[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
きっと距離が離れすぎていたんだ、そうに違いない。この銃は鉄の剣10本簡単に壊した虎の子だぞ。ドラゴンの鱗に弾かれるなんて本末転倒だ。弓矢が利くのになんで銃が利かない。
俺は車に揺られる中、冷や汗交じりに呟いた。
この状況はどう打破すればいいか。
――距離を縮め次第再射撃すればいい。
そうだ、それで倒れるはずだ。
俺は視線はドラゴンに向けながらも、ウサギと同様に手早く再装填に徹した。真鍮製のレバーを引いて、薬莢を床に捨て、弾倉からせりあがった新しい弾を薬室に送り込む。これで射撃することが可能だ。
「よし……こい、トカゲ」
ドラゴンはスコープが無くとも判別可能な距離へと迫っていた。法外にチューニングした車のエンジンさえ物ともせず。図体がデカくても速さはそのままか……厄介だ。
「マタル! 俺が三つ数えたら左に曲がれ!」
「わかった! 曲がればいいんだね!」
俺は今度はマタルに声を飛ばした。あのドラゴンを速度で振り切ることは不可能だ。なら急に動きを変える――ネズミみたいにアトランダムな動きに徹すれば、攻撃の回避は可能である。
マタルに命じた進路変更はそのトリックへのプロセスだ。
避ければ笑顔。失敗すれば車ごと俺達は吹き飛ぶだろう。状況はどちらに転んでもおかしくなかった。
「もっと近づけ、後で俺がその肉食ってやる」
一応ドラゴンの肉は食用可能と聞いた。マタルが曰く長寿の効果があるとか。死人に言われても説得力は無い。だが生きる者のエゴとも呼ぼうか、効果を信じて食べたくなる。
そうしてよだれを垂らしながらも、俺は一つ目のカウントを切った。銃の照準をドラゴンの眉間に合わせる。
果たして距離を詰めただけで銃の効果は出るのだろうか。きっと出るはずだ。この銃の初速は音速以上。そして使用する弾は貫通力を高めた特殊弾。新型戦車でもない限り防がれることは無い。
二つ目のカウントが切られた。迫る赤い悪魔に冷や汗を流す。
心臓は爆発寸前だ。オーバーヒート寸前のエンジンに負けず、けたたましく心拍音を鳴らし続けている。身体も恐怖で硬直しかけていた。大きく振った腕も、ほんの数センチしか動いていない様である。この臆病者――俺は自分自身をこの場で罵った。
しかし人間としての本能だろう。鷹の様に鉤爪を生やした足を見せ、こちらに急降下するドラゴンに、畏怖の念を抱かずにはいられなかった。物語に出てくる英雄のように、敵を前にして美辞麗句を吐く余裕は全くない。思考は‘眉間を撃ち抜くか‘‘首元を撃ち抜くか‘どう相手を殺めるかに付き切りだ。その状況で長台詞なんて吐いていられない。ただ感情に応じて、反射的に目の前のドラゴン銃を撃つだけだ。
そして約束の三つ目のカウントをした。曲がれの合図だ。
俺は迫るドラゴンの眉間をはっきり捉えると、鉄のトリガーを強く引いた。身体が反動で叩かれた様によろめく。
車はその時、地面を深く削り左手に大きく進路を変えた。速度を減速させながらも、カーブの遠心力は肥大化している。強引な運転にバランスを崩した俺は、誤って荷台の縁に腹をぶつけた。焦げ茶のプロテクターは大して役に立たず、脇腹に鈍い痛み走った。思わず表情を歪める。
だが何とか銃を手放さずに居た。木と金属のパーツを組み合わせた銃身を、黄金の財宝でもあるかのように強く握る。討伐の成功の否を決める武器だ。手放すわけにはいけない。
踏ん張る俺を横目に、ドラゴンは車が先程まであった地面に飛び込んだ。周囲が舞いあがった土煙に包まれる。視界は黄土色一色に変貌。並びに俺の口の中に砂が侵入した。舌の上に苦味が広がる。俺は唾液と共に飛び込んできたものを吐き出した。フルフェイスを被ったマタルが無性に卑しく感じる。俺の装備は保護帽一つだ。覆面強盗みたいに顔を布で覆わないと、地面の物を食すことになる。俺はその事態から逃れようと、俺は草木に囲まれた荷台に身体をうずめた。これで幾分事態は軽くなる。
その直後、車の後方から煙ごしに咆哮が轟いた。根拠を並べるまでも無い、ドラゴンのものだ。車との距離はわずか3m。遠くの山まで届きそうなその咆哮は、至近距離で聞くとまるで大量の爆竹が炸裂した光景を感じさせた。あまりの大音量に俺は耳を塞ぐ。音は車自体にも影響を与え、自分が屈む踏み板の砂を細かく振動させる。流石のマタルもこれは堪えたようで、車の動きを僅かながらもよろめかせた。とはいえ銃弾はドラゴンに効いたようだ。あんな声を上げていれば安否も直ぐに察しられる。
そして周囲を漂う砂埃が晴れた。青空が頭上に広がっている。さてさて、獲物はいかほどの品であるか。俺は討ち取ったドラゴンの体長を一目見ようと、荷台から顔を上げた。居酒屋のオヤジが言ったように、ドラゴンは巨万の富にも成り得る。それに加え。あの体躯なら高く売れる。この世界で生き抜く上で、大きなツールを手に入れることになる。期待を胸に車の後方を望んだ。
状況は予想と違った。
討ち取ったはずのドラゴンが、目玉が飛び出さんとばかりに目を見開き、追いかけてきていた。旧型戦艦を捉えた、対艦ミサイルの如く。頭部は遭遇時と同様無傷のままだ。銃弾は効いていない。
――ふざけるな。
俺は自然界の理不尽に、今更ながら怒りを募らせた。サルが利口になった程度の人間、対するは古代の歴史を支配し続けたドラゴン。両者の格差を、自分の弱さを、俺は現実を目の前に噛み締めるしかなかった。
恐怖は一転し、俺はドラゴンに向かって言葉にならない罵声を上げる。
しかしそうしている間に、車との距離は着実に縮められていった。
カーブで車が減速したことを好機に、巨大ドラゴンは、歩幅大きく一歩一歩確実に迫りつつある。俺には地面を蹴るその鉤爪が、首を切り飛ばす処刑道具に見えた。距離を縮められれば、一溜りも無い。
「マタル! 薬寄越せ!」
俺は一旦ドラゴンから目を離し、運転席の方腕を伸ばした。手に取ったのはマタルのカバン。新品の布を破かんとばかりに中身を掻き回すと、薬瓶を一つ取り出した。中に詰まるのは高濃度負傷ポーション。赤黒い液体が瓶いっぱいに入っている。アンデット以外が浴びたら一溜りも無いだろう。ドラゴンも同様。銃が効力を失った今、この薬に頼るしかなかった。
俺はライフルを踏み板に落とすと、代わりにその瓶をドラゴン目掛けて振り上げた。すぐ目の前に肉食獣に特有の鋭い牙が見えた。ドラゴンは車と接触せん状態だった。俺は奴の目を負けじと睨みつける。
――力が強いからって調子に乗るな、このボンボンが
この際どこに当たろうと構わない。当てずっぽうに薬瓶を放り投げる。
しかしドラゴンの方が、一歩速かった。
俺の乗る荷台に頭を捻じ込ませると、車をすくい上げるように打ち投げた。車体の重量を感じさせないその一撃。投石器で飛ばされたかのように、車は空高く飛んだ。カモフラージュの草木は飛び散り、背後でマタルが悲鳴をあげた。車体のみならず、乗る者にも衝撃を与えていた。
気付くと俺は宙を舞っていた。シートベルトを着けていない俺は、車と同じくらいの高さに、生身のまま弾き出されていた。天と地が逆さまになって見える。そして真っ赤な影も一つ。ドラゴンが直ぐ下で、仕留めんと待ち構えている。動物の癖に嫌なほど狡猾だ。
肉食動物には二つのタイプがある。一つは獲物を見つけ次第、その首を刈ろうとする『行動派』。もう一つは何かしらの方法で弱らせてから、確実に仕留める『策略派』。
――ドラゴンは陰湿な『策略派』だった。
間を開けず、車が屋根から地面に墜落した。硬い物が、折れる音が周囲に響き渡る。俺が一夜かけて作り上げ、先程までエンジン吹かして走っていた車が、一瞬でゴミと化した。
――おいこら……やめろ
ドラゴンは仕留たとばかりに車を見咎めると、羊を前にした狼の様に車体に食いついた。少し離れたところに落下した俺は、幸い無傷ながらも、その光景を見ていた。いや、見ることしかできなかった。最初に手に取った薬はどこかへ飛び、後のスタックは落下の拍子で瓶と共にお釈迦になった。今じゃあカバンからは薬が駄々漏れし、別途にしまってあっただろうバレットボウガンは取り出せない状態だった。唯一無事であろうライフルは、先程の接近戦で無効だということがわかった。一応回収し手元にあったが、自殺用でしかない。
――この役立たずが
ああ、あの骨に騙されたか。俺の脳裏にあの武器屋のスケルトンの顔面骨格が浮かんだ。カラカラという無機質な笑い声。それが聞こえてくるようだった。
視界には、ヒーロースーツのマタルが、ドラゴンの頭にしがみ付く姿が写った。車が破壊される時、なんとか飛び出したのだろう。ドラゴンは張り付いたマタルを振りほどこうと、激しく頭を振った。だがマタルは懸命に張り付き、ドラゴンから剥がれようとしなかった。しがみ付くマタルは相手が四苦八苦しているのを好機に、右腕を一本振り上げた。手に鉄のナックルが光る。マタルは残りの左手両足でなんとか体勢を保った。そしてドラゴンに振り落とされる前に右手をドラゴンの顔に叩き込んだ。アンデットの腕力、鬼の秘術、異世界のスーツ、本来の能力を底上げした状態でのその一撃は赤子の抵抗程度の力ではない。厚い鉄板をひしゃげされる程。暴君のドラゴンもそれに応えたか、今度こそ苦悶の咆哮を上げた。鬼のような顔が、僅かながらも陥没していた。
だが、それまでだった。浪費を懸念して選んだ安物のナックルは、ドラゴンの固い身体とマタルの腕力に耐えきれず、砕け散ってしまった。それに加え、衝撃はナックルの破損だけに限らず、マタルの右腕おも故障させた。肘から先が若木のようにプラプラと揺れていた。骨が粉々になっているようだ。
しがみ付く手が一つ無くなってしまったためマタルはこれ以上ドラゴンにしがみ付くことが出来なかった。ドラゴンは再び頭を振ると、マタルはボロ雑巾のように地面へ叩きつけられてしまった。
――これまでか……
少し離れたところで、俺はあきらめに近い感情を抱いた。
それもそうだ。こんなチャチな装備で化物に立ち向かったのが間違えだった。相手は人外たちを凌駕する力を持っているのだ。モンスターより化物だった。死を目の前にして、俺はすんなりと現実を受け入れることが出来た。
全ては俺の責任だ。
俺は今更ながら、マタルの言葉を痛感した。『リスクが大きすぎる』という一言を。戦闘経験豊富な俺が居ながら、ハンター生活という迂闊な考えに走ってしまったことに後悔せざる得ない。こうなるなら、あの人外だらけの工房で働き続けるのも、悪い選択ではなかっただろう。もう一度、やり直したかった。
――許せ、マタル
全ては俺の責任だ。
俺は手に持つライフルを構えた。標準はマタル。せめて楽に死なせてやりたい。ドラゴンに睨めつけられ、腰を抜かすマタルを、ライフルのスコープに捉えた。
――人に撃ったらバラバラになる
武器屋の奴はこの銃を手にそう言っていた。アンデットはゴーレムみたいな鉄の身体ではない。マタルに撃てば、木端微塵――痛みを感じることも無く息絶えるだろう。
十字の照準に、フルフェイスで覆われた頭を写した。スコープ越しに俺は姿を見るが、彼はこちらに気付いていなかった。それでいい。
俺は息を止め、銃の揺れを安定させた。射撃準備完了。
躊躇う気持ちは無く、俺は引き金に掛けた指に力を入れる。
――その時、スコープに写された風景が真っ白になった。いや、光ったと言った方がいいか。
そして、僅かに遅れて破裂音。俺は思わずうめき声を上げ、銃を取り落した。
――スタングレネードだ。
スコープを覗いていた右目を押え、俺は一人確信した。マタルが持っているわけがない。誰かが投げ込んだか。
俺は潰れていない方の目で周囲を見回した。
森――平原――巨大なドラゴン―マタル―車――順々にそれらが視界に映った。
だが一つだけ、不可解なものを片目に捉えた。動物ではない。
方向感覚を失い、うろたえるドラゴンの手前にそれはいた。
シルエットは長身。黒い身体。それを構成するのは炭化した骨。左手に長身の身体を追い越す白い刀。
俺達には目もくれず、身悶えるドラゴンを見咎めている。
――長太刀を握ったウィザースケルトンが、そこに立っていた。
以上になります。
いやー原作のマイクラでも、適当な装備だと難易度が増しますよね。
自分は黄昏の森のヒドラと戦った時、バグか仕様か、主武装の銃が利かなくて……他にろくな武器は無く惨敗しました。
RPG-7は利かないし、ロボットは易々撃破されるし……なんて化物だ。
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