【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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リンとなでしこの四尾連湖キャンプ
 「教頭がお前に用があるんだ」


 

楽しかった週末の、久し振りの遠出・初『野クル(のくる)』キャンプが終わり、週明けの学校が始まる。

 

昨日の夕方会った、謎のカブ少女(?)のお陰で、俺にとってのバイク(ビーノ)の考え方が変わった。

 

今までは『単なる通学手段』だったのが、『何処までも行ける相棒』に変わった感じだ。

 

\ボクノフルサトヘイコウ!/

 

……?

 

無茶言うな。台湾だろ?

 

ここから国道52号を北上し20号・19号、もしくは国道52号を南下して1号で名古屋へ向かい、とにかく西を目指し、下関へ。

 

九州へ渡って鹿児島行って……。

 

その辺りまで行けば、台湾に渡れる船が有るだろうか?

 

どのみち、パスポートが必要だし、時間とお金も必要。無理にも程がある。*1

 

いずれにしろ、今日は学校だ。だから普段通りに登校する。

 

 

 

 

 

学校到着。

 

駐輪場にビーノを止め、施錠。

 

「じゃあ、行ってくるよ、相棒!」

 

そう声を掛け、昇降口へ向かう。

 

\ガンバレヨ/

 

バイクに声を掛けるなんて、見る人によっては変な人だよな……と思いつつも、相棒なのは事実。

 

靴を履き替えたら職員室へ。

 

「失礼します……。吹奏楽サークルの滝野(たきの)です。音楽室の鍵を借りに来ました」

 

「おお、滝野」

 

早速、声が掛かった。

 

大町(おおまち)先生……。もう可児(かに)来てるんですか?」

 

「いや、音楽室の鍵ならまだあるよ。別の話があるのさ」

 

あれ、違うのか。まあ、可児が来るのにはまだ早い時間だし。

 

「教頭がお前に用があるんだと」

 

「は……? えっ? 教頭先生が俺に用ですか?」

 

一瞬、大町先生が何を言っているのか理解出来なかった。

 

「何かは知らんが、来たら隣の会議室に来るよう伝えろって。しかし、教頭も凄いよなぁ。お前が朝早く来る前提で話してるんだからさ」

 

確かに。

 

もし、もっと遅い時間(※俺が早すぎるだけなので、誤解無きよう……)に来るのなら、こんな時間から会議室で待っている必要は無い。

 

「遅刻常習犯にも見習ってほしいよ。通学距離が遠いのに、遅刻したのは道が凍ってたあの一回だけだからなぁ。昨冬の」

 

「ありましたね。路面凍結で414号通れなかった日です」

 

いつも通りの道で学校行こうと思ったら、交差点に居た警察官に止められた。

 

路面凍結で通行止になってるから迂回しろと言われ、市川(いちかわ)を回って52号で向かったから、思いっきり遅刻したんだ。

 

「おっと。あまり長話しててもダメだな、教頭待ってるから」

 

「はい。行ってきます……」

 

教頭先生からの話。緊張する……。

 

しかし、今大町先生と話したから、幾分和らいだと思う。

 

 

 

「失礼します」

 

職員室と会議室は小さな扉を介して直接繋がっている。

 

その扉は常時解放されているので、扉の端を軽くノックして入室。

 

「おはようございます、滝野です。ご用ですか?」

 

「ああ、滝野くん。朝から呼び出してすいません」

 

椅子に座っていた教頭先生が立ち上がった。

 

「こちらへ」

 

「はい……」

 

案内された椅子に座る。

 

同時に教頭先生も着席。

 

「さてと。あ、別に緊張する必要ないですよ。この件は君に一切非はありませんから……」

 

えっ?

 

「これを見てください」

 

そう言いながら、一枚の紙を出してきた。

 

受け取り、目を通す。

 

『入部届』『野外活動サークル』『滝野 純一(じゅんいち)

 

俺が書いた野クルへの入部届じゃないか。

 

「それには問題がありません。部・サークルの掛け持ちは、一部を除いて可能ですので」

 

そうなんだ。

 

「最近は少子化で部活の運営も大変ですからね。当然、生徒数も減っていますから、部の数も減らすしかなくなります。だから、ある程度の掛け持ちは認めているんです。君も知ってるかもしれませんが、峡南(きょうなん)・市川・増穂(ますほ)商業の3高校が、数年以内に統合されます」

 

「ああ。そんな話を聞いたことがあります」

 

だから俺も、家に近い高校ではなく少し離れたこの本栖(もとす)高校を選んだんだ。

 

統廃合で家から遠くなったら面倒だからって。

 

まあ、下宿先が無くなって結局遠距離通学になってしまったわけだが。

 

「掛け持ちが問題ないのなら、何が悪いんですか?」

 

イマイチ話が読めない。

 

すると、教頭先生が軽く咳払いをした。

 

「話が脱線しましたね。ここからが本題です」

 

また紙を出してくる。

 

「見て笑わないように……」

 

そう言う教頭先生は、何故か口元が緩んでいる。

 

何なんだろう? えっと。

 

『部昇格申請書』

 

「申請書ですか」

 

一昨日、笛吹川フルーツ公園で話題になった奴だろう。

 

えっと、『野外活動サークル』→『野クル部』

 

本当に 野クル部 で出してる……。

 

そして、部員一覧。

 

大垣 千明(おおがきちあき)

 

犬山 あおい(いぬやまあおい)

 

各務原 なでしこ(かがみはらなでしこ)

 

トラ 先輩(とらせんぱい)

 

うん。ちゃんと四人揃っている。

 

部の名前はイマイチだけど、これで正式な『部』になれるんだな。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

「なんですか、これ?」

 

一瞬気付かなかった。

 

「私も最初は見過ごしていました。後から気づいて思わず笑ってしまいましたよ」

 

そう言っている今も、肩が震えている。

 

「流石『トランペットの人』ですね」

 

そこ褒めるところと違う。

 

「まあ、確かに大垣さんには『トラ先輩』、各務原さんからは『ブランケット先輩』って呼ばれてますね……。二人とも、俺の正しい名前、覚えているんでしょうか……」

 

「さて? ともかく、その申請書を職員会議に出すわけにはいきません。殆どの先生が笑ってしまい会議になりませんから」

 

そんなに笑うか?

 

ちょっと反論したくなったが、言うより先に教頭先生が更にもう一枚、紙を差し出してきた。

 

「その昇格申請書はお返しします。今渡した新しい紙に書き直して、改めて提出してください。水曜日の放課後に職員会議がありますから、それまでには……」

 

 

 

 

 

 

 

会議室を出る。

 

そんなに長時間居たつもりはないけど、室内の先生の数は増えている。

 

「滝野。この間に可児が来て鍵持ってったぞ」

 

大町先生から声が掛かった。

 

「あ、分かりました。ありがとうございます」

 

何のためにこの部屋に来たんだろう……。

 

「失礼しました」

 

職員室を出る。

 

 

 

音楽室の前に到着。

 

楽器の音は聞こえない。しかし、話し声が聞こえてくる。二人……?

 

一人は可児で決まりだろう。となると、もう一人は誰だ?

 

ノックして扉を開く。

 

「あ、おはようございます」

 

一人は予想通り可児だ。

 

「おはよう。お兄ちゃん」

 

もう一人は、恵那(えな)ちゃんだった。

 

『お兄ちゃん』……。はあ……。

 

「おお、我が愛しの妹たちよ~」

 

のってみる。

 

「お兄ちゃん。私のお土産(みやげ)は、土産話で良いよ」

 

土産って。俺が週末何処(どこ)に行ったのか、お見通しって訳か。

 

「あ、私は何かください! ……お兄ちゃん!」

 

こっちの妹は物を要求。しっかりしてるよ……。

 

何か……。あ。

 

「はい、ミクにはこれをあげよう」

 

鞄からクッキーを取り出し、渡す。

 

他人からの貰い物を他人に譲るのは抵抗があるが、生憎これしか持っていない。

 

「なにこれ? 善光寺(ぜんこうじ)って、お兄ちゃん長野まで行ってきたの? 山梨市って聞いてたけど」

 

可児も乗ってきたな。

 

さっきは言い忘れたのか、後から思い出したように『お兄ちゃん』って言ったけど、今度は自然と出てきた。

 

「謎のカブ少女から貰った」

 

「謎の? 先輩、誰ですか?」

 

あ。すぐに戻った。

 

日野春(ひのはる)駅でリンちゃん待ってたら、何処からともなくやって来た、スーパーカブに乗った女の子。その子から貰った」

 

「誰なんですか? 先輩との関係は!」

 

「それは俺も知りたいよ……」

 

小熊(こぐま)さん』と呼ばれていた。苗字か名前か……。それすら分からない。

 

俺と可児のやり取りを笑顔で見守っている恵那ちゃん。しかし、俺は彼女に質問がある。

 

「恵那ちゃんってさ。さやか*2と知り合いだったの?」

 

「いや。違いますよ」

 

まあ、そうだろう。互いに面識がないはずだから。

 

「でも、さやかのことは知ってるんだよね」

 

「はい。先輩、あの日のこと覚えてますか?」

 

「あの日?」

 

「これくらいの時間に、先輩の演奏を聞かせていただいた日です」

 

ああ。あの日、俺が妹がいる話をしたら、恵那ちゃん演奏聞かずにスマホ(いじ)っていたんだった。

 

……スマホ?

 

「前に教えてもらった電話番号をアドレス帳に登録したら、Facebookに滝野先輩が出てきました」

 

Facebook? ああ、アカウント登録だけはしてあるんだ。

 

「で、滝野先輩を表示したら、その後に『滝野さやか』さんが出てきて。生年月日から妹さんだろうなーって。友だち申請して、なって話したら、妹さんだと分かりました」

 

「で、『私たち、(自称)妹です』とか言ったんだな……」

 

「はい!」

 

謎は全て解けた。

 

 

 

 

 

俺と可児で演奏。

 

それを恵那ちゃんは、椅子に座って聞いている。

 

目を(つむ)っているが、寝ているのではなく、聞き()れているらしい。

 

「可児、次『新世界より』で良いか?」

 

「分かりました!」

 

コンクールに出場するわけではない(どのみち、終わった)から、気ままに。お互い吹きたい曲を演奏。

 

中学三年間と、北宇治(きたうじ)高校での数ヵ月。ずっとコンクールのために練習していた日々と比べれば、気楽で気儘(きまま)

 

あの頃も懐かしいが、俺は今のこの時間も好きだ。

 

 

 

♪~

 

 

「これ、『遠き山に日は落ちて』ですよね? 夕方に流れる場所もあるやつ」

 

演奏が終わると、恵那ちゃんが口を開いた。

 

「恵那ちゃんもかい……」

 

前に、何処かで誰かさんから聞いたのと同じような言葉が……。

 

「ほら先輩。やっぱりこっちの方が有名なんですよ」

 

「言ってろ。元々の曲がこの曲名なんだよ」

 

「知名度が低くても?」

 

「原曲なしにこの曲は産まれんだろ。知名度云々言わないの」

 

可児を(たしな)めると、不服そうに頬を膨らます。

 

俺たちのやり取りを、恵那ちゃんは微笑みながら見つめている。

 

「先輩とミクちゃんのやり取り、面白いですね。ずっと見てても飽きないですよ」

 

そうか。

 

「別に見世物じゃないんだけど……」

 

「楽しいのは大切ですよ、部活は楽しくやらないと。ここは楽しい部活です」

 

そう言って胸を張る可児。

 

「良いこと言ったつもりかも知らんが、中身無いこと言うな」

 

恵那ちゃんずっと笑ってる……。

 

 

「恵那ちゃんも何か一緒に演奏しようよ」

 

急に可児が切り出す。それは楽しそうだが、急すぎないか?

 

「えっ? 私?」

 

ほら、驚いてるじゃないか。

 

「私、吹奏楽未経験ですよ」

 

「でも、リコーダー位なら吹けるんじゃない?」

 

幸い(?)ここは音楽室。リコーダーなら売れる位には揃っている。

 

勿論(もちろん)、学校の備品を無断で売ったら大変なことになるが……。

 

「リコーダーなら……」

 

そう恵那ちゃんが答えるよりも先に、可児が音楽準備室からリコーダーを持ってきていて、それを恵那ちゃんに差し出す。

 

「はい」

 

「って、可児。お前はユーフォ*3で良いだろ!」

 

何故(なぜ)か、可児までリコーダーを持っている。

 

「久し振りにこれを吹きたくなったので」

 

って、それテナーリコーダーじゃないか。

 

「お前なんでも屋なんだな……」

 

「私は『広く浅く』です。色々吹けますよ。代わりにあまり上手くないんです!」

 

得意気に言う。

 

まあ、演奏は確かに『まあまあ』だもんな……。

 

「何にする? 全員吹ける曲」

 

「じゃあ『キラキラ星』で」

 

曲名を聞くと、ちょっと緊張した面持ちで、恵那ちゃんが(うなづ)く。

 

 

 

♪~

 

 

「ふう……」

 

演奏が終わると、恵那ちゃんが一回深呼吸した。

 

よほど緊張したのだろう。

 

しかし、良い顔だ。キラキラ輝いて見える。

 

「恵那ちゃん!」

 

「ミクちゃん!」

 

互いに、楽器を持っていない方の手で、ハイタッチを交わす。

 

「滝野先輩!」

 

えっ? 俺も?

 

「はいよ」

 

恵那ちゃんとハイタッチ。

 

「いやいや、可児までする必要ないだろ……」

 

と返しつつ、上げられた可児の右手を叩く。

 

「どうだった?」

 

「凄かったです! なんて言うか……凄く『音楽』って感じがしました!」

 

恵那ちゃんに感想を尋ねると、声を弾ませながらこう言った。目が輝いている。

 

「それは良かった」

 

演奏するのを切り出したのは可児だったけれど、リコーダーを提案したのは俺だった。少々無理()いした感があったけど、喜んでもらえたみたいだ。

 

「先輩、もっと一緒に吹きましょうよ!」

 

「待て待て。もう時間がないだろう」

 

時計を見ると、始業時刻が近い。楽器を片付けて教室に向かえば、丁度良い頃合いになるだろう時間。

 

「「え~!」」

 

二人揃ってブーイング。

 

「そこ、駄々捏(だだこ)ねないの。あと可児、鍵返すのよろしく」

 

 

 

*1
この時、滝野は件の『謎のカブ少女』が後に、スーパーカブで鹿児島へ行くことを知らない。知る由もないのだ……。

*2
滝野の妹。滝野 さやか

*3
ユーフォニアム





申請書の名前の話。クリキャンの受付でのやりとり(千明とあおい)がモデルです。

本当は、そのノリで滝野の名前も間違える事にしようかと思いましたが、『野クルがトントン拍子に部に昇格したら、面白くない!』と思ったのでここに加えました。

如何でしょう?


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