんてねぇ」

「バカ野郎、服じゃねえんだぞ」

よりにもよって奇抜なファッションを選んでいた。赤の全身タイツにバイクのフルフェイスヘルメットを被った何とも言えないものだ。

「戦隊ヒーローみたいでしょう。ハハハ」

唯一普通に見えるボウガンを構えて笑う。

「ヒーローのコスプレをだれがしろと言った」

変人の目の前にして俺は顔を歪ませた。

「異世界の装備だよ。話によればこれで人間もモンスターと対等に渡り合うとか」

「俺は使わないからな」

「まあ、ドラゴンになってくると巨大機械人形で戦わなくちゃいけないらしいし」

「ダメじゃねえか」

「まあまあ、これで私は特撮で生きていくことができるし。バルイーグルだよ」

「お前は鷲じゃなくて豚だろう。せいぜい飛行機乗りとして生きろ」

「まあ、悪くないか。それよりこの服、結構安かったんだよ」

「当たり前だろ。誰も買おうと思わないからな」

「じゃあ、行くとするか」

俺の冷めた態度を前に、マタルはいつものオーラを消すことが無かった。面倒くさそうに俺はベンチから立ち上がった。手元のケースも忘れない。

これも奴の強さなのだろう。俺には無い部分だ。

モンスターだと侮っていたがこれが奴の長所なのだろう。コイツが近くに居ると、能天気が感染するのか気分が明るくなった。

ただし、その能天気も短所になる。

「そこのお二方、ちょっといいですかね?」

俺達の後ろには見慣れたゴーレムが立っていた。察している奴は既に察しているだろう。警官隊だ。

「あはは…なんでしょうか?」

「このケースは決して怪しい物ではないからな」

「…この時間帯は犯罪率が高いものでしてね、職務質問を行っているのですよ」

その後俺達は身分証の提示や所有物の検査を強いられた。

帰り道…俺達は三回くらい職務質問に引っかかった。

 

 

 

 

 




いや~ナイフ投げをしたから肘が痛い…⊂(´Д` )ピリピリ

それはさておき今回もお店でぶらぶら回です。自分としては少々刺激がすくない話ですね…戦闘描写が鈍ってしまいそうです。(^_^;)

というわけで次回はちょっと辛口にしようと思います。
後クリスマスかイヴに番外編でも投下しましょうか…実はハロウィンにも考えたのですが何しろ立て込んでいたものでして…リベンジとしたい次第です。
内容は…ネザーで海水浴にしようと考えましたが季節外れですし、これから温める予定です。

ご意見、ご感想いただけたらうれしいです。(´ω`)
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