【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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※響け!ユーフォニアムとゆるキャン△では、時間軸に差がありますが、今作では、ゆるキャン△側に合わせます。

また、作中では学年が明言されていませんが、2017年時点で、リンは高校一年生、滝野は高校二年生ということにします。




始まりのあれこれ(野クルと出会う前)
 『トランペットの人』


 

11月最初の木曜日。明日から三連休だ。

 

今日の部活は休みなので、放課後はすぐに帰り支度をする。

 

駐輪場には、まだかなりの数の自転車が止まっている。まあ、放課後すぐだし当たり前だ。

 

その中から俺は自分のバイクを見付け出し、鍵を外す。

 

チェーンロックを駐輪場の柱に回しているのだが、みんな同じことを考えるから、何台かあるバイクから延びるチェーンから、自分のを探すのが少しだけ面倒だ。下の方になってると、他のチェーンの重さが加わり外すのも大変。

 

だからって無施錠で盗まれたら洒落(しゃれ)にならん。

 

ヘルメットを被り、グローブをはめる。

 

「さて。帰ろうか」

 

\マッテタヨ/

 

スタンドを上げ、ゆっくり押して行く。

 

校門を出るまで乗車禁止だからだ。

 

「あ、ビーノだ」

 

「ビーノ?」

 

ふと、声が聞こえその方向を振り向くと、昇降口から出てきたばかりらしい、女の子二人が立っていた。

 

黒い短髪と、青いお団子頭。あの髪の結い方、なんてったっけ。シニア……は、年寄りだ。シニヨンだっけか? 忘れた。

 

二人とも図書室でよく見掛ける。時々しか行かないのに、行くと必ず居るから、どっちかが図書委員なんだろう。

 

そんなことを考えていると、目が合ったので会釈。

 

すると、黒髪の子が駆け寄ってきた。

 

「そのバイク、滝野(たきの)先輩のなんですね」

 

誰? 俺の名前を知ってる。

 

まあ、それは仕方ないか。

 

斉藤(さいとう)。滝野先輩ってことは、トランペットの人だよな?」

 

お団子の子が黒髪の子にそう問い掛ける。

 

黒髪の子は斉藤さんというらしい。

 

「うん。トランペットの人こと滝野 純一(じゅんいち)先輩だよ。……ですよね、先輩」

 

「ああ……、その通り」

 

これなら俺は自己紹介不要だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は物心ついた頃からトランペットを吹いてきた。

 

訳あって中学では吹奏楽部に入っていないが、高校に進学後は吹奏楽部を選んだ。

 

しかし、高校に入学してすぐに、家事都合でここ本栖(もとす)高校へ転校。

 

この学校には吹奏楽部がなく、自ら部を立ち上げた。

 

そうは言っても、設立時点で部員は俺一人。正式なとして認められず、『吹奏楽サークル』という形になっている。

 

今年に入り、新入生が一人増えたものの、まだ足りない。部への昇格条件は部員四人以上かつ二学年に跨がること。

 

そんなわけだから、部費も出ず、顧問も居らず、正式な部室も貰えず。一応、音楽室は使って良いという許可は得ているが必ずではないため、音楽室が使えない日に校庭や中庭で一人トランペットを吹いていたら、いつの間にか『トランペットの人』という風に呼ばれていた。

 

この斉藤さんは1年生だから、後輩にも浸透しているらしい。まあ、もう11月だし当たり前か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。私、斉藤 恵那(えな)といいます。何度か図書室で見掛けましたよね?」

 

確かに。

 

俺もこの二人の顔は知ってる。接点は図書室。

 

「で、こっちのちっこいのが、しまりん」

 

「シーマリン?」

 

海? 『シー』も『マリン』も海を表すよな。海の子?

 

「ゆるキャラっぽく呼ぶな。それと、海じゃないですよ。ここ、海無し県(山梨県)ですし」

 

確かに。山梨県は海がない。

 

しかし、海はなくても富士山があるっ! ……ここからは見えんが。

 

「改めまして。志摩 リン(しまりん)です。図書委員です」

 

志摩さん。この子が図書委員か。

 

「志摩さんに斉藤さんか。二人とも時々図書室で見掛けてるよ。今更ながら、俺は滝野 純一。よろしく」

 

「「よろしくお願いします」」

 

お、二人の声が重なった。

 

しかし、なんだか小学生みたいな挨拶だな……。

 

 

 

 

 

「ところで。俺に何か用だった?」

 

「用というほどのものでは無いです。リンが今度バイクを買うので、色々話が聞けたらなー、って」

 

なるほど。

 

「先輩のバイク、見ても良いですか」

 

「構わないよ」

 

手で支えてるのも疲れたので、スタンドを下ろす。

 

斉藤さんが見易いように、少し離れる。

 

\マダカエラナイノ?/

 

まあ待て。

 

「へぇ~。ヤマハですね」

 

斉藤さんがバイクの周りを眺めながら回り、志摩さんは少し離れたところから見ている。

 

 

 

ヤマハ・ビーノ125。

 

台湾で製造され、日本では平行輸入車として販売されていた。

 

……というのは、調べたから分かっている。

 

俺としては、今のところ『通学手段』というだけで、あまり詳しくない。このバイクが無ければ学校に通えないのだ。

 

「ビーノって言ったよね。リンが乗ろうとしてるのと同じじゃない?」

 

お?

 

「うん、ビーノだよ。でもこれ……」

 

そう言いながら、志摩さんはビーノに近づき、ナンバープレートを眺める。

 

「桃色ってことは、原付二種ですよね?」

 

そこが気になったか。

 

「ああ。125CCだよ。80出しても余裕あるな。まあ、そんなに出したら死にそうで怖い。色々な意味で」

 

こう言ったら二人とも首を傾げ、顔を見合わせた。

 

まあいい。志摩さんはじきに分かるだろう。

 

「リン、まだバイク乗ったこと無いんでしょ? 折角だし、初めて乗る日に、一緒に走ってもらったら?」

 

そういう話をするために来たのか。

 

確かに、初めて乗る日に普段乗っている人が同行するのは心強いだろう。

 

「いやいや、いきなり迷惑だろ。初対面の先輩にそんなことを頼んだら」

 

「私は心配なんだよ。本栖湖(もとすこ)に自転車で行くリンが、バイクなんて手に入れたら、絶対遠出するでしょ? 『いざ、琵琶湖(びわこ)へ!』とか言ってさ」

 

琵琶湖か。懐かしいな……。ここからだと、とんでもない距離だけど。

 

って、本栖湖! あの峠道を自転車で?

 

一昨日もこのビーノで走ったけど、あの道を自転車でか……。

 

「そんな遠いとこ行ける訳無いだろ」

 

今、すかさず突っ込んだけど、説得力無い気がする。

 

「せいぜい諏訪湖(すわこ)か浜名湖辺りだ……」

 

ほれ。こっからだと諏訪湖も浜名湖もじゅうぶん遠い。

 

しかしまあ。なんというか、可愛いなこの二人。

 

「俺で良ければ……。本栖湖ならよく行くし。それに俺、山梨来てまだ一年半位だから、色々見てみたい、ってのもあるからね」

 

「良いって。良かったね。よろしくお願いします」

 

「いや、勝手に話進めるなよ。私はなにも言ってない」

 

確かに。今のは斉藤さんだった。バイク乗るの、志摩さんだよな?

 

しかしこの二人、まるで母娘(おやこ)みたいだ。

 

「本当に良いんですか? 先輩、家遠いんですよね?」

 

志摩さんが、またバイクのナンバープレートを見ながら言う。

 

市川三郷(いちかわみさと)町』確かにここからだと遠い。

 

「志摩さん、家どの辺なの?」

 

しまった! 話の流れとはいえ、いきなりこんなこと聞いたら不審に思われるだろ。

 

「古関の方です。ここから 本栖みち をのぼって行ったところです」

 

と思ったが、不審に思われることもなく、すぐに教えてくれた。

 

なるほど。あの辺なら多少土地勘がある。

 

ここからだと、徒歩で一時間半ぐらいの距離だ。まだバイクに乗っていないらしいけと、徒歩で通える距離ではないから、普段は自転車通学かな? 自転車の話もしていたし。

 

「なら良いよ。俺にしてみれば学校に来るより近いから」

 

そう答えると、二人とも笑顔になる。ぱあっと花が咲いたように。

 

ユリの花? いや、決してそちらの意味ではなく。

 

「じゃあ、連絡先交換しましょう! ほら、リンも」

 

「お、おお」

 

あまりの急な展開に、若干引き気味の志摩さん。

 

いきなり連絡先の交換ときた。

 

「先輩もスマホ出してください。ラインで良いですよね?」

 

俺がスマホを出すなり、それを取り上げた斉藤さんが、慣れた手つきで操作してゆく。

 

あっという間に二人の連絡先が追加された。俺が操作してたら倍の時間掛かっただろう……。

 

「ありがとうございます。何かあったら連絡しますね。それじゃあ、私は帰りますっ!」

 

そう言うなり、駆け足で校門へと向かって行く。

 

それを志摩さんと見送った。

 

……って、志摩さん?

 

「あれ。一緒に帰るんじゃなかったの?」

 

俺の横に立ったままの志摩さんに尋ねる。

 

「別にそういう訳じゃなかったんですけど。まあ、なんと言うか、自由な奴ですよね」

 

確かに。

 

「あいつ、時々私の髪で遊ぶんですよ。頭の上って自分じゃ見えませんよね? だから、鏡見たらビックリです」

 

「あはは……」

 

お団子にしてるぐらいだから、下ろせば腰ぐらいまであるだろう。それだけ長ければ、いろいろ(いじ)れるな。

 

当の本人はショートだけど。

 

そういえば、『髪形アート』ってTwitter辺りで見た記憶が……! あれ、斉藤さんと志摩さんか?

 

「でもまあ、仲良いんだね」

 

吉川(よしかわ)香織(かおり)先輩みたいだ。

 

とはいえ、あっちの場合は先輩後輩だ。多少は遠慮している部分がある。しかし、この二人はそれが無さそうだ。羨ましい……。

 

「えっと。斉藤が勝手に決めましたけど……。先輩、私もうすぐ免許取る予定なので、もしかしたら相談するかもしれません。その時はよろしくお願いします」

 

「ああ、いつでも連絡して」

 

「ありがとうございます。あ、でも先輩部活が……」

 

「気にしなくて良いよ。俺含め二人しかいないサークルだし、練習なら極端な話山の中でだって出来るから」

 

そうだ。

 

通学で通る道は殆どが山の中。一部、携帯が圏外になる場所さえある。

 

人家から離れていれば、周りを気にすること無く、好きに吹ける。

 

「ありがとうございます。じゃあ、その時になったら連絡しますね」

 

「了解。じゃあ俺はこれで」

 

スタンドを上げ、押しながら歩き出す。

 

校門を出たところで、エンジン始動。

 

\マッタヨ~/

 

そうか。ごめん。

 

シートに腰掛け、スロットルを捻る。

 

とはいえ、学校の前は下り坂だから、暫くは惰性走行だ。

 

さて。明日は祝日の金曜日。学校は休みだが朝から部活の予定。

 

今日は帰ってゆっくり休もう……。

 

 





所々、バイク(ビーノ)が喋っているような記述がありますが、作中で松ぼっくりが喋っているのと同じです。


Xにシェアする際に表示される表紙イラストは、出町柳 彩都 様(X @es8000exptd)に描いていただきました。
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