Fate/paradise その小さな身に秘められし大望 作:そらからり
とにかくバトルが書きたかっただけなので
《メスト・ノル》
美しいと、ただそれだけを思った。
一輪の可憐な花だとか、月夜の川だとか、そんな言葉すら不要……いや、中傷として受け取られてしまうだろうと感じた。
これまでの短い人生で経験したいずれの言葉も比喩にならず、ただただその美しさに言葉無く立ち尽くすしか無かった。
彼女は呆然とする僕を見ると、にこりと笑う。
「小さなマスターさん。貴方が私を召喚したのかしら?」
「ます、たぁ?」
声が震える。
それは目の前の美しさに対してだけではない。
単純な寒さが彼の身を震わせていた。
いくら防寒装備やカイロを着用していても、氷点下50℃は極寒地帯だ。
「随分と寒そうね。ところでここはどこかしら」
「なんきょく、だよ」
「なんきょく……南極ね。ふうん、ここがそうなの」
観光に来た客のように彼女は周囲を見渡す。
だが、現在は雪が降り始めており、視界は不良。
その中でも彼女の美しさだけは確認出来るのは何故であろう。
「随分と風が五月蠅いわね。少し静かにしてもらおうかしら」
彼女が手を振ると雪が止む。
そして、僕の周りの温度が少しだけ上がった。
「これで寒さに震えずに済むかしら」
「う、うん。……ありがとう」
素直に礼を言うのが気恥ずかしくて、少しだけどもってしまう。
だけどこの瞬間に自覚した。
自分は彼女に対して一目惚れしていたのだと。
「さて、それではマスターである貴方の願いを教えてもらおうかしら」
「ええと、さっきも言っていたけどマスターって?」
そういえば彼女はどこから来たのだろう。
ここは人が生きるには難しい地だ。
なのに、彼女は注視するのも恥ずかしいような薄着だ。
ここまでどうやって……いや、先ほどの雪を止めた現象を含めて何者なのだ。
「ふふ。何も知らないで私を召喚したのね。私はサーヴァント。マスターである貴方と共に一つの願いの為に歩む、言わば同士のようなものよ」
「同士……僕と一緒に何かをしてくれるの?」
「ええ。だけど私達を邪魔する者もいるのよ。私達は力を合わせてそれに立ち向かわなければならないの」
「そうなんだ」
僕と彼女の邪魔をする奴がいる。
それは嫌だとはっきり思った。
「だけど私はあまり強くは無いの。貴方も魔力量は多いみたいだけど、戦闘の心得は無いわよね」
「生まれて一度も戦ったことは無いね……」
いつもいつも逃げるために走っていた。
誇れるものといったら、この健脚くらいだろうか。
それもこの極寒の地では何の役に立たなかったが。
「構わないわ。戦い方なら私が教えてあげる。それに魔力があるのなら魔術の素養もきっとあるでしょう。きっと、強くなるわ」
「僕が強くなれる……」
「そうよ。私の騎士になるために強くなってね」
彼女の騎士に……。
それは姫を守るナイトということだろうか。
なれるだろうか……いや、ならなきゃいけないんだ。
「それが僕と貴女の未来を守るためになるんだよね」
「未来? ……ええ、そうよ。私達が幸せになるためにも貴方には強くなってもらわなきゃ」
「……やるよ。僕、強くなる」
いつの間にか震えは無くなっていた。
彼女と対等になる。
その目標が彼女に対してあった気後れを消していた。
「決まったところで、騎士さん。貴方の名前を教えてもらってもいいかしら?」
「メスト。メスト・ノルだよ」
「良い名ね。私は――」
その日、南極は変貌した。
生物の生存を否定する地から楽園へと。
否、彼女にとっての楽園へと。