宝玉の花嫁   作:流々毎々

3 / 3
中Ⅱ・強者の資質

 

「武闘祭への参加ですか。一応確認をしますが貴方が?」

「ああ、そうだ」

 

 アレンは身なりの良い男からの質問に少し語気を強めてそう答えた。あの酒場での出来事からすでに一晩の時間が流れている。

 あの後、アレンはリゼンフォーラに付いてから利用していた格安の宿でチャックとのやり取りを吟味していたのだ。武闘祭へと参加するか否かを寝る事さえ忘れて考え悩んでいた。

 

 アレンがその答えを出すころにはすっかり夜が明けてしまい、目が充血した不健康な顔を宿の住人に見られ不気味がられてしまった。

 結局のところアレンは武闘祭に参加することに決めた。たった一回、欲を言えば二回勝つことができればアレンは惨敗続きの仕事に有り付けることができると思ったからだ。

 

 そうして朝一番に宿を出て、武闘祭が行われる中央街に足を運んだ。アレンはリゼンフォーラの東の端側にいたとは言え、中央街に付いた頃には既に太陽が真上に来ていることに驚く。宿を出たのは朝方だったのにここに辿り着いた頃には昼になっていたからだ。改めてリゼンフォーラの大きさに圧倒される。

 

 かくしてアレンは街の中心部にへとやって来た。チャックの話では武闘祭に参加するにはその旨を関係者に伝える必要があるそうだが、以外にもそう苦労することなく見つけることができた。

 武闘祭が行われるであろう建物は大きく外壁が十メートル近くある。その壁が円形状になっているため中の作りを見ることはできない。しかし他の建物とは明らかに造りの雰囲気が違うので、この街の事情に疎いアレンでもここで特別な事が行われる場所なのだと察する事ができた。

 

 そうしてアレンは、この建物の入り口らしき場所に机を挟んで椅子に座っている身なりが整った男に声を掛けたのだ。

 だがその男からアレンへの反応は芳しくない。

 

「武闘祭では参加者の代行などは規則として認められていません。仮にそのようなことをすれば厳しく罰せられます。もう一度確認しますが、貴方本人が武闘祭に参加するのですね?」

「そうだと言っている」

「・・・承りました。では武闘祭の参加費用として金貨一枚をお出しください」

「え?」

 

 アレンはその言葉に驚いた。チャックの話では武闘祭に参加するのにお金が必要だと聞いていなかったからだ。

 受付の男も汚くはないが継ぎ接ぎの古着を着ている、見るからに田舎者のアレンがそんな大金を持っているとは思っていなかった。大方、質の悪いゴロツキに担がれたのだろうと当たりを付ける。

 

「武闘祭は殺し合いの場ではありません。しかしつわもの達が全力をつくして戦う場であります。そうすると不慮の事故や大きな怪我などがどうしても出てきます。参加する戦士の皆様に払っていただく金貨一枚はそう言った不測の事態に対する必要経費なのです」

 

 武闘祭はその性質上、何かしらの怪我は付き物だ。素手での喧嘩ではなく、武器を用いた戦いであるため開催するたびに少なくない被害が出ている。一応武器は、抜き身ではなく布などを巻いて殺傷力を落としているが焼け石に水である。

 どれだけ対策を打とうと鍛えた大人が鉄の塊で頭を殴れば無事では済まないのだから。

 

 主催者側である貴族もそういった事情を理解しているため、武闘祭の当日には自分が抱えていている治癒師を用意したりなどして対策を打っている。たかが治癒師一人で何が変わるのなどと思われがちであるが、それこそ貴族などが抱えている彼らの腕前は尋常なものでなはい。

 

 特にリゼンフォーラの貴族が用意する治癒師は、外傷に限るなら即死でない限りどんな怪我も癒すとさえ謳われている。

 そんな彼らを一部の人間の間からは人知を超えた存在ー超越者として畏怖を集めていた。

 

「もし仮にこの事にご納得頂けないのでしたら、武闘祭への参加を見送る事を推奨致します」

「それはちょっと待って下さい」

 

 にべもない言い草である。しかしあからさまな田舎者のアレンを門前払いしなかっただけ寛容な態度であろう。

 そもそも参加費の金貨一枚は、半端者を出さない為の足切りの側面もあるのだ。

 

「どうなさいますか?」

「…払います。いや、払えるよ」

「え、」

 

 受付の男は少なくない驚きを零してしまった。自分の目の前にいるアレンが金貨一枚のお金を用立てる事など出来ないと高を括っていたからだ。

 

「失礼しました。ではお支払いをお願いします」

「ああ」

 

 アレンは震える手で此処までずっと不安から握り締めていた、金貨一枚分の通貨を懐から取り出す。

 

「それでは確認致します…、あの?」

「わかってます。わかってるんです」

 

 受付の男はアレンが取り出したお金が入った袋を受け取ろうとしたが、アレンがいつまで経っても通貨袋を離さない事に戸惑う。

 アレンも頭では払わなければいけないと理解してるのだが、身体がその事実を拒否していた。とは言え、これではいつまで経っても話が進まない。

 

 アレンは未だ未練が残るそれを振り払い手を通貨袋から離した。

 

 男はアレンから通貨袋を受け取り中身を確認する。中は銅貨がほとんどで、稀に大銅貨と銀貨が見え隠れした。

 男は、そんな懐事情から何となくアレンの背景が見えてきて哀れみを覚え始める。

 

 よくよく観察すれば体格こそ並みの大人より良いものの、アレンの顔立ちはまだ幼く見える。

 元服したての青年が藁をも縋る気持ちできたと思うと、どうにも小銭ばかりで手間が掛かる金銭確認をさせられても邪険に出来なかった。

 

「はい。ちょうど金貨一枚分の通貨が入っていました。それでは、こちらの参加札をお渡しします」

「…はい」

「お名前をお伺いします」

「アレンです」

「アレン様ですね。承りました」

 

 アレンは消えていった金銭がこんな板札一枚に変わってしまった事実に眩暈を覚えながら返事を返す。

 

「武闘祭は明後日の正午から始まります。それまでにこちらに来てお渡しした札をお見せ下さい。遅刻をしても、札を無くしても武闘祭への参加はできませんのでお気をつけ下さい」

「わかりま…、分かった」

 

 アレンは今すぐにでも嘆きたい気持ちになりながらも帰路に就こうとする。そんなアレンの背中に、受付の男は再度声を掛けた。

 

「言うまでもないですが当日はちゃんと武装して来て下さいね」

「え、武装?」

「はい。アレン様は見たところ丸腰ですが武器はどこかにお預けですか?」

「…」

「アレン様?」

「あ、はい。そうです、置いて来てます」

 

 当然、アレンは武器などと言う高価な装備を持ち合わせていない。

 

「それは良かったです。武闘祭に素手で参加する方などいませんからね。安心致しました」

 

 ニコリと愛想の良い笑みを浮かべた男は、最後に武闘祭頑張って下さいねと立ち去るアレンに言葉を告げるのだった。

ーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 どうしよう。

 アレンは宿に帰る道中でとても悩んでいた。咄嗟に嘘を言ってしまったがアレンに剣や盾などの装備があるはずがなかった。

 

 第一に鉄製の武器は高い。どれだけ安くても大銀貨五枚はするだろう。また、研いだりする継続的な整備費も馬鹿にならない。剣というのは、開拓村暮らしのアレンにとって高級品なのだ。

 そんな物は持とうとも思ったこともないし、今のアレンの手持ちは大銅貨七枚である。頼みの綱のヘソクリ分も先程の参加費で消えてしまった。

 

 どう考えても今の手持ちで武器が買えるわけがない。唯一アレンがお金を得る方法があるとすれば、村でも経験がある狩りだけである。しかしそれを行うには此処の地理や獲物の分布も不明だ。そもそも大銀貨分の稼ぎを2日でどうにかできるわけがない。

 

 それでもアレンは武器を調達しなければいけなかった。

 半ばヤケクソ気味に、目に映った武器屋と見られる店へと入る。

 

「あー?こんな半端な時間に客かよ」

 

 勢いに任せて入った店はアレンの予想通り武器屋であった。いくつかの棚に無雑作に売り物と思われる剣が置かれている。その奥にカウンターがあり、店の者がそれを挟んで正面からアレンを見つめていた。

 

「客かと思ったらガキか。おいガキ、ウチは大人が利用する場所だ。間違えて入ったんなら帰んな」

「間違えてない、武器を買いに来た。それと俺は成人してる。ガキじゃない」

「あー?」

 

 店の者はアレンからの返答に胡乱げな目線を向けながら唸る。そして、顎にたっぷり生やしたヒゲを指で梳かしながらアレンの体を上から下へ一瞥すると鼻で笑い飛ばした。

 

「やっぱりガキじゃないか。あまり大人を揶揄うな。お仕置きされちまうぞ」

「あんたはさっきから何なんだ。俺は客だぞっ」

「あんたじゃない。儂はジョゼフだ。一度は見逃すが次は無いぞ」

 

 店の者ージョゼフは、アレンの言葉を一蹴する。アレンもそんなジョゼフの態度に言葉を詰まらせた。

 

「まあ良い。仮にお前が客だったとして何を買うんだ?」

「剣が欲しい。出来れば一番安いので頼みたい」

 

「あー?金が少ないのか。なら半端に装備を整えてもしんどいだけだぞ」

「いいから一番安価な武器を教えてくれ」

「ちなみに予算は?」

「…大銅貨七枚」

「マジで言ってんのか?話にならんぞ」

 

 おおよそ一番安いショートソードで大銀貨五枚程で購入できる。中古のボロや新人が作った様な剣であればもう少し安くなるだろうが、頑張っても大銀貨二枚は割らないだろう。

 

 ジョゼフの店は一見こじんまりとした造りをしているが、競争の激しいリゼンフォーラで数代続く由緒ある武器屋である。置いてある商品も粗悪品はなく、ちゃんと手入れすれば数年は問題なく使う事が出来る武器ばかりである。

 

「あのな剣ってのは端金で買える程安くはないぞ。買えたとしても切れもしないナマクラかすぐ折れるオンボロくらいだろうよ」

「分かってる」

「分かってる様に見えねぇから言ってんだろが。確かにウチは大手の一流どころと比べれば劣ってるさ。だがな武器の質は負けてないと自負してる」

「…」

「それを何だおい。最低でも大銀貨はする武器を大銅貨七枚ぽっちで売って欲しいだと?馬鹿にしてんのかよ」

 

 ジョゼフの正論にアレンは黙るしかなかった。アレンだって、自分が如何に常識外れの事を言ってるのか理解している。

 しかしここで引くわけには行かなかった。何でもいいから武器を手に入れなければ武闘祭に出れないのだ。

 

「ウチで一番安い剣がそこの棚にあるショートソードだ。値段は大銀貨六枚。それ以外だと、剥ぎ取り用のナイフか消耗品の投擲用のしかない。剣より安いがそれでも銀貨二枚はするぞ」

 

 ジョゼフは目の前の客擬きにどれだけの無茶を言ってるか、出来るだけ分かるように説明をする。

 これは別に親切心からそうするのではなく、細かく説明した方が客のゴネリを早く黙らせる事が出来るのを、長年の接客経験から知っているからだ。

 

 まあ、それでも聞き分けの悪いお客様には言葉でなく拳をお届けする事になるのだが。

 

「分かったろ?どう頑張っても武器は買えねぇよ」

「それじゃあダメなんだ。武器がないと俺は…」

「あー?」

 

 ジョゼフは怪訝な顔をする。この客擬きは武器をアクセサリーか何かと勘違いした戯け供と同類だと思っていたが、どうにも様子がおかしい。

 若干、面倒臭い雰囲気を感じつつも先を促す。

 

「武器が無いと武闘祭に参加できない」

「は!?武闘祭だと!お前なんかが出れるわけないだろ」

 

 あまりに予想していなかったアレンの答えにジョゼフは思わず素頓狂な声を上げてしまった。

 そんなジョゼフにアレンは無言で割札を見せ付ける。

 

「これは武闘祭の…。いやそれにしたって参加費をどうやって工面したんだよ」

「それは」

「いや、やっぱり言うな。まっとうな方法であろうがそうでなかろうが面倒そうだ。聞きたくない」

 

 この瞬間からジョゼフにとってアレンは客擬きから得体の知れない身の程知らずへと認識が変わる。

 

「しっかし馬鹿な真似をしたもんだ」

「どう言う意味だ」

「言葉の通りだよ。武闘祭の参加だけで素寒貧。肝心の武器を買う事が出来ずに右往左往と、後先考えなさ過ぎだろ」

「ぐ、それは」

「知らなかったは通用しねぇ、それが大人の世界ってもんだ」

 

 アレンは何も言い返す事が出来なくなってしまった。どだい、手持ちの小銭だけで武器を揃えようとするのは無理があったのだ。

 しかし何を思ったのか項垂れるアレンに溜息を吐きながら、ジョゼフは少し待つように言って店の奥へ引っ込んで行った。

 

「あったあったこれだ」

「?」

 

 数分程してジョゼフは両手で重たそうにずんぐりむっくりとした棒を抱えてやって来た。

 それをカウンターに置くとジョゼフは言い放つ。

 

「ほらよ、お前の手持ちでも買える武器を持って来たぞ」

「この、これが…武器?」

「どっからどう見ても棍棒だろうが」

「…」

「何だよ、その不満そうな顔は。棍棒は良いぞ~。剣と違って刃筋を考えなくて良いし、多少欠けようが重量に任せて力で叩き付けるだけだからな」

 

 そう言いつつジョゼフはどうする?とアレンに再度問い掛ける。

 アレンも改めて先程、カウンターに置かれた棍棒を見る。外見はお世辞にも整っているとは言えない。

 持ち手から先端に掛けてそこまでの長さはないが短すぎるわけでもない。ただ先の方が持ち手に比べて太くなってるので、どうしても不恰好さが目立つ。

 

「これ剣と打ち合えるのか?」

「お前は剣を特別視し過ぎだ。剣は優秀だが最強の武器じゃない。どんな達人もこの太さの棍棒を一刀両断なぞできん。しかもこいつには特殊な漆を塗ってあるからより頑丈な作りになってる」

「それを大銅貨で売ってくれるのか」

「詐欺だと思われたくないから正直に言うぜ。この棍棒は見てくれのお陰でまったく売れん。しかろそこそこ大きいから場所も取る。こっちからしたらとっとと売っ払いたいんだよ」

 

 そう話を締めるとジョゼフは一呼吸置く。

 

「武器としての性能は保証する。まあ一つだけ問題があるっちゃあるが」

「問題?」

「持てば分かる。取り敢えず手にとって見ろ」

 

 アレンは、少し不安に思いつつも棍棒に手を触れる。掌から伝わるひやりとした冷たさが印象に残った。

 そうしてアレンは覚悟を決め思い切って片手で棍棒を持ち上げた。

 

「お、おお。お前さん片手で」

 

 アレンは持ち上げた棍棒を見て少し感動を覚えた。さっきまで見てくれのお陰で武器として使えるかどうか疑問だったが、実際に持ってみるとなかなか手にしっくりと来る。

 

流石に現金かな?と考えているアレンを、ジョゼフは驚いたように目を見開いていた。

 

「結構、持ちやすいですね」

「お、おう。ちゃんと重心を考えて作ってるからな。それよりお前、重くはないのか?」

「棍棒がか?特に問題ないが」

「さっき言った問題ってのがそれだったんだが…。よくもまあ、大の男が両手で抱えるもんを片手で持てるもんだ」

「故郷の村では良く農作業の手伝いをしていた。力は結構ある」

「いや、そう言う問題じゃあ無いんだが・・・。お前ちょっとそれを振って見ろ」

 

 アレンはジョゼフに言われるまま周りに気を付けつつ棍棒を二回三回と振る。

 

「素人同然の振り方だが、棍棒の重さに引っ張られてる様子もない。これはもしかするのか…」

「?」

 

 ジョゼフはアレンが棍棒を軽々しく振る姿を見るとまた店の奥へ引っ込んで行った。

 手持ち無沙汰になったアレンはどうしたら良いのか悩んでいると、今度は厚手の衣を持ったジョゼフが出て来た。

 

「これを着ろ」

「何です?これ」

「防具だよ、防具!お前は武闘祭にそんな薄っぺラい服だけで出る気か?」

「あ」

「厚手の布地に感情な皮を引っ付けただけの簡易なもんだが無いよりマシだろうよ。何より素人でも簡単に着脱出来る」

 

 目から鱗であった。武器にばかり気が向いていたせいで守りの要である防具の事をすっかり忘れていた。

 確かに、今のアレンの格好では剣の前では裸同然だろう。

 しかし、

 

「あの、お金がたりないので」

「大銅貨三枚」

「え?」

「聞こえなかったか?大銅貨三枚でまとめて棍棒と防具を売ってやるって言ってるんだよ!」

「ええ、何で!?」

 

 いくらアレンでもそれがまともな売り値段でない事は理解できた。

 

「何でだ?在庫処分に決まってんだろ!どっちも売れない癖に倉庫の幅をとって邪魔なんだよ。それにお前、ここで有金全部使ってどうするつもりだ。武闘祭は明後日だぞ。それまで無一文で過ごすつもりか!」

「あ」

 

 ジョゼフに言われて初めてその事に意識が向いた。確かに明後日まで飲まず食わずで過ごすのはキツい。

 何だかアレンは、自分のいろんなことに対する至らなさに情けなさを感じてしまった。

 

「で、買うのか買わないのか。因みに他の商品はこんな値段で売らないし、これ以外に買える物もないからな」

「買います」

 

 アレンはジョゼフに大銅貨三枚を支払い、目の前の装備を購入する。

 

「その、色々とありがとうございます」

「俺は在庫処分しただけだ」

「そうですか」

「あー、それと」

「?」

「お前、名前何てんだ?」

「アレンです」

 

 ジョゼフは最後にアレンの名前を聞き、自分の店から出て行く後ろ姿を見送るのだった。

ーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「ふぅ、行ったか。しかし巫山戯た腕力をしてやがったな」

 

 ジョゼフは今、先程店から出て行ったアレンの事について思い出していた。アレンに売った棍棒は、武器の性能としてはかなりの物で例えロングソードと打ち合ってもそうそう壊れない代物だ。

 

 元々、あの棍棒はディーク木材と言われているとても頑丈な樹木から作られている。ディーク木材は硬く木の密度もあり燃え辛い。その性質から砦や頑丈な建物を建造するのに使用されていた。

 

 ある時、この木材を武器に転用できないかと言う話が流れ、実際に試作品がいくつか作られる運びとなった。提案した物もディーク木材の頑丈さを槍の持ち手などに使い、耐久性を上げたかったのだろう。

 が、結果は失敗。

 

 耐久性こそ飛躍的に上昇したが、武器として振り回すには重すぎる得物となってしまった。槍であれば重量が倍近くも変わってしまったと聞く。

 弓に使えばしなりがでず、矢として使えば重さから飛距離が落ちると言う散々な結果となってしまったのだ。

 

 あの棍棒もその一環として作られた物だ。片手ではまず持てず、両手で抱えるようにして漸く持てるようになる。重量としては申し分ないが、武器として使用できるか は別問題だ。

 燃え辛いお陰で薪としても使えない。誰が付けたか定かではないが、存在しない物しか使えない武器と皮肉り、巨人の棍槌と名付けられていた。

 

 そんな代物が、巡り巡ってジョゼフの元までたどり着いたのが十年以上も昔の話だ。ジョゼフとしても、アレが誰かの武器になる事なく倉庫の肥やしになると思っていた。

 この日、アレンが来るまでは。

 

「あいつ片手で持ち上げやがった。しかも軽々と振るっていた」

 

 正直、ジョゼフはアレンに武闘祭への参加を諦めさすつもりであの棍棒を見せたのだ。しかし見事にこちらの予測を裏切ってみせた。

 それを見たジョゼフは欲が出たのだ。

 

「本当は止めてやるべきだったんだろうなぁ」

 

 武闘祭は並み以上の戦士が集う場所である。では、その戦士の基準とは何か?数々の修羅場をくぐり抜けあらゆる場面で瞬間的に判断を下し生き残ってきた古つわもの。それが戦士と呼ばれる者達だ。

 

 これに比べると、残念ながらアレンにはそのどれもが足りない。物事に対する判断が甘くまた少しの事で感情が揺さぶられ易い。あの強気な言葉と丁寧な言葉使いがゴッチャになった口調がまさにそれを表している。

 兎に角、あらゆる事に対して経験が不足しているのだ。

 

 しかし、

 

「力だけはありやがった」

 

 それも特大の。その一点に限ればアレンは強者の素質を持ち合わせていた。無論、多少の才能がある程度では武闘祭では勝てない。

 だが、アレンが持ち合わせていた腕力は武闘祭を知るジョゼフをして、もしかしたらと思わせるものだった。

 

 故にジョゼフはアレンに武器と防具を格安で売ったのだ。

 ジョゼフは悪い大人だなと自虐しつつも自分の好奇心を騙せなかった。

 

 果たしてジョゼフの思い違いで、本番の武闘祭ではアレンは何も出来ずに蹴散らされてしまうのか。それとも戦いの心得を持たぬ巨人に才能だけで戦士が蹂躙されてしまうのかは分からない。

 

 しかし、ジョゼフの武闘祭への関心は今までよりずっと増していた。

 

「クソ、武闘祭は明後日だってのにもう興奮して来やがった」

 

 結局、ジョゼフはアレンの事を忘れる事が出来ずにその夜は浴びる位の酒を飲み自分の好奇心を誤魔化すのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。