Fate/paradise その小さな身に秘められし大望   作:そらからり

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6話 平賀源内

《フレイ・ロット》

 

「……何も、無い?」

 

 禍々しい魔力。

 そこから降り注いだ死を前に身構えていたが、己の肉体には何の変化も訪れない。

 限りなく遅効性の何か、というわけではない。

 それくらいは自分の眼で確認出来る。

 

 だが、だからこそ、何も起こらなかったと、杞憂であったと安堵することこそが恐ろしい。

 

 空に軌跡を描いた魔力の矢は絶対なる死そのものだ。

 それは間違いない。

 私の眼でも、それは見抜いた。

 

 だからこそ、それを無効化したものが、この楽園の機能あるいは楽園の主であるとするならば……。

 私すらも助けた意味が分からなかった。

 

 無差別にか?

 私如き、助けようと見捨てようとどちらでもいいから。

 楽園の住人ごと、私だけ判別するのが面倒だったから、まとめて助けたというのか。

 

「おおー……今のはとってもヤバかったな!」

 

 隣で青い顔をする狂戦士――平賀は危機感があるのか無いのか分からない。

 召喚と同時に命を落としかけた私を救ってくれたことは感謝しよう。

 そも、狂戦士という魔力を根こそぎ持っていくようなサーヴァントである彼女自身のせいだと言えなくも無いが、それは別に平賀が悪いわけではない。

 むしろ、本来であればキャスター――魔術師が相応しいだろう平賀を狂戦士として召喚してしまった私の手腕と運の悪さこそ謝るべきかもしれない。

 彼女にとって必要性の薄い戦闘力を得る代わりに、彼女にとって必要性の高いスキルの幾つかがランクダウンしているからだ。

 それが平賀の力をどれだけ制限してしまっているか……マスターである私が覗いたステータスからでも分かる。

 

「えーと……バーサーカー……じゃなくて、平賀だっけ?」

「おう! ウチの名前は平賀源内だぞ!」

「平賀ってどんなことをした人なんだっけ?」

 

 残念ながら私に平賀源内という名の偉人について知識は少ない。

 マスターであるならば召喚前にその知識は入れておくべきなのだろう。

 触媒をあらかじめ用意していれば、召喚できるサーヴァントはある程度選べるだろうし、知識があるほど連携もしやすい。

 

 だが、流石に電化カタログではサーヴァントを予想出来ない。

 どころか、私がマスターになるだなんて小一時間前には予想していなかったことだ。

 私が平賀源内について知っていないのはむしろ理に適っているだろう。つまりは合理的だ。

 

「んー……ウチのことか」

 

 それは、何か思案というか悩んでいるように見えた。

 平賀を召喚してまだ数十分。

 それだけの短い付き合いだが、はつらつとした元気な少女という第一印象だからこそ、その表情は珍しいなと感じた。

 

「何でもやったな」

「何でも?」

「うん……たぶんウチの触媒に使ったのは電子機器の一覧書だろう? なら発明家としてのウチが望まれているんだろうな」

「発明家としてって、他の平賀もいるってこと?」

 

 ちなみに私が南極に持ってきた地球のどこでも、どんな環境でも使えるという触れ込みのスマートフォンは現在あまり本来の機能を有していない。

 電話くらいなら出来るが、それ以外は失ってしまっている。

 なので、平賀源内と検索して調べることが出来ないため、平賀については彼女自身に教えてもらうしかない。

 

「まあな。絵も描けるし、医者の真似事も出来るし、物語を紡げるし、地質を調べることだって出来る……はずだったんだけどな。残念ながら今のウチは稀代の発明家である平賀源内。その力しか持ち合わせていないみたいだ」

「それは……貴女が狂戦士のサーヴァントだからかしら?」

「いや、この場合は触媒の問題だ。だけどそれは主の責任じゃないぞ。むしろこの場合はよくやったと主は自分を褒め称えるべきだ」

 

 その言葉と共に、何故か平賀はふふんと胸を張り誇らしげな顔をする。

 

「ウチは分かっているぞ。残りの枠がバーサーカーしか無かったってこともな。だから、ただの平賀源内として召喚されていたら、ウチはただの器用貧乏な奴として召喚されていただろう。絵も描けるし、医者の真似事も出来るし、物語を紡げるし、地質を調べることも出来るし、多少は機械を弄りまわせる、そんな器用貧乏で何も残せない秀才止まりの凡人にな」

 

 要は今の彼女は一点特化。

 発明家としての一つの才に特化した平賀源内という逸材がここにいる少女ということらしい。

 

「再度言うが誇るといい。今のウチは電子機器を弄りまわすことしか出来ないが故に、電子機器をかなり自在に弄りまわせるんだ」

「……そう。なら、良かったわ」

 

 平賀が納得している。

 ならばそれで良かったのかもしれない。

 

「それで主よ。ウチらの方針はどうする?」

「そうだね……私達、直接的な戦闘は出来ないから……」

 

 私は言わずもがな。

 そして、狂戦士であるが平賀も戦闘に向いたサーヴァントというわけではない。

 やはり魔術師として召喚した方が強かったのではないかと思うほど、工房を構えて準備に時間をかけた方が強くなれそうである。

 

「でも貴女が力を振るうなら、やっぱり材料を集めた方が良いよね?」

「そうだな。主の通信機器は既に消費してしまっているから、その時計を借り受けることになるが、良いか?」

「……これは最後の手段にして」

 

 思わず自身の左手首を抑える。

 これは少ないボーナス3年分をはたいて買ったブランドものだ。

 3年分でも大した金額にならなかった私の給料が低いのかもしれないが、それでもこの時計を失えば私は狂戦士以上に発狂する自信がある。

 

「んー、ならそれを使うのは先ほどのと同様に主の生命危機の際だな」

「それでいいわ。流石に命に代えられないとまでは言わないから」

 

 スマートフォンに関してはそろそろ替え時だと思い始めた頃であったのが幸いだった。

 中のデータはまあ諦めよう。

 どうせ1人で撮った写真くらいしか入っていない。

 

「これからしばらく材料集めと戦力の強化。私はこの街の調査も兼ねてみるわ。何か視えるかもしれないし」

「そちらは任せたぞ! ……ん? 主の眼は特別製なのか?」

 

 私の言い方が引っかかったのだろう。

 可愛らしく首を傾げて平賀は尋ねてくる。

 

「魔眼よ。聞いたことはあるかしら」

「生前は無いな! だが召喚時に得た知識の中にはある。便利な眼というわけだ」

 

 そんな簡単なものではない。

 中には呪われていると称すべき魔眼もあるし、国家戦力を書き換えてもおかしくないものもある。

 ……まあ、私のは平賀の言う通り便利なもの程度であるが。

 使うとしばらく眼が渇くからあまり乱用したくはないのだけど。

 

「本質を見極める眼よ。贋作に騙されることは無いわね」

 

 とはいえ、本物に関してどこまで本物であるかは見えづらい。

 先ほど視た死の矢も、その正体については分からないままだ。

 ただ死にそうだなと感じただけ。

 脅威を脅威としか捉えることのできない、場面によっては役立たずの魔眼である。

 

「主が思う程、卑下するようなものではないと思うけどな」

「ありがとう。でも本当に期待はしないでね?」

 

 魔眼持ちとしても、そして魔術師としても私は平均以下だ。

 それでもここに立っている限り、戦うしかない。

 全力で立ち向かうしかない。

 

「宝具の材料は電気に関する機械が良いのね?」

「そうだ。ゼンマイ仕掛けのからくり人形とかだとうまく機能しないぞ」

 

 見たところ、大通りに巨大な時計が見える。

 頼むから電気に溢れた街であってくれ。

 たとえ南極に似合わずとも。

 楽園の名に偽りあったとしても。

 

 現代の人間が住まう限り、今や機械とは切っても切り離せない関係となったのだから。

 

「いっくぞー! えっれきてるぅ~!」

「貴女そんなキメ台詞あったの!?」

 

 キャラ作りだとするならば、そんな個性的な台詞は口にしてほしくない。

 たぶんだけど、真名に関わりあるよね?

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