[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。   作:えだまミィカン

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第二十九話 派手な魔術

「本日のバーベキューパーティーはこれにてお開きとさせていただきます。ありがとうございました~」

 

 空に再び月が浮かぶ頃、近所の住人を交えて行ったパーティーは終わりを見せていた。主催者であろうマタルの挨拶が長ったらしく耳に響く。しかし酔いに酔ったうえ夜行性の参加者は終わりを迎えてもなお盛り上がりを薄らせてはいなかった。

 尤も、俺は昼間の内に大量の肉で胃が参り始めたので、早々薬屋の方に引っ込んでいる有様だが。

 

「なんじゃ‘若‘、お前はまた引っ込んでいたか」

「……誰が若だ、俺の歳は30は行っているぞ。てか何でお前はまたここに来ているんだ」

 

 俺と同じくパーティー終了の式辞をトンズラした例のウィザースケルトンが、腕に木箱を抱えて薬屋に入ってきた。きっと暇を持て余しているのだろうが、だからと言って堂々家に入らないでほしい。物を盗まれたら大変だというのに。

 どこぞの田舎のばあさんみたいなそのフレンドリー精神に一言問いただしたいところだ。

 

「んなもんワシも関係者だからに決まっておるだろ? 奴にショバ代も払ってナイフ販売したり、火仕事やったりと骨が折れるもんだ」

 

 ウィザースケルトンは何も悪びれようとはしない様子で言葉を返した。

 そうかウィザースケルトンはバーベキューパーティーの関係者か。何故食を捨てたスケルトン族が食事関連のイベントに居るのかは不透明であったが今のでようやく察しがついた。おそらく私有地であのナイフ販売をさせてもらう代わりにキャストとして主催者のマタルが呼び寄せたのだろう。

 ともすればついにマタルはこのヤクザスケルトンという裏社会染みた存在とつるみ始めたようだな。後でやめろと注意しておかねば。

 開催されたバーべーキューパーティーの裏側を察して俺は額にしわを寄せる。

 

「ついでに‘酒呑童子‘も関係者だ。集いつどって開催されたのがこの焼肉大会だ」

「シュテンドウジ? 居酒屋でそんな名前は聞くが」

「お前と一緒に肉を食っていた鬼だぞ、んでもってその居酒屋の亭主だばい。お前はモグリか」

「‘赤鬼のオヤジ‘のことか。やっぱり奴も主犯格だったか……」

「他にも近くのガラス工房からも参加者が居てだな」

「どれだけ関係者がいるんだよ」

 

 関係者はおそらくウィザースケルトン以外にもいるようだ。奴が言っている限りだと、当初知人を招いて開いた食事会に参加者が増える後、手が付かないほどの数にまで膨れ上がりやがては俺が叩き出された時のような‘一企業の開催するイベント単位‘に膨れ上がったとか。俺に計画も言わず奴は何をやっているのやら。不愉快この上ない。

 今も外からそこそこの人数を感じさせる拍手と関係者のスピーチが響いてくる。

 

「……無計画でイベント開催するにも程があるっての」

「ま、何百年も生きていればどいつも暇を持て余すようになるし、自然と騒ぎ事を起こしたくなるってことだ」

「少なくとも俺は35年と少ししか生きて居ねえよ、お前らと一緒にするな」

「ケッ つまらねぇな」

 

 つまらないも何もお前は骨になってもなお動いている化物。俺は血も肉もある純粋な人間。そんな存在同士が易々相互理解できると思わないでほしい。俺はモンスターにいい思い出は無い。

 

「なんか気晴らしになるような物はお前もっていねぇか? タバコも酒もこの身体じゃ楽しめねぇんだ」

 

 ウィザースケルトンは脇に抱えた箱を床に置くと、装飾品も何もない質素な居間をきょろきょろ見回した。マタルといい鬼といい、何故この世界の住人はマイペースを貫くのやら。物事の認識の差が大きいことに俺は呆れて溜息をついた。

 

「む? 面白そうな物作っているじゃねぇか」

 

 俺の心情など知らない様子のウィザースケルトンは、不意に部屋の隅に置かれた製作途中の狩猟具の上に留めた。

 

「触るんじゃねぇぞ。 まだ製作途中だ」

「そうか、では‘触らないこと‘にしよう」

 

 ウィザースケルトンは言った通り‘触ろう‘とはせず、腰を曲げて床に置かれた鎧をジロジロと眺め始めた。アレは俺が昨晩から製作しているドラゴンの鱗を使った鎧だ。というのも前の世界の秘境で生活する猟師が、身に着けていたのから技術流用した一品だ。

 つまり異世界の作法で作られた鎧で、今の世界にはおそらく存在しない鎧。

 そんな物が薬屋の居間にあるのだから、奴が興味を持って無理はないだろう。

 

「……ふむ、あの上級種の鱗を鎧に張り付けるのか」

「本当に鎧に触るなよ? まだ完成していないからな」

「分かっているばい、そのつもりでこうして‘見ている‘っての」

 

 大ぶりな甲殻を使った肩部品から小ぶりな鱗を散りばめた腕甲まで、ウィザースケルトンは美術館の彫刻でも見るがごとく鎧全体に目を通していった。

 

「ほうほう……まるで竜騎士だな……」

 

 こちらとしては約束を無視して触られそうだから溜まったもんじゃない。今の鎧は大部分が朱色の鱗に覆われているのだが、まだ完成したというわけではない。変に触られれば破損すらしかねないのだ。

 今は鎧の前にいるウィザースケルトンがあのエリートである‘斬りの黒‘ということで、何かアイディアでも飛んでこないかと見させているが、そうでもなければ首根掴んで外に放り出しているところである。

 

「おや? ここに落ちている紙はなんだ? 魔法書か?」

 

 徐に‘斬りの黒‘は製作途中の鎧からは目を離すと、その近くに落ちていた羊皮紙を拾い上げた。紙にはプログラミング画面の如く筆記体の文字が紙いっぱいに占領している。

 

「まあ……それっぽい奴だな」

 

 アレは俺が狩猟具関連で研究し始めた魔術のレポートだ。といっても俺は魔法にはあまり縁が無かったので、羊皮紙の文字は、初歩的な魔法の式を参考書片手におぼろげに書き上げてみたものである。

 言ってしまえばドラゴンの鱗を使った鎧と比べ大した価値はない。

 

「……魔法をドラゴンに使う気か?」

 

 だが意外なことにウィザースケルトンは、その固定電話の脇に置かれたメモ帳程度の紙に、先程まで見ていた鎧以上の興味を示した。

 

「攻撃呪文が多数書かれているように見えるが」

 

 ウィザースケルトンは顎骨に手を置きながら、羊皮紙の魔術式の羅列を睨むとあっさり言い当てた。

 

「その通りだ。銃より魔法の方が強そうだからな」

 

 流石エリートハンターというものか。こうも易々思惑を見抜かれることに、表情には出さなかったものの俺は驚きを感じた。

 

「確かに魔法は強いぞ。ドラゴンには鱗の防御を無視して攻撃できるからな」

「そのうえ銃やら剣に比べ規制が薄い。家一つ吹き飛ばす魔法の使用も場合によっては合法になったりとか」

 

 借りてきた本で雑学程度に仕入れた知識を俺は会話の応答がてらに呟いてみた。

 バーベキューを抜け出した後図書館で調べたところ、ドラゴン狩りでは銃と弓矢、槍、罠の他『魔法』も少数ながら使われるとか。何故少数かは星の数程諸説があるので割愛するとして、ドラゴン相手には尤も有効な攻撃であるらしい。何しろウィザースケルトンが言う通り『ドラゴンの防御力を無視して攻撃できる』からだ。

 

「まあ……『家一つ吹き飛ばす』はかなり稀な例だが……強力であることは確かだ。しかし若造、何故にそんな力を欲しがるんじゃ? 習得までにはそこそこ歳月を要するけ、銃やら刀を使った方が合理的だばい」

 

 ウィザースケルトンは魔法式の並んだ羊皮紙を床に放って言いのけた。実際本にも『攻撃呪文は習得までに時間がかかる』と書かれてあったし、多くのハンター達が道具に頼っているのも習得の難解さを要因に含めるならなおさら頷くことが出来る。

 奴がそれを言うのも予想通りであった。 

 

「そこんところは工夫すればいいんだ。さしずめクラフターの本業だな」

「……何言ってんだお前」

 

 『魔法の習得は難しい』とは以前試験勉強で図書館に赴いた時から知っていたことだ。それもあって俺は有効打とわかっても手を出そうとしなかった。ウィザースケルトンが言った通り『銃やら刀を使った方が合理的』だからだ。

 しかしそれで魔法を手放すのも合理的とは言えないのを俺は近々察し始めた。それは奇を狙ったように数日前の『上級種に打ちのめされた』時ではなく先程の『バーベキューに参加している』時であった。

 

……… 

……

 

 マタルと赤鬼のやり取りの後、束の間の静寂を俺は浸っていた。

 

「おーい! 私もここのコンロに混ぜてくれ!」

 

 だがすぐにコンロの沈黙はかき消された。どこからか俺達の食事に加わろうとする珍客がきたようだ。もちろん俺が苦手とする『うるさい奴』。ただし今回のそれはあのスケルトン二人組ではない別の者だった。

 そして俺に『魔法』を最注目させる要になった者でもあった。

 

「チッ……誰だってんだ」

 

 舌打ちしながら俺は声の主を探す。真っ先に目の前の赤鬼を疑ったが、奴が何か喋った訳ではないようで、肉を掻き込む箸を止めて会場を見回している。だが此方に目を向けている者はおらず、声の主は見つけられなかった。

 なんだ空耳か。

 

「おいおい! 無視はひどいだろ!」

 

 心霊スポットでよくある怪奇現象のように、覚えのない声が再び聞こえてきた。今度ははっきりと聞いて取れる。男口調だが声は少女。この手のささやきは女の声で聞こえてくることが多いと聞く。それも今のように。長らくモンスターと対峙した俺でも気味の悪さを覚えた。

 

「近いな……誰だ」

「オレではないぞ」

 

 モンスターが徘徊する町は十分心霊スポットと成り得るだろう。きっとこの店の場合だと経営が危うくなり、心を汚くした死者が悪ふざけに出る事はありそうだ。

 

「いい加減にしろ! 下向け!下!」

 

 俺の足元の方から声が響く。先程より声が大きくなり俺はギクリとする。まさか椅子の下に霊がいるのだろうか。とりあえず呪われるのは敵わないので胸元で十字架を切った。俺は無神論者だが念のためにやっておく。そして鬼が出るか蛇が出るか、青白い死人顔が出ないことを願いながらコンロの下を向いた。

 

「帽子……か?」

 

 足元には黒い帽子が置かれていた。それも魔女の被って居そうなとんがり帽子。この帽子が独りでに喋っているのだろうか。そんな疑念を俺は抱く。

 だがそれも帽子が突如手に触れたわけで無なく動き出したところで、疑念は全く別の感情へと変貌した。

 

「な……生首だと!」

 

 幅広のつばに隠れて見えなかった顔が、あたかも生を受けているように俺の方へ向いた。首より下が地面に埋もれているのだろうと考えたが状況的に無理がある。サッカーボールでも何でもない。れっきとした生首が足元に佇んでいた。

 

「生首とは失礼な! 私はこう見えてれっきとした人間だ!」

 

 先程まで聞こえていた声と同じもので生首は喋る。それは何やら人間と名乗っているが、どこからどう見ても俺にその認識をすることはできない。正に頭と身体が分離したアンデットであろう。

 

「きっと魔女狩りにあった魔女が首を刎ねられてもなお怨念で動いているに違いない」

 

 俺は噛みつかれない様に足を生首から引っ込めながら推測する。その様子に奴は不快と言わんばかりの顔をしている。この調子だと更に罵詈雑言をかけられるだろう。やはり気性の荒いモンスターであるようだ。

 だがそのとき、先程まで黙り込んでいたはずのマタルが口を挟んだ。やっと現実と向かい始めたのだろう。

 

「スティーブ君、‘マリサちゃん‘は元人間だよ? 親戚だと思って仲良くしてあげなよ」

 

 奴は俺の態度を正すようにとそんなことを呟いてきた。

 

「そーだ! そーだ! おっさんこそ無愛想にも程があるぞ!」

 

 追撃を食らわすように目下の生首は声を上げる。

 

「……マタル、コレのこと知っているのか?」

「コレとはなんだ! コレとは!」

 

 噛みつかんとばかりに生首が声を揚げるのを他所に俺はマタルに聞いた。そもそも‘マリサちゃん‘と呼びかけていること自体にツッコミを入れたい。お前はこの生首に名前でも付けているのかと。

 

「オホン、君も見たことがあるはずだよ? 試験の時に」

 

 試験と聞いて最終試験で戦ったレッドドラゴンの姿が最初に思い浮かぶ。あんな本から出てきたような生物は頭に大きく刻み込まれている。だが試験時ドラゴンとは別に奇怪なものがいた。

 

「たしか……魔法を使っていたアレか」

 

 自分が試験目前で緊張していたばかりにはっきりとは覚えていないが、ちょうど首が独立して動くアンデットが派手な魔術を使っているのを見た。

 

「私は‘普通の魔法使い‘霧雨魔理沙だ!」

 

 現にその生首も‘魔法使い‘と名乗っている。名称‘キリサメマリサ‘か。魔術を使うと成らば試験時に居たのと同個体だと察しられる。確か最終試験まで登りつめ、罠やら重い槍でやっと倒せるドラゴンを魔法で討ち取っていたあの生首と。

 

「お前……ドラゴンと戦ったのか?」

「おう! 今朝な!」

「腕も足も無いのに……何で倒した?」

「普通は槍とか弓矢で倒すらしいが、私は魔法で倒したぞ」

「……その魔法って今使えるのか?」

「ああ! 何なら披露してあげてもいいけどな?」

「遠慮する」

 

 ドラゴンを討伐したとあれば、コレと敵対するのは不味そうだ。先程まで野犬程度の生態だと思っていたが、知性もあるようだしそれ相応の戦闘能力を持っているようだ。もしこの場で俺が生首と争った場合、きっと生首が俺の心臓をレーザーで易々と貫くだろう。魔法は矢と違って特殊な道具を使わない限り防ぐことが出来ないのだ。パワードレールライフルと製作中の鎧の装備で固めたとしても勝ち目はない。

 俺は酒を飲んで見かけで無関心を決め込みながらも、とんでもない輩に喧嘩を売った事実を認識し背中に冷や汗をかいた。

 

「フッ やっと私が生首のようなえげつない物と違うかわかったか」

「わかったわかった」

 

 目下の生首は『思い知ったか』と言わんばかりの表情をする。心の内が外に出ていたのがバレたようだ。とりあえず俺はその反応を軽く流そうと決め込む。流石にマタルが赤鬼にするような媚び諂いを生首にするのは俺のプライドに反する。

 

「じゃあ、私も焼肉大会に混ぜてくれ」

「勝手にしろ」

 

 隣にライオンがいるような気分になりながら、味付けされた鹿の肉を口に入れる。残念ながら緊張で味は感じられない。隣にドラゴンと戦える強大な者が居ると成ると不快感が更に増すのだ。

 

「はいマリサちゃん。 椅子をどうぞ」

「お、サンキューなマタル」

 

 対するマタルは俺の反応を知らない顔で生首に椅子をすすめた。向こうもボールの様に弾み器用に椅子の上に収まった。

 何故マタルはハンターをとっくに退職し居酒屋で焼き鳥をいじっているような赤鬼に媚びて、世にも恐ろしい魔女にフレンドリーなのかこの場で更に聞きたいところである。尤も口に出したら両者を敵に回すのでやめておくが。

 

「なんか私、危ない者扱いされているような」

「気のせいだ」 

「あーあ、行く先々には冷めた奴しか居ねぇなー」

 

 マタルの進めた椅子の上で、生首は溜息交じりに呟いた。俺の態度が今なお気に入らない様だ。こちらとしてはマシンガンを携帯したテロリストが近くに居られるような境遇なので、早々退場してほしいものだ。

 

「ガハハハ! 霧雨とやら、そういうのは酒を呑んで忘れておけ!」

 

 愚痴垂らす生首に対し、向かい側の赤鬼が先程まで無かったはずのビアマグを手に声を上げた。中には赤褐色の酒が入っている。サービス品の竜血酒だろう。俺と生首が口論している間に取りに行ったのだろうか。

 

「おお! なんか知らないがありがとな!」

 

 その言葉と共にビアマグが鬼の手をすり抜け宙を漂い始めた。まるで見えない手によってビアマグが掴まれているようだ。珍妙な現象に鬼は目を見開く。

 

「……魔法を使っているのか」

 

 マグが生首のもとへ流れていくのを横目にそう確信した。奴が魔法使いと名乗っていたのだから考えるまでもない。

 

「ふむふむ、よく飲む酒と味が違うな」

 

 生首だけの身体にどうやって酒が溜まっていくかは分からないが、生えていない腕の代わりに魔法でマグを傾け酒を呑みこんだ。その様子を面白そうに見る鬼は口元から牙をチラつかせながら、俺と同様に‘高い酒であること‘を説明する。

 

「うわーもう半分しかねぇ。高級品なら味わって飲むべきだったぜ」

 

 生首がマグを口から離した頃には中の高級酒は半分まで減っていた。俺のように少しづつ飲めばいいものを。

 

「金さえ払えばいくらでも飲んでいいぞ。金さえ払えばな」

 

 赤鬼は生首の言葉を待っていたとばかりに会場に置かれた酒樽を指さした。

 

「あははは……じゃあツケで飲ませてくれないか?」

「ほう、ツケで酒を飲む気か? 後になって払えないと言うならどうなるかわかっているか……?」

「や、やっぱりいいや。残り少ないお酒の味をしっかり舌に焼き付けることにする」

「うむ、それが身のためだ」

 

 やはり鬼も商売人のようだ。高級酒をそうそうツケで出そうとしない。生首は能面のような面持ちの鬼から目を逸らした。こうしてみるとマタルが生首より赤鬼に媚びるのも分かる気がする。

 

「そうだマタル、薬を作るための道具を借りたいのだが」

「ああ、80年レンタルするのかい?」

「そうそう、流石話が分かるな」

 

 今度はマタルがターゲットにされたようだ。聞く限りだと道具のレンタル依頼と考えられる。尤もその期間が80年という人間の一生であるが。DVD屋だったら断られるじゃ済まない期限だ。

 

「固い材料を潰せる薬研(やげん)とドラゴンの鱗を溶かす薬をくれ」

「オーケー、薬研は80年後に返しておくれ。バーベキューにはまだいるのかい?」

「暫く何も食べていないからな……腹も減った。しばらく居座っておくか」

「じゃあ帰るときになったら渡すとするよ」 

「契約成立だな。忘れないようにしないとな」

 

――何故その貸出期限を許容するのか

 

 2人の会話を小耳にはさみながら俺はマタルに一言問いただしたくなる。きっと人外ならでばの時間の捉え方なのだろうが、いざ自然なやり取りを目の前にすると俺が違和感を抱かずにはいられなくなる。といってもこれを言い出したところで彼らには軽く受け流されるだろう。俺は種族のすれ違いを実感しながら、まだマグに多く残る酒を飲み込んだ。些か落ち着きを取戻し、酒の苦みを感じられるようになった。

 

「もしかしてマリサちゃんはドラゴンの素材で薬を作るのかい?」

「もちろんだ。今まではキノコを煎じた奴を試していたけど、そろそろレアな素材を薬を作ろうと思っているんだぜ」

「へぇ~……試行錯誤が大事だから素材は沢山用意するのを忘れないようにね」

「フッ、驚くなマタル。もう私はレアな素材を集めきっているんだ!」

「え……この前破産したとか言っていなかったっけ?」

「それはお前の話だろ! 私はあのトカゲと戦って見事牙とか角を手に入れたんだ!」

「おー、なんてこったい。凄い収穫じゃん」

「はははー褒めろ褒めろ、私は10体いっぺんに相手したんだぜ?」

「……む、霧雨? ……お前どんな戦いをしたのだ?」

 

 天狗鼻で生首が続ける武勇伝に、会話に加わっていなかった赤鬼が反応を示した。肉を焼くハシを手元に置き、興味を示すように目を開く。

 

「……お前が戦ったのはレッドドラゴンだろう? 何故10体も相手にできた? どうやって一度にその数のドラゴンに巡り会えた? どうせ時間があるのだろう? ……ならその話を隅から隅までオレに聞かせろ」

「お、おお! ……そっちの赤いオッサンも気になるか!」

 

 相変わらずの修羅の顔で切りだす鬼に、生首は先程までの意気揚揚とした調子を薄らせた。東洋では言わずと知られる『悪魔』に話しかけられているのだから言葉が減るのも無理なかった。

 

「無理矢理にでもその話を聞きたいぞ。……『10体いっぺんに相手をする』なんて‘斬りの黒‘以外のハンターはやろうとしないからな」

 

 実際の所俺も赤鬼と同じことを言いたかった。10体同時にドラゴンを相手にするというのは少し前にマタルが聞いていたように並大抵のことではない。膨大な土地から複数のドラゴンの集まる場所を特定し、ウィザースケルトンのように長太刀を操る程の驚異的な戦闘能力を持っていなければできないことだ。

 

「オレはお前の半分の数しかドラゴンは相手にしたことがない。だが首だけのお前は如何にして10体も同時にドラゴンを相手にしたのか、ちょいと聞かせてほしいのだが?」

 

 言葉は脳筋を漂わせるような強引さしかない。だが表情には遠い過去でも見つめ返すかのような神妙さが現れている。確か赤鬼のオヤジは昔はハンターであったが一度に‘6体‘のドラゴンを相手にして重症を負ったとか。生首が討伐した数の約半分である。鬼とてできなかった所業を何故生首が出来るのか、奴にとっては不思議なことこの上ないだろう。

 俺はここで初めて、鬼が‘興味本位‘ではなく‘真剣な問いかけ‘で生首と話しているのを察した。

 

「あ…いや、そんな顔で聞かれても、私は大それたことはしていないぞ?」

 

 しかし赤鬼の言葉に当の生首は「話が食い違ったかな」と軽く弁解するように言葉を返した。

 

「大したことは無い……お前は軽い言葉で済ましちまう実力者か!?」

「違う違う、謙遜じゃなくてそのまんまの意味だっての! 最初1体と戦おうとしたら残り9体わらわら来たから‘バーン‘ってしただけだぞ!」

 

 赤鬼が探究するように突き詰めるが生首はタネも仕掛けも無いとの反応を示す。その予想外の反応に赤鬼は眉を吊り上げた。

 

「……つまりなんだ、お前がドラゴンの出現ポイントを探し出したのではなく、ドラゴン側が勝手に来たと?」

「そうだぞ! 4対1ならともかく10対1は酷いっての!」

 

 酒が回りだしたのか、生首はうっすら顔を赤く染め、半分愚痴垂らすように狩りの光景を吐いた。酔いだした相手の話は信憑性が薄いが赤鬼はなおも続きを聞く。

 

「お前はドラゴン10体に対して‘バーン‘としたと言っているが、その‘バーン‘とはどんな攻撃だ?」

 

 横で聞く俺もそれが気になった。単なる擬音で表現されたその言葉、連想するのは何かが‘はじけ飛ぶ‘光景である。銃弾が飛び出すとか爆弾が作動するとか。どちらも10体ドラゴンを相手にするには申し分ない力を持っているだろう。

 これらをどう駆使してドラゴンと対峙したかは聞いてみたいところだ。

 

「うーん……これを見せると大体変な顔されるんだよな……」

 

 躊躇うように鬼から目を逸らすと、何かバツの悪い顔をしながらも念力で被っているとんがり帽子を浮かせ始めた。

 

――念力でもってドラゴンを八つ裂きにしたのか

 

 糸で吊るされているように宙で揺れる帽子を見ながら俺は口を開く。だが遮るように言葉を発する前に、浮いている帽子から手に収まるサイズの‘何か‘が生首の頭に落ちてきた。

 

「コレで倒したんだ」

 

 生首が示す‘コレ‘は、帽子から出てきた八角形状の小箱だった。数学の図形の分野で見かけるような‘あの立体‘である。レーザーで加工されたかのように寸分たがわぬ精度で正八角形が構成され、表面には幾何学的な模様が刻まれている。

 

「なんじゃこりゃ? 玩具か?」

「そう言うと思ったぞ……だけどコレは玩具ではないぜ、‘ミニ八卦路(はっけろ)‘だ。」

 

 その土産物屋にありそうな八角形の箱は万有引力を逸したかのように宙を滑る。代わりに先ほどまで浮いていた帽子はポスリと力を失ったように生首の頭に収まった。もしかしてコイツがいっぺんに念力で浮かせられる物は一つに絞られるのだろうか? もしかして攻撃魔法しか知らなかったりして

 俺の疑念はさておいて、ふわふわ箱は宙を舞い、俺達が囲うコンロの真上で止まった。

 

「おお~旅行先で買ったのかい?」

「だから! コレはミニ八卦路! 置物じゃないっての!」

 

 コンロの上で浮かぶ八卦路をマタルは見ると案の定それを雑貨品扱いした。対する生首はたちまち口を尖らせ訂正し始める。

 

「私の宝物で! すごい力を持っているんだ!」

「む? コイツぁ……神具なのか?」

「へぇ~伝説の護符なんだね~」

「いや……そこまで文化的価値はないんだが……」

 

 今度は苦虫を潰したような表情を生首は返す。俺は『すごい力を持っている』とのフレーズから小型の爆弾だと推測するが、『宝物』と奴が言っているのだからそんな消費物ではないのだろう。結局のところわからず仕舞いだ。

 

「いっそ実際に使ってみれば分かるか。ちょっとみんなミニ八卦路から離れてくれ」

「ここで使っても大丈夫なのかい?」

「威力は弱めておくって大丈夫大丈夫、心配するな」

「霧雨の使う狩猟具か……ふむ、どんなものか気になる所だな」

 

 さりげなく『威力』というやや物騒な単語を混ぜながらも、口軽に俺達を八卦路から離れるよう促す。その言葉に従い、マタルと赤鬼が網の上の肉とサーモンを皿に移し椅子から立った。

   

「おい生首、家は多々出さえ貧乏だから変なマネはするなよ」

「だから生首じゃねえって。そうイライラしないで私に任せておけ」

「……ならいいがな」

 

 俺も野菜を避難させたところで生首に釘を刺す。

 こんなところでまさか爆発を起こす気じゃなかろうか。俺はそんな気がしてならない。だが同時にドラゴン10体の同時狩猟に用いられたというあの‘ミニハッケロ‘の力も気になるところだ。もしかしたらアレは銃や槍ではなく『魔法』の力を持っているかもしれない。

 

「それじゃあ位置に着いたな……じゃあいくぜ!」

 

 2歩程後退した先で俺達が立っているのを確認すると、生首は何かを念じるように箱を見つめ始めた。箱はコンロの揺らめく陽炎の上を浮遊している。幾何学模様を空に向けて。

 物体が宙に浮いている時点でも凄いことだが、この後何が起こるのだろうか。俺は薬屋の壁を背に生首のゆく様を観察した。

 そして一筋の風が会場に吹き込んだとき、生首の頭上に異変が起きた。

 

「おいおい、アレは一体なんだ?」

「おッ 何か始まるぞ。一発芸か」

「なんだ? なんじゃありゃ?」

 

 生首の頭上に光の円が箱に刻まれたの同じ機何学的な模様を伴って現れた。円は虹色の光を帯びて周囲を照らしている。まさか魔法陣の類だろうか。

 いきなり会場にそれは出て来たもんだから、他のコンロで食事をとる者が何の騒ぎだとこちらに注目した。好奇心に富んだ視線が生首に集まる。まるでステージで踊り子を見る観衆のように。

 それはオーディエンスとも言おうか。

 ともすればその視線の先にあるのは歌手かプレゼンターかの発信者。

 あの魔法陣はなんだろうか。まさかあの箱と関連しているのだろうか。ともすればどうやって浮かび上がっているのだろう。俺が推測した通り魔法の力なのか、最先端の3D技術なのか。一体どんな手品やら。

 言葉で表すなら『派手』の二文字。祭りで打ち上げられる花火を彷彿させるものだ。目で見た情報以外何も察することが出来ない。これがドラゴン狩りと関連するならどのような物だろうか。俺は首を傾げながら魔法陣が展開されている様を見守った。

 その時不意を突くように生首が何か言葉を発した。

 

――あれは魔法か

 

 言葉は聞き慣れない単語でハッキリとは聞き取れなかった。しかし連動するように起きた‘現象‘で手品のタネは突き止めることが出来た。

 箱が一段と強く輝いた瞬間、箱から一筋の‘光‘が飛び出したのだ。その‘光‘は弾丸ではなく一直線の‘光の柱‘とも表現出来る程力強いレーザーだ。

 柱はドラゴンの巨体を飲み込むと思う程太く、まばゆい光を帯び天高くまで飛び上がっている。まるで地下水が地上に突発的に飛び出る間欠泉のように。轟音を交えて勢いよく、掌に収まる程度の小さな箱から強大な光が空を貫いている。

 こんな技術が現代科学で為されるとは思えない。目の前で起こっているのは魔法による現象だ。生首がトリガーとして呪文を唱え、箱に光の柱を撃たせていると推測する。

 あの光はドラゴンを易々仕留められる程の破壊力を感じられる柱だ。使う者が使えば犠牲となるドラゴンの数は10体で済まないと思われる。箱から飛び出ている柱は戦火の光を彷彿させた。俺は人外だらけの現実とも大きくかけ離れたその光景に思わず舌を巻いた。

 そして共にその光の柱は今なお形成されている魔法陣と同様虹色の光を帯び、日光が教会のステンドグラスを通したように、周囲を淡い玉虫色に照らし上げた。まばゆい光を前に、ある者は声を上げ、ある者は地べたで腰を抜かしている。顎が外れたように口を開ける者も居た。ただそんな彼らに共通して言えたことは‘光の柱‘を驚嘆するように見届けていること。光が下りなす鮮やかなスペクトルは、人間の兵器のような無骨な外見ではなく、‘美しさ‘をも追求したような芸術的観点も持ち合わせていたのだ。

 そうして光は会場中の注目を集めた後、いくらも経たず姿を消したのであった。

 

………

……

 

「お前さんはアレの影響を受けたわけじゃな」

 

 ウィザースケルトンは自身も会場で目の当たりにしたであろう‘あの光景‘のことを俺に追求した。

 

「その通りだ。コンパクトに収まるあの箱から爆発的な攻撃ができるなら、ドラゴンと優位に立てるはずだ」

 

 ミサイル攻撃とも並びそうなあの‘現象‘が、俺に魔法による狩猟を研究させる切っ掛けになったとなったのだ。マタルに衝動買いについて水を差されるように、俺は印象的な何かに対してオーバーな影響を受ける訳だが、一応今回は明確な根拠を持って関心を抱いている。

 

「……おい、あんな魔法使ったらドラゴンの身体の大部分が消し飛ぶと思わねぇか?」

 

 ことをよく把握していないであろうウィザースケルトンは、狩猟転用には向かないと言わんばかりに腕を組み、首を横に振った。

 だが俺はそのリスクを防ぐのもしっかり心得ている。

 

「そこんところは生首から色々聞いた、大丈夫だ」

 

 何しろ実際に魔法を使っていた本人から情報を仕入れたからだ。

 俺も当初はあの魔法は高すぎる火力で、鱗やら肉と言ったせっかくの金目な素材が消し炭になりそうだから、狩猟に使えるとしても上級種に食われるという‘止む負えない事態‘で発動し難を逃れる『自衛』のみに限定されると思っていた。

 だが生首曰くあの爆発同等の派手さでも、生命に与える脅威は低く見積もられているとか。言わば安心安全な攻撃。それならドラゴンに使っても目当てである素材も消滅することは無いし、なお効果抜群な魔法攻撃なので銃より効率的に狩猟を進めることが出来るはずだ。

 そしてご丁寧にそれら魔法の習得や使用方法も自慢げに説明してくれた。それも人外向けではなく非力な人間にも使える魔法を。ここまで知った以上俺も習得しなければ勿体ない。

 

「だからこうして面倒な魔法習得にも力を入れている訳だ」

「あいつぁ……そんな重要なことベラベラ話したのか」

「強い酒でだいぶ酔っていたようだからな。普通のハンターは商売しにくくなるから話さないってのに」

「たりめぇだろ、ワシは狩猟の詳しいことは基本口外せん」

 

 トゲの立った口調でウィザースケルトンは吐き散らす。もちろん俺もドラゴン討伐で近道となるようなことをそう易々他者に話すようなことはしない。もしドラゴンを一発で倒せる武具があるなら、仮にドラゴンと高確率で遭遇できる場所があるなら、噂を聞いた町中のハンター達が挙ってその武具を買い、その特定の狩猟ポイントで活動するようになるだろう。そうなれば金になるドラゴンはハンター同士で奪い合いになるといった泥沼化に発展し、ドラゴン討伐は難しくなり自身の生活を危ぶめられる可能性が高くなる。

 だからそういう『美味しい話』はハンター達は独占するようにしている。己の富のためにだ。似た様な例で‘企業秘密‘との言葉があるのも大体は利益のためだ。

 

「まあ……あの生首は純粋というかなんというか……」

「綺麗な心とは汚い大人に利用されるばい」

「自分でいうのもアレだがその通りだ」

 

 とりあえずハンター業界が腹黒いのはさて置いて、魔法に関連しているというこの世界では希少な情報が入手できたということで俺は満足している。

 今作成途中の鎧を完成させた後、魔法の使用も足を踏み出すつもりだ。ついでに鎧以外にも新たな狩猟具の自作も検討中である。もちろんこの話は目の前のウィザースケルトンに話す気は無い。先の例と同様の理由である。

 俺は表情からそれらを察しられない様、終始ポーカーフェイスを決め込んだ。

 

「ふん……まあいいわい、ワシにはワシのやり方がある」

 

 当のウィザースケルトンはこれ以上俺に問い詰めようとも部屋に居座ろうとせず、踏ん反り返った様子で戸口に向かいだした。俺も‘斬りの黒‘であるウィザースケルトンの狩猟なんて赤鬼の話でたかが知れているし何も話しかけることは無かった。ドラゴンの同時狩猟は危険だろうし、あの生首の10体いっぺんに狩猟した話も偶然できたと考えた方が妥当だろう。あんなハイメガキャノンも射程は一方向に限られそうだし、何より魔法にほとんど接していなかった俺が使いこなせる程の自信はない。装備は強化するにしても、引き続き‘一匹狼‘と戦い続けるだけだ。

 しかしその時ウィザースケルトンは何を知ったか、戸口に向かう歩みを急に止めた。

 

「だが小僧、せいぜい気ぃ付けることだな」

 

 奴は一言口早に告げると、また我関せずといった様子で戸口から出て行った。室内に抱えていた木箱が置きっぱなしだが中にあったのはバーベキューで残ったドラゴンの骨だけだ。こんなものに奴は何か意味を持たせたのか。きっとただのゴミだろう。数時間前まで美味しそうな肉がついていただけだろう。

 ともすれば一体あの言葉は何だろうか?

 俺は誰もいない薬屋の居間で、一人首を傾げるのであった。

 




おまけ ・キャラ紹介
  
マタル 
・性別  男 ・種族 ゾンビピッグマン
・年齢 何世紀生きたっけな… ・身長 180㎝
・好物 日々の健康に人参は欠かせない。
・特技 ポーション作りだね。新薬開発は時に好き。
〔一言〕

病気を治す薬からドラゴン退治にも使える薬を取り扱っています!さあさあみなさん私の薬屋においでになってくださいな!今ならセールも行っております!

以上になります。

 分かっている人にはわかっているかもしれませんが今回出てきた『生首』はゆっくり魔理沙です。いやーマイクラ実況によくいるんでつい……勿論ストーリーとの連携を考えての出演でもあります。
  
というわけで
ご意見ご感想お待ちしております。
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