Fate/paradise その小さな身に秘められし大望   作:そらからり

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5話 楽園の外内

■楽園の外

 

 開幕の合図は弓兵の放った1本の矢。

 その射線が描く半円状一帯全てに病が降りかかる。

 弓兵の役割を与えられしは魔神パズズ。

 またの名を悪霊の王。

 

 神霊であるが故にその召喚自体本来は有り得ないものであった。

 

 だが、パズズがパズズであるが故の思考と、マスターであるフレッキシブルの野望が噛み合ったこと、加えて一部を除いたステータスのほとんどを喪失していることで不可能を可能にしている。

 

 その一部……つまりは宝具とスキルのことであるが、パズズは己を病の射出装置――感染源のみに力を偏らせている

 

「――発射」

 

 その矢に実体は無い。

 たとえ当たったところで肉体へのダメージは一切無いだろう。

 ……当たることなど万に一つも無いのだが。

 

 それは、病の塊だ。

 パズズの権能である風と熱病。

 熱病を矢という形に押し込め、風に乗せて拡散させる。

 斜線下に熱病を振り撒き、発病させるという、悪霊に相応しい力である。

 

「――宝具展開『足元を見よ、それが貴様の終点である』」

 

 降り注ぐ。

 雨のような、光のような、塵のような。

 矢から零れ出た病の残滓が降り注ぐ。

 

 パズズの矢は南極の楽園に向けられ、それを超えていく。

 つまり、楽園を縦断するように、楽園の中心に病を振り撒く。

 

「(……何ともまあ、英霊とはかくも常識の範囲外の存在ですね)」

 

 改めて、自身が召喚した英霊の力を目の当たりにすることで、フレッキシブルは己の優秀さを自覚する。

 そも、三大騎士クラスの時点で当たりだ。

 いくら特殊能力に振り切っているとはいえ、パズズは弓兵。

 それも、神である。

 

 神を従者として連れている。

 フレッキシブルの自尊心は膨れ上がる。

 

「まずはこのおかしな街を落としてください。聖杯戦争など、結局は人間同士の殺し合い。英霊がいくら強くとも、他のマスターが死にさえすればそれで終わってしまうものです」

 

 それは、聖杯戦争に正しく臨む者からすれば最悪な考え方であるが、ただ勝ち残るだけであるならば決して間違っていないものである。

 暗殺者のクラスのサーヴァントを呼び出したマスターは実際に他のマスターの暗殺を実行し勝ち残った例もある。

 マスター殺しは有用にして有効。

 パズズの力であれば最適解ともいえる。

 

 加えて、パズズは英霊との戦いを望んでいない。

 ただ、人間を殺すことだけ考えている。

 戦闘に対する敬意は無い。

 戦闘に対する未練は無い。

 戦士としての誇りも、英霊としての矜持も無く、ただ人間を殺すことが彼の思考を占めている。

 

「――容易」

 

 パズズが所有する2つの宝具のうちの1つ、『足元を見よ、それが貴様の終点である』を含め、どちらも人間を殺すことに長けた力だ。

 既にパズズの魔力――熱病は街にばら撒かれた。

 そこにスキルによる病の進行率上昇が加わり、瞬く間に街中が病に侵される。

 

 人間である以上……否、生物である以上パズズの病から逃れられない。

 致死性の熱病にかかったが最後、生き延びることなど出来ない。

 

 ――それが、楽園の外であったならば。

 

 

 

 

■楽園の内

 

「何だろう……虹かな?」

 

 ソレを見た時、反応は二分化されていた。

 

 ある者は綺麗だと称えた。

 南極に広がるカーテン……オーロラの一種であると。

 あまりにも緊張感の無い、魔術に造詣が深くとも戦闘経験の少ない者や、警戒心の薄い子供であれば、それが如何に危険性を秘めていたところで、ただの気象や現象として捉えるしかない。

 

「キャスター。南極でも虹は見えるの?」

 

 故に、キャスターのマスターであるメストは子供さながらの純粋な瞳でその光景に見惚れていた。

 隣に立つ女性の方が比較にならないくらい美しいことは知っているが、しかしいつでも見られるものと、この一瞬でしかみられないもの。

 後者に目を奪われてしまうのは当然であろう。

 

「あれは……」

 

 メストの指さす方を見て、キャスターは眉を潜める。

 それは、明らかに自身を、そしてこの楽園を害するものだ。

 

 このまま放っておけば、せっかくの楽園を潰されてしまうことは確実である。

 

「そうね。虹よ。だから、すぐに消えてしまうわ」

 

 キャスターが手を軽く振る。

 彼女にこの矢を放った正体は分からない。

 どころか、この矢がどのようなものなのかすら知らない。

 

 だが、直感的に放置は出来ないと、何か良くないものが楽園に近づいていることだけは察知出来た。

 

 故に、彼女もまた操る。

 風が病を運ぶのであれば、病を吹き飛ばすのもまた風である。

 

 キャスターが片手で操作する風は楽園に住まう住人及び、招かれざる客全てを包み込み、彼らを侵そうとする病魔を楽園の外に追いやる。

 

「……そう。あれが綺麗に見えるのね」

 

 次いで、メストの周囲の空気を操作することで多大な大気の壁を生み出し、パズズの矢とその射線を視覚的に見えないように細工した。

 

「あれ? 見えなくなっちゃった」

「仕方ないわ。永久に見えるものなんて無いもの」

 

 少し残念そうな顔をするメストに向け、キャスターは慰めるような言葉をかける。

 

「虹が好きなのかしら?」

「好き……分からないな。でも良く見たよ。生まれた場所が雨多かったから。雨はあまり好きじゃなかったけど、虹は……好きだった……のかなぁ」

「虹は嫌い?」

「嫌いじゃないよ」

「ふふ。なら、きっと好ましいものなのよ。この世には好きなものと嫌いなもので構成されているわ」

「そう? それ以外のものもありそうだけど」

「それはね、貴方がまだ知らないだけ。好きと嫌い、そして未知のもの。未知が既知になる瞬間というのはね、自分の中で好き嫌いが分かれる時なのだから」

 

 そう、メストに語るキャスターの表情は、言葉程明るいものではない。

 好きなものを語るよりもむしろ、何か嫌いなものを思い出すかのような表情だ。

 

「キャスターにも嫌いなものはあるの?」

「……そうね。あったかもしれないわ」

 

 メストはキャスターの真名を知らない。

 否、聞かされているのだが、その名の意味する正体をこれまでの短い人生の中で聞いたことは無かった。

 同名の、とても綺麗なものは知っていたが、それと全く同じというわけでもあるまい。

 だが、きっと神様のような存在なのだろうと推測していた。

 

「ねえキャスター」

「何かしら?」

「この世界で一番綺麗なものって何だろう」

「……そうね」

 

 キャスターはメストを、己が作り上げた楽園を、最後に地平線を見つめる。

 いずれも華美で、醜悪で、偽りで溢れたもの。

 それを知っているからか、

 

「醜さを知っているもの、かしら」

「……ふうん?」

 

 キャスターの言葉の意味を理解できず、曖昧な相槌をしながら、しかしメストは疑問に思う。

 

「キャスターよりも綺麗なものもあるの?」

 

 メストの知る限り最も美しい存在。

 それがキャスターだ。

 

「……あるわ。とても醜くてとても綺麗なものが」

 

 暗い表情をするキャスターは、その儚げな表情もメストの心を惹かせる。

 

 まさかキャスターは自身の美しさを理解していないのではないだろうか。

 そんなことをメストは思いながら、

 

「でも僕が知っている中だと一番綺麗なのはキャスターだ。だから、僕の世界の中の一番はキャスターなんだよ」

 

 彼なりの精一杯の励ましの言葉を贈る。

 

「だから僕が強くなる方法を教えてよ。キャスターの、キャスターだけの騎士に僕は成らなくちゃいけないんだから」

 

 メストの魔術の素養。

 それが高いのか低いのか、キャスターに測ることは出来ない。

 

 だが、単純な魔力量だけで言えば、そこらの魔術師を遥かに凌駕している。

 

「ええ、勿論よ。敵はすぐにでも攻めてくるわ。時間があまりないけれど……その時は、私の為に戦ってくれるかしら?」

 

 かつて騎士を侍らせていた。

 最強の騎士を。

 キャスターはメストの姿を、その騎士に重ねながら、思う。

 

 今度こそ、最期まで私を守ってね、と。




宝具のルビは考えるの難しいので考えないことにしました。

『足元を見よ、それが貴様の終点である』
パズズの第一の宝具。
致死率100パーセントの病を矢の形にし、放つ対軍宝具。
致死性と効果範囲(レンジ)にのみ力を注いでいるため、パズズ本体はサーヴァントの中でも弱い分類になる。一般的な魔術強化をしていないキャスター並み。
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