Fate/paradise その小さな身に秘められし大望 作:そらからり
《フレイ・ロット》
魔眼は平均以下。
魔術師としても平均以下。
全てが平均以下だとするならば。
果たして運すらも平均以下とみるべきなのだろうか。
「……平賀。逃走経路は確保できそう?」
「難しいな! ウチ1人なら何とかできそうだけど、主がいるからな」
あっさりと。
私が足手まといであるという事実を述べる小さな少女。
だが、間違いではない。
魔術戦において。
サーヴァント戦において。
私が何か役に立てるとは思えない。
せめて足を引っ張らないように逃げようとすることすらも、彼女達からすれば足を引っ張っているとみなされるのだろう。
「サーヴァント……騎兵。つまりはライダーみたいね」
これもまた運の無さが故だろうか。
足の遅さを懸念した私だが、相対しているのは機動力に長けたサーヴァント。
今は何かに乗っているようには見えないが、宝具が動物とか幻獣を召喚するものなのだろうか。
「まずは名乗り給え! 神聖な戦いの前に互いの名を知ることこそ、我が総統閣下に対する敬意である!」
……間抜けな出会いがしらであった。
半ば観光気分で街中を散策しようとしていたのが間違いであったらしい。
すぐに敵に見つかり、こうして戦いを挑まれてしまった。
……不意打ちを受けるよりかは幾分かマシだろうけど。
敵である騎兵は若い男だ。
分類としてはイケメンの分類に余裕で入る、今をときめく塩顔系。
私の好みで無いが、他の女子が彼を見たら惚れていたかもしれない。
だが、それよりも問題がある。
「主よ。あれは軍服というやつではないか?」
騎兵の服装。
皺ひとつない黒い制服に制帽。
特徴的なその衣装は私も見覚えがあった。
というか、教科書に載っているのを見たことがある。
「ドイツ軍……」
「ドイツというとウチが死んだ後にようやく関係を結んだ国の一つか」
間違いない。
近代英霊というやつだ。
ドイツ軍……英霊にまで昇格するのであればナチス親衛隊か、もしくはそれ以上。
いや、総統閣下という上位の存在を匂わせているあたり、親衛隊止まりか。
「私はフレイ・ロット。こっちの小さいのは平賀源内よ」
「そうか! 名乗り感謝する!」
こちらに向け敬礼する騎兵。
規律正しさは生前からか、それともそのように語り継がれているからか。
「自分はミハエル・ヴィットマン。階級は……残念ながら今の自分に知る由が無い」
彼がどの階級の時点での召喚と至っているのか、それは彼自身でも分かっていないらしい。
「死後の知識も聖杯から与えられているんでしょ? なら、最期のでいいんじゃないかしら」
「……ふむ。そういうものか」
「もしくは、一番相応しいと思った階級、あるいは今の主に聞いてみるのはどうかしら」
暗に、主を出してみろと訴えてみる。
私がサーヴァント戦の弱点であるならば、相手の主とて同様の可能性がある。
如何にも戦いに向いていそうな軍人を召喚したあたり、ミハエルの主は魔術師では無い可能性が高い。
神秘の全くない軍人を召喚するなんて、素人のやることだろう。
……発明家を狂戦士として召喚した私の言えるところでは無いが。
「……貴様は女ながらに己が意見を持つ者のようだ。自分は好ましく思うぞ」
ふっ、と小さくこちらを見て笑う。
私の好みから外れていたが、向こうは違うようだ。
軍人からすれば、女は三歩下がって……くらいにしか思っていないだろうと考えていたが、ミハエルは違うようだ。
「主、か……」
「貴方のマスターは誰かしら? もしかして、アドルフ・ヒトラー?」
無論、そんなわけは無いだろう。
カマかけ、というよりもただミハエルのマスターについて少しでも情報が欲しくて出した苦し紛れの言葉。
だが、これは自分で言ってみてかなりの失敗であったと自覚した。
彼らにとってヒトラーは神格化していてもおかしくない存在だろう。
それを私は侮辱ともとれる発言をした。
怒り狂ったミハエルが平賀を無視し、私を狙ってもおかしくはない。
「……くくっ。やはり面白い」
「……?」
「これが現代の女か。やはり自分の時代とは価値観が違う。……それは、そちらの平賀も同様だろうが」
いや、平賀は恐らく当時から周囲と価値観が違っていただろうけど。
「気に入ったぞ、女……フレイであったか」
「随分と第一印象と違うわね。チャラくなった」
「プライベートは案外このようなものだ。自分は軍人であると同時に一男子であるからな」
さながら乙女ゲームに出てくる攻略キャラのようにキザったらしい笑みをこちらに見せる。
……いや、この場での攻略法を考えてはいたけど、こんな方向ではない。
ミハエルを惚れさせてこの場を乗り切ろうとか私のキャラクターでは無いな。
「平賀……仕方ない。私の腕時計を――」
平賀に一歩近づこうとした瞬間、私の足元が爆ぜた。
破片が私の靴に刺さる。
南極仕様の厚めのブーツで助かった。
足に目立った負傷は無い。
「次は当てる」
ミハエルはいつの間にか拳銃を構えていた。
その銃口からは煙がみえている。
……そうだ。近代英霊。
彼に神秘は無くとも、近代の武器に精通している。
軍人であるなら尚更だ。
サーヴァントクラスは騎兵でありながら、軍人故に戦闘術も学んでいるだろうから、近接戦闘もこなせるはずだ。
「……これがサーヴァント」
いや、まだミハエルの実力の一端も見ていない。
これは軍人としての実力なだけであり、サーヴァントとしての圧倒的な力は未だ見せていない。
だが、今の彼にとっての牽制程度の一発だけで私がミハエルに勝てるヴィジョンは見えなくなった。
「今のに反応できなかったところをみると、そちらの女は非戦闘員ということか」
「……時間さえあればウチだって戦えるし! でも多分今のは避けられないけどな」
正直なのは良いことだが、この場合はもう少し見栄を張って欲しかった。
打つ手が無いことを正直に明かせば、ミハエルは速やかにこちらを抹殺してくるだろう。
「……ふむ」
だが、ミハエルは何故か顎に手を置き悩んでいるようだ。
……何に悩む必要がある?
私なり平賀なりの眉間その拳銃で撃ち抜けばそれで戦いは終わりだ。
「自分は軍人だ。戦えぬ者を、それも女を一方的に殺すには少し躊躇がある」
「……見逃してくれるってこと?」
そうであればどれだけ有難いことか。
……あ、でもいずれは戦うのか。
「いや、見逃すことは無い。これは聖杯戦争。軍人である自分にとって戦争相手を見逃すというのは……」
なるほど。
戦えない女を殺したくないという気持ちと同時に、私達を殺さないことには戦争の片が付かないことに悩んでいるのか。
「……そう、捕虜だ。戦車乗りである自分は滅多に無いことだが、敵手を捕らえることは悪いことでは無い。それに、君達を主に献上すればもしや例の件も――」
例の件?
ミハエルはミハエルで何か問題を抱えているようだが、その言葉の中身までは分からない。
だが、ここを交渉材料にすることは出来るはず……だ。
「この子は平賀源内。日本が誇る天才発明家よ。バーサーカーで召喚されてしまったけど、発明家として支援には長けているわ」
戦えない、だけど同盟相手としては一考の余地がある。
そう、ミハエルに思わせたい。
「……発明家、か」
「それはそうと、先ほどの質問に戻っていいかしら。貴方の主は何処の誰?」
加えて時間稼ぎ。
とにかく、この場で私達を殺すという選択肢をミハエルの頭から消し去りたい。
何でもいい。
保留でも同情でも、この場は見逃すという選択肢さえ辿り着ければ。
「そうであったな。平賀のマスターであるフレイが名乗ったのだ。無断ではあるが、自分のマスターの名くらいは伝えてもいいだろう」
ミハエルは公平公正でも心がけているのだろう。
男と女。
戦闘員と非戦闘員。
先ほどからの発言でも、不公平性をあげれば、なるべく公平に保とうとする気がある。
「フレイ。君は我が主を総統閣下では無いかと先ほど予測していたな。だが、それは的外れである……いや、少しだけ当たっているところもあるか」
「ドイツの人間なのか?」
「いいや? 我が主は……いや出自を語るのは止めておこう。君は名を述べた。故に自分も主については名前だけだ」
「随分と勿体ぶるわね」
「ああ。君と話すのは楽しくてね」
いいから早く言え。
「とはいえ、あまり待たせるのも軍人としてどうかと思う。主の名はジム――」
ミハエルの告げる彼のマスターの名を最後まで聞くことは出来なかった。
何故なら、彼と、そした私達に巨大な岩がいくつも降り注いだのだから。
「……チッ」
ミハエルは腰の拳銃を抜き岩を迎え撃つが、当然ながら多少砕け小さくなるだけで完全に吹き飛ばせはしない。
この時点でミハエルの拳銃の威力も相当なものだけど、この巨石が隕石の如く降り注ぎ、しかもミハエルが撃ち落とせていないという非情な現実は書き換えようのないものだ。
「ひ、平賀……!」
「あわわ……何かないか何かないか……」
まるで青ダヌキのように慌てながら周囲をきょろきょろと見る平賀だが、咄嗟に探したところで彼女の求める電子機器は見当たらない。
というか、あっても間に合わないだろう。
「『
平賀の焦燥が私に伝わったのか、揃っておろおろとその場で抱きしめ合う私達を尻目に、その巨石は全て粉砕された。
「……ふむ。自分達の逢瀬に横やりを刺す不届き者が現れたようだ」
ミハエルと、その隣に出現した戦車。
その視線と砲身はある方向に向けられていた。
即ち、新たな敵影へと。
私は運がやはり無い。
次々に現れるサーヴァント。
だが、縁は少しばかり良いようだ。
ここは頼るとしよう。
ミハエルという英霊を。
全世界のミハエルファンの方ごめんなさいとだけ言っておきます。
たぶん活躍はするはずだから……
感想等お待ちしていますが、まだ話が動いてないですね……