お待たせしました。
月末が忙しい仕事をしているので、遅くなってしまいました。
野クル 初キャンプのお話です(※滝野視点)
「ありがとうございます。楽しんでくださいね!」
学校から帰宅すると、ちょうどキャンプ中のお客様が、ガス缶を買いに来ていた。
父さんが近くに居らず、代わりに対応したところだ。
「ありがとね。あ、そうだ。よければこれ使ってよ」
「何でしょう?」
「温泉の入浴券。もらったんだけど、行く隙なさそうだから、あげるよ」
差し出された紙切れを受け取る。
「ありがとうございます。……えっと?」
『ほったらかし温泉』?
「山梨市にある有名な温泉だって。時々テレビでも紹介されてるらしいよ」
へぇ……。有名な温泉なんだ。
しかし、変な名前だな。
「あ、
今のお客様を外まで見送り、戻ろうとしたら父さんが立っていた。
「父さん、今のお客さんからこんなの貰ったよ」
「ほったらかし温泉の入浴券か。明日学校休みなんだし、行ってきたらどうだ?」
えっ? 明日、土曜日か……。部活の予定はない。それに、別にペット積んで走ればどこでだって吹ける。
「それじゃあ、明日行ってくるよ」
行くと決まったら、事前に調べておこう。
自分の部屋に入り、スマホを取り出す……あれ。
さやか*1 からラインが来た。珍しい。
受験生だから勉強に集中しているらしく、最近は滅多に連絡が来なくなった……。
本人は否定しているものの、お兄ちゃんっ子だから前は頻繁に連絡が来ていた。
さやか:妹が増えたんだって?
さやか:可愛い妹が二人も。良かったね
さやか:山梨はやっぱり楽しい?
……。
…………は?
一瞬、フリーズしてしまった。
なんでこの間の音楽室でのやり取りを知ってるんだ?
純一:待て、なぜその話を!
純一:誰から聞いたんだ?
さやか:齋藤さんって子から
齋藤……。字は違うが、
何で恵那ちゃんが?
純一:さやか、恵那ちゃんと知り合いだったの?
さやか:名前で呼んでるんだ
さやか:(笑)
純一:いやこれは本人がそう呼べって言うからで
純一:別にそこまで親しい仲ではない
純一:そう、普通。言うなら、普通!
さやか:普通普通うるさい
さやか:別にどんな関係でも良いけど
さやか:冬休み入ったら、また遊びに行くから
さやか:そっちは寒いと思うから、風邪ひかないようにね
純一:了解。勉強頑張れよ
さやか:ありがとう
しかし驚いたな。
結局、理由は分からなかったけど、さやかと恵那ちゃんが……。
接点が見当たらない。
今度恵那ちゃんに会ったら聞いてみよう。
えっと、そういえばスマホで何かを調べようとしていたんだ。何だっけ?
ああ。ほったらかし温泉についてだ。どれどれ……。
「それじゃあ、行ってくる」
「おお。気をつけて」
翌、土曜日の朝。まだ薄暗いうちに出発。
昨日少し調べてみたところ、ほったらかし温泉は日の出の1時間前に開くらしく、季節によって時間が変わることが分かった。
今は11月なので5時半頃に開くらしい。
既に入れる時間だ。
ここから車で一時間程の距離だから、このビーノなら一時間ちょっとで着くだろう……。
県道409号線を甲府方面へ走る。
普段曲がる交差点も、今日は曲がらずに進む。
帯那トンネルを抜け、身延線の踏切を越え……。
\ハシリズレェ/
ビーノ、悲鳴上げてるよ……。
街中に出たら、当然のように交通量が増え、道路も混雑している。
信号もあるから、ゴー・ストップも多い。
普段、渋滞や信号と縁の無い生活をしているから、中々新鮮だ。
しかし、この子は不満らしい。
甲府市の南側回り、笛吹市を縦断し、山梨市へ向かう。
えっと、この先の信号を左折だな……。
道を確認したいとき、いちいち路肩に止めてスマホ確認するの、面倒だ。とはいえ、下手なことをして警察に捕まるのは更に面倒。
何か良い方法は無いだろうか……。
おっと? 緑色の看板を発見! この辺りに高速道路は無いはずだが。
緑色の看板。それは即ち『自動車専用道路(以下、自専道)』の看板。
自専道は125CC以下の原付は走行出来ない。言い替えるなら、進入禁止。
しかし、俺のビーノは原付二種で普通の車と同じ様に走っているから、気を付けていないと、流れに乗って侵入してしまう。
その辺、30キロ制限など肩身の狭い思いをしている原付とは異なる。
……あ、やっぱり自専道入口だ。俺はこの交差点を右折しなければならないのか。
お、看板が見えた。といっても、あるのは『笛吹川フルーツ公園』のだけど……。
こっちだな。
案内に従い交差点を曲がると、そこそこきつめの登り坂になった。
回りが果樹園になっているのか。流石山梨県。
交差点を幾つか曲がり、坂道を更に登って行くと、目的地が見えてきた。
おっと、こんなところに分岐が。えっと、バイクは左……って、道狭っ!
『ほったらかし温泉駐輪場』
ちゃんと、バイク専用の駐車場(つまり、駐輪場)がある。止まっているバイクの数も多く、人気の温泉であることがこの事からも分かる。
その駐輪場にビーノを止めた。
\ツカレタ/
御苦労様。久し振りの遠出で疲れたことだろう。
貰った入浴券や貴重品諸々とタオルを持って受付へ向かう。
おお、無料の屋内休憩所か。ちょっと覗いてみよう。どれどれ。
……これは非常に危険だ。風呂上がりにこんなところに寝転がったら最後、お腹が空くか、誰かに起こされるかしない限り、夜まで寝てしまうだろう……。
休憩所はさておき、まずはお風呂だ。
えっと……入浴券は券売機で購入するのか。しかし、俺にはこれがある。
一応、利用できるか聞いてみよう。
「すみません。ちょっと良いですか?」
券売機の横に立つ、案内係と思われる人に声掛ける。
「何でしょう」
「こんなもの持ってるんですけど、使えますか?」
「どれどれ。はい、ご利用頂けますよ。そのまま窓口にお渡しください」
「ありがとうございます」
良かった。使えるようだ。
まあ、仮にこの券が駄目だったとしても、ここまで来たんだから、お金払ってでも入るつもりだったけど。
温泉脇の展望スペースからは天気が良いと富士山が見えるらしい。しかし、今日は見えない。
その展望スペースより一段低いところにお風呂がある。
『あっちの湯』と書かれている。
もう一つのお風呂が『こっちの湯』だから、『彼方』『此方』という意味だろう。温泉の名前といい、一度聞いたら忘れそうにない。
「お願いします」
「どうぞ」
受付に入浴券を渡し、中へ。
それなりに人が多い。
脱衣室のロッカーは、露天風呂の脇にもある。まあ、中が空いているからそっちにしよう……。
まずは洗い場へ。ああ、シャワーが暖かい。
内湯もあるけれど、誰も入ってない……。
洗い終えて露天風呂の方へ。
……おお!
標高が高いからか景色が良い。
甲府盆地が一望できる。
さてと、お湯加減は如何だろう……。
良いお湯だった……。
温泉に浸かったあとは、休憩所で一休み。
来る途中のコンビニで軽く朝御飯を済ませてあるから、程よくお腹も満たされている。
そして、風呂上がりで体も温まっている。
これ、絶対寝てしまう奴だ。
でも、まあ良いだろう。時間はあるし。少しぐらい寝たって……。
……今何時だ?
スマホの振動で目が覚めた。
……なんだ。一時間しか寝ていない。寝過ごしではなかった。
って、スマホが震えた理由は? ラインだ。誰だろう。
志摩:【画像】
志摩:原付で初の遠出です
志摩:交通量多いですね。一緒に試走してもらって良かったです
リンちゃんか。
メッセージと一緒に、長野県のカントリーサインの写真が添えてある。
『長野県富士見町 ここは標高705m』
純一:何処まで行くの?
純一:運転気を付けて
メッセージを送ったが、中々既読が付かない。恐らく運転中なんだろう。
さて、俺もそろそろ行きますか……。
登ってきた道を今度は下ってゆく。
「なんだ、あれ?」
笛吹公園を過ぎ、果樹園の中を進んでゆくと、道端でヒッチハイクらしき事をしている二人組を発見。
気にはなるが、俺には乗せる余裕は無い、しかもこちらから見ると背を向いているから逆方向。俺にはどうしようもない、通り過ぎる……。否。
ミラー越しに確認したら、滅茶苦茶見覚えある人なんだけど。
すぐ引き返す。
二人の前にバイクを止めた。
「こんなところで何やってるの?」
『フルーツ公園までのせてください!!』やはりヒッチハイクか。
「「えっ?」」
ヘルメットのシールドを上げる。
すると、二人の頭に浮かんだ『?』が『!』に変わった。誰だか分からなかったのだろう。
「あ~! トラ先輩じゃないですか!」
「ほんまや!
「いや、先に質問したの俺だよ……」
意外な場所で意外な人物に遭遇したからか、プチパニック状態の二人。『野外活動サークル』通称『野クル』の大垣さんと犬山さんだ。