【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

12 / 93

お待たせしました。

月末が忙しい仕事をしているので、遅くなってしまいました。


野クル 初キャンプのお話です(※滝野視点)




 可愛い妹が二人も。良かったね

 

「ありがとうございます。楽しんでくださいね!」

 

学校から帰宅すると、ちょうどキャンプ中のお客様が、ガス缶を買いに来ていた。

 

父さんが近くに居らず、代わりに対応したところだ。

 

「ありがとね。あ、そうだ。よければこれ使ってよ」

 

「何でしょう?」

 

「温泉の入浴券。もらったんだけど、行く隙なさそうだから、あげるよ」

 

差し出された紙切れを受け取る。

 

「ありがとうございます。……えっと?」

 

『ほったらかし温泉』?

 

「山梨市にある有名な温泉だって。時々テレビでも紹介されてるらしいよ」

 

へぇ……。有名な温泉なんだ。

 

しかし、変な名前だな。

 

 

 

「あ、純一(じゅんいち)帰ってたんだ」

 

今のお客様を外まで見送り、戻ろうとしたら父さんが立っていた。

 

「父さん、今のお客さんからこんなの貰ったよ」

 

「ほったらかし温泉の入浴券か。明日学校休みなんだし、行ってきたらどうだ?」

 

えっ? 明日、土曜日か……。部活の予定はない。それに、別にペット積んで走ればどこでだって吹ける。

 

「それじゃあ、明日行ってくるよ」

 

行くと決まったら、事前に調べておこう。

 

自分の部屋に入り、スマホを取り出す……あれ。

 

さやか*1 からラインが来た。珍しい。

 

受験生だから勉強に集中しているらしく、最近は滅多に連絡が来なくなった……。

 

本人は否定しているものの、お兄ちゃんっ子だから前は頻繁に連絡が来ていた。

 

 

さやか:妹が増えたんだって?

 

さやか:可愛い妹が二人も。良かったね

 

さやか:山梨はやっぱり楽しい?

 

 

……。

 

…………は?

 

一瞬、フリーズしてしまった。

 

なんでこの間の音楽室でのやり取りを知ってるんだ?

 

 

 純一:待て、なぜその話を!

 

 純一:誰から聞いたんだ?

 

さやか:齋藤さんって子から

 

 

齋藤……。字は違うが、恵那(えな)ちゃんのことだろう。

 

何で恵那ちゃんが?

 

 

 純一:さやか、恵那ちゃんと知り合いだったの?

 

さやか:名前で呼んでるんだ

 

さやか:(笑)

 

 純一:いやこれは本人がそう呼べって言うからで

 

 純一:別にそこまで親しい仲ではない

 

 純一:そう、普通。言うなら、普通!

 

さやか:普通普通うるさい

 

さやか:別にどんな関係でも良いけど

 

さやか:冬休み入ったら、また遊びに行くから

 

さやか:そっちは寒いと思うから、風邪ひかないようにね

 

 純一:了解。勉強頑張れよ

 

さやか:ありがとう

 

 

しかし驚いたな。

 

結局、理由は分からなかったけど、さやかと恵那ちゃんが……。

 

接点が見当たらない。

 

 

今度恵那ちゃんに会ったら聞いてみよう。

 

 

 

えっと、そういえばスマホで何かを調べようとしていたんだ。何だっけ?

 

ああ。ほったらかし温泉についてだ。どれどれ……。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「おお。気をつけて」

 

翌、土曜日の朝。まだ薄暗いうちに出発。

 

昨日少し調べてみたところ、ほったらかし温泉は日の出の1時間前に開くらしく、季節によって時間が変わることが分かった。

 

今は11月なので5時半頃に開くらしい。

 

既に入れる時間だ。

 

ここから車で一時間程の距離だから、このビーノなら一時間ちょっとで着くだろう……。

 

 

県道409号線を甲府方面へ走る。

 

普段曲がる交差点も、今日は曲がらずに進む。

 

帯那トンネルを抜け、身延線の踏切を越え……。

 

\ハシリズレェ/

 

ビーノ、悲鳴上げてるよ……。

 

街中に出たら、当然のように交通量が増え、道路も混雑している。

 

信号もあるから、ゴー・ストップも多い。

 

普段、渋滞や信号と縁の無い生活をしているから、中々新鮮だ。

 

しかし、この子は不満らしい。

 

甲府市の南側回り、笛吹市を縦断し、山梨市へ向かう。

 

 

 

えっと、この先の信号を左折だな……。

 

道を確認したいとき、いちいち路肩に止めてスマホ確認するの、面倒だ。とはいえ、下手なことをして警察に捕まるのは更に面倒。

 

何か良い方法は無いだろうか……。

 

おっと? 緑色の看板を発見! この辺りに高速道路は無いはずだが。

 

緑色の看板。それは即ち『自動車専用道路(以下、自専道)』の看板。

 

自専道は125CC以下の原付は走行出来ない。言い替えるなら、進入禁止。

 

しかし、俺のビーノは原付二種で普通の車と同じ様に走っているから、気を付けていないと、流れに乗って侵入してしまう。

 

その辺、30キロ制限など肩身の狭い思いをしている原付とは異なる。

 

……あ、やっぱり自専道入口だ。俺はこの交差点を右折しなければならないのか。

 

 

 

お、看板が見えた。といっても、あるのは『笛吹川フルーツ公園』のだけど……。

 

こっちだな。

 

案内に従い交差点を曲がると、そこそこきつめの登り坂になった。

 

回りが果樹園になっているのか。流石山梨県。

 

交差点を幾つか曲がり、坂道を更に登って行くと、目的地が見えてきた。

 

おっと、こんなところに分岐が。えっと、バイクは左……って、道狭っ!

 

『ほったらかし温泉駐輪場』

 

ちゃんと、バイク専用の駐車場(つまり、駐輪場)がある。止まっているバイクの数も多く、人気の温泉であることがこの事からも分かる。

 

その駐輪場にビーノを止めた。

 

\ツカレタ/

 

御苦労様。久し振りの遠出で疲れたことだろう。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

貰った入浴券や貴重品諸々とタオルを持って受付へ向かう。

 

おお、無料の屋内休憩所か。ちょっと覗いてみよう。どれどれ。

 

……これは非常に危険だ。風呂上がりにこんなところに寝転がったら最後、お腹が空くか、誰かに起こされるかしない限り、夜まで寝てしまうだろう……。

 

休憩所はさておき、まずはお風呂だ。

 

えっと……入浴券は券売機で購入するのか。しかし、俺にはこれがある。

 

一応、利用できるか聞いてみよう。

 

「すみません。ちょっと良いですか?」

 

券売機の横に立つ、案内係と思われる人に声掛ける。

 

「何でしょう」

 

「こんなもの持ってるんですけど、使えますか?」

 

「どれどれ。はい、ご利用頂けますよ。そのまま窓口にお渡しください」

 

「ありがとうございます」

 

良かった。使えるようだ。

 

まあ、仮にこの券が駄目だったとしても、ここまで来たんだから、お金払ってでも入るつもりだったけど。

 

 

 

温泉脇の展望スペースからは天気が良いと富士山が見えるらしい。しかし、今日は見えない。

 

その展望スペースより一段低いところにお風呂がある。

 

『あっちの湯』と書かれている。

 

もう一つのお風呂が『こっちの湯』だから、『彼方』『此方』という意味だろう。温泉の名前といい、一度聞いたら忘れそうにない。

 

「お願いします」

 

「どうぞ」

 

受付に入浴券を渡し、中へ。

 

それなりに人が多い。

 

脱衣室のロッカーは、露天風呂の脇にもある。まあ、中が空いているからそっちにしよう……。

 

まずは洗い場へ。ああ、シャワーが暖かい。

 

内湯もあるけれど、誰も入ってない……。

 

洗い終えて露天風呂の方へ。

 

……おお!

 

標高が高いからか景色が良い。

 

甲府盆地が一望できる。

 

さてと、お湯加減は如何だろう……。

 

 

 

 

 

良いお湯だった……。

 

温泉に浸かったあとは、休憩所で一休み。

 

来る途中のコンビニで軽く朝御飯を済ませてあるから、程よくお腹も満たされている。

 

そして、風呂上がりで体も温まっている。

 

これ、絶対寝てしまう奴だ。

 

でも、まあ良いだろう。時間はあるし。少しぐらい寝たって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今何時だ?

 

スマホの振動で目が覚めた。

 

……なんだ。一時間しか寝ていない。寝過ごしではなかった。

 

って、スマホが震えた理由は? ラインだ。誰だろう。

 

 

志摩(しま):長野県に入りました

 

志摩:【画像】

 

志摩:原付で初の遠出です

 

志摩:交通量多いですね。一緒に試走してもらって良かったです

 

リンちゃんか。

 

メッセージと一緒に、長野県のカントリーサインの写真が添えてある。

 

『長野県富士見町 ここは標高705m』

 

 

純一:何処まで行くの?

 

純一:運転気を付けて

 

 

メッセージを送ったが、中々既読が付かない。恐らく運転中なんだろう。

 

さて、俺もそろそろ行きますか……。

 

 

 

登ってきた道を今度は下ってゆく。

 

「なんだ、あれ?」

 

笛吹公園を過ぎ、果樹園の中を進んでゆくと、道端でヒッチハイクらしき事をしている二人組を発見。

 

気にはなるが、俺には乗せる余裕は無い、しかもこちらから見ると背を向いているから逆方向。俺にはどうしようもない、通り過ぎる……。否。

 

ミラー越しに確認したら、滅茶苦茶見覚えある人なんだけど。

 

すぐ引き返す。

 

二人の前にバイクを止めた。

 

「こんなところで何やってるの?」

 

『フルーツ公園までのせてください!!』やはりヒッチハイクか。

 

「「えっ?」」

 

ヘルメットのシールドを上げる。

 

すると、二人の頭に浮かんだ『?』が『!』に変わった。誰だか分からなかったのだろう。

 

「あ~! トラ先輩じゃないですか!」

 

「ほんまや! 滝野(たきの)先輩、こんなところでどうしたんです?」

 

「いや、先に質問したの俺だよ……」

 

意外な場所で意外な人物に遭遇したからか、プチパニック状態の二人。『野外活動サークル』通称『野クル』の大垣さんと犬山さんだ。

 

 

 

 

 

*1

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。