[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。   作:えだまミィカン

30 / 33
どうも皆様、お久しぶりです。このたびは更新が停滞したことお詫び申し上げます。
なんとか一話書き上げる事ができました。(前回に引き続きバーベキュー回ですが)

ささ、焼肉と成人の方はビールを片手にご覧になってください。


第二十八話 ‘斬りの黒‘

「おい、他に焼く物はねぇのか」

 

 サーモンをひっくり返す鬼が、隣で手を休めるマタルに聞き出した。金網に残っているのはサーモンの切り身と野菜がいくつかあるだけで、最初にあったトウモロコシやドラゴン肉といっためぼしいものはない。

 

「各コンロに配分したドラゴンの肉は切れてしまいましたからね~残りで我慢するしかありませんな」

「もうなくなっちまったか……腹は未だ四分目だってのに」

 

 マタルが先ほどまで生肉が乗っていた皿を掲げ、在庫切れだというのを示した。赤鬼が怒涛の勢いでメニューを消費したから、あらかじめコンロ間で分け合っていたという食材も底をついて当然である。奴はコンロに並んだ野菜の列を一瞥すると不快を表すように溜息をついた。

 

「あのスケルトンが鹿を持ってきたし、誰かが貰って来ればいいんじゃね?」

 

 ビアマグ片手に俺はつぶやく。向かい側の2人は耳を傾けた。参加者が挙って食材を持ち込む中、白波が鹿と言う大物を投入してきた。もも肉とかすね肉みたいに解体して持ってきたのでなく一匹丸々だ。食肉に加工すれば何人分になるのやら。有り余る程肉がこの会場に持ち込まれたのだ。それを消費しようとあれば、各コンロで分担して分けることが必要である。その流れに乗って彼らから鹿肉を分けてもらうこともできるだろう。

 

「じゃあ、スティーブ君よろしく」

「人間、肉を頼んだぞ」

 

 椅子にもたれ掛るマタルが、俺に仕事をなすりつけんと言わんばかりに向こうのスケルトン達を示した。

 

「おい、何で俺が」

 

 2人の要求にマグを握る手に思わず力が入る。鹿肉を受け取る口実はしっかりと立っているものの、俺としてはあのスケルトン達とは極力関わりたくない。黒い方は俺の頭を引っぱたくし、今はローブを被る白い方は街中で発砲したりする馬鹿者だ。つまり言うと‘大嫌い‘な存在である。出来る事なら接したくない。

 

「私は肉の世話をしていたし」

「オレは鮭の世話をしている。働いていないのはお前だけだ」

 

 だからお前が肉を取りに行け。2人の顔にそんなことが書いてあるように見えた。なんだかんだ言って赤鬼とマタルが働いているのは本当の話だ。コンロの周りでそれ相応のことをしている。一方の俺は肉を食っていただけ。網の上の貧層なメニューとスケルトンらを囲む集団を見比べると溜息が出る。残念ながら行かないという選択肢はないようだ。

 

「しょうがない……俺が行こう」

 

 俺は椅子を名残惜しみながらも立つと、頼りない歩みでハンターの集団へ向かった。手を振るマタルに、俺はぎこちない頷きを返す。ここで戻ったら色々と面倒だ。頭皮をボリボリとかきながら、さほど離れていないサークルに潜り込んだ。やや強引に押し入ってみたが、スケルトン達に夢中で誰も俺に振り返ろうとしない。

 

「スプラッタなんざ見たくないがな……」

 

 赤鬼が言っていた通り本当に鹿を捌くようだ。白波とあのヤクザスケルトンが大衆の目に入るよう鹿を前に置いている。こちらの嫌悪と正反対に、解体を堂々と見せびらかす気の様だ。死に絶えた鹿の目を見ると、前の世界で見かけた死人の姿が蘇える。胃袋に詰まった食べ物が口元に上がってきそうだ。思わぬフラッシュバックに俺は反射的に鹿から目を逸らす。

 だがローブで全身を隠したスケルトンが、市場の呼び込みを彷彿させる軽快さで音頭を取り始めた。

 

「や~みなさん! 本日はお集まりいただきありがとうございます!」

 

 傍らで長身を屈めるウィザースケルトンと対照的に、白波は背をスッと伸ばしハンター達に呼びかけた。熟練と思わしき彼らは、野太い声を上げ歓迎するように手を叩く。俺は大衆の中で一人、死んだような目でスケルトンらを見た。

 

「今日はあっしが直々に、こちらの鹿を獲ってきました!」

 

 自分の手に余るサイズを示さんとばかりに鹿の横で腕を広げ、大衆の歓声を誘う。俺としては捌くなら前置きなどすっ飛ばして済ましてほしい限りだ。だがハンターらは割れんばかりに手を叩き、会場を肉の焼く音に対抗するように騒がしくした。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 あまりの騒がしさに俺は耳の奥が痛くなる。赤鬼が喚くコンロでも恋しくなる程だ。できることなら早くこの場から抜け出したい。しかし後ろには他の見物人が壁を作っており、この集団からの脱出は難しそうであり。こうなってしまうとどうしようもないので、俺は目の前に選挙立候補者のようにスケルトンが引っ切り無しに頭を下げる様を見届けることにした。

 

「ではさっそくこの鹿を捌こうと思いますが――あらやだ狩猟ナイフがない! 誰か持っていませんかねぇ!」

 

 また何か気を聞かせたジョークに歓声が上がると思っていたが、今度は解体道具が無いという報告に観衆がざわめきだした。集まったハンター達が誰かナイフを持っていないかと顔を見合わせる。因みに狩猟ナイフは銃と同様に危険物ということで狩猟以外での持ち歩きは許可されていない。熟練ハンターらならそのルールに則り家に置いてきているであろう。彼らにこの場で借りようとすること自体愚問なことである。

 

「おやおや誰も持っていないようですぇ~」

 

 当たり前だろう。俺はあからさまに溜息をついた。

 

「しょうがない、狩猟ナイフ以外を使いましょうか!」

 

 返事を聞く代わり、白波は集まったハンターの顔を再び見渡す。そして誰も狩猟ナイフの所有を申し出ないことを確信すると、鹿と共に持ち込んだハードケースを手に取った。

 

「……あれってライフルが入っているんじゃなかったのか?」

 

 まさか大口径ライフルで鹿を木端微塵にするのか。元人間とはいえ奴ならやりかねない。俺は辺りに鹿の肉片がはじけ飛ぶのを想像した。流石にやめてもらいたい。俺ハードケースの金具をいじる白波に抗議の声を上げようとした。

 

「バァ~ン! なんと! ただの果物ナイフではありませんか!」

 

 だが白波が空けた箱には銃は入っていなかった。代わりに小ぶりなナイフが中を埋め尽くすように詰まっていた。ハンターは勿論乗り気でなかった俺も目を見開き、虚を突かれた様に黙り込んだ。なんでわざわざここで果物ナイフを出すのかと。いわば困惑の沈黙である。 

 

「なんでこんな物を出したかって? ああ焦らないで、ただのナイフじゃありません」

 

 ローブ姿の白波はテレビジョンの大物司会者のでもあるかのように一言一言抑揚をつけて観衆に呼びかけると、今度は白波の横で佇んでいたウィザースケルトンが、その煽り文句を待っていたかのように、箱からナイフを一本手に取った。形状は特にこれと言って特異なこともなく、せいぜいリンゴの皮むきに丁度好さそうな品だ。ひょろ長い身体に大してその短いナイフはひどく貧層に見える。

 

「なぁ~んと! 上級種ドラゴンの牙から作ってあるのです!」

 

 だが‘上級種‘のワードが出た瞬間、沈黙を漂わせていた老年ハンター達が驚きを見せた。上級種と言えば俺の車を木端微塵にしたあの巨大ドラゴンであろう。

 誰もが掲げられたナイフを見逃さんとばかりに注目し、ゾンビのハンターに至っては文字通り目玉を飛び出させている。俺は彼ら程顔に感情は出さなかったが、白く反射するナイフへの興味を心底募らせ始めた。あの化物から作り出されたナイフがいかほどの品か知りたいものだ。

 

「はいはい! どうです! 鹿もスルスルと捌けちゃいますよ!」

 

 白波の掛け声と共に、ウィザースケルトンの握る果物ナイフが鹿に差しこまれた。野生を生き抜く大鹿の皮膚はナイフ易々を貫通した。まるでトウフにハシが立てられるように音も無く、そして紙でも切るかのように容易くナイフが毛皮の上を滑って行った。鹿の腹にはファスナーを開くように一直線の切れ込みが入れられていく。

 

「……おお!」

 

 今度はハンター達と同様、俺は思わず驚嘆の息を漏らす。何たるナイフの切れ味だ。線を描くようなしなやかさで鹿の腹に切れ込みが入れられた。バーベキュー会場で行われているはずのスプラッタの嫌悪も、ドラゴンのナイフの力を目の当たりにし気持ちがどこかへ飛んで行ってしまった。気付かずに空いた自分の口はなかなか塞がろうとしない。

 

「まさか……あのサムライソードの技術が組まれているのか」

 

 周囲の注目を他所に、ウィザースケルトンはナイフを滑らし解体を続ける。鹿が捌かれる様を見た俺は、ふとドラゴンの首を刎ねた長太刀が思い浮かんだ。今ウィザースケルトンが握るナイフと同様に、狩猟に用いられたあの長刀も常識はずれの切れ味を持っていた。無論、ナイフが捌くのはただの鹿で、長太刀が撥ねたのは上級種ドラゴンの首。両者使用状況が違うため関連づけるのは早い。

 

「ちなみにこのナイフは‘斬りの黒‘がつくった一級品ですよ!」

 

 ‘斬りの黒‘の言葉が出た瞬間、ハンター達にどよめきが走った。それと共に彼らの視線はおいそれとナイフから無言を貫くウィザースケルトンの方に移る。

 

「‘斬りの黒‘ってまさか奴のことか……」

 

 ハンターの反応を見る限り正体は奴になるだろう。無論全くの第三者の可能性もあるが、二つ名と思わしき‘斬りの黒‘の文字はウィザースケルトンの『刀を操る姿』や『炭化した骨格』等共通点が多い。

 

「ワシが鍛えたんじゃ。そこらの市場にはまず流れん」

 

 それに終始黙り気味だった奴が直々に言い出しているから考察するまでもない。ウィザースケルトンはナイフの質を誇らんとばかりに周囲に呼びかけた。有名人とおぼしき‘斬りの黒‘の太鼓判がついたためか、ハンター達は手を叩き歓声を上げる。お前たちそんなにあのウィザースケルトンのブランドが好きなのか。見かたによってはカルト教徒みたいだぞ。

 

「ハイハイみなさん、今日はこのナイフを販売しようと思いますが……残念ながら数量限定でおひとり様1本まで――」

 

 観衆の喧騒に負けない声量でスケルトンはフードの口から何やらヅラヅラ並べた。声を張り上げてる様は見えるが、喧騒でよく聞こえない。聴覚を高めた人外でもなければ。

 しかし奴の動きで状況はよくわかった。白波はナイフの収まるケースを地面に置くと、コートから‘ソロバン‘を取り出し骨格だけの指先で玉を弾き始めた。

 

「というわけで早い者勝ち! お値段70000Eと言いたいけど今回は大負けして40000E! 狩猟はもちろんリンゴの皮むきとか日常生活にも使えますよ! そのうえ小ぶりですから持ち運びも便利!  さあさあこの機会を逃すわけにはいきません! 財布の紐を今こそ解くのだ! さあ買った買ったァ!」

 

 どうやらスケルトン達は鹿の解体ショーじゃなくてナイフの出前販売に出ていたようだ。単に鹿を捌くには十分すぎるナイフの数。そして商業に用いられる‘ソロバン‘たるもの。鋭いナイフが営利目的で出されている状況は一目瞭然である。だが気付いたころには、ハンター達が高級ナイフに殺到する激流に、俺は飲まれていくのであった。

 

………

……

 

「……で、鹿肉を貰っただけでなく何故かナイフを買ってきたわけだね」

 

 背中に靴跡受けながらもコンロに戻ってくると、背もたれに身を任すマタルからその第一声が飛んできた。

 

「ま、まあいいじゃないか。 これで上級種を狩ったとき解体が楽になるぞ」

「いやスティーブ君、そもそも私たちはその上級種を倒すことすらままならなかったであろう。衝動買いもいいところだよ」

 

 気付くと俺は、捌かれた鹿肉だけでなくスケルトンが販売していた高級ナイフも手に取っていた。その過程ではハンター達流れに身をもまれながらも財布を取り出し、彼らの足元からスケルトン達へコインを差し出すという捨身の行動を取っていた。

 

「あの切れ味を見るとどうしても買いたくなってだな」

 

 コンロの端に立ち俺は無表情なマタルに弁解をする。あのビームサーベルさながらの品質を見れば買って損は無いはずだ。決して無計画にバーベキューパーティーを開くと言う無謀さと同等ではない。俺は手元のナイフをあたかも拾った猫でもあるかのように愛着も交えて眺めた。

 

「まあいいじゃねえかお前ら、‘黒‘の包丁は買って損は無いと思うぞ」

 

 鮭をつついていた赤鬼が会話に割り込んでくると、熊とも似た剛腕で俺からナイフと肉をもぎ取る。人外だけあって俺が抵抗する間もなく二つは鬼の手に渡ってしまった。

 

「ほら見ろ、肉もホロホロと切れちまう」

 

 ナイフ返せと口を開く俺を他所に、赤鬼は肉の塊をナイフで切り始める。もちろんナイフの品質は古いカミソリのように突如劣化した姿を見せず鹿の身を容易にスライスした。赤の際立つ切り身はどこかに飛び退っていくことなく熱い網の上に落ちていく。

 

「おお……スティーブ君、やはり君の目に狂いはなかったようだ」

 

 紅葉樹の葉の如く網に広がる鹿肉をまじまじと見ながら、マタルはナイフの値段と相応の品質に納得した様子で頷いた。この切れ味はしがない薬屋も魅了するようだ。

 

「肉がスパスパ切れるなんて‘斬りの黒‘の品だけだろ、そりゃ買いたくなるわな」

 

 奪った肉を全てスライスした鬼は、白い刃先を宝石を前にした鑑定士のように凝視する。品定めは自分でしたから早くそのナイフを返してほしい。

 

「ありゃオヤジさん‘斬りの黒‘って何者ですかな」

 

 俺が再び抗議する前にマタルが鬼に媚びるが如く口を開いた。余計なところで邪魔してくれる。やはり実力行使しかないのだろうか。

 

「お前は知らなかったか、一流の猟師だ」

 

 会場の隅でコインを数えるウィザースケルトンをチラリと見届けた。あのウィザースケルトンが‘斬りの黒‘だからというわけであるからだろうか。だが奴を指さすわけでもなくコンロの鹿肉をハシでつつき始める。その隙に俺は赤鬼の後ろに回り、コンロに視線を向けている隙をついてナイフを掠め取った。

 

「そして謎の存在でもあるな」

「謎の存在……ですか」

 

 サーモンから滴る油がくすぶる炭の山で小さく弾ける。鬼は話を切りだすのに集中しているようで、俺がナイフを持ち出しても気付かなかった。だがそう考えているうちにも視線がこちらに向きそうなので、俺は忍びやかに席に戻る。

 

「その前に‘ハンターランキング‘って知っているか?」

「ああ、はいアレですね。試験に出ましたよ」

 

 『ハンターランキング』は俺にも聞き覚えがあった。警官隊の親戚である防衛隊が取り仕切るランキングで、詳細はハンターの月ごとのドラゴンの討伐数を公表する制度であるとか。上位には功績を称えて補助金が送られるというなんとも美味しいルールだ。だがそれが今更どうだと言うのか。

 

「‘黒‘はここ数年ずっと上位に居座っているんだ」

「おお、エリートなんですな」

 

 マタルはやや大げさに頷きを見せる。‘斬りの黒‘ことウィザースケルトンはどうやらハンター業界では頂点に君臨しているようだ。その位地は駆け出しハンターの俺達にとっては遥か雲の上の存在。トップスターとも言おうか。だが俺は奴の強さは既に認知しているし、今更それを聞かされたところで驚くことも無かった。

 

「奴の功績は正に人間離れしていると言える」

 

 赤鬼のオヤジはウィザースケルトンの功績を妬むのでもなく、憧れを抱きもしていない様に見える。ただウサギやトラといった別存在の生態を解説するように、淡々と話し始めた。網の上では油が撥ねる。

 

「普通のハンターが月に狩るドラゴンの数がどれくらいだと思っている?」

 

 鬼は赤い切り身を一枚ひっくり返し、こんがりと焼き色のついた裏面を表に出す。視線はマタルに向いたままだ。

 

「大体……10体程度ですかな?」

 

 マタルは顎に手を置きながら、少し間を開けて答えを返す。狩猟毎には装備はダメージを受けるだろうから、そのメンテナンスを考えると、俺も同じ答えだった。

 

「正解だ。いくら百戦錬磨の男だろうと、剣が折れればそこで戦うことはできなくなる。武具のことも考慮すればいかんのだ。ついでに言うとドラゴンは基本‘一匹狼‘でな、一度の戦闘で討伐できる数は当然1体だけだ」

「一匹狼……ドラゴンなのに?」

「ああいや、単なる比喩だ。ドラゴンは個体で縄張りを持ち、互いに避け合いをする」

「『仲の悪い男女が距離を置く』みたいにですか」

「人間的に言うならそうだな。磁石のように反発して物理的に距離を置くもんだから、俺達が一匹に喧嘩を売ったところで他の輩は何処へ飛び退っていくのだ」

「増援が来ないだけ安全でしょうが……効率は低いままですな」

「その通りだ」

 

 そして鬼は考え込む様に間を開け、次にはこう呟いた。

 

「だが‘斬りの黒‘は月に50体以上は狩ったりする」

「なっ! 普通のハンターの5ヶ月分も!?」

 

 なんと倍の数のドラゴンをウィザースケルトンは狩っているようだ。俺は一瞬鬼の言葉に冗談を疑った。だが集団が成されれば例外は生まれる。ランキング上位に佇むなら相当数狩っているとしか考えられない。

 

「奴の場合ドラゴンの遭遇率が目に見えて高いのだ」

 

 どうやら秘訣は奴がドラゴンと出会うかにあるようだ。まさかドラゴンの居る範囲に核爆弾を撃ちこんでいるんじゃあるまいし。不良と争う喧嘩屋のように敵と出会っては個々撃破しているのだろう。俺は焼き上がったサーモンを砲張りながら鬼の話を推測した。

 

「じゃあ……その分一ヶ月で狩れるドラゴンも多くなるのですか?」

 

 一方の奴は網の肉など気にしない様子で鬼の話に食って掛かる。‘斬りの黒‘の成果はマタルにとってオカルト学者の言うUMAのように不可思議に見えたのだろう。

 

「無論、その通りだ」

 

 鬼は網の上の肉をひっくり返しながら答えた。自分の話を度々質問で遮るマタルをいなす調子は、接客業を生業とする寛大さと言うところか。

 

「3歩進めばドラゴンにぶつかるのですか?」

「壁の外をほっつき歩いていると石の数だけカチ合うとか」

 

 鬼は既に焼き上がった肉を数枚つまみ上げ口の中に放り込む。

 

「ドラゴンが向こうからやってくるのですか?」

「実際に見た者はそういっていたぞ」

「縄張りも無視して?」

「ああ、そうだ」

「お金が稼ぎ放題じゃないか……」

 

 いくらなんでも質問し過ぎだ。‘斬りの黒‘話が停滞する最中、俺はマタルに一喝したかった。だがここで口をはさむと話が更に進まなくなるだろうから俺は静かに肉を食べる。

 

「‘黒‘のドラゴンの遭遇頻度はある種の都市伝説になっているな」

「はあ……なんでそんなにドラゴンが寄ってくるのでしょうか」

 

 あまりの次元の違いにマタルは溜息をついた。例え人外の身体を以てしてもドラゴン狩りは難しい。マタルの打撃は大して歯が立たなかったし、赤鬼のオヤジは昔ドラゴンから深手を負っている。それをウィザースケルトンこなすは相当の実力者なのだろう。

 

「本当に……なんでドラゴンが寄ってきていんだろうな……?」

 

 鬼は盃に注いだ酒を飲み干しながら、マタルの質問と同じ言葉を返す。

 どうやらウィザースケルトンのドラゴンとの遭遇方法は不明であるようだ。

 

「……多分、自然とドラゴンの集まるポイントを熟知しているんだろう」

「なるほど。場所によってドラゴンに出会えるかどうか変わるのですな」

 

 一応不明であっても情報はあるらしい。ドラゴンの集まりやすいところを重点的に荒らせば、1体1体を探し回るタイムロスも抑えられ、討伐数を増やすことができるのだろう。

 

「後は‘子連れ狼‘に会うことだな、一匹狼のドラゴンでも例外で複数の個体が群れを成す場合がある。それが生んだ子供と共に行動する‘子連れ‘だ」

「おお~子供は親と関わりますしね~。生命の神秘と言うものですか」

「綺麗な言葉で言えばその通りだろうな。成竜は幼竜を率いて、ひよこの行進のようにわらわらと動く」

「ふむふむ、傍目に見ると和みそうですな」

「だが‘斬りの黒‘はそれらを無慈悲に切り捨てる」

「そりゃ……家族を狙えば討伐数は増えますが……」

「うむ、何か考えさせられるよな」

 

 ドラゴンも正に生物。ハイエナと同様グループで動くこともあるだろう。つまりドラゴンの家族を探し出していれば、結果的にその場で多くの数のドラゴンと居合わせることが出来る。

 ウィザースケルトンが子供と親を殺人鬼さながらに襲撃していたなら、討伐数を伸ばすことが可能であろう。

 

「……ですが、これでお金もたんまり手に入りますね」

「ま、そうだな。その大金でおそらく高級武器を量産しているはずだ」

「一例としてがあのナイフなんですな」

「おう。流石、‘金には‘勘が働くな」

「ははは、ありがとうございます。この狩猟法を実行できればいつかは私の薬屋も大手ブランドに。ああ~夢の様だ。不老不死の薬や若返りの薬、ボケ防止薬に惚れ薬。製薬業界は恋の病にも進出して……有名人になって、豪邸に住んで、支店を開いて、なはははは」

 

 赤鬼の言葉が皮肉とも察せず、マタルは空を見上げて現実にないことを呟き始めた。

 

「……で、話はドラゴンの方に戻るが」

 

 鬼はやや焦げ気味のサーモンを網から取り上げると、マタルの口を封じるように話を再開した。

 

「‘子連れ狼‘の討伐はリスクが大きいぞ」

「え?」

 

 浮ついたマタルの顔が急に固まった。奴が何を考えているかは知らないが、単体と複数体では戦闘が激変するのだからリスクが大きいというのも察してほしいところだ。

 当のマタルは罪状でも突き付けられたような顔をして赤鬼を見た。

 

「‘子連れ狼‘はすなわち集団的意図を持ったドラゴンだ。単体で行動する奴と違って他のドラゴンとも連携を取ったりするのだ」

「まさか、ドラゴンが‘一匹ずつ‘でなく‘いっぺん‘に襲ってくるのですか?」

「おう、時代劇みたいにな。前からも後ろからもドラゴンが迫ってくる。ついでに上からも、見えないところから攻撃が来る。全く……ふざけるなと言いたいぞ」

 

 俺も実際前の世界でそんな戦闘した。ある地域で実施された『大型モンスター同時狩猟』やら『ジャングルでのゲリラ戦』やら、死角から脅威が這ってくるのは当たり前だ。その状況ではたとえ敵の装備が安いペーパーナイフのような粗末な装備だったとしても、背後からの不意打ちが叶えば対象を殺害出来てしまう。

 それだけ『死角からの攻撃』は優位、敵であれば『脅威』となる。もともと戦闘能力が逸したレッドドラゴンなら尚更だ。赤鬼が言うとおり視界外からの攻撃のある‘子連れ狼‘の狩猟はリスクが大きいと推測できる。

 

「ひぃー……それは御免ですな」

 

 間近にドラゴンを見ているためか、マタルにはその恐ろしさがよくわかったようだ。きっと鬼に話を聞きながら、どうにか狩りで丸儲けできないかと画策していたのだろう。が、その計画も突き付けらえた現実に挫折したようで、今では死体さながらに生気のない顔をしている。

 

「ま、それをやっているであろう‘黒‘はもっと恐ろしいってことだ! めでたしめでたし!」

「そ、そんな~」

「ドラゴン狩りで目立とうとするのは‘黒‘みたいな化物と対等になるということだ。その首繋がっていることを願うなら野蛮なことは止しておけ」

 

 鬼は取り皿の焦げたサーモンを丸々口に放り込んだ。同時に‘斬りの黒‘の話は終わったようだ。終始肉を食んでいた俺でも話の流れは掴むことが出来る。途中でマタルが丸儲けを画策したことも

 マタルは頭をガックリと落としながらも、焼けた鹿肉を数枚小皿に取った。‘お前は儲け話に飢え過ぎている‘とマタル言いたい。もちろん後のことを考えれば面倒なので口には出さずに決め込んだ。

 喋る者が居ないとあってか、再びコンロに沈黙が訪れた。騒ぎを好む赤鬼は静けさに苦そうな顔をしているが、俺としては何も起きず食事を楽しめるので至福のひと時である。マタルと同様網から肉をすくい取った。

 そして口に含んだ竜血酒の苦みを舌に感じながら、鹿肉の塩味を深く噛み締めた。




おまけ ・キャラ紹介
  
スティーブ 
・性別  男 ・種族 人間
・年齢 36歳 ・身長 190㎝
・好物 特になし、何でも食べる。今まで食べたもので一番おいしく感じたのは『スシ』
・特技 強いて言えば『物づくり』と『戦闘』
〔一言〕
 昔は冒険に勤しんでいたが、30過ぎで辺境の村に身を埋めることにした。といっても色々あって今はモンスター達に囲まれた生活をしている。
 奴らに情を持とうと思えば出来なくもないが、敵対した場合を考えるとあまり交友を築く気にはなれないな。

 以上になります。上記のキャラ紹介は図鑑みたいなものだと思ってください。
 
おまけのおまけで最近のマイブームは明晰夢で空を飛ぶこと。私は太ったおばさんに足を掴まれて夢が途切れました。とはいえ楽しいものなので皆様にもオススメします。
(ただし悪夢等不快な思いをしても自己責任で)

 と言うわけで私はこのへんで。ドロン ご意見ご感想お待ちしております。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。