Fate/paradise その小さな身に秘められし大望   作:そらからり

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9話 争奪戦

《フレイ・ロット》

 

 器というのであれば、私は物語の主人公の器ではない。

 勿論、私の世界……人生の中であるならば、私は主人公であろう。

 私が主観なのだから私以外にこの人生を歩む者もいまい。

 この人格が第三者によって形成されたものでなければ。

 ……いや、人格形成は幼少期の育成で大小影響があるというから、私の人格がゼロから作られたわけではないけれど。

 それでも私の人格形成において洗脳や魔術といった非人道的な行為は行われていないはずだから、私の人生は私が主人公であることは間違いないだろう。

 

 だが、あくまで私のちっぽけな人生だけの話だ。

 もっと大きな、たとえるまでもなく私の言いたいことはこの世界での主人公を決めるという話である。

 世界的に有名な童話の主人公が決まっているように。

 ヒーロー漫画の主人公が決まりきっているように。

 恋愛小説の主人公が決定付けられるように。

 世界観における主人公は、主人公の器にある者が収まるというのが道理だ。

 

 この世界観の主人公はどのような人物か。

 

 少なくとも、私ではない。

 

 貧しくても、不幸であっても、浅学であっても、非才であっても、それでも主人公になれる……なるべき者はいる。

 逆に、富んでいても、幸運であっても、博学であっても、多才であろうとも、脇役になってしまう者はいるだろう。

 

 常に脇役の私。

 聖杯戦争という、一大事においても私という存在程度では、『フレイ・ロット』という名の魔術師が恐れ多くもマスターの1人に名を連ねていたと後世に少しだけ名前を残すのかもしれない。

 ……まあ、私がそれなりの活躍をすればまた別の話であるが。

 無論、勝利を諦めたわけではない。

 意地汚くも、というか、なりふり構わないくらいの気概で挑まなければ、合理的に考えても私では生き残れないだろう。

 

 そんな私であるけれど。

 今のこの状況はどんなに楽観的に考えても、『これなんて恋愛ゲー?』と思わざるを得なかった。

 

「彼女には自分が最初に出会ったのだ」

「カカ! 女よ、気に入ったぞ! 今回の件が片付いたら儂の下に来い」

「……女、貴様は必要だ」

 

 三者三様。

 強硬に、尊大に、言葉少なく私に手を伸ばす男たち。

 この中で味方と言えなくもない者が残念ながら1人もいないのだけど……唯一の味方である平賀を見れば気絶している。

 

「「「さあ!」」」

 

 私を取り合う理由はそれぞれあるだろうけど。

 全く嬉しくない戦いが始まったのであった。

 

 

 

 

 私に利益の無い私の為の戦いは、ライダーであるミハエルが突如降り注いできた岩石を彼の宝具で砕いたところから始まった。

 岩石は誰かが投石した結果だとかではなく、突如出現したことから宝具によるものだとすぐに理解した。

 だけど、頭では理解していても、咄嗟に回避出来る程私は戦闘経験に満ち溢れているわけではなく、隣で慌てふためく小さな少女も手を動かそうとするが、足は根付いたように動くことは無かった。

 正直、私を引きずるなりでこの場から動かして欲しかったけれど。

 それも含めて平賀らしいなと、そんな呑気な感想が浮かんだのはもう諦めかけていたからかもしれない。

 いや、無理でしょこれ。

 騎兵1人に翻弄されて全く戦いにさえならない。

 狂戦士の駒は魔力消費が激しい代わりに戦闘に長けているというのは嘘だったのだろうか。

 いや、魔力消費の方だけは真実だったのでより質が悪い。

 後者が良かった。

 

 ともあれ、燃費だけが最悪なサーヴァントを伴ってどうやって聖杯戦争を生き延びるかと問われれば、サーヴァントを変えたいですと答えるくらい、私はもう無理だと悟っていた。

 召喚した当初にあった前向きな姿勢は消えましたねこの数分で。

 

「やあ、怪我は無かったか? 全く、無粋な輩というのは時代を超えてもいるようだな」

 

 だからこそ、少しだけこのミハエルにときめいてしまっても仕方ないというやつだ。

 まあ、まだ全面的に信用は出来ないけど?

 でも、こちらをすぐに害するというわけでは無さそうだから少しだけ頼りにしようかなって思うことにしようかな。

 

「敵兵よ。すぐに姿を現すがいい。影からこそこそと、まるで男らしくない振舞いをするではないか」

 

 そんな安い挑発に敵が乗ってくれるかと思ったが、案外私の予想は外れやすいようだ。

 ここ最近、そんなことばかりだ。

 

「カカ。威勢が良い。どうだ? この儂が取り立ててやるから配下になる気はないか?」

 

 現れたのは長身の、しかし線の細い男だった。

 その言葉はどこか壮年期を思わせるが、若い男だ。

 こちらもミハエルに負けず劣らずの美男子。

 軍人であり体格の良いイケメンがミハエルだとすると、この敵は王子様を思わせる。

 配下とか言っているし、どこぞの王家の人間だとしても不思議ではない。

 長細い槍を担ぎ、悠々と歩く様に戦闘に赴く緊張感は全くない。

 

「悪い。儂はそこの女子に用があったのでな。みれば拳銃を突きつけているようであったし、気を引きつけるために宝具を展開してみたというわけよ」

「……そのわりに私も攻撃圏内だったのだけれど」

「カカ。細かなことは苦手でな。だから些事は気にするな」

 

 何が可笑しかったのか、男はひとしきり腹を抱えて笑う。

 

「カカ……カカカカ……カカカカカ……! いや、やはり現世は良い。誰も儂の顔色を窺わん……あやつを除いてな。ふむ。それで、貴様らは今、敵対関係にあるというわけではないのだな?」

「ああ、そうだ。そして貴様と敵対関係に移ろうとしている」

 

 私と協力関係もとい捕虜にしようとしていたのを邪魔されたのが気に食わなかったのか、ミハエルは敵意を剥き出しにしている。

 それを知ってか知らずか、王子様系の男は受け流す。

 

「ふむ、ならばそれは解消された。儂はお前達と戦う理由はない。まあ、これが戦争であるから最後には戦わざるを得ないが、な」

「……ならば一方的に撃ち殺させてもらおうか」

「そう焦るな。貴重な戦力だぞ。儂も、お前も」

 

 何故だから男はこの場を収めようとしている。

 そもそも、攻撃してきたのはあちらなのだが、それは先ほどの『悪い』という一言で謝った気になっているのではないだろうか。

 一歩間違えなくても死んでいただろう私としてはもう少し謝罪して欲しいのだけど。

 

「フレイ。君のサーヴァントである平賀と私のクラスを考えれば、まず奴はランサーで間違いないだろう。……言いたくは無いが接近戦では奴に分がある」

 

 長物を持っているのは槍兵、騎兵、狂戦士くらいだからだろう。

 ミハエルは相対した時点で相手の実力を肌で感じているようだ。

 まあ、私も先ほどの岩石を見て勝ち目があると考えることは出来ない。

 

「でも、さっき砕けたじゃない。ほら、あの大きな岩」

「だが、それは奴に遠距離の攻撃があると知れただけだ。まだ近接においては手の内を見せていない……ランサーなら特に警戒しなくてはならない」

 

 もしあの岩石を撃ちだす由来か何かで弓兵という可能性があれば……ミハエルの戦車との打ち合い合戦でもやはり本職である弓兵に分があるのかもしれない。

 

「悪いけど、やはり捕虜というのは無しにしてもらおうか。それよりも対等な協力関係を築きたい。俺が前線に立つから出来れば支援を……無理なら逃げてくれ。君の離脱を確認しだい俺もティーガーに乗って奴を撒く」

「うん、分かった」

 

 なんだ、逃げるのを手伝ってくれるなら早く言ってくれないと。

 

「平賀、行くよ」

「……うん? おう!」

 

 そのやけに威勢のいい返事は一拍遅れてやってきた。

 おい、まさか話に置いていかれていたとかじゃないよね?

 戦闘に向いていなくて発明家としての側面が前面にあるとか言っていたから、せめて知的キャラとしては確立して欲しいんだけど。

 

「即答過ぎるようだが……まあいい。その方が俺としても都合がいいからな」

「ミハエル、信じてるから!」

「……! ああ!」

 

 信じているからね。

 次に会った時も協力関係が続いていること。

 

 踵を返して逃げようとした私と平賀だったが、

 

「逃がさぬ……」

 

 中肉中背。

 下手すれば何の特徴も見当たらないような男が眼前にいた。

 

「へっ……?」

「逃がさぬぞ、女」

 

 いや、一つだけ特徴があった。

 顔の下半分。

 そこだけは布で覆われて見ることは叶わなかったのだから。

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