Fate/paradise その小さな身に秘められし大望   作:そらからり

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異論は認めるぜ
だけど細部くらいは見逃して欲しいぜ


4話 細菌と風

 全ての始まりであるメストという少年の召喚を別にすれば。

 南極に集ったマスターのうち、最も早く英霊の召喚に成功したのは、魔術師でも無ければ、英雄でも無く、殺人鬼でも無く、一般人でも無く、小悪党でも無く……学者であった。

 

 希代の変人。

 殺人学者。

 人を寄せ付けないのではない、人が寄らないのだ。

 

 様々な異名で知れ渡った学者がいた。

 専門は細菌。

 毒性、病原性を含む細菌を研究する学者である。

 

 だが、偉大なる先人達は細菌を研究し、未然に未知の疾病を防ぐ、あるいは既に広まった疾病の治療を目的としていたのに対し、彼は違う。

 

 細菌学者であるフレッキシブルは人を殺すために細菌を研究していた。

 いわゆる、バイオテロリストの思想を持っていたのだ。

 

 

 

 

《フレッキシブル》

 

「ん、ん、んんんんんん~!! もう少しですよ! あとほんの僅かでこいつは完成する! 感染率、感染経路共にこれまで発見されてきたものを遥かに凌ぐ! 魔術と科学技術をふんだんに混ぜ合わせたこいつは、感染者を視認するだけで感染に至る」

 

 空気感染、経口感染、接触感染、飛沫感染、そして小さな生物による媒介感染。

 そこまでであれば、科学技術を用いれば再現は可能だ。

 だが、魔術があればそれ以上を目指せる。

 呪いの転用。

 感染者を見ることで感染する視認感染。

 

「死亡率100パーセント。しかぁし、潜伏期間は一月。その間は決してどの症状も起こり得ない。……くくっ。はははははは! これで私を馬鹿にしてきた、蔑ろにしてきた見る目の無いカス共を皆殺しに出来る」

 

 高らかに叫ぼうとも応える者はいない。

 金をかけた最新設備、時間をかけて習熟した最古の魔術を用いた我が工房にいるのは私1人だけだ。

 気温も湿度も重力も、時間の流れすら寸分の狂い無く調整された部屋の中央で叫んだ私は、ふと我に返り椅子に座った。

 

「天才は常に孤独……」

 

 いや、孤高か。

 私と同じ目線に立てる者など何処にもいない。

 いくら毒を扱う高名な呪術師とて、私の細菌の前には地に伏すしか無かった。

 

「つまらない。会話にさえ成り立たないのであれば……」

 

 いっそのこと全て無に帰しても変わらないのではないか。

 賢人も愚者も。

 強者も弱者も。

 貴人も民も。

 全てこの細菌によって殺してしまえば、関係なくなる。

 

 まるで神にでもなったような気分だ。

 私の気分一つで生かすも殺すも自由。

 

 問題は拡大範囲と、それに費やす時間だが、こちらは魔術があれば難なくクリアできる。

 召喚術を応用した、世界中の核となる起点にこの細菌を召喚すれば良い。

 なにせ昆虫よりも軽くて小さい生物だ。

 それに使われるコストなど安く済む。

 問題は距離だが、現代魔術の一種と組み合わせれば事足りるだろう。

 なにせ、今世界中を電波が光速で駆け回っているのだから。

 それに少しばかり乗せてしまえばいいだけのことだ。

 時間と距離は解決した。

 

 後は細菌自体の完成と、実行のみ。

 

「わら……笑いが止まりません! はは、はははははは!」

 

 我ながら、浮かれていると思う。

 自身でも馬鹿らしくなるほどに笑っているのは高揚感からか、もしくは完成間近の緊張感からか。

 少しのミスも許されない状況というのは、途切れる瞬間が最も怖い。

 この興奮が冷めた時、改めて状況を確認しなければならない。

 

 そう、思った時であった。

 

「はは――……!?」

 

 電流が走る。

 私の頭にではない。

 細菌を閉じ込めている試験管に、フラスコに、水槽に。

 ありとあらゆる私の可愛いペットたちの棲み処が光り出す。

 

 知らない。

 

 何だこれは。

 

 魔術を使った覚えはない。

 そこに電球を埋め込んだなんて間抜けなことをした覚えも無い。

 

 分からない。

 訳も分からないまま、何もせずに、呆けていると、

 

「――汝?」

 

 そこには痩せた男が立っていた。

 毛皮を羽織り、禍々しい爪と手に持った弓が特徴の男。

 背には翼が生えており、それが人間では無いことを理解するに容易かった。

 

「だ、誰ですか!?」

 

 これまで私が下に見ていた、愚者がするのと同様の言葉を投げつける。

 

 だが、ソレはどんな人物とて理解の外に及ぶ存在だ。

 

 化物、悪魔……そう形容するしかない醜悪な見た目をしている。

 

 ソレは虚ろな目をこちらに向けると、

 

「――神」

 

 自身に指を向け、そう称した。

 

「かみ……神だと!? お前がか!?」

 

 この際、この神を自称する男が何者かはどうでもいい。

 だが、神を称するのであれば、名は大事だ。

 神は、あまりに溢れ過ぎているのだから。

 

「名は何なのですか」

「――パズズ」

 

 パズズ……メソポタミアの神の一柱だったか。

 悪霊とも言われる、風と熱病を操る魔神。

 

「――戦争」

「何だ。世界中の戦争でも止めに来たとでもいうのですか?」

 

 いや、むしろ戦争を仕掛けに、か?

 決して善性の神と謳われたことは無いはずだ。

 毒を以て毒を制す。

 そのくらいの使われ方をされていた程度だ。

 

「――否」

 

 パズズは答える。

 先ほどから、存外と会話が通じている。

 この私を殺す気は無いのか?

 

「――近い」

「近い? ここに人間は私くらいしかいませんよ」

 

 人間の居住区には遠い。

 故に私はここにいるのだから。

 

「――戦争の開始」

 

 やはり、戦争を起こそうとしていたのか。

 何をきっかけに降臨したのか分からない。

 まさか、細菌を世界中に召喚する魔術に反応したとは思えない。

 あれは、もっと原始的で、そして規模こそ広いが、スケールは小さいものだ。

 

「――聖杯戦争」

「せい、はい……」

 

 せいはい……聖杯か!?

 

 まさか、開始されるというのか?

 

 あの極東の、噂に聞く蟲毒の呪術が。

 

「――再度問う」

 

 パズズはこちらを指さす。

 湾曲した指は、なるほど言われてみれば獅子のものに近い。

 確か、獅子の頭部と手足だったか……被っている毛皮が獅子のものなのだろうか。

 

「――汝?」

「……この私が」

 

 聖杯戦争。

 私が持つ情報は少ない。

 

 だが、マスターとサーヴァント。

 そのくらいの関係性のある2者が組むことくらいは知っている。

 

「私がマスターであるかと尋ねているのですね」

「――肯定」

 

 その瞬間。

 私の右頬に熱が走る。

 

「……ぐぅっ!?」

 

 パズズが目の前にいる。

 まさか熱病をかけられた?

 その疑いが頭をよぎる。

 

「――承認」

 

 だが、こちらに対し敵対する意思の無い神の姿を見て、それは無いと理解する。

 鏡を見て、己が今どのような状況であるかを改めて認識した。

 

「これが……令呪」

 

 熱の正体は令呪であった。

 何時からあったのか。

 もしかするとパズズが降臨した時からあったのかもしれない。

 

「――目的、殺害」

「殺害……誰をです?」

「――否。誰でも無い」

 

 その答えに、このパズズの目的は私と完全に一致していると理解した。

 

 何のことは無い。

 この神の存在意義こそが、そうであるだけなのだ。

 

「ああ。分かりました。では私の目的も明かしましょう」

「――傍聴」

「ずばり。人間を殺すことです。最初は我が細菌をと思いましたが――」

 

 パズズの降臨に応じて、全ての細菌の入っていた檻は砕け散っている。

 未完成の細菌達。

 私は自身に感染しているか魔術で確かめるが、その反応はない。

 こうなっては全滅してしまったとみるべきだろう。

 

「……良いでしょう。貴方、特技か何かありますか? 出来るだけ広範囲に殺傷力があると良いのですが」

「――弓兵」

 

 弓兵……聖杯戦争における役割の一つか。

 遠距離からの射撃が得意ということか?

 

「――熱病の拡散」

「……! ほう、ほうほうほう!」

 

 私がパズズのマスターであるからだろうか。

 ソレの少ない言葉でも、理解出来る。

 

 その恐ろしさも、純粋さも。

 

 ただ殺すことに特化した力が。

 

「――関係良好。目的統一。戦争開始」

「ええ。……言い忘れていました。私の名前はフレッキシブル」

 

 今となっては学位などどうでもいい。

 ただのフレッキシブル。

 細菌も失い、学者で無くなった。

 

「よろしくお願いします。同胞パズズ」




《フレッキシブル》
弓兵のマスター。南極にいたこと、資格を持っていたこと、召喚術が偶然にも従者の召喚にも作用してしまったが今回の事態を招いた。
触媒は彼が作り上げていた細菌。世界中に召喚されるために魔力を帯びていたことで触媒としての価値が跳ね上がり(性質故に数も膨大)、加えてとある理由もあり、神でありながら召喚されることとなった。
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