[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
部屋にテーブルをコツコツと叩く音が鳴り響く。
俺はマタルの向かい側にテーブルを挟んで座っている。
そして今とても機嫌が悪い。
眉間にシワを寄せ右手にナイフ、左手にフォークを握っている。
食卓にはトースト、きのこと野草のサラダ、健康ドリンクと思しき緑の液体が並んでいる。つい最近まで食べていた保存食に比べれば色彩豊かで豪華なメニューだ。
しかし俺の心は安らぐことは無かった。
原因は目の前の豚人間、マタルである。
「あーこうして謝っているからそのナイフを置いてくれ…」
マタルはヘコヘコとした調子で俺に食事用のナイフを仕舞うように頼む。
「アア。コレハ食事用ダカラ殺シニハ使ワナイ。」
俺は見るからに不自然な喋り方でトーストをザクザクと切りる。
「その喋り方からして殺意を向けられている様にしか感じないよ…」
その言葉を無視して食べやすく切ったトーストをフォークで口に放り込み、バリバリと噛み砕く。目の前の豚を睨みながら。
「そんなに怒っているのかい?」
「ああ」
「本当に?」
「もちろんだ…チッ」
「…大変申し訳ございませんでした。」
マタルは椅子から降り、床に頭と膝をつけた屈むような姿勢、『土下座』をした。
一部の文化ではこれが謝罪の最上級だとか。
そうだな、そこまで謝るなら許して―
「って許せるかァー!」
こっちは騒々しく立ち上がる。後ろでは椅子が倒れてけたたましい音が聞こえる。
―そもそもなんでこうなるんだよ!
その時はまだ木の葉に露滴る清々しい朝だった。
俺は朝早く起きたが昨夜のことを忘れソファーの横で臨戦態勢を取っていた。が、すぐにマタルの家に泊まっていたことを思い出して警戒を解く。
すると「お、やっと起きたんだね。」と前のように奥の部屋から声をかけられた。俺より早く起きていたと思い驚いたがどうやら奴の死んだ身体に睡眠は必要無らしい。んでもって俺が寝ている間は薬の開発に当て込んでいたとか。
まだ眠く話も適当に聞き流していると奴は「生活リズムをつける一環として朝シャワーを浴びているんだ。君もどうだ?」と言ってきた。俺の知っているシャワーと言うと旅の時に聞いた『一部の王族が使っていた身体の汚れを洗い流す行為』でありとてもリッチなものだ。朝早々そんな贅沢なことができるとは夢にも思っていなかったので思考がうやむやになっている中気前よく『OK』の返事を出した。
だがそれが今の状況に陥る運命の分かれ道だった。
俺はそんなこと知る由もなくマタルに『シャワー』を浴びる部屋へ連れて行かれる。『シャワー』とはとても神聖なものなのかそれをする部屋は俺がこの世界にきて初めて寝たラウンジから直行できるところにはなく渡り廊下を挟み少し離れた小部屋で行うようだ。
小部屋に着くと「お先にどうぞ~」とガチャリと木製のドアを開ける。ドアの先は想像していたほど広くも無く王族特有の豪華絢爛な装飾は無い。石やレンガを主に使った城塞を彷彿させる作りで腕をなんとか広げられる程度の広さだ。ドア近くにはチェストが置かれ、奥の天井にはディスペンサーが取り付けられている。
目を丸くして中を見ていると
「早く入ってくれ。別に覗きはしない。」
と言わた。こちらも
「バカ野郎」
と言い返して中に入る。
「よ~し…どんなものやら…」
閉められた木のドアがバタンと音を立てた。
話によれば『シャワー』は沐浴の一種だとか。衣服も脱ぐ、いわゆる『無防備』になる必要がある。もしかしたらマタルがそれを利用し不意打ちを仕掛けてくるかもしれない。奴はモンスターだ。
俺はそれを警戒してドアの前に着替え用のチェスト置いてバリケードを作った。寝ボケと勢いでこれに付き合ったがあえてまだ会って一日の奴の本心を炙り出す機会に利用しよう。
服を脱いでいるフリをして少し時間を空けてから
「このボタンを押せばいいのか?」
部屋の奥についているボタンについて閉じたドアの向こうに問いかけた。
「うん、その石ボタンで問題ないよ。」
どいやらこのボタンを押すと上のディスペンサーから何かが出てくるらしい。普通だとお湯だろうが罠にはめるとしたら上から矢が降ってくるだろう。ジャングルの寺院でそのタイプの物があった。が奴は薬を作るらしいからそれ相応の劇薬を落としてくるだろう。
「あ、ポチッとな。」
天井のディスペンサーの斜線上からは外れてボタンを押すと…
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「なんで朝いきなり溶岩浴びせるアホがいるんだよ!」
ナイフをマタルの頭にブスリと突き刺す。
「いやだって水は冷たいし痛いじゃん。」
頭の上にナイフが垂直に刺さっているのも気にしない様子で床に膝をついた姿勢のマタルはそう言った。
「溶岩浴びて平気でいるのはネザー出身のお前くらいだよ!」
「なんで矢でもなく劇薬でもなく溶岩なんだよ!明らかに罠じゃねえか!」と追い打ちを食らわすように言い放った。
「罠じゃないよ。最近インフェ…ネザーで流行りの朝シャワーだよ。」
わかりやすいように俺の呼ぶ名称に言い直して奴はそう言った。
「んなこと知るか!人を殺そうとしといて何様だお前!」
と怒鳴りつける。
そのとき身体の半分がズキリと痛む。
マタルを見下すように堂々と立ってはいるが体半分はマグマで火傷を負っている。ずっと立っているとそこが痛みだしてしてくる。
「まぁ…しょうがない。今は朝食を食べるとしよう。」
と言い椅子にドサリと座る。
一つはその火傷で説教しようも続かないこと。もう一つは奴の思考の鈍さで説教も無駄になること。それらもあってとりあえず朝の栄養補給に思考転換することにした。
「あ、ナイフが必要だね。」
ちゃっかり椅子に戻ったマタルが頭に刺さったナイフを抜いて差し出す。持ち手を向けて。
「そもそも上品にそれ使わなくともフォークひとつで食べられる。」
とはぐらかしたものの実際は頭に刺さっていたナイフなんか食事に使いたくないのが本音である。
久しぶりのきちんとした食事であったために大体のものはペロリと食べ終えた。
「なかなかの腕だな。ただこの液体は…」
しかし栄養ドリンクだけは独特の臭みがありお世辞にもおいしいといえないものだったので絶やすには時間がかかった。
「うおっウエェうっゴフッオロロ」
飲みきった瞬間吐き気に襲われたのでとりあえずラウンジの窓から戻す。
「…あ、そういえば昨日の薬入れたんだった。」
マタルがまた思い出したようにそう言った。
「ふざけるな!以後変な物飲ませるなといっただろ!」
「皿を片さなければならないな。外で洗っているから君は休んでいてくれ。あの薬は副作用が強いようだ」
そうして食事を終え俺だけソファーでぐったりしていた。
あーこうなるなら今度から食事は自分で用意しようかなーなんだか実験台にされているようだし。
そうして物思いにふけっていると
コンコン
玄関からドアをノックする音が聞こえた。応対しようか迷っているとまたノックする音が聞こえてくる。
「おーい、マタル―、俺が出て大丈夫かー?」
マタルは食器を洗っていて手は離せないようだ。ラウンジの外から食器を砂で擦る音が聞こえる。
移居候として今は俺が応対するべきだろう。
「はいはい。ちょっとまっていろ。」
ソファーから上がると再度ノックが聞こえてきたので音の主に声をかける。
ドスドスと今朝覚えた玄関のある場所までの廊下を歩く。火傷は負っているが歩く分には問題ない。そうして玄関にたどり着き
「はいはい待たせたな。」
といってドアを開けると…
「おはようございます。匠不動産です。今日は町の方の店舗の件について参ったので―」
バタン!と俺は反射的にドアを閉め玄関の奥に飛び込む。
ドアを開けた先に居たのはクリーパーだった。
「ま、まさかここにまで…」
あの奇怪なシルエット、緑色の身体、相手に近づき自爆する奴を忘れるはずは無い。
俺は昔拠点から出た瞬間にそいつに襲われたことがある。
そう過去振り返りながら身構えているが…
一向に爆発はこない
今現在の状況がその繰り返しならとっくに玄関は吹き飛んでいるはずだ。
もしかしたらマタル同様奴も中立かもしれない。
そう推測し一応警戒しながらドアを静かにあける。
「今日は町の方の店舗の改装の件について参ったのですが、マタル様をお願いできますか?」
ドアの先には先ほどと同じようにクリーパーが立っている。
「あ―今は手を離せそうにない。また後日来てくれ。」
得体のしれない爆弾魔が居られちゃ困るので適当に追い返すことにした。
「そうですか。ではまた後日伺わせていただきます。」
素直に向こうも下がってくれるようなので内心ホッとした。と思ったがまだ何かあるようで
「そうです、そうです。今町の方でお手軽な中古物件がありまして―」
そう言いだすと前足を器用につかって胴体につけられた皮カバンからチラシを取り出す。
「そちらのご購入につきましても検討いただけたらと存じます。」
チラシには物件の絵とキャッチコピーがデカデカと主張され端っこに『匠不動産』の
住所とおぼしきものが書かれている。
チラシに釘づけになっていると、
「それでは、失礼します。」
と言って出て行った。ドアの窓から再度この家に向き直り律儀にお辞儀するのが見える。
とりあえずラウンジに戻りソファーで渡されたチラシを眺める。
「湖上の物件…立地はともかく防衛にはなかなか…」
この世界には前の世界と同様に衣食住をともない集団で暮らす文明があるようだ。もっとも人間ではなくモンスター達がそうしているが。あのクリーパーが言った『町』というのはおそらくその文明が築いた物の一つ、向こうの世界で言う村などであるだろう。
モンスターであるが高い知能を持ち合わせているということを実感して関心した。あくまで推測だが。実際に目にして見ないとわからんからな。
「あれ?そのチラシどこで拾ったんだ?」
皿洗いを済ましたマタルがラウンジにやってきて尋ねる。
「クリーパーが数分前にやってきたんだ。あんたに用があったらしいが忙しそうだから追い返しといた。」
といあえず「おっかないから」とは言わずにそう伝えた。
この後マタルが「こんな森深くまで来てくれたのに悪いことしたな…」と申し訳なさそうにつぶやいていたが俺としては『中古物件』の情報が手に入ったので結果オーライだ。
―どんな手段でもいいからこの毎朝溶岩薬漬け腐豚生活からは抜け出して
セーフハウスで1人ゆっくりする生活に登りつめてやる。
ソファーの上でこの世界で最初の目標を決めるのであった。
「駆け足」との声がありましたのでストーリーがゆっくり進むようにしました。
いかがでしょうか。
ストーリーの進み具合をエンドラ討伐までの道のりで例えるとまだ序盤で石ツールが完成したくらいなんですよね…
気付いていないうちに駆け足になっているかもしれませんがご意見いただけたらうれしいです。
並びにご感想もお待ちしております。