Fate/paradise その小さな身に秘められし大望   作:そらからり

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8話 遊戯盤

《メスト・ノル》

 

「キャスター、これは何?」

 

 キャスター陣営の現状としては積極的な戦闘を行わず、彼らに必要な戦力を整えるための準備が行われている。

 とはいえ、本来キャスタークラスとしては工房を構え、使い魔や利便性の高い魔道具を作成するというのが定石であるが、この陣営に関しては全く別だ。

 既に『南極の楽園』という形でキャスターの工房――陣地は作られている。

 彼女に道具作成のスキルは無いが、代わりに陣地内における育成に関する上昇スキルを持ち合わせており、それを使うことでメストの強化を図っていた。

 彼女の主な戦法は風の魔術……ではなく、配下による戦闘だ。

 配下を育て、指揮し、戦いに勝利する。

 

 既に聖杯戦争が始まっている最中において、配下の育成などと悠長なことは言えないはずなのだが、キャスターはマイペースに己がマスターを育て上げていく。

 そも、マスターが非戦闘員どころか魔術の素養が無いことが問題なのだ。

 戦闘を経ながら育てていくことは多大なリスクを秘めるのであれば、こうして安全地帯で少しずつ魔術を教えていく方が良いだろう。

 

「これはね、この街の縮図よ。私の玩具の一つ」

 

 修行の合間。

 幼い彼は魔力こそ膨大に持っているが、体力は年相応にしか無い。

 そのため、休憩は頻回に必要とするのだが、その時間にメストはキャスターが眺めていた遊戯盤のようなものに興味を持ち、這いながら彼女の下に近寄る。

 全身汗まみれの彼を見たキャスターは、一陣の風を起こし彼の体温を下げると同時に汗を一か所に集め、どこかへと消す。

 簡易的に清潔にはされたが、しかし体力は戻ることは無い。

 だが、一瞬のうちにキャスターの真後ろにメストが立つ気配を感じたキャスターは修行の成果を喜び、彼に遊戯盤に置かれた駒の一つを指さした。

 

 街をそのまま縮小したかのような盤。

 建造物どころか、小さな街灯やプランターすらも正確に置かれている。

 それもキャスターのスキルか魔術の為せる業なのだろう。

 時折、小さな音が聞こえ、何かが破損していくことから、リアルタイムに街は更新されているようだ。

 

「これがキャスターの駒。聖杯戦争に召喚されるサーヴァントのクラスは全部言えるようになったかしら?」

「うん。セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカーだよね」

「正解よ。このキャスターの駒がある位置が私達の現在位置。楽園の中央、大鐘楼の置かれたこの塔こそ私達の陣営の最奥地ね」

 

 キャスターが張った風の防衛結界陣。

 それはこの楽園の中で最も高い塔を中心に作られている。

 風であるが故に不定形。

 塔に近づくほどに強固になるが、その結界の境界線は曖昧である。

 

「あれ? ここに3つあるよ」

 

 楽園にはアーチャーの駒を除いた6つの駒が置かれている。

 アーチャーのみ楽園の外に置かれているのは、未だ彼のサーヴァントが楽園の外から攻撃を行い到着していないためだ。

 今はキャスターが風を起こして防いでいるが、あまり煩わしいならこちらから招待してやろうか、と考えながらメストの質問に答える。

 

「先にあったのはライダーとバーサーカーね。この2つだけなら戦力差があるからすぐに決着が着くと思ったけれど……とんだ邪魔が入ったみたい」

「3つ目はランサー……槍兵のサーヴァントだね。あれ? でも石ころが現れては消えているけど」

 

 街の縮小盤の中では突如小さな石が出現しては砕けるという現象を繰り返している。

 だが、それは小石すらもこの盤の中で縮小されているだけであり、キャスターにはそれが街にある住居にも迫る巨石であると理解していた。

 巨石を召喚する宝具の類なのだろうが、それを砕くのもまた宝具。

 この盤面においてライダー対バーサーカーから、ライダー対ランサーの戦いに移行したことは間違いない。

 

「問題無いわ。石ころ程度、私が跳ね返すもの」

「そっか。キャスターは凄いんだね。僕だったら……避けるしか無いかな」

 

 この遊戯盤がある限り、キャスターは街で起こる状況を知ることが出来る。

 誰がどこにいるかだけでなく、何をしているかまで。

 周囲が破壊されれば戦闘時であることまで。

 

「キャスターはどっちが勝つと思う?」

 

 まるで他人事のようにメストは問う。

 いずれこの戦いに自分も赴かなければならないのに。

 それもまたキャスターの育成の結果だ。

 キャスターに都合の良いように思考すらも誘導されている。

 

「ライダーとランサー。この2名だけならランサーね」

 

 はっきりとキャスターは断言する。

 彼女には彼らの真名すらも見えている。

 楽園に入った時点で彼らは彼女の支配下とは言わないまでも、情報はほぼ丸裸だ。

 真名、彼我の戦力、宝具までも。

 それらを統括し、キャスターはランサーが有利であると判断している。

 

「ライダー……ミハエル・ヴィットマンという名前は知っているかしら?」

「ううん。知らない」

 

 幼いが故に授業では習っていなかったのだろう。

 メストは首を横に振る。

 

「簡単に言えば軍人ね。今からそう……150年くらい前の」

「そんな最近なんだ」

「そうよ。戦争は極最近まで行われていたの。私は体験していないのだけどね」

 

 ならばキャスターは生前何を体験し、何を成し遂げた人物なのか。

 メストはそんな疑問を抱いたが、キャスターは続けていく。

 

「軍人だから拳銃を使う、戦車を乗りこなす。戦いに慣れているわ。バーサーカー程度なら軽くあしらえる実力を持っているみたい」

「あ、さっきの石はライダーが砕いていたんだ」

 

 キャスターの戦車という言葉で、メストはようやく先ほどの小石が岩であり、それをライダーが防いでいたことを察した。

 

「勿論英霊だからライダーの能力も、武器も強化されているわ」

 

 少年だから、と思ったがあまり戦車という言葉には食いついてこない。

 キャスターはそんな少年らしからぬメストの反応を不思議に思いながら、

 

「でも、結局は軍人よ。本物の戦士には敵わないわ」

 

 ライダーとランサー。

 両名の実力を知っているから導き出した結論を口にする。

 

「ランサーは本物の戦士にして一国の王。南極という極寒の地だから力は落ちていると思ったけど……この楽園に上手く適応したのかしらね。ステータスの低下は無いみたい」

「楽園の王様なの?」

「いいえ。違うわ。楽園ではなく南国の王」

 

 その言葉の違いはメストに伝わらなかったようだ。

 首を傾げている。

 

「貴方も知っている名前のはずよ。知名度で言ってもミハエルを軽く凌駕する……というか、この聖杯戦争の中では1番なのではないかしら」

 

 知名度補正。

 本来であれば、ランサーはこの補正が最大となるだろう。

 この楽園の住人が彼を認知した時、彼を知っている者が多い程にステータスは上昇する。

 

 そのことを伝えると、流石にメストは焦ったのか、

 

「そ、それじゃあキャスターよりも強くなっちゃうんじゃないの!?」

 

 己が陣営の敗退を危惧する。

 

「ふふ。大丈夫。ここに招かれたお客さんは別として、ここの住人は誰一人として彼らを知らないわ。ええ、知っているのは私のことだけ。だって、私の楽園ですもの」

 

 そも、この楽園を作り上げたのがキャスターだ。

 相手を優勢にするようなことはしない。

 

「ひとまずは高みの見物と致しましょう? 私も知識として知ってはいるけれど、彼らの戦いを直接見たわけではないもの。きっと得られるものはあるはずだわ」

「うん。そうだね。ランサーが勝ち残って僕と戦うことになるのかな?」

 

 キャスターに促され、メストは真剣な表情で遊戯盤を見つめる。

 修行中であったのだが、休憩が随分と長くなってしまったものだ。

 座学は別の時間にと思っていたが、少しばかり前倒しになりそうだなとキャスターは考える。

 

「このままなら、ね」

「何か起こるの?」

 

 含んだような言い方。

 メストは何か見落としがあったのかと探る。

 

「あ、そうか。バーサーカーがまだいたんだ」

 

 戦力としては底辺であると見放されたバーサーカー陣営。

 だが、彼女らがライダー陣営に付けばどうだろうか。

 

 優勢であるランサー側を少しは揺るがすのかもしれない。

 

「ああ、忘れていたわね」

 

 だが、キャスターもまたバーサーカーのことは見放していたようだ。

 思い出したかのように、バーサーカーの駒を軽く撫でる。

 

「違うわ。この子達はライダーの敵よ? ライダーの味方は別にいるの」

 

 遊戯盤に配置された他の駒。

 それらは1つずつ置かれている。

 その中の一つにキャスターの視線は向いていた。

 

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