あらすじに『滝野が なでしこ他野クルメンバーに振り回される話です』と書きながら……。
野クルの登場シーンが少ない件(汗)
今回は野クル回です。
〈24年4月19日追記〉
読者様よりご指摘を頂きましたので、少し訂正します。このままだと、あおいノーヘル疑惑 が発生してしまいますので……。
そもそも、あおい のあの服装では、バイクに乗るのは難しい気がしますがね。その辺は『違う服を着てました』といった感じで都合解釈お願いします(汗)。
ほったらかし温泉をあとにして、坂道を下っていたら、ヒッチハイク中の二人組を発見。それが、『野外活動サークル。通称、野クル』の
「それじゃあ、今から笛吹川フルーツ公園へ?」
「そうなんです」
聞いたところ、今日は野クルの初キャンプの日で、この先にあるキャンプ場へ行く途中だという。
しかし、道中想定以上の急な登り坂に疲れ、とりあえずこの先の笛吹川フルーツ公園で休憩しよう、という話になっているそうだ。
とはいえ、その公園への道も、かなり険しい登り坂。それでヒッチハイクをしていたらしい。
「そういえば
野クルは三人のはず。一人足りない。
「なでしこちゃんは、先に行ってしまいました」
犬山さんがそう言って上の方を指差す。
……確かに。それとなく、桃色の物体(?)が見えている。
この近くのキャンプ場といえば……。
「イーストウッド行くの?」
「えっ? あ、はい。トラ先輩ご存じなんですね」
「まあ、この辺りで有名なところだから」
今俺が入ってきた温泉に近く、この辺りではわりと人気だ。
管理人が厳しく、言うことははっきり言うタイプだからか、賛否分かれるところだけどね。
「で、どうする?」
「えっと、なんの話ですか?」
おいおい。
「ヒッチハイク。原付じゃあ荷物は運べないけど、人間なら一人ずつ乗せれるから……」
このビーノは125CC、そして俺は免許取得一年以上。誰かを乗せるとなった時のため、もう一個ヘルメットを積んでいる。二人乗りは可能だ。
とはいえ、二人が持っているキャリーを運ぶことは出来ない。
「各務原呼び戻して荷物持ってもらって、順番にあたしら乗せてもらうか?」
「いや、それなでしこちゃんに失礼やろ」
「だよな……」
「それにあき、さっき格好つけてたやろ。示しつかんよ?」
「ぐぬぬ。あんなこと言うんじゃなかった……!」
中々決まらないようだ。
格好つけって。何言ったんだろう?
……おや? ラインの通知だ。
志摩:今日は高ボッチに行く予定です
へぇ。初の遠出で高ボッチか。確か、
これ、いずれ本当に
待て。高ボッチと言ったな。確か、あの辺りって……。
滝野:何処かは忘れたけど、注意して
志摩:ありがとうございます
「先輩、私を乗せてください」
お。ラインを見ている間に決まったようだ。
「ぐぬぬ‼ イヌ子だけずるいぞ!」
「じゃんけんで負けたんやから諦めや。はい、これ私の荷物」
どうやら、じゃんけんで決めたようだ。
犬山さんが俺の後ろに乗り、大垣さんが二人分の荷物を持って登るらしい……。御愁傷様。
「それじゃあ、お願いします」
「はい。じゃあ、これ被って後ろ乗って」
ヘルメットを渡すとそれを被り、犬山さんが後ろに座る。
誰かを乗せるなんて、練習を兼ねて父を乗せて以来だ。緊張するな……。
って!
「いやいやいや! 抱きつかなくてもいいから!」
急に、お腹に手が回ってきて、背中に抱きつかれて、驚く。
(前は言わないようにしたけど、今は不可抗力。)立派なモノが背中に当たってる……!
「抱きつかれると逆に運転しづらいんだよ。足で車体しっかり挟んで、手は肩かシートで良いから」
「ありゃ、そうなんですね……」
犬山さんが離れる。
声が残念そうだったのは何だろう……。気のせい?
「それじゃあ行くよ」
フルーツ公園の駐車場にバイクを止める。この先へは車両の乗り入れが出来ない。
「犬山さん、着いたで」
「ほんまにありがとうございます」
「こんくらいええよ。各務原さん待たせとるし、はよ行こか」
二人、バイクから降りて歩いて行く。
駐車場の車止めには、『フルーツ公園』の文字と、果物の絵が描かれている。幾つか種類があるようだ。
しかし、所々文字のシールが剥がれ、変なことになっている。
「先輩、『ノレーソ公園』ですね」
「こっちは『ルーソム園』やな。この絵、イチジクかな」
「ザクロと違いますか?」
あ。確かにそれっぽい。
「そや、犬山さんって、関西の出身なん?」
「いいえ。れっきとした梨っ子ですよ。先輩は京都の出身ですよね。関西弁お上手ですね」
あ。
「俺、今京都弁出てたね……」
「はい、バッチリ。無意識でした?」
「うん……」
お、見晴らしが良くなってきた。
展望スペースが見えてくると、そこには各務原さんの姿がある。
「あ! あおいちゃん~! と、ブランケット先輩?」
犬山さんと一緒に俺が居ることにも気付く。
驚いている、というよりはどこか嬉しそうだ。
「どうして先輩がここに?」
「ほったらかし温泉の帰り。下で大垣さんたちがヒッチハイクしてたから、犬山さんだけ拾ってきた」
「拾ってきたって。物みたいな言われようですね……」
「どこか間違ってるとでも?」
「いいえ」
「ところで、あきちゃんは?」
「じゃんけんに負けたから、私の荷物と一緒に坂登ってるところや」
「あきちゃん……」
二人分の荷物を持って来る大垣さんが心配になったのか、犬山さんと各務原さんが迎えに行くことになった。
俺は各務原さんの荷物を見張る荷物番となった。だから動けない。
まあ、ペットは持ってきているから、演奏しながら待っていよう。
さて。今日は何を吹こうかな……。
♪~
軽く試し吹き。
『トランペット吹きの休日』は、(聞こえていたら)大垣さんたちを急かすことになりそうだから、今はやめておこう。となると、『海の見える町』か? いや、山しか見えない。
譜面をビーノに置いてきたから、吹ける曲が少ない。もうなんでも良いや。
構え、息を吐く。
♪~
「やっと着いたズラ……」
短い曲を何個か演奏していたら、二人が大垣さんを連れて戻って来た。
「うわぁ~! 富士山だぁ」
各務原さんの声に、その方角を見ると、確かに富士山が見えている。さっきまで曇っていて見えなかったのだが。
「わぁ、富士山だな……」
「ほんまや。綺麗やねえ……」
「この辺りじゃ有名な夜景スポットだしなぁ……」
犬山さんの声には元気がない。大垣さんは更に酷い。
「あきちゃん、あおいちゃん! 写真とろ! 写真。絶景写真だよ」
しかし元気だな、この子は。
あの坂道を実質1.5往復したのに、全く疲れている気配がない。
「ほら、ブランケット先輩も!」
俺もかい……。
てっきりカメラマンを頼まれると思ったら、各務原さんが自撮りする形で、四人で撮った。
そっか、今やカメラマン不要なのか……。
「こっちも絶景だよ~!」
「ホントに元気な子じゃのう」
「ワシらも昔はああじゃった」
写真撮影に駆けずり回る各務原さんを見て、二人から年寄り臭い言葉が出る。
二人とも、俺より若いだろう。少なくとも一つは。
「あ、中のカフェでスイーツ食べれるんだって!」
「「お~!」」
しかし、各務原さんの今の言葉に、途端に元気を取り戻して走り出す。
元気だな……。
「ほら、先輩も行きますよ!」
「待って! 俺は帰るんだけど~?」
三人を見送っていたら、戻ってきた各務原さんが強引に俺を連れてゆく。
この子、体力あるし力も強いよね……。何で?
カフェで三人、各々スイーツを注文。
俺も続いて注文する。
えっと。ここは無難に巨峰ソフトにしよう。
山梨といえば巨峰。巨峰といえば……。自然と、視線が犬山さんの方を向いてしまう。
あ。目が合っちゃった。
「うん? 私の顔に何か付いてます?」
「あ、なんでもないよ……」
最初、不思議そうな顔をした犬山さんだったが、少し間があってからにやける。
「そういうことですか~」
やべ。バレた。
「えっと、巨峰ソフト一つ……」
「「「んまあ~!」」」三人、声が揃った。
俺も。
「あ……これは旨い」
「疲れとると甘いもんがウマーやなぁ」
「うん!」
「外が寒くても、暖房効いてるからなぁ」
「店内で食うアイスうまい!」
四人でテーブルを囲み、注文したスイーツをいただく。
大垣さんが俺と同じ巨峰ソフト、各務原さんがりんごソフト、犬山さんは季節のフルーツパフェ。
互いに食べ比べもしながら、スイーツを堪能。
あー。もう最高……。
これは動きたくなくなるねぇ……。
食べ終わると、大垣さんがこの後の行程を確認する。
「キャンプ場まで1.7キロ。温泉の方が近いけど、どうする?」
「「おんせーん」」
問いに対する返答は分かりきってたけどさ、ここまで声が揃うと笑えてくる。
「欲望に正直でよろしい」
大垣さんも思っていることは同じだったようだ。
「ところで、ブランケット先輩」
「なに? 各務原さん」
「先輩も一緒にキャンプどうですか?」
えっ? 俺も?
「お、それいいな」
「そうやね。折角やし、一緒にどうです?」
急な話だな。まあ、俺は大丈夫だけど、彼女たちは……。
「俺も一緒でいいの?」
女の子三人の中に、男が一人紛れ込むことになるんだけど。
「いいですよ。先輩も、あたしたち野クルの一員だしな」
ああ。入部届出したっけ。
同じサークルの仲間だから、性別は関係ないと(※そうは言ってない)。
「それじゃああきちゃん、部に昇格出来るんだね!」
「ああ」
「やったやないの!」
「これで晴れて『
…………?
三人、喜びながらハイタッチも交わしていたのに、突然静まり返る。例えるなら、咲いた花が一瞬で枯れてしまったよう。
「なんや、その変な名前は」
当然の突っ込みだろう。
「いやあ。今までずっと『野クル』だったからさ。今更変えたくないっていうか、やっぱり野クルは野クルだから。……強引に部を付けました~!」
おいまじか。
「大垣さん、それで『部昇格申請書』出したとか……?」
「はい」
「『野クル部』で?」
「はい……」
あーあ。俺知らない。
「大垣さん。あの申請書一度出したら、特別な事情がない限り、来年春まで変更できないよ」
「マ、マジか……」
「あきちゃん」
「なんてことしてくれたの……」
俺の言葉に、おろおろする大垣さんと、それを冷たい視線で見つめる二人。
「べ、別に良いじゃねえか。部に昇格出来るんだから。部費は出るし、大きい部屋に移れるんだぞ!」
なんとか言葉を
「あきちゃん……!」
「あき、わたしが間違っとったわ……!」
今の言葉に、二人の目が輝き出した。
「お前ら……!」
三人、またハイタッチを交わす。
とんだ茶番劇。……なんですか、これ。
話が脱線した。
「でも、急に俺が加わって大丈夫なの? 何も持ってないけど」
あるのは、濡れたタオル・バスタオル・財布(運転免許証)・スマホ・トランペット。そして、ヤマハ ビーノ125。
キャンプに必要な持ち物は、ほぼ持ってない。
「テントは二つあるから大丈夫だぞ。居住性無視すれば六人ぐらい行ける!」
「いや、それは無茶やろ……」
「でも、野クルの部室を思えば大丈夫だよ!」
「それもそうか……」
「あき、納得するとこ違うで。どのみち、先輩含めても四人や」
この三人だと中々話が進まないんだが。
「問題はシュラフやね。一応、夏用の寝袋は持ってきたけど……」
「低体温症になって死ぬな」
あのテントでこの時期に夏用寝袋は自殺行為だ。
「あきちゃん。ブランケット先輩が死んじゃうよ~!」
「はいはい。分かったからちょっと落ち着け。話が進まん」
大垣さんに注意され、各務原さんがむくれる。あれ? 前にも似たようなことあった気が。
「代わりになるもので代用出来ないの?」
「各務原、トラ先輩を梱包するつもりか?」
「それもそうだね……」
何のことだろう? そう思っていたら、犬山さんがスマホの画面を見せてくれた。
「なんですか、これ」
段ボールで梱包された大垣さんの姿が写真に収められている。
「夏用寝袋でも、耐寒対策を施せば問題ないんじゃないか、って試した結果です」
「アルミホイルやプチプチを巻いてみました!」
「結果から言うと、耐寒対策は完璧でしたが、トイレに行けなくなるのと、みんなで順に巻いていったら、最後の一人は誰が巻くの? ということで断念しました」
だろうな。宅配便で送るわけじゃないんだしさ。
こんな調子だと、何をしたって夏用を使うのは無理だろう。
「いっそ、冬用シュラフ。買いに行くか……」
小さく呟く。
「「「えっ?」」」
今の呟きが聞こえたのか、三人が急に固まる。
「えっと、俺何か変なこと言った?」
「か、買いに行くって、そんなお金あるんすか?」
「あるよ。二万円もあれば、それなりに優秀なシュラフ買えるよね?」
「に、にまんえん……」
大垣さんが……って、
「鼻血、鼻血出てる!」
「うお~! なんじゃこりゃ!」
「あきちゃん大丈夫!」
「ちょっと! 静かにしんと怒られるで」
「大丈夫ですか、お客様? あっ! こちら、ティッシュどうぞ!」
「すいません、ありがとうございます」
店員まで巻き込んで、ちょっとした騒ぎになってしまった……。
「で、俺が冬用のシュラフを買いに行くって話だったよね」
大垣さんが鼻血を出したのは、二万円という大金に体が拒否反能を起こしたとか。確かに高校生にとって、二万円というのは大金だ。
「いぬこ、甲府まで行けば、カリブーがあるよな?」
「あるはずや。ちょっ調べてみるわ」
カリブー。キャンプ・アウトドア用品店か。
あそこなら色々揃っている。
「犬山さん、甲府のカリブーなら行ったことあるから場所知ってるよ」
仕入れで時々行っているから、場所は分かる。何なら、顔が利く店員も居るくらいだ。
「なら話は早いですね」
「じゃあ、俺はもう温泉入ったから、今から買いに行って、先にキャンプ場に行ってるよ」
その方が良いだろう。
「分かりました。じゃあ、あたしたちはそろそろ温泉行くか!」
そう言って大垣さんが立ち上がる。しかし、誰も続かない。
「あかん。お尻に根がはってもーた」
「わたしもー」
おいおい……。
「まあ、分からんでもないけどさ。置いていくぞ」
そう言い、自分の荷物だけ持って歩き出す。
大垣さん容赦ないな……。