[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。   作:えだまミィカン

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どうも、お久しぶりです。投降日時がズレてしまったことお詫び申し上げます。
今回はいつもより文字数多めな回ですので、じっくりお楽しみください。


第二十七話 宴の始まり

町に満月が昇るこの宵、俺は薬屋の一角を占領し狩りの道具作りに勤しんでいた。天井から吊るしたグロウストーンが手元を照らし、明かりは十分に確保できている。この時間帯において、暗闇や暴徒における精密作業を妨害するものはない。それもあって俺はこの作業に夢中になることができた。

 レッドドラゴンの鱗を使って防具を製作すると言う作業が。

 

………

……

 

 俺とマタルは、ウィザースケルトンと共に巨大ドラゴンを防壁まで運んだ後、約束通り部位を山分けし合った。特にマタルが野獣の様に目の色変えて。滅多に市場に出回らないという希少性を察してのことだろう。

 関所の横で、金への欲に塗れた交渉となった。述べ数2時間の対談の末、ウィザースケルトンが希少部位である頭と尻尾を貰い、残った物が俺達の手に渡ることになった。ドラゴンの身体大半を貰えたのは、マタルの押しがあったから故であろう。後でウィザースケルトンに難癖つけられなきゃいいが。

 兎にも角にも俺達は、半ば七面鳥の丸焼きのシルエットに限りなく近くなったドラゴンを市場に売りに出すことにした。漁港の近くで競りが行われるのと同様、第三防衛ラインの近くにもドラゴンを売りに出せるところがある。俺達はそこへ巨体を運び入れ、プロのディーラーが品定めした。

 神妙な雰囲気に俺は手に汗握ったが、マタルが意地になって交渉し、希少部位が除かれながらも高金額を手に入れることが出来た。大体高級リゾートホテルで贅沢が可能な金額である。数字にすると、ブレイズの工房の月給の2倍、マタルの薬屋の6倍だ。

 流石、市場で希少となるドラゴンのブランド力と言いたいところだ。ただドラゴンのサイズが仇となり、重い胴体だけが俺達の手元に残った。どうやら『胴体にあまり使い道は無い』とか。それに重いから運搬費用が桁外れに取られるとか。まあ俺でも、角ならともかく胴体は引き取ろうとはしないな。せめて軽めな足か翼が残ってくれたらよかったものを。

 処理をする責任がある俺達はしょうがなくは芋虫状態になったドラゴンから鱗を剥ぐなり肉を切るなり、マグロで言う‘解体‘を行い、持前の鞄に詰め込んで事無きを得た。

 後は店で、豚とかゾンビとかマタルが薬にしてくれるだろう。

 

………

……

 

 とのように無事ドラゴンは手に入った。ギャンブルに手を出さない限り、多少は楽な生活が遅れる程の金も調達できた。だが世の中そうそう楽に進んでくれない。手元に残ったドラゴンの素材が、邪魔になりつつある。

 内臓はマタルが薬の材料にし、肉は煮るなり焼くなり好きにすることで処理できる。だが鱗だけは銃弾を跳ね返す頑丈さから加工に困難を極めた。結果マタルには処理できず俺の元に流れ着いてきた。

 無論俺は『どこかに売れ』と突き返すところだ。呑気にゴミを眺める程楽天家ではない。

 それにほんの数時間前にドラゴンの奇襲を受け死を垣間見た。トラウマ待ったなしの恐怖体験である。俺の精神は毒を盛られた様に幻覚を見せ、殴られた様な目眩を手向けてくる。心の中で深く刺さる刃として、人の心を苦しめる存在として残るであろう。目を閉じれば、映るものはドラゴンの姿。精神健康状態はかなり悪い。

 だが俺はそれより懸念していることがある。今後どうやって狩りを続けるかだ。

 実を言えば、今ドラゴンを狩りに行けと言われると実質『不可能』である。

 今回の狩りは急仕込みの装備であったにもかかわらず実行した。レッドストーン自動車に頼ったからである。『車に乗って動き回ればラフな装備でもドラゴンに対抗できる』俺は生活に追い詰められ、明確な根拠もなく考えていた。そして俺を一喝するかのようにドラゴンは車を蹂躙。容易く追い詰め、車体を突き飛ばした。結果として『車はドラゴン相手に有効打にならない』ということ事実が俺に突き付けられた。レッドストーン自動車でドラゴンを相手にするのは、三輪車で戦闘機を撃墜しようという奇行に近い。

 ともすれば現段階の装備でドラゴンに立ち向かうことは不可能。新調する必要がある。

 というわけで舞い込んできたのが『鎧製作』だ。

 ドラゴンを狩るときの基本事項として『ドラゴン殺傷に有効な武器を持つ』『反撃も凌げるような防御力を身に着ける』2つがある。

 だが俺の装備を見直すと、決定打は高値を叩いて買い入れたライフルだけ。前者の『ドラゴン殺傷に有効な武器を持つ』は達成しているとしても、後者の『反撃も凌げるような防御力を身に着ける』はやや不備がある。防御力埋め合わせるのは鎧は急仕込みのプロテクター。それは近所の店から買い入れたなめし革とマタルの店にあったソファーを分解し組み合わせた代用品で、大した性能はない。昼間の死闘を振り返ってみると不甲斐なさは一目瞭然だ。単に動き妨げる拘束器具にしかならない。

 だからこうして造る予定の無い‘鎧‘を作成しようと言うのだ。

 それもあって今回はプロテクターのように材料をケチることはしない。以前赴いた大手狩猟具店から高品質な鎧を買い入れた。マタルのコスプレスーツではなく、貴族の館に飾られているようなフルプレートメイルである。頑丈な鉄板が四肢を包み、顔を覆うフルフェイスが頭を保護してくれる品だ。例えドラゴンに踏みつけられたとしても致命傷は避けられる。

 しかし鉤爪で薙ぎ掃われば、鎧は簡単に破壊されるだろう。資料によればドラゴンの鉤爪等は同種族との縄張り争いに使われるもので、そこら辺のドラゴンの鱗なら容易に貫くらしい。怪物さえ殺める鉤爪を、民間企業が精錬した金属で凌げるわけがない。

 そこで出てくるのが『上級種ドラゴンの鱗』だ。あの巨大なトカゲの鱗をフルプレートの上に貼り付け、『変形』や『破損』を防止する。つまり戦った時に嫌と言うほど味わった頑丈さを鎧製作に利用しようということだ。もちろんマタルが匙を投げた素材なだけあり、鎧に張り付けるのも一筋縄ではいかなかった。図画工作のように糊で張り付けることは難しく、だからといって裁縫道具を持ち出して縫い付けることもできない。固い鱗だからな。それに鱗といっても巨大ドラゴンから生み出されたサイズだから、どちかといえばエビやカニの『殻』、極端な話建築に用いられる『瓦』に近い産物だ。重量は鉄と比べると少なめなものの、図書館に置かれた辞書並みに厚みがあってそのうえ頑丈。穴を開ける事も困難に近い。これらを踏まえとマタル同じようにお手上げ状態である。

 だが、対処は可能であった。

 恨めしいことに解決策はマタルが握っていた。劇薬を利用する必要があったのだ。俺が屋根瓦に近いサイズの鱗とにらめっこしているとき、一部分に溶けたような跡を見つけた。縄張り争いをするドラゴンの鱗なので、傷なりひび割れなりあっても不思議ではない。しかし火にくべた蝋燭のように一部分がとろけ落ちているのは、取っ組み合いで負うとは考えにくい傷だ。だとすれば誰かが人為的につけた傷だということが示される。

 人為的につけた奴といえばマタルが怪しくなる。ドラゴンと接触した者は、他にもウィザースケルトンがいるが、奴は刀で首を刎ねるなりしただけで鱗が溶けるようなことはしていない。もちろん俺も銃弾を撃ちこんだだけで同様のことは起きないだろう。

 そうなれば、容疑者として一番怪しくなるのはマタルである。奴は鱗を加工しようとしてあきらめたと言ってた。言葉だけ見ると『傷一つつけられなかった』との解釈もできる。だが視野を変えると加工するために『様々な手段を試した』とも考えることも可能だ。‘あきらめた‘と言うことはその過程で何かしらの加工するための実験をしていた可能性もあるし、何より他に手を加えそうな人物がいない。

 というわけで薬品室に押し入り、マタルに取り調べをした。奴も特に拒むことなく捜査に応じ、事実を淡々と語ってくれた。奴が言うには鱗の物質を分解する薬品をかけてみたとか。事件の真相をあっさりと吐いた。そんな便利なものがあるなら早く出せと言いたい。

 とのような流れで『ドラゴンの加工に使える劇薬』の在り処が判明し、さっそく転用することにした。薬品をを半ば強引に拝借し、作業場に直行。換気の為に窓を開け、細心の注意を払いながら瓶を開けた。そして中から緑色の液体をスポイトで抜き取り、鱗に一滴垂らしてみる。するとどんなマジックだろうか。氷に焼き鏝を押し当てたように薬品のかかった部分が溶け始めたのだ。その速度は時計の短針に等しい。だが沸き立つ煙と共に、鱗の表面に穴を開けた。

 

――これなら加工可能だ

 

 薬品で溶かすと溶けた後は何も残らず、失敗は許されない。そのうえ鱗を貫通するのにも時間がかかるので集中力も必要だ。リスクと求められるスキルは大きい。だが物を作る‘クラフター‘としてはそれらを乗り越えるのが生業というものだ。サイズは身体に収まる程度。レッドストーン自動車に比べると小ぶりな作品だ。しかし製作の難易度はそれを遥かに超えている。

 

――面白い

 

 俺は薬屋の一室で口元を吊り上げると、薬品を取り出すスポイトと加工する鱗を手に取った。いわば盾を貫かんとする鉾と鉾を防ごうとする盾と言うものか。どちらが有能か勝負としよう。座布団に尻を乗せ、第二のドラゴン戦に俺は挑むのであった。

 

………

……

 

「起きろ! 小僧!」

 

 耳元で、聞きなれない声を聞いた。

 俺は思わず座布団から転げ落ちる。だがとっさに床に手をつき、転倒は抑えた。そのとき鋭利な工具が手に刺さり顔を歪める。

 

――俺は寝ていたようだ

 

 手に走る激痛で思考が覚め、やっと事態を察することが出来た。目の前には紅い鱗で飾り立てられた椀甲、手元には作業に使った薬品。換気の為に明けた窓からは既に光が差し込み、町を飛び交う風がカーテンを揺らしている。朝の訪れだ。鶏の軽快な鳴き声が早朝の現実味を帯びさせる。

 そして何故か目の前に、ウィザースケルトンが1人立っている。それもヤクザ丸出しの口調、壁外で出会った長太刀使いだ。

 

「ふぁ……もう朝か」

 

 俺はあくびを交えながら、両腕を腕を頭上に引き伸ばした。固まった関節が景気よく音を出す。

 だがそのとき、顔の前に何かが飛んできた。金属の棒だろうか。俺は頭を下げ、当たる寸前のところで避けた。

 

「とっとと起きろアホが! 引きこもりも大概にしろ!」

 

 先ほどのウィザースケルトンが、起きて間もない俺をがなり立てる。長細い手には何故かトング。バーベキューで使われる物と似ている。何故トングを持ったウィザースケルトンが俺を起こしに来るのか。一瞬俺は夢を疑った。

 

「ボサっとすんな! とっとと立て!」

 

 薄汚れたトングで俺の頭を叩くと、空いたの手で俺の服を掴んだ。そして断りも無く猫でも拾い上げるように座布団から立たせた。アンデットなだけあってか力加減に容赦が無い。‘立たせる‘というより‘つるし上げた‘の方が正しいだろう。

 

「何をする気だ!」

 

 俺は抗議を上げる。だがウィザースケルトンはまたもやトングで俺の頭を叩くと、丸太でも担ぎ上げるように俺を肩に乗せた。二メートルを超す長身が、高層ビルの屋上にいる光景を錯覚させる。床が眼下に広がる地平線に見えた。

 

「うぉ! 離せこの野郎!」

 

 ウィザースケルトンは抵抗する俺も眼中にない様子で歩き出した。進行方向は店の裏口、外に出る気だ。奴と因縁を持った覚えは無いし、あったとしても先ず言い分とやらを話してもらわなければどうしようもない。金品を要求する強盗より悪質な、『暴徒』の可能性を俺は察した。

 

「そらぁ! 久しぶりの娑婆の空気だ!」

 

 抵抗する俺など気に留める様子もなく、ウィザースケルトンは脚で裏口を乱暴に開けた。真っ白な光がこちらに差しこんでくる。薄暗い店内にいた俺は、差し込む日差しに目をくらませた。まるで光を嫌う吸血鬼にでもなったかのような気分だ。だがタダのスケルトンである奴は、俺の目の容態などお構いなしと、荷物を扱うようにドアの先へ放り出した。

 

「危ないだろ! おい!」

 

 目の前に迫るのは固い地面。落下直前で俺は受け身を取り衝撃を緩和させる。頭から落ちていたらどうなっていたか。身体に着いた砂を払うことなく立ち上がり、組手格闘の構えを取った。やはりモンスター、人間には危害を与える存在だ。警戒を解くことはできない。ドアの奥で立つウィザースケルトンを呪い殺さんとばかりに睨みつける。

 

「スティーブ君? 何をやっているんだい?」

 

 そのとき不意に後ろから声がかかった。呑気な様子が混じったトーン、マタルのものだ。

 

「あのウィザースケルトンが家の金を盗みに来たんだぞ!」

 

 俺は視線はウィザースケルトンに向けながらも、後ろのマタルに警告をした。

 

「……スティーブ君、前にも似たようなシチュエーション無かった?」

 

 何故か呆れるような様子で、マタルが問いかけてきた。強盗といえば、数か月前ゴーレムが侵入した件がある。俺はゴーレムが侵入した現場に遭遇し、いざ衝突せんという事態になっていた。

 だが実際の所マタル関連の‘客‘であって強盗でも何でもなかったというのが事件の真相である。

 

「あ……奴も客か?」

 

 まさかの二の足を踏むことになろうとは。目の前のドアが再び開くと奥から黒い長身の人骨が腕を組み、顎をカチカチと鳴らしながら歩み出てきた。肉の無い顔から表情を読み取ることが出来ないが、身振り仕草から何を言わんとしているかはよくわかる。俺は思わず冷や汗を流した。

 

「貧乏薬屋に忍び込む強盗がいるわけねぇだろアホ!」

 

 ウィザースケルトンがまたもや俺の頭をトング引っ叩く。今度は先ほどより強く、避けきることができなかった。視界に火花が散ったと同時、俺は叩かれた頭を押さえる。頭に岩石でも落とされたような感覚が襲い、視界が一瞬暗転した。

 

「ガハハハハ! おい‘黒‘、その辺にしておけ。屍が増えることになるぞ」

 

 俺が地面に屈みこむ後ろでマタルとは別の声が飛んできた。銅鑼を叩いたような豪快な声、どこかで聞いたことだあるものである。俺は声が聞こえる方角へ反射的に振り向いた。

 

「どうした人間! どんくさい顔向けてないで酒を呑みに来い!」

 

 俺は目が点になった。

 サイズに合わない椅子に座った赤鬼が、瓢箪(ひょうたん)片手に笑い声を挙げている。居酒屋で店主をしていた野郎だ。そして何故か鬼の横には肉の乗ったバーベキューコンロと肉をひっくり返すマタルがいる。他にも二つバーベキューコンロがあり、近所の住人が談笑交じりに肉を焼いていた。誰も俺とウィザースケルトンを気に留めていない。

 

「スティーブ君! 肉が無くなるよ!」

 

 火元で肉をひっくり返すマタルが、地べたに転がる俺に手招きをした。食事に加われと言うサインだろう。

 

「そんなに地面が好きか、サルが」

 

 ウィザースケルトンが吐き捨てるように後ろから睨みつけてきた。

 

「お前こそ土に埋もれていればよかったが」

 

 俺は奴に侮蔑の視線を返すと、土を払って立ち上がる。だが当のウィザースケルトンは無関心を決め込んだのか何も言わず会場の隅に組み立てられたレンガの窯の方に消えていた。一部の参加者と口を交わしながら炭をトングで引っ掻きまわしている。

 俺は奴を執拗に罵倒することはせずマタルと赤鬼がいるコンロへ歩み寄った。凶暴なモンスターにモラルを求めること自体馬鹿馬鹿しい話である。溜息を交えながら俺は朝食である焼肉に目を向けた。焦げ跡が目立つ金網の上には、肉や狐色の玉ネギが所狭しと並んでいる。

 また食材の下の木炭は灰となって崩れ落ちている物もあり、火をつけてから既に時間が経っていることが察しられた。この謎のバーベキュー、俺が寝ているうちから始まっていたようだ。

 

「ほら、次の肉を焼くスペースを早くつくっておくれ」

「酒も呑むぞ! 家から沢山持ってきたんだ!」

 

 マタルと赤鬼が、俺の両脇から肉の刺さった串と泡が噴き出すビールジョッキを押しつけてきた。『何事も食って忘れろ』との慰めか、単にどちらも受け取るのを拒んだ。俺はパーティー云々は聞いていない。酒に酔う前に先ず状況を整理しなければ。

 

「マタル、これは一体どういうことだ?」

 

 俺は参加者で半分すし詰め状態の店裏を見回し、事の次第をマタルに問い詰めた。

 

「いやぁ~ドラゴンの肉って腐りやすいらしいじゃん。だったら近所におすそ分けしようと」

 

 そうか、レッドドラゴンの肉は腐りやすいのか。いいことを聞いた。ドラゴンの肉は早く消費しないとだな。きっとこのバーベキューで並んでいる肉は殆どドラゴン肉だろう。此処で開催されているのはまさかの珍肉バーベキューパーティーのようだ。

 

「……なんで計画を俺に言わない」

 

 ドラゴン退治で大金は手に入ったが、収入が安定しているというわけではない。使い方を間違えれば俺達の生活は底辺に倒れるだろう。その最中準備云々で金のかかるパーティーを開催するのはよい選択とは考えられない。今現在はドラゴンに対する装備の強化に徹するべきだ。

 

「湿気たこといってんじゃねーよ、んなこと言っていると禿るぞ」

 

 いつもに増して顔を赤くした赤鬼が、盃に注いだ酒を一気に飲み干した。

 

「オヤジこそなんでここに居るんだ」

 

 状況に不快感を抱く俺は、横やりを入れる赤鬼に向かって問いただした。一応アンタも居酒屋の仕事もあるはずだ。そちらも収入云々に目を向けるべきだろう。なんという豪快さというか無計画さというか。俺は安息とは程遠い溜息を深くついた。

 

「無論酒飲みだ。店の連中には、酒の店外販売で話を通している」

 

 会場を見回すと、隅の方に酒が入っていると思しき樽が3つ置かれていた。樽の側面には蛇口が取り付けてあり、酒が欲しい者はそこから抜き出している。確かに店外販売になるのだろう。樽の脇には小穴の開いた木箱があり、購入者は帰りがけにコインを投入していった。赤鬼は目の届く範囲で肉を食っているだけだが、確かに商売になっていた。にくたらしい。

 

「その酒は1回限りのサービス品だ。不味くなる前に飲んでおけ」

「スティーブ君、肉も早く受け取ってくれないかな?」

 

 バーベキューに勤しむ2人は、俺の怪訝など聞いていなかったように酒と肉を押しつけてきた。やはりこいつらに説教は通じないようだ。あまりの能天気さに目眩が起きる。俺が2人に何を言おうと‘ウマノミミニネンブツ‘なのだろう。

 

「わかったわかった……朝食を摂るとしよう」

 

 俺はがっくりと肩を落とすと、酒と肉を力なく受け取った。俺の了解無く行われているにしても、参加者に変な鬼がいるにしても、バーベキューパーティーは進んでいるのだ。これ以上事態を追及したとしても徒労に終わる。あきらめに近い気持ちを抱きながら、俺は酒を口に含んだ。

 

「どうだ? 安酒とは違うだろう」

 

 いつも居酒屋で安い酒しか頼まないのを見越している鬼は、四白眼を爛々と輝かせながら問い詰めてきた。

 

「鬼の形相で俺を見るな」

「実際鬼だからしょうがねえだろ。で、酒の味はどうだぁ?」

 

 奴は興味が尽きないだけなのだろうが、文字通り今すぐ食いつかんとばかりの表情だ。狼に標的にされた羊は正にこの気分なのだろう。俺は些か居心地の悪さを覚える。だがいつもの安酒との違いは感じてとれた。

 

「色は銅色といったところか…泡は少ない、苦味は強めだな」

 

 ビール独特の芳香であろうホップの風味が口で躍り、後からやってくる苦味が舌の上に広がる。俺は酒飲みでもソムリエでもないが、味は自信を持って‘美味い‘と太鼓判がつけるものだった。まさかの高品質。サービス品と言いながらも、難癖つけて料金を取られそうで心配だ。

 

「お前が察する通り、高い酒だ。‘竜血酒‘と言う名で通っている」

「ゲッ、これドラゴンの血なのか!?」

 

 酒の赤み帯びた色を見ると、血が使われているのもありえなくない。前の世界でとある村に滞在したとき、飲み物で蛇の血が出されたことがある。生血を食す文化が存在が前の世界にあったくらいだから、人外だらけの世界でドラゴンの血を食品にする文化があってもおかしくない。ゲテモノを飲まされたということを、疑いなくそれを呑んだ自分を、俺はひどく恨んだ。

 

「お前はアホか。あのトカゲから酒が出るなら猟師はやめねぇよ」

「なんだ商品名か」

 

 ドラゴンの肉でバーベキューしているから持ってきたのだろうが、酒を知らない人間としては紛らわしいうえこのうえない。

 

「じゃあ今度は、本物のドラゴンを食ってみるか……」

 

 俺は串に刺さったドラゴンの肉をまじまじと見た。これはもう正真正銘のドラゴンだろうから2人に問いただすまでもないのだが、やはり何か自分が知らされていない情報がありそうで抵抗を抱く。実は床に落としただの、焼くとき変な物かけただの。

 

「スティーブ君、切ったものを普通に焼いただけだから大丈夫だよ」

 

 俺の心を読んだの如く、焼肉の生産元であるマタルが声をかけてきた。

 

「本当か?」

「私の知る限りだとモンスターと人間の食文化は同一のものと見られているよ」

 

 疑問は抱くものの、確かにこちらとの同一を指し示す事例がしっかりとあった。露店でブレイズがポテトを揚げるし、今目の前にいる鬼も人並みの料理を作ったりする。

 

「なら、今更気にすることも無いか」

 

 そもそも前の世界では食べ物にさえ出会えれば万々歳だった。なのにこの世界で執拗に食を拒むのもどうかという話である。大丈夫だ、食っても死にしない。俺は単純ながらも重要なことを判断すると、焼いた肉にかぶりついた。

 

「うむ、うまい」

 

 酸っぱかったり辛かったりするわけでもない、ラム肉のように癖もないあっさりした肉だ。食感は鶏肉と魚の中間といったところか。マイナーな例だとワニ肉が上がる。

 

「至って普通の肉だな」

「まあ……薄味で酒の味に押されちまうが、その分けっこうな量食える肉だろう」

「おお、胃もたれとか考えなくていいのか。もう一つ貰おう」

 

 俺は網から手頃に焼けた肉を取ると、今度はためらいを見せず食いついた。

 

「いい食いっぷりだな」

 

 赤鬼は負け次と網から3本肉を取ると、自身の牙の並んだガマ口を開け、串に刺さった肉全て舌の上に放り込んだ。

 

「ムガァ! フゲフゴフゴ!」

「口に食い物を含みながら喋るな」

 

 サルの様に口を膨らませた赤鬼は、くわえた串3本を抜き取ると、喉仏を上下に動かしながら肉を飲み込む。

 

「どうだ凄いだろ!」

「おお凄かった。ドラゴンもビックリの曲芸だ」

 

 あの量の肉を一気に飲み込むとは――人間だったらのどに詰まらせて騒ぎになるぞ。なんだか再び人間とモンスターの違いを垣間見た気がする。俺は鬼から視線を逸らしながら、竜血酒を口に含んだ。

 

「一気食いはオレの得意芸だからな」

「色の濃いお前にこれ以上特色はいらねえよ」

「そうか? 得意なことはいくらあっても構わないだろう」

「確かに多いだけいいものだが……」

「酒造り! 喧嘩! こう見えて‘カブキ‘も習っている! んでもって大食いはもちろん……」

「‘カブキ‘がどんなものか知らんが、他の喧嘩と大食いは要らないと思うぞ」

「何を言っている! 喧嘩は必要だろ! それに大食いは宴が倍楽しめてよいではないか!」

「まあ格闘術は護身に欠かせないが、大食いは身体に害だろう……第一何食うんだよ」

「そりゃあ人肉に決まっているだろう!」

「ブハッ!」

 

 赤鬼の出す『人肉』のワードに、俺は酒を吹き出す。一応俺は色々な肉を食ってきた。牛豚鶏はもちろん、鼠の肉や怪蛇ヒドラの肉、そして『人間』の肉も食ったことがある。食糧難に陥り、横たわる村人の肉も食った。村人がいなければゾンビを襲い、身体に悪いとわかっていながらも満腹感を味わうために貪った。だが飲み込んだ後強い空腹感に襲われ、体力を急激に失ったりした。それもあって人肉にいい思い出は無い。とんだブラックジョークだ。

 

「なんだぁー人肉は苦手か」

「俺にカニバニズムの文化はない」

「ケッ つれねぇな」

「同種族を進んで食える訳ねぇだろ」

「まあ、それは言えてるな。じゃあお前何肉が好きだ」

「うむ……ダチョウとか美味かったが」

「何だそれ? 鳥か?」

 

 驚くことにダチョウを知らない者がいるようだ。砂漠地帯でオーガがダチョウを食べている事例があったりと、知名度は種族全般に高いと思ったが。まあこの鬼の出身が砂漠地帯だとも限らないし知らないことがあっても理にかなっているだろう。俺だってこの鬼が言っていた‘カブキ‘というものの詳細は分からない。

 

「飛ばない鳥だ。逆に足が発達していてな、二本足で砂漠を駆け抜けるんだぞ」

「……なんで飛ばないんだ。地上と空だったら、どう考えても空の方が利があるだろ」

「知るか。ダチョウに聞け」

「鴉天狗でもない限り聞けそうにないな」

 

 そして再び鬼との会話が途切れた。尤も、愚痴でも無い限りモンスターと話すことはないが。こういう時は食事に徹するのが一番だ。俺は酒の苦みを噛みしめながら、野菜にも手を付けた。焼いたトウモロコシやらタマネギも

頬張った。マタルの店にトウモロコシや玉ねぎも無かったから、おそらくこれは参加者の誰かが持ちこんだ物だろう。赤鬼の竜血酒に続いて、農場の者が味はともかく形だけが悪くて出荷できない野菜や、異世界産のキノコや魚を持ち込む者がいた。持ち込む者にとってはいい消費先になって、主催者側にとってはパーティーが盛り上がる。ある種の食の循環だろうか。

 

「おい、鮭貰ったぞ」

 

 釣り好きの誰かが持ち込んだのだろう。既に切り身に加工した物を赤鬼がコンロに乗せた。

 

「サーモンとやらか。マタル、何とかして調理しろ」

「え、魚料理はあまり作ったことがないのだけど」

 

 単に焼くしか調理方法を知らない俺は、マタルに処理を押しつけた。もちろん食卓に魚が並ぶことは稀だったし、奴も調理する方法は知らないだろうが。

 

「そんなもの塩を振っとけばいい」

 

 サーモンと共に貰ってきたのだろう。赤鬼が慣れた手つきで切り身に塩をかけた。

 

「酒もかけてみるか」

「やめろ」

 

 肉をワインで煮込むなんて料理があるが、今バーベキューコンロでもってするのはよいと思えない。

 

「お、鹿も来たか」

 

 自分の盃に酒を注ぐ赤鬼が、会場を見回すまでもなく呟いた。

 

「猟師まで参加しているのかよ」

「参加かどうかは知らないが、今さっき持ってきた奴が居るぞ」

 

 赤鬼は再び酒を注いで飲み干すと、表から歩いてくる人影を顎で示した。緑色のローブに身を包み、片手に背丈を超す鹿、空いた手には四角く枠組みされたハードケース。おそらく猟師なのだろう。

 

「……アイツか」

 

 ただ普通の猟師ではなさそうだ。雨が降っている訳でもないのにローブを着るのはアンデットくらい。そして狩猟に使った武器が入っているであろうハードケースは見覚えがある。確か武器屋で銃を購入した時、おまけでついてきたケースと同種の物だ。おそらくアレにはあの店の物が入っている。おそらくライフル銃か。ここらへんの地域で銃を扱う店は、あの陰気な武器屋だけと考えた方がいい。

 つまり、あの猟師はアンデットであり銃を扱っている。弓矢やボウガンが主流のこの世界でそんな人物は更に限られてくる。以前赴いた武器屋のスケルトンだ。確か名前は‘白波‘だったか。仕留めたのであろう鹿を一頭担いでいる。臓器を持たず、食とは無縁のはずのスケルトンが何故このバーベキュー大会に来ているか、俺は酔いさながらに疑問を感じた。

 

「あの武器屋の奴だな。オレが教えただろう」

「ああ分かる。前に出会った」

 

 だが当の白波は周囲の目を気にせず会場を歩き回ると、他所のコンロで火の世話をするウィザースケルトンに手渡した。

 

「にしてもアイツら、何でここに居るんだ?」

 

 肉を頬張る俺は、スケルトン2人を指さした。

 

「そりゃ、奴に鹿を捌かせるんだろ」

「パーティー会場で生き物をバラバラにするのか……」

 

 アンデット参加者も居る中今更グロテスクと叫ぶのは愚問であるが、食事の場であるから臓物云々を見せる解体は他所でやってほしいものだ。

 

「飯が増えるんだ、別に問題はないだろう」

 

 肉を口に含みながら、鬼はスケルトンの行為を常識でもあるかのように答えた。実際、ウィザースケルトンは拒むことなく鹿を受け取っている。まるで闇金取引をする裏業者みたいだ。渡す人間と貰う人間、危ない薬の取引と同様、鹿の受け取りもスケルトンらが口裏を合わせた上で行われているように感じられた。

 だが杞憂と紙一重の考察をめぐらす束の間、パーティー参加者のうち狩猟具を身に纏う男達が珍しい物でも見るかのようにスケルトン達を取り囲む。

――宝石商に集う若夫人じゃあるまいし……

 俺は疑問と怪訝を混ぜた視線をハンター達に贈った。ドラゴンならともかく何故獣一匹にここまで反応するものか? 集まる男達は老兵が使い込んだような武具を付けていて、とても鹿に反応を示す初心者ハンターには見えない。俺は集団に疑問を抱きながらも肉に舌鼓を打った。

 




以上になります。

 いや~仕事をしているとき作業速度が悪くて、やっとのすっとこ完了した時は『これで社会に出たら会社クビになるぞ』なんて言われてしまいました(^_^;)
 言ってきた相手としては現実の厳しさを教えているといういわば愛の鞭なのでしょうが……自分にとっては単なる拷問でしかありませんよトホホ……
 言い訳にするのもひどく情けない話ですが、ショックで更新する気力がありませんでした(-_-;)相手は善意でもって対応してくれても、こちらには苦痛でこのうえない。どう対処すればいいのやら……

 私の苦労話はさておき、誠に申し訳ありませんが、二月いっぱいと三月上旬は更新が難しくなりそうです。良くて今回のみたいに遅れて更新するのが精いっぱいです。

 私自身残念で不本意でありますが、ご覧になっている皆様、3月中旬頃またお会いしましょう。

ご意見、ご感想お待ちしております。
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