[Minecraft] 俺はスティーブ、クラフターだ。 作:えだまミィカン
広大に広がる白樺の森の中、俺達は大八車を走らせている。
通っているのは石も敷かれず土が顔を出しているだけのガタガタ道。普通はこういった荷車を走らせるのはよろしいとは言えないものだ。
「あの薬ほんと効果が強いねぇ。家に帰ったら詳しく調べてみようかな。」
「朝のドリンクに混入させたあれか…それで火傷がすぐ治ったからってこうも使いまわすことないだろ…」
「君の場合、姿は人間でも身体の丈夫さはアンデット並みのようだからこれしきのことではへばらないだろう?」
「丈夫であることは自負しているが家畜のように扱われると流石に身体にガタがくるぞ!」
マタルが荷台から闘牛の角のように伸びる持ち手を楽々と引っ張り、俺は荷台の後ろからつんのめるように押している。片方の車輪が石の上を乗りあげるとガタンと台車が鈍い音を立てて荷台の大量の荷物と共に揺れた。
「あーちょっと荷物欲張っちゃったなー。町の大工さんに頼んで改良加えてもらおうかなー。」
「ハァ…大工は俺で十分だ。…それより荷物を減らせよ、荷物を。」
荷物というのは砂の入った麻袋。略して砂袋。
マタルの家がある森の中を少し歩くと砂漠がある。その砂漠から俺達は砂をかき集めて家へ引き返し今度は数キロ離れたところにある町へ運ぶのだ。そしてこの砂を専門の業者に頼んで薬を詰めるガラス瓶に加工してもらうそうだ。いつもは今の半分の量運ぶらしいが今回俺が加わっていることでかさまししたとか。
「この荷物の量…横からみたら家ひとつ動かしているみたいだぞ。」
「大八車も悲鳴をあげているなぁ。」
『家ひとつ』は大げさだが荷台には欲に欲を張ってピラミッド状に積み上げた砂袋が許容量を超えて乗っていた。マタルはアンデット、俺は鍛え上げられた身体、荷物を動かすには申し分無い力があるが何しろ枝にぶつかったりその衝撃で荷車の横から落ちたりとで別の方面から難題を突き付けられている。
…と考えているよこからまたドサリと砂袋が落ちた。
「おーいマタル、また落ちたぞー。」
俺の声を聞いて引き手のマタルが荷車を止める。
「これで十回目だね…よし!積み上げよう!」
「意地でも積み上げるかこの貪欲な豚野郎。」
「何言っているんだ、私たちの間ではこれが普通だよ。」
奴はそんなに薬の瓶が欲しいのか捨てずに拾うことを進める。瓶は薬をつめて研究に使ったり売り出したりするらしい。奴にしてみればいいこと放題だ。売って金が入るなら居候の俺にも関係ない話ではないが…
(どこぞの宗教の7つの大罪では豚が貪欲に関連していたな…。あれ本当だったのかよ。でも暴食を意味する貪欲だったような…)
五回目以降から捨てるということを進めているが奴はあきらめようとしていない。見越した根性だかなんなのか…
そう思いながらため息をつきこぼれ落ちた足元の砂袋に手を伸ばす。
「よっこらせ。」
と持ち上げた瞬間、袋が縫い目から破れた。中身の砂が水のように地面に流れていく。
あわてて袋を地面に置いたが中には半分しか砂は残っていなかった。
「これは…捨てるだろ。」
「いやいや、地面の奴を袋にすくい入れるよ。」
「ええぇ…」
「勿体ないじゃん。」
「モッタイナイはいい言葉だが…」
そうぼやきながら地面の砂を手で袋へ移す。
本当ならスコップを使いたいがあいにく持ち合わせていない。
俺のカバンはと言うと中にスコップの代わりに荷車に乗っている分くらいの砂袋が押し込められている。大容量とはいえスコップ等の道具をいれるスペースは余っていないのだ。
余っていても必要ないと思って持ってこなかっただろうな…
スコップはあきらめて二人で地道に手で砂を集める事にした。
「あー爪に砂が入った。これなかなか落ちないんだよな…」
「砂が溜まるところがあるだけいい方だよ。こっちは最近掌に空けた穴から砂がこぼれていってしまってねぇ…」
「サラッととんでもないこといったなお前。」
お互い四苦八苦しながらも二人がかりでやっているのでそう時間を取られそうになさそうだ。そう思いながら汚れた手をスコップの代わりにして砂を持ち上げた。
すると親指と人差し指の間から何かがこぼれた。
落ちていくものは緑色に見えた。
下に目をむけるとさっきと同じ緑色をしたコインが砂の山に転がっていたのが映った。
すぐさま手の砂を袋の中に落としコインの様なものを手に取る。白樺の葉と葉の間を縫って入る日差しがそれを淡い緑色に輝かせた。
材質は銀でも胴でもなくエメラルド。コインの表面には壁とおぼしき建築物のエンブレムが刻まれている。
「いきなり手を止めてどうしたんだい?」
マタルが砂を集める作業を止めずに声をかけた。
「なんか宝石のコインような物を拾ったんだが…」
向こうの世界にもエメラルドは通貨として存在したがこんなものに加工する技術は無い。文化が発展したところでは代わりに銅や銀などの金属が今手に持つ物のようにエンブレムが掘られていた。宝石でそれを成すのは相当な職人歴を持つ者でもできるかどうかだ。
きっと物凄い価値のある芸術品に違いない。
「懐かしいもの見つけたねぇ。町に黒曜石防壁が出来た時の記念コインだよ。うちにも一枚あるよ。」
さほど珍しいものではないようだ。期待を裏切られ肩を落とす。
「なんだお前も持っているのか。ダイヤ並みの希少品を手に入れたとでも思ってぬか喜びにしていたぞ。」
「一応ここで使える通貨だよ?あ、通貨ってわかるかな?」
「俺と何だと思っているんだ。通貨ってことは多少は価値があるんだよな?」
「あるよ。リンゴ3個買えるよ。」
「結局大した価値ねぇじゃねぇか!」
―とりあえず町でリンゴ3つに変えてもらうことにしよう。
価値が無いと知るとすぐその考えが頭の中ををよぎっていった。
「ほら、砂詰めて早く出発するよ。」
「…はいはい。」
エンチャントでハズレを引いた時に似た沈んだ気分になったがリンゴ3つを手に入れることを原動力に砂袋の運搬を再開することにした。
生活のためとはいえ面倒な事は面倒なままだ…
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砂を回収した後にはまた3回砂袋が落ちた。
そのたびに足を止め、荷物を荷台に放り込みまた動きだす。
森の終わりも近いのか荷物を無理矢理引き下ろす枝は少なくなってきた。また心なしか風もよくきて暑さも和らぐ。
俺は後ろで荷車を押しているので前方の景色は砂袋の山に遮られて見えない。
だが今まで木に遮られていた日差しがふりそそいで来たことで森を抜けたというのがすぐわかった。
白樺の森を抜けたところにはなだらかな緑の平原が広がっていた。少し前までは近く建物があるようなところにとどまっていた。だけどこうして何もない場所に飛び出すのは冒険家の時はよくやっていた。
そうもあってここに来るのは初めてだがなんとなく懐かしさを感じる。
と昔の記憶に浸かっているうちに森とは違い整備された道に入って行った。
石が敷かれた平坦な道なので運搬に関わる身体の負担も少なくなった。といってもいつまた砂袋が落ちるかわからないので気持ちはあまり安らがない。
そのため身体は荷車を押していながらも視線だけは荷物に向けていた。
荷物の山の頂上には白い雲が浮かんだ青い空が広がっている。天井が無いあれを見るといつも大気の向こうに吸い込まれていくような気分になる。
現実にはお構いなしに優雅に飛び回る鳥はそうならないんだろうか?
俺達は空には飛び出さず地面に這いつくばるように生きている。
鳥達は俺達のことをどう思っているだろうか?
作業の苦しさを紛らわすように物思いに耽っていると、
「ほーら、お待ちかねの町が見えてきたよ。」
と前の方から引き手の声が聞こえた。
荷車の脇から前方の景色を望んでみると丘の向こうに黒い壁らしき建築物がうっすら見えた。コインに掘られていたのに似ている。
『町』の周りに建てられた防壁だろう。俺が村に建築した奴より丈夫そうだ。あれがあるならそう簡単に町も落とされないはず。
やれやれ…やっと一休みできそうだ。
まだ町まで数百mあるが終わりが見えたとあって俺は一息つくのであった。
なんでスティーブは嫌々仕事をしているかって?
A 何が起きるかわからない世界で野宿をするにはリスクが大きいのでこうして居候の身になり衣食住を確保しているのです。現在スティーブはツルハシや剣などの道具は確保できていないですしね。
岩盤降下前くらいの装備があったら周りに構わず豆腐なり祭壇なり作っているでしょ
う。
ご感想、ご指摘お待ちしております。
2014 9/4 修正