第1話の前書きで記載した通り、本作はアニメ一期に合わせ、2017年のお話となっています。
※アニメ一期第6話にて、図書室のカレンダーが『11月27日(月)』になっているため。
因みに、それに相当する原作9話では『11月24日(月)』とあり、2008年 2014年 2025年が該当しますが、いづれの年でも『11月24日(月祝)』となるはずなので、個人的には違和感があります……。
リンちゃんと
今日は用事があるらしく
一人で演奏中。
そんな時、珍しい来客が現れた。
♪~。
扉が開く。
演奏を止め、振り向く。
「あ、トラ先輩。ちょっと良いっすか?」
「
野外活動サークル 改め
「先輩、その説明酷くないっすか?」
「間違ってないと思うけどなぁ。……ってか、俺今声に出してないんだけど? 何で分かったの?」
「そんな話に来たんじゃないですよ。ところで、今の曲って何かの映画の曲ですよね?」
今演奏していたのは『ハトと少年*1』だ。
「確か、結構前の人気映画の挿入歌だな。俺も作品名までは覚えてないけど……*2」
「格好良いっすね!」
「大垣さんも吹いてみる?」
「いやいや、遠慮しておきますよ。私、そういう楽器系、てんでダメなもので……。リコーダーとかも」
全力で手を左右に振っている。
そうなのか。
まあ、あまり成績が良さそうには見えないなぁ……。
「先輩、私に対するイメージ酷いっすね」
「いや、だから。俺口にしてないんだけど! ところで、何の用だっけ?」
話が脱線して、目的が分からない。
「すいません。実は、相談があるんっすよ」
「……なるほど。キャンプ場の下見に行きたいから、バイクで送迎して欲しいと」
「はい」
どうやら、次の野クル部キャンプ地の下見に行きたいらしい。で、その場所が
「それで、
「次の土曜日っす。バイトが休みなので」
バイト……?
「大垣さん、アルバイトしてるんだ?」
「はい。先週から、
セルバ身延店隣の酒屋……。
「川本か。へぇ……あそこね。店長優しい人でしょ?」
「先輩、知ってるんですか?」
驚いている。まあ、当然か。
高校生……つまり、未成年者はお酒が飲めない。酒屋では、お酒以外のものも取り扱っているが、それはスーパーやコンビニで事足りるものが多い。だから、親の付き添い等じゃないと、高校生が酒屋に行くことはない。行かなければ当然、店長がどんな人かなんて知り得ない。
「時々お世話になってるからね……。どうしたの?」
大垣さんがジト目で俺を見ていた。なんか誤解してる?
「あのね。別に酒買いに行ってる訳じゃないよ? だいたい、俺未成年だから売ってくれないし」
互いに『売れない』『買えない』から、俺の役割は、木明荘まで持ってきてもらった物の受け取りだ。
「そうっすよね。なら、良いです」
「って、また話が脱線したな。えっと、下見に行くのは次の土曜日だっけ?」
土曜日。リンちゃんたちがキャンプに来る日だ。
とはいえ、俺は参加しないから大丈夫。予定はない。
あ。バイクが代車だな……。まあ、大丈夫だろう。原付二種の代車に普通の原付を貸すことはないはずだから。
「良いよ」
「おお! ありがとうございます」
バイクのことは、帰ったら確認しておこう。
「じゃあ、何時に何処で待ち合わせにしようか?」
大垣さんと約束をした土曜日がやって来た。
朝、出掛ける準備をしていると、電話が鳴りだした。
「お電話ありがとうございます。
『あ、予約している
男性らしき高めの声。
『今、第二駐車場まで来ました』
いや、この声は女性かもしれない。
「分かりました。では、今出ていく車はおりませんので、そのままお進みください」
『了解です。ありがとうございます』
「お待ちしております。では、失礼します」
県道409号線の終点にある第二駐車場から、木明荘の前にある第一駐車場までの道は、車のすれ違いが不可能なほど狭い。なので、鉢合わせを防ぐため、来場されるお客様は、第二駐車場に着いた時点で電話をいただくようにしている。
そこまで来たのなら、すぐにいらっしゃるはず。待っていよう。
「おはようございます」
受付に座っていると、入口から声がした。
さっき、電話をしてくれた人だろう。
電話口では一瞬、男の人かと思ったが、よくよく考えてみたら、今日の予約は女性二人組が二組だけだ。
「予約しています、鳥羽です」
鳥羽様……。
「はい。では、こちらの用紙に名前と連絡先の記入をお願いします」
声だけでなく、見た目も男性っぽい人と、丸メガネに長い黒髪の人。姉妹だと思うけど、女性だって知らなければカップルか夫婦だな。
「はい。利用料と駐車料金、確かに頂戴しました」
記入してもらった紙とお金を仕舞い、受付から出る。
「キャンプサイトへは車が入れません」
入口から外を指差す。
「あの辺りがサイトです。湖沿いにぐるっと回って行ってください。荷物はそこの荷車をご利用ください」
「ありがとうございます」
「何かありましたら遠慮なく言ってください。それでは、ごゆっくり……」
二人を見送る。
しかしまあ、良い天気だ。絶好のキャンプ日和。……少し寒いけどね。
「お待たせ。助かったよ」
空を見上げ背伸びをしたところで、
「あ、お帰りなさい。予約のお客さま、一組来ましたよ」
「ありがとうございます。そういえば、店主はどちらに?」
あれ、聞いてないのか?
「整備工場です。俺のビーノ、オイル交換の時期なので」
今、軽トラに載せて整備工場へ行っている。代車を載せて戻ってくると言っていた。
「ああ。そういえば今日でしたね」
忘れていただけなのか……。
「お待たせ~」
「お、噂をすれば」
外から、父の声が聞こえてきた。
支度した荷物をリアのボックスへ入れ、そこから説明書を引っ張り出し、一通り確認。普段乗らないバイクだから、運転も慎重にしないと……。
なるほど……。ある程度は分かった。後は乗ってみれば分かるだろう。
シートに跨がり、エンジンをかける。
ヘルメットを被り、グローブを嵌める。
さて、出発しますか。
県道409号線を北上する。
土曜日だが、普段から交通量の多くない道なので、渋滞知らずでスイスイ走れる。
あっという間に市川大門駅に到着。
「あ! トラ先輩~!」
駅舎の前に大垣さんが立っていた。俺が来たのに気付き、手を振っている。
「お待たせ。待った?」
「いやいや全然。今日はよろしくお願いします!」
テンション高い。リンちゃん曰くいつもこんな感じらしい。
だから彼女はこの子が苦手だと言っていた。
「あれ、先輩バイクがいつものじゃない……」
「ビーノは整備に出してるから、代車だよ」
「整備? 何処か調子悪いんすか?」
「いや、オイル交換だよ。まあ、乗り慣れないバイクだけど、大垣さんと約束したからね」
「マジっすか! わざわざありがとうございます!」
そう言って頭を下げる。礼儀正しいみたいだ。
「はいヘルメット。それ被ったら、後ろ乗って」
「はい!」
笛吹川沿いの国道140号線を東へ走る。
「先輩、このバイクは何て名前ですか?」
走行中は話し掛けない方が良いと思っているらしく、信号で止まると、大垣さんから声が掛かる。
「ヤマハ・トリシティ155だよ」
「
「言うと思った」
直訳かよ。ってか、半分そのままじゃないか。
「格好いいっすね」
「ちょっと調べてみたら、今年発売されたばかりのモデル*3だから、恐らく新車だよ」
「マジっすか! あたし運が良いって事ですね!」
はしゃぐのは構わんけど、大人しく乗っていて欲しい……。
「運が良いかは分からんけど……。これ155CCだから、高速も走れるんだよね」
「じゃあ、帰りは高速使うんですか?」
「そうなると、大垣さん乗せれないね。帰りは電車かなぁ?」
「マジっすか! 何で?」
『一般道での二人乗りは、免許取得後一年以上』だが、『高速道路の場合、先述の条件に加え、二十歳以上』というオマケが付く。*4
「法律。二十歳にならなきゃダメなんだよ」
「マジですか。法律ってややこしいんですね」
うん。複雑でややこしい。
だからって守らないと、更にややこしいことになる。
違反・罰金・反則点・免停・免許取消・逮捕……。
運転免許をとる、ということは、同時に責任も生じる。
今日は大垣さんを乗せているから、いつも以上に安全運転をしなければ……。
えっと。ここを右折だな。
ゴルフ場の中を縫うように走る。ここを抜ければもうすぐのはずだ。
「お、見えてきたよ」
目的のキャンプ場が見えた。
「おお!」
「はい。到着」
バイクを止め、サイドブレーキをかける。
「ありがとうございます」
バイクを降りた途端、お礼を言われ、少し驚く。
「いやいや、帰りも乗ってくんでしょ? まだ早いよ」
「おっと、そうですね」
駐車場にバイクを止め、キャンプ場内を歩いて行く。
大垣さんは、キャンプ場に着いた旨を
「良い感じのところですね!」
「ああ。まあ、オートキャンプ場だけあって車が多いな」
「車かあ。将来免許とったら車でキャンプに行ってみたいです」
車でか。冬は寒さ、夏は暑さ知らずで快適だろうな……。
「おおーっ!」
しばらく歩いていたら、木々の間から甲府盆地が一望できる場所に出た。
「良い眺めだな。ほったらかし温泉の時とは逆から見てる感じだよ」
「夜景も綺麗なんだろうな……」
大垣さんが感慨深そうに呟く。
「次の野クル部キャンプの有力な候補地だなぁ」
「だけど大垣さん、バイト始めたんだろ? キャンプするのも良いけど、他のみんなと予定合わせるのも大変じゃないか?」
「それなんですよ。あたしもイヌ子もバイト始めたから、今までみたいにぽんぽん予定組めないんっすよね」
「身延のセルバだと、結構混雑するからな。休み取るのも中々難しいだろうね」
あそこは52号沿いにある。
現状、52号は甲府と富士・清水方面とを結ぶ数少ない街道だから通過交通も多く、利用する人も多い。
「ですね。それにあたしら高校生は、学校が終わった放課後か、学校が休みの土日祝しか働けないから、貴重な働ける時間を削ってキャンプするんですよね」
確かに。
学生である以上、勉強が本分だ。
あ。勉強、といえば……。
「そろそろ期末試験だけど。大垣さん、勉強は大丈夫なのか?」
ドテッ
急に話を振ったからか、大垣さんが何もないところでコケた。
「そ、そういう先輩こそ、勉強は大丈夫なんですか?」
「俺は大丈夫だよ。知ってるか? 俺、試験のクラス順位は常に一桁なんだよ」
「なん、だと……!」
『トランペットの人』だから、トランペット吹いてばっかで成績は散々だ、と思っていたらしい。酷いなぁ。
「自分に対しての戒めで、『成績が下がったら、トランペット没収!』って。だから、勉強は毎日欠かさずやってるよ」
特に、下宿生活の頃は、休みの日は勉強漬けだった。あんな壁が薄いところでトランペット吹こうものなら、問答無用で追い出されていただろうから……。そもそも、他にやることなかったし。
「マジか。今度勉強教えてもらっても良いっすか?」
「構わないけど……お」
ふと、一人のキャンパーが目に入る。
「かっけぇ……」
大垣さんもその人を見ている。
「年季の入ったワンポールテントに焚き火台と木製ローチェア……」
その人の持ち物は、今大垣さんが呟いた通り。
それに加え、スキレットで焼かれている厚切り肉……。
テントの脇にはバイクが一台。
「肉、旨そう……。スキレット料理って良いなぁ」
おいおい。唾を飲み込む音が俺にも聞こえてきたんだが。
「あれ……? あの人何処かで……」
ローチェアに腰掛けている、帽子のつばで顔が隠れているが、見えている髪や髭からして、初老の男性だろう。
俺はその人が、何となく見覚えがある。
「うん、何か用かな?」
その男性が、俺たちに気づき、顔を上げる。
「あ、どうも。お久し振りです……」
この顔この声。違いない。
「ああ、
リンちゃんのおじいさん、
「なるほど、キャンプの下見か」
「はい。この子がここに来たいと言うので、一緒にバイクで来ました」
「う、うす!」
隣の大垣さんは、いつになく縮こまっているようだ。
まあ、学校の先輩が急に、こんな渋いおじいさんと仲良さそうに話していたら、こうなるのは仕方無いだろう。俺とて同じ立場だったらこうなっている。
「そうか。因みに、今日トランペットは持っているのかな?」
「えっ? ああ。実は今日ビーノを整備に出してまして、代車で来てるんです。トランペットを積めるボックスが付いていないので、今日は持ってきていません」
「そうなのか」
何処か、寂しそうな顔をした。トランペットが聴きたかったのかな……?
「整備というと、調子でも悪いのか?」
「あ、いえ。オイル交換です」
「そういうことか。ああ、お二人さん」
「「はい?」」
「肉、食うかい?」
竹串に刺した肉が二つ、俺たちの前に差し出される……。
御馳走になってしまった……。
何かお礼がしたい。……そうだ。
「お肉ありがとうございました。これ、良ければ使ってください」
そう言い、先週もらった割引券を差し出す。
数日前、リンちゃんと各務原さんの前に出したが、結局うちに来ることになって出番のなかった奴だ。
「『むかわキャンプ場』か。良いのかい?」
「俺が持っていても使うことはないですから……」
「なら貰おうか。ありがとう」
「それでは、俺たちは失礼しますね。キャンプ、楽しんでくださいね」
「ありがとう。君たちも気を付けて……」
「あ、ありがとうございました」
新城さんのもとを後にする。
大垣さんは、ずっと借りてきた猫だった。
「トラ先輩、あの人は誰なんですか?」
キャンプ場内を歩きながら、大垣さんと話す。
「新城
「しまりんのじいさん! マジっすか!」
驚いている。全然似てない とか、色々言っている。
「前に
「良いなぁ。あたしもあんな風な余生を過ごしたいぜ……」
「余生より期末試験だろ」
というか、こんな会話、前にもした記憶あるんだけど。
「期末試験もあるし、次のキャンプ、どうすっかな……。いっそ、クリスマスとか、どうでしょうね?」
クリスマスか。そういえばもう12月だ。
「良いんじゃないか? 野クル部みんなでクリスマスキャンプ」
「よし。次はクリスマスにするか! もちろん、先輩も参加しますよね!」
俺も? まあ、野クル部の一員だし、当然参加だろう。しかし……。
「テント。どうにかしないとなぁ……」
「そうっすね。もう一つ買いましょうか……」
「お金あるの?」
「それ、聞かなくても分かりますよね?」
「そういうことか……」
最後の方はちょっと重い話になったものの、無事にキャンプ場の下見を終え、市川大門駅に戻ってきた。
「トラ先輩。今日はありがとうございました!」
そう言って頭を下げる。
「こちらこそ。楽しかったしね。お役に立てたのなら良かった」
「うす! それじゃあ、また学校で会いましょう!」
大垣さんを見送り、俺も帰路につく。
へやキャン△
千明:キャンプ場 到着!
あおい:どんな感じなん?
千明:けっこう広いぞ!
キャンプサイトもたくさんある!
あおい:下見たのむでー
千明:バッチリだぜ!
千明:というか、終わって市川大門駅まで戻ってきた
千明:キャンプ場でしまりんのじいさんにも会ったぞ
あおい:そういえば、志摩さんとなでしこちゃん、買い物に来たで
千明:二人で?
あおい:うん
あおい:四尾連湖行くんやって
千明:あいつら良く知ってたな。四尾連湖なんて
あおい:志摩さんが買った焚き火グリルで、焼肉キャンプやるって
千明:焼肉かぁ
千明:さっき、しまりんのじいさんに、肉御馳走になったぜ!
あおい:肉かぁー
千明:肉、にく、niku~!
あおい:肉肉うるさいわ
千明:すまん
千明:明日はあたしもバイトだから、また明日な!
あおい:ほな明日
あおい と千明のやり取りが、下見を終えてからになっているのは、バイクで行き来したため、あおい の バイト終わりよりも先に下見が済んでしまったからです。