汚れちまった求道者系リコリス   作:豪州侍

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第2話 clouds on the hill

 

 

 DA本部の司令室。

 陰ながら日本の治安を守る中枢に私は呼び出されていた。

 

「集まってくれたか、いささか急ではあるがね。日高駒、君は今日からセカンドリコリスに昇進だ」

 

「え、マジ? やったーッ!」

 

 楠木司令の目の前であることを忘れて思わずガッツポーズをしてしまう。

 長らく叶わなかったセカンドへの昇進、実力はともかく地位ではたきなの肩に並べるところまでは来れた。

 

(これで、たきなと同じ場所で戦えるといいんだけどね。今まで、つかず離れずだったからさ)

 

 私とたきなの付き合いは長い。

 研修所では同じ部屋。初任は京都支部。私が先に東京の本部に転属して離れたかと思えば、その2ヶ月後にたきなが転属してきた。

 互いの暮らしぶりは知っているし、毎日顔も合わせる。けれども、一番たきなの力になれる場所には私はいなかった。

 

(今度こそは、たきなと一緒に戦うんだ)

 

 そして戦った結果、その憧れた背中を預けてくれたなら。

 どれだけ、私は満たされることだろうか。

 

 *

 

 セカンドに昇進してから一月が過ぎた頃、ついにその時が来た。

 墨田区某所で銃の密売が行われるため、これを未然に防いで銃を回収する。

 この任務で私とたきなは初めて同じ任務に着くことになったのだ。

 ようやく、私の苦労が報われた。

 ……と、始めた時は思っていたのだけれども、

 

「動くなッ! 動かないとこいつを撃つぞ!」

 

 斥候としてビルに入り込んだと同時に七、八人に取り囲まれて銃を向けられ、私は何もすることが出来ずに囚われて人質になってしまっていた。

 

(いや、あまりに手際が良すぎない? それこそ事前に情報が漏れてない限りはこうはならないでしょ。特に隠密性を重視するリコリスは、ねえ?)

 

 基本的にリコリスは先手を打って犯罪者を処理する。その手法を支えているのがスーパーAIのラジアータだ。ラジアータで事前に探知しなければ、リコリスは先手を打つことはできない。

 

(となると、ラジアータがハッキングされたか、DAに内通者でもいるのかな? どちらにせよ今回の件は中々にヤバいやつだね……)

 

 たきなとの最初の任務でこんな大物に当たるなんてつくづく運がない。これでは背中を預けてもらう以前に足を引っ張ってしまっている。

 

「おいっ! 隠れてないで出てこい! 本当に撃つからな!」

 

 銃商人たちのしびれを切らしてカウントダウンを始める。案外拘束が緩いから一人なら抜けられると思う。けれども、周りに数人が銃を向けているから抜けた後に撃たれてしまう。うん、こりゃ投了案件ですね。

 やはり、私は使い捨ての域を出れなかったわけか。

 脳裏に走馬灯がよぎる。

 まぁ血と硝煙に塗れたものばかりだ。実に汚れたものばかり、けれどもいい思い出がなかったわけでもない。

 

(たきな、あなたは覚えていないだろうけど、私は覚えている。拾われて乗せられた車の外に出た時、あなたが不思議そうに私を見ていたことを。黒曜石のような光沢のある黒髪。子供ながらに私はあなたのことをとても綺麗な娘だなと思えたんだ)

 

(私はとてもどんくさいところがあるから、私の周りにあまり人はいなかった。けれど、同室のよしみからかたきなだけは私のそばにいてくれたよね)

 

(たまに訓練で一緒になるたびに思う。たきなの声、足音。人殺しの技術を磨いているというのに、その響きはどこか美しかった。凄惨な現場なのにずっと聴いていたい。不謹慎にもそう思っちゃったよ)

 

 そして、ずっとたきなを見ていたい。そばに居たいというのは変わらない。

 だって貴女と共に歩くこと、それが実感できないリコリスの大義よりも大事な事だったから。

 抜き身の刃のように研ぎ澄まされた綺麗な貴女を、私はもっと見ていたかった。

 

(ああ、物足りないなぁ、ほんと)

 

 目を閉じる。私の死に様に動揺するたきななんて見たくはない。それはあまりに心が痛む。私は静かに死を待った。

 だが、それはちょっと早計だったらしい。

 吹き荒れる銃弾の嵐。

 目を見開くと、そこに冷徹な眼差しで銃商人を見つめるたきながいた。

 あまりに凄絶な美しさ。

 自分が機銃掃射の只中にあるというのに、目を離す事はできない。

 

「ちっ、あのアマ。舐めやがって……」

 

 後ろで羽虫がノイズを響かせる。私を盾にしているからって油断はするな? もうわかってんだぞ? たきなの機銃掃射にびびって腕の力が緩んでいる事はなぁ。それにお前、たきなを撃とうとしてるだろ。それぐらい筋肉の動きで分かるわ。

 横目で周りを見る。

 他の銃商人たちは完全に足を止めている。銃口も私に向けるかたきなに向けるか悩んでる感じだな。

 なら、大丈夫だ。

 いい加減、加齢臭を嗅ぐのに飽きたので軽く頭を振って敵の腕を弾く。そしてノールックで腿のホルスターから銃を抜いて背面撃ち。それで羽虫は散った。

 

「さて、後は息のある奴らを探して情報を抜き取るかな……ってあれ?」

 

 再度、周囲を確認する私の目に写ったのは血溜まりの中に倒れ伏す銃商人たち。

 一人一人脈を測ったが、全員もれなく止まってしまっている。

 背中に冷や汗がじわりと滲む。

 

(あれ? 確かこいつらって生かして捕らえないとだめだったよね?)

 

 命は拾ったけれども、任務は失敗。現場に銃は一丁も残ってはいなかった。

 

 *

 

 現場検分が全て終わると、フキ先輩がたきなに殴りかかっていた。

 

「お前ッ! 日高を殺す気か!」

 

「生きてますよね? それに駒はあれぐらいの機銃掃射で死ぬような娘ではありませんから。それに司令部から指示が途絶えた状況、射撃はやむなしかと」

 

 激昂するフキ先輩に立板に水とばかりにたきなはつらつらと言い立てる。ナチュラルにたきなは自分の判断は間違ってないと確信しているらしい。

 

「だが、私たちに出されていたのは待機だ。お前の命令無視には変わりはないぞ!」

 

「それでも、私はあの判断は間違えていたとは思いません」

 

「ちっ、クソ。じゃあ日高! お前はたきなの判断は正解だとは思うのか?」

 

 フキ先輩に振られて、状況を振り返る。まぁ少し悩ましいところだけど答えは出た。

 

「最適解ではないですね。とはいえ、たきなが注意を逸らしてくれたおかげで私が抜け出す隙は出来ましたし。銃商人の生死はまぁ、当たりどころが悪かったということで」

 

「結果的にはな。だが、お前が死んでいた可能性は高いぞ?」

 

「それはないですね。たきなの腕であの条件ならそうそう外しませんから」

 

 ずっと見てきた私には分かる。多分、たきなの射撃精度はリコリスの中でも五本の指には入るだろう。特に静物射撃はまず外さない。

 だから、あの時、私を封じるべく立ち止まって囲んでいた銃商人を撃ち抜くことは決して非現実的な選択肢ではなかった。

 だが、フキ先輩にとっては違かったらしく振り上げた拳を下ろして「お前たちは狂ってるよ」と呟き、私たちを無視して歩いていった。

 

「とりあえず帰ろっか。たきな」

 

「……そうですね」

 

 *

 

 後日、私とたきなは楠木司令に呼び出された。

 そこで告げられたのは、私のサードリコリスへの降格とたきなの転属。

 

「私の降格に関しては妥当です。ただ、たきなの転属は……!」

 

「作戦を狂わせたのは日高、お前のせいだ。だが、とどめを刺したのは井ノ上だ。これが指示の末なら致し方ないところもある。しかし、独断なら庇いようがない。組織の規律を守るための処置だ、理解しろ」

 

 私は楠木司令に噛み付いたが、結局なんともならない。すぐにつまみ出されて、とぼとぼと寮へ帰るしかなかった。

 

「ごめんね、たきな。私のせいで……!」

 

 正直、私の降格はどうでもいい。けれど、たきなの転属はそれこそたきな自身の居場所を奪うことになる。

 

「駒。私はさほど気にしてないわ。ただDAの判断に納得がいってないだけ。すぐに本部に戻ってくるから待ってて」

 

「うん、わかった。だったら、私も頑張ってセカンドにまた上がるよ。今度こそたきなの力になりたいからさ」

 

 夕暮れが射す中、私たちは約束する。

 いつかまた、肩を並べる日が来ると信じて。

 





たきな→駒
作戦立案、敵の隙を突いた近接戦と奇襲が上手く、生存力が高い。セカンドリコリスに上がったら自分のパートナーになってくれたら助かると思っている。

駒→たきな
めっちゃ綺麗でかっこいい。不器用だけど優しいからきゅんってくる。大好き。
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