【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 「どこまででも行けるよ」

 

「それでは、ありがとうございました!」

 

「お世話になりました!」

 

「ありがとうございました!」

 

「気を付けて」

 

翌日昼、チェックアウトの時間となり、野クル(のくる)の三人が管理人に見送られ帰って行く。

 

「では、トラ先輩。また学校で」

 

「ホンマにありがとうございます」

 

「お仕事頑張ってください!」

 

俺も三人を見送る。

 

えっ? 勿論(もちろん)俺も帰るよ?

 

しかし、キャンプ場運営者の宿命(?)、ここでも仕事を頼まれることになった。

 

「もう少し待ってて。その間、ここで寛いでいていいよ」

 

管理人に促され、リビングスペースへ。

 

おお。昨日各務原(かがみはら)さんが目を輝かせながら写真撮ってた所だ。

 

「じきにほったらかしキャンプ場からの書類が届くから、それと一緒に北杜(ほくと)市のむかわキャンプ場まで持っていって欲しいんだ」

 

「むかわキャンプ場ですね。えっと……」

 

スマホで場所を調べる。

 

「ここで良いですか?」

 

検索して出てきた地図を管理人に見せる。

 

「ああ、そこだよ。受付に行けば豊川(とよかわ)って人が居るから、その人に渡せば大丈夫」

 

「豊川さん……っと。分かりました」

 

忘れないようにメモ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滝野(たきの):リンちゃん、今大丈夫?

 

リン:休憩中なので大丈夫ですよ

 

滝野:リンちゃん、今どの辺?

 

リン:もうすぐ原村に入る辺りです

 

滝野:俺今北杜市の日野春(ひのはる)駅にいるんだけど、よかったら待ち合わせて一緒に帰らない?

 

リン:いいですね。

 

滝野:じゃあ、待ってるから。日野春駅ね

 

 

警戒されるかと思いきや、あっさり。

 

『なんでそんなところに居るんですか?』って言われると思ってたけど、そうならなかった。

 

むかわキャンプ場での用事を済ませ、日野春駅前で休憩中。ふと、リンちゃんのことが浮かび、もしかしたら会えるかもと思って連絡したら、見事待ち合わせ・ツーリングが決まった。

 

 

 

 

駅前に立っていると、一台バイクが走ってきて、俺のビーノの隣に停まった。

 

俺が今居る場所からは少し離れている。

 

まさか、泥棒の類いではないだろうが、ビーノの方を注視。

 

バイクに乗っていたのは、俺と同じくらいに見える女の子。

 

ヘルメットを脱ぐまでは男かと思った。

 

バイクに乗れるということは、16歳になっているだろう……。

 

しばらく俺のビーノを見ていたが、俺に気づいてこっちへ歩いてくる。

 

「あのバイク、あなたの?」

 

バイクに興味があるのか?

 

「そうだけど。何か?」

 

「シールド。付いているけど、あると寒くないの?」

 

シールド? ああ。ビーノに付いている風防のことか。

 

先週、父が取り付けてくれた奴だ。夏の間は要らないからってはずしてあった。

 

「あるとないでは大違いだけど。気になるの?」

 

「まあ、寒くなってきたから……。でも、格好悪くなると思うし……」

 

そう言いながら、その子は自分のバイクを眺めている。

 

バイクに疎い俺でも知っている。ホンダのスーパーカブだ。

 

「迷うくらいなら止めておいた方が良いと思うよ。安くはないだろうし」

 

俺が買ったわけではないから、詳しい値段は知らない。ただ、最初に付けたとき、父から『高かったんだぞ』って言われた。

 

「だよね。うん、やめよう」

 

何か納得したみたい。

 

その子のバイクを眺めてみる。

 

黄色ナンバーか。つまり、原付二種だ。

 

これと同じ型の白ナンバーを見たことがあるから、違う種類なのか、何かしら手を加えてあるのか……。

 

北杜市ということは、地元か。

 

「ちょっと待ってて」

 

そう言うと彼女は一度バイクに戻り、リアのボックスから何かを取り出した。

 

「これ、良かったら」

 

それを俺に差し出してくる。

 

「あ、ありがとう」

 

クッキーみたいだ。お土産だろうか。

 

えっと……『善光寺』?

 

「善光寺って、長野の?」

 

「うん。()()()()走ってきたところ」

 

()()()()()()()()()ところ って……。遠くないか?

 

「よくそんなところまで。頑張るなぁ……」

 

「これぐらい大したことないよ。あなたはあのバイクで遠出しないの?」

 

さも当たり前のように言った。善光寺(長野市)が大したことないって……。

 

「俺は……、まだ遠くに行ったこと無いから」

 

今回の、ほったらかし温泉→日野春駅 が、最長記録更新ってところだ。

 

俺にとってあのビーノは移動手段だから。遠出してみたい気はあるけど、ちょっと怖い。

 

「どこまででも行けるよ」

 

こう言われ、ハッとなる。

 

「えっ?」

 

彼女を見ると、どこか遠くを見つめている。

 

「こうやってカブに乗っているとね、たとえ止まってても、自分がどこにでもどこまででも行けるっていう、そんな気分を感じられるんだって」

 

凄い……。俺より小さく見える(失礼ながら)のに。

 

バイク乗りとしては、大先輩なんだろう。

 

「まあ、他人からの受け売りだけどね」

 

そう言って笑う。

 

「どこまでも、か……」

 

「それに、ここまで来れたのなら、大丈夫だと思うよ」

 

 

 

「あ。小熊(こぐま)さん~!」

 

駅から声が聞こえてきた。

 

到着した電車から降りてきたであろう女の子が、大荷物を抱えて駅舎から出てきた。

 

(しい)、お疲れ」

 

女の子のもとへ行き、幾つか荷物を受け取った。

 

「小熊さん、ありがとうございます。お呼び立てしてすいません」

 

「いいよ。長野の帰りだったし」

 

どうやら友達らしい。

 

椎と呼ばれた女の子。小学生くらいに見えるけど、多分この子と同じくらいなんだろう。

 

リアのボックスに、持っている荷物を入れている。

 

「それではよろしくお願いします」

 

「了解」

 

「では、またあとで」

 

そう言って女の子は駐輪場の方へ歩いてゆく。彼女は自転車なんだろう。

 

それを見送ると、再び俺のもとへ来る。

 

「それじゃあ。呼び止めてごめんね。機会あったら、また」

 

「あ、いや。ありがとう」

 

こう返すと、彼女が首を(かし)げる。

 

「私、何かお礼言われることしたっけ?」

 

「良い話聞けたからさ」

 

「良い話?」

 

「俺、今まであのビーノはただの移動手段だったから。遠出すること考えた事なくて。でも、君の話聞いてたら、ちょっと出掛けてみたくなったからさ。そのお礼」

 

「そう。もし遠出するなら気を付けて。パンクにガス欠、事故には十分注意して。それじゃあ」

 

彼女はバイクへ戻り、跨がる。ヘルメットを被り、ゴーグルを付け、エンジンをかけるとバイクを発進させた。

 

そうか。セル付いてないからキックで始動させるのか……。

 

 

 

 

 

「あれ? あなたは?」

 

ふと、声がして振り向くと、さっき椎と呼ばれた女の子が自転車を押しながらやって来た。

 

「小熊さんのお知り合いですか?」

 

小熊さん? ああ、さっきの子か。そう呼ばれていたっけ。

 

「いや、ただの通りすがり……」

 

「そうでしたか。あ、良かったらこれどうぞ」

 

差し出されたのは一枚の名刺サイズの紙だった。

 

えっと『BEURRE』?

 

「それ、私の家です。パン屋なんですよ。ここから清里(きよさと)方面に8キロぐらい行った所にあるので、機会あればいらしてください」

 

逆方向に8キロ!

 

「ありがとう。ちょっと遠いかな……。でも」

 

「でも?」

 

ビーノを見やる。

 

「いつか、あのビーノに乗って行くよ……」

 

\マカセロ!/

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、リンちゃんのビーノがやって来た。

 

「リンちゃ~ん!」

 

手を振ると、彼女も気づいたようで手を振り返してくれる。

 

俺の横に止まった。

 

「お疲れ様」

 

「お待たせしました。先輩もお疲れ様です」

 

「長野どうだった?」

 

「良かったです。最初に行こうと思ってた温泉、潰れてましたね。先輩が教えてくれなかったら行ってましたよ……。代わりに上諏訪温泉に入ってきました」

 

それは良かった。

 

上諏訪温泉といえば、間欠泉で有名だ。

 

「そっか……。あまり長居すると遅くなるから、そろそろ出発しようか」

 

「そうですね。あ、給油したいので20号に行って良いですか? 行くときに安いスタンド見付けたので」

 

「了解。じゃあ、俺は後ろ追いかけるから、先導よろしく」

 

「はい」

 

リンちゃんに続いて発進する。

 

「どこまでも行ける……か」

 

さっきのカブ乗りから聞いた言葉をもう一度呟いた。

 

どこまでも行くためには、とりあえずこの帰路を安全に走って無事に帰宅する必要がある。時間に……そこまで余裕はないけど、焦りは禁物。ゆっくり帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンちゃん家に到着。

 

「先輩、今日はわざわざありがとうございました」

 

「良いよ。俺が一緒に走りたかっただけだからさ」

 

遠回りだけど、大した距離ではない。

 

「それじゃあ、俺はこれで。楽しかったよ。また明日、学校でね」

 

そう、何処か名残惜しそうなリンちゃんに声を掛け、発進……。

 

とはいかなかった。

 

「あら、リンお帰りなさい。それに、先輩も。こんばんは」

 

(さき)さんが出てきた。挨拶なしには帰れない。

 

「こんばんは」

 

「今日はありがとね。リン一人だとやっぱり心配だけど、途中から先輩と一緒って聞いて安心したわ」

 

そこまで? 凄く信用されているらしい。

 

「そうだ、少し上がっていかない?」

 

お誘いか。しかし時間がない。

 

「お気持ちだけ戴きます。流石に遅くなりすぎるので、今日は帰りますよ」

 

「そうね。あ、じゃあちょっとだけ待ってて」

 

何だろう? そう言って一旦家に引っ込む。

 

リンちゃんは不思議そうに見ながらも、荷物の搬入を始める。

 

「お待たせ」

 

咲さんが戻ってきた。手に何か持っている。

 

「これ。いらないからあげるわ」

 

えっ?

 

「何ですか?」

 

ビニール袋に入ったペットボトル位の大きさのもの。何だろう?

 

「バイク用の携行缶。昔買ったやつだからデザインは古いんだけど、一応新品よ。私はもう使う予定ないし……」

 

そう言い、一度玄関の方を見る。

 

「リンにあげると、『昔私も乗ってました』って言うようなものだから……恥ずかしくてね」

 

なるほど。しかし、昔バイク乗っていました、って娘さんにバレることが、そんなに恥ずかしいのだろうか……。

 

いずれ、その年になれば分かるのかな?

 

「じゃあ、ありがたく頂戴します」

 

「ご丁寧にありがとう」

 

リンちゃんが戻ってくるとバレてしまい意味無くなるので急いでしまう。

 

「何してるの? お母さん」

 

リンちゃんが出てきた。間一髪だった。

 

「別に何も。ね?」

 

「そうだよ。別に何も……」

 

怖い。いつぞやみたく、二人の目が。

 

「それじゃあ、俺はこれで。お休みなさい!」

 

逃げるに限る~!

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

ようやく帰宅。

 

「お。純一(じゅんいち)、お帰り。どうだった?」

 

「楽しかったよ。温泉も良かったし、キャンプも」

 

「それは良かった。ところで、ビーノはどんな調子だ?」

 

ビーノ? 別に普通だけど。

 

と思ったところで、そういう話ではないことは分かってる。

 

「特に。そろそろオイル交換だよね」

 

「ああ。そう思って来週末に予約しといたよ。代車は用意してくれるって話だから、部活あっても問題ないよ」

 

「了解」

 

来週末、オイル交換……っと。

 

忘れないようにメモ。

 

せっかくだし、ビーノで出掛けようかと思ったけど、それはまたの機会に。

 

 

代車か。何が来るのだろう……?

 

 

 

 





野クル初キャンプ後の、オリジナルストーリです。


『スーパーカブ』の登場人物が出てきました。今話限りの予定ですが……。

なお、小熊が滝野のビーノに付いている風防について気になったシーン。滝野に『何なら乗ってみる?』と言わせたかったのですが、ここで乗ってしまうと、信金のおじさん のところへ試乗に行く話が無くなってしまう(?)ので、止めました。

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