[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
「レイチェル?本当に怪我はない?」
トレーニングジムでサンドバックにラッシュを入れていると、横からエーレンが話しかけてきた。自分と同様に迷彩ズボンとタックトップのラフな格好で、任務外であることが容易に察しられる。
例の研究施設の後始末に、自分の所属する……ことになっているコマンド部隊はお払い箱だった。調査には、それ専門の別部隊が編成されている。例えば先日自分を拾いに来た『レンジャー部隊』は、コマンド部隊みたく前線で暴れまわるというより、軍機密の保持等複雑な要件を済ますのが役割になっている。同じ連合軍に属す部隊でも、お互いに違う目的を持ち合わせ、時には共に戦い、時にはこうして別行動することもある。
今は休日の到来だった。それもあって、トレーニングルームにはエーレンと私以外にもコマンド所属の隊員が滞在していた。ただ、ここに来ている彼らは個々の予定で動いている。怒号を飛ばし、指揮する必要はない。
なので、自分の思考に浸っていられることもできた。
「ちょっとレイチェル?聞いてる?」
しかしこうして一々話しかけてくる邪魔者がいれば浸っているのは難しい。
今は研究施設で対面した男に懸念で頭がいっぱいだ。『ゲリラに所属している者』と奴は名乗ったが、姿はスティーブと瓜二つ、目はロボットの様に光っている、ゲリラに所属しているにしても、取り巻く雰囲気からそこらへんの下っ端には見えなかった。
それに奴が自殺した後の不可解な現象は無視できない。突然爆弾が現れたのだ。目の錯覚ではなかった。嫌なほどしっかりと、何もない空間から出現した。どんなタネを仕掛けてそんなマジックができるのか? 流石の自分でもわからない。
しかし一つ言えることは『高度な技術を持っている』ということ。もしかしたら連合軍の最新兵器を持ち合わせても打破は難しいかもしれない。どこにでも爆弾を出現させられるのなら、戦車やロボットの網羅を潜り抜けずとも、司令部に攻撃が行われ、軍の指揮系統を破壊することが可能だ。
「もしかして……施設のことで考えているの?」
――そうなれば、人間の兵器の力は利用できない。
だとしたら、かくなる上は今まで隠していた自分の力を行使するまでだ。向こうが爆弾を色んなところに出現させられるなら、こちらはエンダーマンという兵士を同様に場所を選ばず出現させられる。
そして自分の能力は……
いや、それ以上は考えない様にしよう。とりあえずそう結論付けることにした。あくまでも推論、それに‘あの力‘を使うのはあくまで緊急時のみだ。壁に耳あり障子に目あり、空には千里眼のカメラを備えた人工衛星。部屋の中だって覗かれる時代だ。ステルス機能が備えられた場所以外でエンダーマンを呼び寄せでもしたら、おかっぴきの捜査待ったなしだ。
――しばらくは、軍人に成りすまして対処するまでだ。
そう結論付けた。これ以上は考えても疲れるだけだ。
深く息を吐き、凝り固まった思考を解放した。そして目の前の赤いサンドバックを見咎めると。少し間を開けて拳を叩き込んだ。日頃を鬱憤を込めた一撃。指先に何かが切れたような感触が伝わると、サンドバックが破れ、中のクッション材が床に散らされた。
「レイチェル……あなたもしかして人間じゃない?」
スポーツドリンクを胸に抱えるエーレンが、布きれと化したサンドバックを見つめて問い詰めた。一部の隊員が、ギョッとした様子でこちらを見ている。
「なっ……何を言うこの小娘!わ、我がそんなエンダーマンとつるむ様な――」
直球的かつ真実を見事についた質問。
もしかして施設内での行動がバレたか。またはバラされたか。あの男の顔が頭の中を過った。
「レイチェルがそんな返し方するなんて珍しいね……普通ならバッサリ『違う』と言い切ると思ったけど?」
まずい動揺し過ぎた! 鷹の様に狡猾なこの人間ならこちらの尻尾も掴まれかねない……何か自然な返し方をしなくては!
「あ――ああ! 最近試したドーピングの副作用が強くてなアハハハハ……ほ、ほら! ゲリラ達なんか変な粉持っていたことあるだろう! アレをちょっと失敬したんだ!」
「まさか! 危ない薬使ったの!?」
アレ? 何か不味いことを言ったのか?
エーレンはモンスターを前にしたかのように後ろに飛び退くと、周囲の隊員へ徐に呼びかけた。
「みなさん! ここに危険人物が居ます! すぐさま拘束してください!」
その前から交わしていた会話で察しられていたか、持前の連携の良さか、隊員達はトレーニング器具を投げ捨てこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっと待て! 何をする! 私は何もしていない――」
そして多勢に無勢、ミツバチに取り囲まれたスズメバチの如くあっという間に組み伏せられた。
「……なんで……こうなるの」
男らが積み重なる下で、呼吸苦しく呟いた。見上げるとエーレンが、増援として戦闘時の装備に固めた隊員を呼び寄せていた。
どう考えても裏切り者扱いに見えた……
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AM 5:00 第三防壁エリアにて
「スティーブ君、ドーピング薬は持ち歩いていないよね?」
赤いヒーロースーツ姿のマタルが、茶化すように話しかけてきた。手に握るのはレッドストーン自動車のハンドル。俺達はドラゴンを狩るために、人外らの最前線、第三防壁を通り抜けようとしていた。もちろん関所を通って。
「当たり前だ。前に居た世界の連合軍なんかはそういうの厳しかったからな」
俺は助手席の窓から空を見上げると、遠い目をして呟いた。
――あの女は軍人でありながらドーピングをしていたな……取っちめられていてもおかしくないが。
「スティーブ君がしっかり心得ているなら大丈夫だね。折角‘狩り‘が出来るようになったのに、違法薬持ち込んで捕まったら元も子もないから……」
これまでを振り返ると、俺達は貧乏になってから、一攫千金を狙える‘ドラゴン狩り‘に向けて努力を続けていた。それも三つの修羅場を潜り抜けた。
一つ目の修羅場は資金集めだった。金が足りないがために肉体労働に徹し、その最中ドラゴン狩りのライセンス取得に向けて勉強をした。後、酒も一応我慢した。そして付け焼き刃の知識ながらもライセンスを取得、法律上ドラゴンと戦うことが可能になった。
しかし、道具をそろえなければ物理的に戦うことができない。それを第二関門として、今度は武器屋を動き回った。鎧、剣、弓矢、品揃えは中世の時代を彷彿させるもの。ただ、性能は銃に代表される現代兵器並み。それもあって値段は安くは無かった。結果満足に道具はそろえられず、家にある物で代用することになる。
――第三関門は何を代用するかだった。
俺達は家の中をひっくり返し、俺の防具は、市販のなめし皮と家にあったソファーを分解して急仕込みのプロテクターを作り、マタルの武器は強力な毒薬をメインにすることにした。毒薬と言っても、ゾンビ向けに出していた『負傷のポーション』の効果を強化した一品。戦闘向けではないので、ドラゴンに効果があるかわからなかった。 ただマタル曰く怯ませることは可能だとか。誤射で俺に飛ばしてこないことを願おう。
「よし、関所の許可が下りたよ。狩りの始まりだ――と言えばいいのかな?」
「豚が格好つけるとは……世も末だな」
「なにか言った?」
――第三関門を潜り抜けた俺達は、晴れて狩りに出ることが叶った。
甲冑を身にまとった門番から許可証を受け取ると、マタルはギアを手慣れた様子で動かし自動車を前に進めた。
車は作成当初は馬が引く屋形にのような外見だったが、狩りに使うということで更に改良した。屋根も取り付け、タイヤも鉄製に換装し強度を向上。流石にゴムは見つからなかったので、牛革や布団で代用。なんとか地面と噛み合ってくれるはずだ。
そして何よりの改変はその『風貌』だろう。ペンキでもって緑色に化粧づけし、そこらへんの木から枝を剥ぎ取って車に張り付け迷彩化した。遠目に見ればそれは車ではなく『草むら』に見えるはずだろう。動けばバレるが、止まっていればジャングルのグリーンベレー。狩りの効率を一気にあげてくれるはずだ。
門番の目線が車に痛く突き刺さったが、これも生きるため。マタルも俺もそう心に刻み込み、小さな門を潜り抜けた。
「じゃあ、森沿いを走ってくれ。その方が見つかりにくい」
「はいはい~了解したよ」
野原に出た俺達は、特に何も声を上げることなく狩りに向かった。俺は草でカモフラージュした荷台に上がり、外の風を肌で感じる。皮の帽子が飛ばない様、慌てて手で押さえた。
そしてとっさに周囲を見回す。空はバリアが張られていないためか、いつもより青が濃く感じられた。それ以外はこれといって変化はない。運転手のマタルは、先日した狩猟訓練のまま、よそ見をせず前を向いて運転している。
一方、俺の手は震えていた。大金叩いて買ったライフルを、途端に落としそうになる。恐怖ではない。武者震いだ。こうして新しいことに挑戦すると、無償に高揚感が感じられる。前の世界に居た時もそうだ。30歳過ぎた頃、ずっと続けていた冒険者業に抵抗を感じ始め、思い切って秘境の村に住み始めたりした。その時の経験は忘れられない。村が焼かれ、岩盤を壊そうと決心した時も、同様だ。新たな人生を始める衝動は、なかなか抑えられたものではない。過去の時間が蘇えり、心臓が更に高鳴り始めた。
「スティーブ君、何か居たかな?」
マタルはあくまで運転手。周囲を見回し、ドラゴンを探すのは俺に任されている。並びに射撃手も。理由は役割分担した方が効率がいいためだ。サボっては狩りにならない。頬を叩いて気合いを入れ、無理矢理震えを押さえた。
「……全方位、変化なし」
慌てて周囲を見回し、どこかに赤い物が見えないか確認。右よし、左よし、上よし。
不幸か幸いか、ドラゴンはどこにも居ない。
「う~ん、こちらも何も見当たらないね」
試験の時と違い、ドラゴンが行く先々でスタンバイしてはいない。海で忽然と現れる魚と同様、陸でも経験と運任せに探し出すだけだ。
マタルは運転するので車前方、俺は銃を構えて車後方。どちらかが見つけたら、声を上げようと打ち合わせしている。
だが、暫くは俺達は喋ることはなかった。森からは獣一匹でてこようとしない。木の葉のさざめきと、改良を加えて抑えたエンジン音だけが辺りに響いた。しかし、最初のように警戒を解こうとはしない。枝一本が折れる音にも、嫌と言うほど過剰に反応を示した。
そして、また木の枝に身を震わせた時だった。風が吹いていないにも関わらず草むらが揺れ始めた。
「いやー!ドラゴンが出たー!」
俺が指示を下す前に、マタルがアクセルを踏み込んだ。突然の加速に、俺は荷台の縁に膝をぶつける。プロテクターのおかげで何とか痛みは抑えられた。しかし、体勢を大きく崩した。
「な、なんだ!?」
縁に捕まってバランスをとると、草むらの先に銃を向けた。
セーフティーは既に解除してある。そして門を出る前に、試射場で一度銃を撃っている。銃は問題なく作動した。しっかりとした銃だ。今もなおその高性能を発揮してくれるはず。
草むらの前に生き物が飛び出す。俺はためらいなくトリガーを引き絞った。が、同時に車が大きくカーブした。マタルの仕業か。爆竹を彷彿させる破裂音が、腕に抱える銃から響く。
しかし弾は大きく外れた。
手早く銃側面のレバーを引き薬莢を排出、並びに次弾を装填した。かかった時間は0.5秒。
――射撃可能。
再び草むらの方に狙いを定めた。今度は外さんとスコープを覗き、目標を拡大する。
だが、そのときレンズに拡大されたものに、俺は目を疑った。
「……ウサギじゃねえか!」
思惑も、銃も、見事なまでに外れた。ウサギは唖然とする俺の姿を見止めると、また草むらに引き返した。追撃を食らわせて仕留めようにももう遅かった。
「ウサギだったか……危なかったね……」
銃を構える俺の背中で、マタルはハンドルにもたれ力なく言った。そしてブレーキペダルも踏まれ、車は数m進んだところで動きを止めた。
「おい、さっきみたいに車を加速させるな。訓練通りにしてくれ」
俺はナイフを飛ばすようにマタルへ怒鳴った。本来なら仕留められていたところだが、むしゃらに車を走らされたがために、狙いがはずれてしまった。ドラゴン相手に下手糞な連携を取っていたら直ぐに食われるだろう。戦車を持ち出したり訓練の時出た高級武具を使っているなら狩りは円滑に進む。しかし急場しのぎの装備で固めた俺達だと、息が合わなければそれは確立しない。
「連携が下手だと、その先には『死』だぞ」
わかったな?――俺はマタルに向き直り、更に言葉に重みをかけた。
「……わかったよ」
マタルはボソリと、魂を抜かれたかのように答えた。しがない薬屋にその言葉は少々威圧が過ぎたかもしれない。だがここは壁の外だ。自分達を保護してくれる物は無い。この世界に来てから壁外にくるのは初めてだが、前の世界で似たようなところを散々と回った。そこは弱肉強食が常識として通っている。少しでも弱みを見せれば、たとえ自然蹂躙する人間も、シマウマやイワシのような『エサ』に降格する。
だからこそ、これ以上ボロを出すわけにはいかなかった。
そして車は再び動き出した。外れた巡回ルートである森の脇へ、急に加速することもなく進んだ。
「おし、その調子だ」
ただし、ほめる事も忘れない。子供も大人も褒められることはうれしいものだ。この現場で浮かれる偽るのはよくないが、だからといって数秒欠かすことなく神経を張りつめていても、ストレスが過剰に溜まって行動に支障が出てしまう。多少の気を紛らわせるスキンシップも必要だ。
図書館で雑学交じりに培った知識を、俺は心の中自慢げに吹聴した。ただし、視線は周囲に向けている。車が速しに接近するにつれ、草や木の数がはっきり分かるようになってきた。そして、その中に赤い影が居ないかも確かめた。ついでにあのウサギも仕留めてやる。
「やっぱり……何も居ないね」
半分落胆、半分安心したようにマタルは声を上げる。
「森からは……ウサギ一匹居やしない」
俺も目を凝らして草むらを見るが、景色は先ほどと対して変わらない。このまま森林クルージングが続くなら、目的を変えて木の実探しに出たいところだ。採取クエストとでも言えばいいか。
そう考えていた時だ。頭に何かが当たる感覚があった。
「痛っ……石が落ちて来たぞ」
荷台の敷板に、指先一つ分の石が転がる。この世界では石が降ってくることもあるのか。火山が噴火すれば軽石なりが飛んでくるはず。
しかし、準備段階で地形を確認した時、火山なんて一つもなかった。そして石を投げられる程悪いことをしたのは……マタルの店の評判を落とした以外に思い当たる節は無い。
だとしたらカラスのイタズラ……
――いや、違う!
俺はカラスではない別のものを探そうと、慌てて空を見上げた。空は雲一つ無い青天。ピクニックをするなら絶好の天気。しかし、今は状況がそんな軽いものではない。
俺は鳥ではない‘別のもの‘を目に焼き付けた。冷や汗が、顔の横を滴った。
――赤い竜が、太陽を背に降下を始めていた。
間違いない、レッドドラゴンだ。
「マタル! 急発進させろ! 上から狙われている!」
俺が口早に叫ぶと、マタルは声を上げる前にアクセルを踏み込んだ。エンジンがけたたましく鳴り響くと、車が弾かれた様に走り出した。
「ひぃいい!また死にたくない!」
マタルは恐怖心にハンドルを強く握りしめた。その瞬間、車が叩かれたかの如く大きく揺れた。俺のすぐ目の前で、車体を大きく越した身体の竜が、土埃を上げて飛び退った。車すれすれの超接近、切除されていない鉤爪が、目の端にはっきりと映った。
――間違いない、本物だ。
そしてドラゴンが一つ羽ばたくと、起こった風が車振るわし、荷台半分迫り出した身体に強く吹き付ける。砂塵が顔を削るように飛んできて、俺は思わず目をつむった。
その間ドラゴンは急上昇を始めていた。
マタルの迅速な反応で、一撃目はなんとか避けることが出来たが、ドラゴンは再び降下攻撃を行おうと、旋回してその機会をうかがっている。
俺が試験の時相手した奴と、同じ戦法だ。
だが、打破できないことは無い。ここに高性能な銃がある。フラッシュバンは持ち合わせていないが、弓矢を超える射程のこの武器なら、そのロスも埋め合わせることが出来る。
「マタル! 最高時速を出せ! 警官隊なんざ気にすんな!」
俺は運転席に指示を飛ばすと、空に銃口を向けた。スコープの倍率を片手で調節し、ぼやけたビジョンをはっきりさせる。レンズに映し出されたドラゴンの姿はくっりき拡大され、鱗一枚一枚形まで確認できた。
「落ち着け……落ち着け、俺」
緊張で心臓がはち切れんとばかりに震え、全身の血液が沸騰したように感じた。アドレナリンがいつも以上に分泌されている。当の俺はそんなこと知りもせず、息を止め、照準のブレを押さえた。上下していた景色がピタリと止まる。
そしてドラゴンは、こちらが狙っていたのを察したかのように、飛行軌道を地上に向けた。スコープ越しにギロリと睨まれた感覚になる。
しかし俺は臆することなく、スコープにその姿を映す。
そして照準器の十字マーク下部に飛行するドラゴンの頭が差し掛かったと同時、
銃弾を放った。
銃のストックを通して、撃った衝撃が肩に伝わる。その力を余波とするように、鋼鉄のライフル弾は空気を裂いて飛ぶ。
スコープの拡大された景色でよくわかった。俺が放った弾はドラゴンに命中した。
――しかし俺は愕然とした。
火花を散らしたと同時、固い板にでも当たったかのように弾かれていった。
以上になります。
ドラゴンはそうアッサリ倒すわけには……いけませんよね
ご意見、ご感想、お待ちしております。